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憂鬱な月曜の朝。珍しく早く学校に行った俺の一日はこいつとの会話で始まった。
「昨日帰りに街歩いてたらまたナンパされちゃったわ」
「朝一番から自慢話か?ハルヒ」
珍しく早く来た俺より早かったハルヒ。朝からそんなに絡まないでくれ。
俺は昨日の探索などで疲れてイライラしているんだ。
「何よ、つれないわね。ただウザかった話を他人に聞いてもらうとスッキリするじゃない」
まったく自己中心的な奴め。
「それで俺はなんと言えばいいんだよ。さすがは団長様、やはりうつくしいんですね~ってか?」
ハルヒは明らかに不機嫌に顔をゆがめた。
「……もういいわ。あんたさ、あたしが誰かと付き合ったりとかしようとしても全然気になんないわけ?」
何を言い出すんだ。『恋愛は精神病よっ!』なんて言う奴がそんなこと心配する必要はないだろう?
まぁ、ここは本音を言っておくか。
「お前が誰かと付き合うってんで幸せならいいじゃないか。そしたら俺も妙な事に付き合わされる回数も減って、疲れもなくなるだろうな。お前の恋愛は俺には関係ないが、誰かと付き合うと言うなら祝ってやろう」
俺は言い終わるとハルヒの前の自分の席に腰掛けた。

「今のさ……本気で言ってる?」
やけに沈んだ声で俺の背中から声がかかった。
「あぁ、祝ってやるさ。つまり本気だ」
俺が振返りながら返事をすると、ハルヒが少し涙ぐんでいた……のか?すぐに目を逸らしやがったからわからなかったな。
「そっ…か、そうよね。あんたには関係ないわね」
ハルヒは席を立ち、ある方向のある人物の元に向かった。今、教室に入ってきたばかりの谷口の元に。
何やら話をしているようだ。もちろん、教室の中では多少ざわつきが。
ハルヒが谷口に自分から話しかけるなんて滅多にないしな。
次の瞬間、教室の時は止まり、俺は目を疑った。
谷口がハルヒを抱き締めていた。ほんの数秒抱き締めた後、何やら話をして、二人とも自分の席に座った。
「な、なぁハルヒ。今、谷口と何話してたんだ?」
俺の席の後ろで、少しだけ頬を赤らめているハルヒに尋ねた。
「……あんたには関係ないんでしょ?」
窓の外を見ながらの素っ気ない返事。
「それとこれとは別だ。教室であんな事したら誰だって気になるだろ」
俺はよくわからない不快感を感じながらも聞き出そうとした。
「後であのバカにでも聞いときなさい。あ、そういえばあたしはたまにしか部活に出れないから」
そう言うとハルヒは完全に人を寄せ付けないモードに入った。
………なんだってんだ、畜生。

《another side1》

今日も教室の景色はかわんねぇな……キョンと涼宮も何やら話してるしな。
ん?ケンカ別れか?涼宮が外に出ようとしてるな。
触らぬ神に祟り無し。おとなしく道を開けるとするか。
俺が少し横にずれると、目の前で涼宮が止まった。……俺、何か悪いことしたか?
「谷口、あんた今彼女いる?」
……返事しようにも、突然のことで言葉がでねぇ。俺は首を横にブンブンと振った。
よく見ると教室の視線が全部こっちに向いてやがるな。
「ふ~ん、やっぱり」
やっぱりって失礼じゃねーか?俺だって、やるときゃやる男なんだが。
「で、涼宮。俺に何か用なのか?そんなに珍しい質問なんかしてよ」
涼宮が少し考え込むような動作をして口を開いた。
「あんた……あたしと付き合ってよ」
「はぁ!?」
我ながら素頓狂な声が出た。自慢じゃないが5分でフッた男にあの涼宮が告白だぜ?
驚きもするさ。
「ダメ……なの?」
涼宮が上目遣いで聞いてくる。いや、俺のが身長が高いから当たり前だよな。

俺はずっと、涼宮を好きだったんだろうな。あれだけヒドい扱いをされても、何かのドッキリだとしても、喜んでいる自分がいる。
「い、いや……お前がそれでいいんなら…」
嬉しさを押さえてこう言うのが精一杯だ。
「ほんと?じゃあ……ギュッてしてよ」
「……此処でか?」
「此処でよ、今すぐ」
みんな見てるよなぁ……。でも、此処で出来なかったら涼宮も離れて行きそうだしな。男谷口!やるときゃやる男だ、俺は!!
俺は涼宮を抱き締めた。あの運動神経の固まりとは思えないくらい細い体だったから少し緩くしたけどな。
数秒で離したあと、涼宮が少し頬を赤らめて言葉をだした。……こんな表情、初めて見るな。
「ほ、ほんとにやるとは思わなかったわ……」
自分から言い出したくせに……。
「やるときゃやる男なんだよ、俺は」
「なんで途中で緩めたの?」
「そりゃあ……お前が意外に細かったからな。痛くしたら悪いと思ったんだよ」
「ふ~ん……。あんた意外に優しいわね、見直したわ」
珍しく褒められた。なんか嬉しいぞ。
「明日から弁当作ってきたげるから、一緒に食べるわよ」
はい?今、メチャクチャ幸せなセリフを聞いたような気が……。
「返事はっ!?」
「は、はいっ!」
またもや素頓狂な声が。いや、もうなんでもいいよ。俺は幸せだ……。
「じゃあ、今日の放課後は一緒に帰るわよ。……あたし掃除当番だけど待ってなさいよ」
「あ、ああ……」
そう言うと、涼宮は席に戻って行ったから俺も戻った。……裏があってもいいや、俺は、涼宮が好きだ。
キョンとだって勝負してやる。

昼休み。飯を食いながらそんな話を聞いた。
「悪いな、キョン、国木田。俺、明日から一緒に飯食えないわ」
とても幸せそうな面をしている。まぁ、こいつにとっちゃ幸せならそれでいいさ。
俺は少し急いで飯を食い終わり、校内をフラフラし始めた。……なんとなく、谷口と一緒に居たくなかった。
「あ、キミキミ!涼宮さんのお気に入りのキミ!」
俺が振り向くと、バンドの人、財前さんが居た。
「あ、こんにちは」
俺が軽く挨拶をすると、MDを3枚握らされた。
「これ、文化祭でやった2曲に新曲入れたMDだから。キミと涼宮さんと長門さんの分ね」
そう言ってすぐさま元の集団の所に走り去った。……パシリか、俺は。


教室に戻ると、ハルヒは席に居た。
「これ、ENOZの人からだ。新曲が入ってるとか」
「ふ~ん、ありがと。あ、そういえばあたしが居なくてもあんた達は活動しなさいよ」
なんて理不尽な要求だ、団長様。しかしそんなことより確かめる事は一つだ。
「お前……谷口と付き合うんだって?」
ハルヒは少し顔を上げた。
「そうよ。だから今日は来れないから。たぶん明日は行くけどね」

俺はまだいろいろ聞きたかったが、授業開始のベルに阻まれた。
……なんか、イライラする。

放課後、部室に行くと既にみんな揃っていた。……ハルヒを除いて。
「おや、涼宮さんと一緒ではなかったのですか?」
俺は長門にMDを渡しながら古泉に返事をした。
「あいつなら谷口と帰ったよ。付き合うらしい」
「「「…………」」」
部室に沈黙が流れる。みんな驚きを隠せないようだ。
「そう驚くなよ。閉鎖空間だって出てないんだろ?このまま安定してくれりゃいいじゃないか」
古泉の顔に微笑みはなく、驚きのまま会話を続けた。
「確かにそうなんですが……あなたは何も感じないのですか?」
また、探りをいれてくるのか。いい加減飽きたぞ。
「あぁ、あいつが幸せならそれでいいだろ」
俺がその言葉を発した後は、みんな無言だった。
長門は本を読み、朝比奈さんは編み物、俺と古泉は無言でボードゲーム。
言葉で何も感じないと言っても、よくわからんイライラは俺の中に残ったままだった。

そんな毎日が過ぎる。今日は金曜日。ハルヒは今週二回目の部活への出席だ。
「明後日は探索だからね!!みんな来るように!!」
その言葉を最後に、解散した。明後日の探索ならハルヒと話す機会も出来るかもな。
こないだ聞きそびれたいろいろな事を聞き出そう。

《another side2》

今週は幸せだったぜ……。涼宮からの告白に始まり、一緒に食べる昼食の手作り弁当、放課後一緒に帰りつつのちょっとした買い物。
キョンには悪いが俺はもう、涼宮を譲るつもりはない。
いまからのデートだって、ただ街を歩くだけだが楽しみだ。
……お、涼宮が来たか。
「あら、あんた早いわね。女を待たせないのは良い男の条件よね」
「お、お前の私服姿もメチャクチャ輝いてるぞ」
話が噛み合ってないが、これしか言えなかった。マジで輝いている。女神のようだ。
「ちょ、ちょっと!恥ずかしいじゃない!……さ、さっさと行くわよ!」
駆けるように歩き出した涼宮に追いついた俺は、自然に手を握ってしまった。
「あ、あ~……手、握っていいか?」
弱いぜ。なんて弱いんだ俺は。
「何を許可なんて取ってるのよ。あたし達、付き合ってんのよ?」
俺の手を握り、歩幅を緩めて横に着いてくれた。
頬がほんのり赤らんでいる。やっぱこいつも恥ずかしいのかな?
……なんてな。
それからしばらくいろんな店を歩き回り、昼飯も一緒に食べて、また店をいろいろ回っていた。
「あっれー!?そこのかわいい女の子はハルにゃんかいっ!?」
長い髪をなびかせた美人が声をかけてきた。……鶴屋さんだ。
「あ、鶴屋さん!……って事はその辺にみくるちゃんもいるわね?出てきなさいっ!!」
「は、はいぃっ!」
涼宮の大声に気圧されて朝比奈さんまで出てきた。
美人三人の競演に平凡な俺か……、ちょっと距離置いておこう。
「隣りにいるのは確か……谷口くんだねっ!?キョンくんはどうしたんだい?」
鶴屋さんが涼宮に疑問を投げ掛ける。確かに普通はキョンといるのが自然だよなぁ。

「あいつは知らないわ。今はこの谷口があたしの彼氏なの!」
涼宮に腕に抱き付かれた。胸が当たってるって涼宮よ。
鶴屋さんはそれを聞くと少し眉を潜めた。
「……ふ~ん、そっか。ま、デートの邪魔しちゃ悪いからあたし達はもう行くっさ!ほらっ、行くよっ!みくるっ!!」
そう言うと、腕を引きながら走り去って行った。慌ただしい人だよなぁ、ほんと。
「何ほうけてんのよっ!さっさと行くわよっ!」
腕に抱き付かれたまま引き摺られる。
……もう、幸せ過ぎるぜ。

そのまま、買い物を終えると俺達は別れた。
ほんとは聞かなくちゃいけない、キョンへの涼宮の気持ち。怖くて聞けねぇよ……。


あいつら今日はデートだったんだよな……。
俺はなんとも言えない感情を抱えていた。いつもは今日行っていたはずの探索がなかった。
それどころか、今週はハルヒと話したのも数える程だ。……まさか、俺はハルヒが好きなのか?
それが谷口と居たくない理由か?イライラしてる理由なのか?
俺は古泉に鈍感と言われることが多い。まさか、このことがそうなのか?
そもそも《好き》かどうかの定義がわかんねぇ。こんな風に悩むこと自体が好きって感情か?
ふと窓の外の星空を見上げた。微妙に赤い星発見……やべ、一瞬古泉に見えた俺は病気かもしれん。
そういや文化祭でこんな感じの曲やってたな……。
俺は制服のポケットからMDを取り出し、再生した。
一曲目、何だったか……《God knows》だったかな。これじゃないな。
二曲目、これだこれ。確か……《Lost my music》か。
いつもはなんとなく、勉強のついでに流すための音楽。今日は、今だけは詞を一つ一つ吟味しながら聞いてみる。

はぁ……やっぱりこの人達すごいな。新曲だって素人耳にだが文化祭でやったやつより上手くなってる。

なにより、詞に引き込まれちまう。
《星空見上げ》《あなたは今何処で》《大好きな人》……一つ一つ単語を抜き出すと、自分の気持ちに気付いちまった。
俺は、ハルヒが好きだ。気付くのが遅いのにも、俺が鈍感だということも全て気付いた。
今更遅いかもしれん。ハルヒが谷口とラブラブになってるかもな。
だけど、気付いたからには引けないな。俺は谷口からハルヒを奪ってやる。あいつは親友だ。だけどこれだけは譲れないし、譲りたくない。
全ては明日、探索の時に打ち明けてやる……。


俺の勝手な決意と思惑を嘲笑うかのように、午前、午後と見事にハルヒと離れた。……これも、ハルヒの意思かもな。
俺はしょうがなく、午後に長門と行った図書館でメールを打った。
《今日、解散した後少しだけ時間をくれ》
返事はすぐに来た。
《あたしも忙しいんだから少しだけよ》
これで機会は確保した。あとは俺の気持ち一つか……。


喫茶店で解散した後、俺はハルヒと二人で歩きだした。
「何処に行くのよ。時間無いって言ったわよね?」
不機嫌なハルヒの声、俺の鼓動を少しだけ早める。

「ん、ちょっとそこの公園だ。あまり遠くないしいいだろ?」
ハルヒは渋々とついてきた。話だけは聞いてくれるみたいだな。
夕方の公園には、人はおらずに、二人きりで公園の真ん中辺りに佇んだ。
「で、話ってなによ」
ハルヒは尚も不機嫌そうだ。こんな時のこいつはたたみかけるしかないか。
「じゃあ、単刀直入に言おう。俺はお前が好きだ。……それに、昨日気付いた」
目を見開いて俺を見てくるハルヒ。大体次に言ってくる言葉も想像できる。
「な、なによ今頃。あたしは谷口と付き合ってるのよ!?」
やっぱりな。
「あぁ、よく知ってる。だけどな……俺も自分の気持ちに気付いたからには引けないんだ。好きだ。谷口と同じ……いや、谷口が思うより俺のが好きだ」
みるみる赤くなるハルヒの顔。夕焼けも沈みかけ、辺りが暗くなってきているにもかかわらず、顔が赤いのがわかった。
「た、谷口はどうすんのよ!あたしがここであんたの告白受けちゃったら……あんた達、仲違いするんじゃないの?」
「もし、お前が俺の告白を受け入れてくれるなら……あいつに土下座でもなんでもしてやるさ」
これで俺の本気は全部伝えた。あとは返事待ちだ……。
「……あんたが教室であたしがナンパされたことに全然反応しなかったこと、ショックだったわ」
ハルヒは俯いて、話を始めた。
「それで、寂しくなって……あたしがあんたの次に自分を出せる、谷口に甘えちゃったのよ」
一歩、二歩……少しずつハルヒが歩み寄ってきた。
「谷口には悪いと思ってる。でも、やっぱりあたしはキョンが好き……」
目の前でハルヒが止まった。俺はハルヒを抱き締めて、囁いた。
「俺で……いいんだな?」
ハルヒが縦に頷いて、俺の胸に額を当てた時、声が聞こえてきた。
「ちょっと待てよ!!」

《another side3》

結局、寝れなかったな。涼宮の本当の気持ちはどうなんだよ。
俺は一人街を歩く。国木田は所用で、キョンはこの頃俺を避けてる気がするし、なにより探索とやらだ。
朝からダラダラと歩き、飯も食わないままもう昼の15時だ。いい加減疲れたが、モヤモヤが晴れない……。
「大丈夫かいっ!少年!」
俺が振り返ると、昨日も会ったお姉さん、鶴屋さんが居た。
「あ、ども……。あんまり大丈夫じゃないっす」
「そっかいそっかい!!じゃあお姉さんがご飯でも奢ってあげるっさ!!ほら、早く来るにょろよっ!!」
俺は抵抗する気力もなく、為されるがままに定食屋のような所に連れて行かれ、食事を奢ってもらった。
「どうだいっ!元気は出たかなっ!?」
「あ……はい。ご馳走さまでした」
鶴屋さんはニコニコして俺の顔を見ていた。なんか、全てを見透かすような目に釣られて、俺は喋りだしていた。
「俺、なんかまたフラれそうで……心配で……。今日、終わったら涼宮にいろいろ聞いてみようと思ってるんです。」
鶴屋さんの表情が一変して、真面目な顔になった。
「だと思ったよ。ね、あたしもその場に行かせてくれないかい?」
「いや、でも俺が一人でやんなくちゃ……」
「だから着いてくだけさっ!邪魔はしないから!このとーりっ!」
両手を重ねて、お願いのポーズ。……ま、いっか。一人だと心細かったんだよな。
「わかりました……その代わり、俺が何しても止めないで下さいよ?」
そう。もし、キョンと涼宮が一緒にいたら俺はたぶんキョンを殴るだろう。もしかしたら……涼宮も…。
鶴屋さんは黙って頷いた。
この人って黙ってたら美人、喋ってたらかわいいって感じだな……。
とか考えていると、窓の外を涼宮とキョンが通った。

……嫌な予感が、当たったかもな。
俺は鶴屋さんと、バレないように尾行した。
公園の真ん中で話している二人。俺達は草むらの後ろ。
話し声は聞こえるわけもなく様子だけを窺っていた。
……涼宮が一歩、二歩とキョンに近寄った。それをキョンが抱き締めた。
あぁ……やっぱりこれが現実かよ。納得行かねぇけど……わかってた。
わかってたけど……。
「鶴屋さんは此処に居てくださいね」


「ちょっと待てよ!!」
俺は腹の底から声を出した。久しぶりにこんな声が出た、多分、いろんな感情が混ざるとこうなるんだろうな。
俺はゆっくりと二人に近付いていった。


「谷……口。お前、見てたのか?」
谷口はいつになく、怒っていた。……いや、悲しみも含んだ、深い怒りだ。
「見てたのか?じゃねぇよ!涼宮!!お前は……俺をダシに使ったんだろ?キョンにやきもちを妬かせる為のダシだったのか?俺は」
谷口はハルヒを睨み付けた。俺にすがりつくようにしてハルヒは答えた。
「そうじゃない……でも、そうかもしれない。あんたが優しくて……安心して……本気になったこともあったわ。でも……キョンに告白されたら……」
そこでハルヒの言葉は止まった。三人の間に沈黙が流れた。
「ごめんね?谷口。許してもらえないのはわかってるわ。だから……好きなだけ、あたしを殴って」
ハルヒはそう言うと谷口の前に出た。
谷口が手を振りかぶると、俺は谷口に飛び掛かった。
……弱いな、俺は。
飛び掛かったはいいが、あっさりと谷口に躱され、顔面に手加減なしのパンチを食らった。……長門の蹴りより強烈だ。
俺を見下している谷口は、泣いていた。
「……わかってたんだよ」
泣きながら谷口は、ハルヒに向かって歩き出した。そして、手を振りかぶって……。


ハルヒの肩に手をかけて、涙をボロボロと流し始めた。
「バカヤロウ!俺が……俺がお前を殴れるわけないだろ!!どんだけ好きだったかも知らないくせに……畜生!!」
谷口は、走って公園から去って行った。それと同時に、ハルヒが腰をストンと落とした。
「どうしよう……あたし、ほんとにヒドい事しちゃった……」
ハルヒはとてもショックを受けていた。それと同時に、俺も自分の身勝手さ、頭の悪さを呪った。
俺が一番谷口の事を、みんなの事を考えてなかったじゃねーか……。
そう考えると、自然と涙が流れた。

「キョンくん、歯、食いしばりなよ」
という声が聞こえた瞬間、俺の頬に平手打ちがきた。
声の主を見ると、鶴屋さんがそこに居た。
「……ありがとうございます」
俺はそれしか言えなかった。鶴屋さんはニッコリと笑い、ハルヒの前に立った。
「鶴屋……さん」
「ハルにゃん、わかってるね?」
「……うん」
「キミは、人間として、友達として……女として一番やっちゃいけないことをしたっさ。あたしも、怒ってる」
「………うん、お願い。思いっきりやってちょうだい」
話が終わると、鶴屋さんは平手でハルヒを叩いた。
五発程叩いた所で止まり、ハルヒは鶴屋さんにすがりついて泣き始めた。
「ハルにゃんの甘える相手は違うさ」
そう言って、鶴屋さんは俺にハルヒを預けた。
「キョンくん。落ち着いたらハルにゃんをちゃんと送ってやりなよ?あたしは谷口くんを追っかけてくるさ」
「……お願い、します」
さっきのように、俺に笑顔で返事をして走り去った。
公園には、涙を流す二人だけが残った。

《another side4》

俺は駅前公園で一人うなだれていた。道行く人の誰もが俺を見ていくのがわかる。
当たり前だ。こんな野郎が一人で座って泣いてんだもんな。
覚悟はしてた、わかってた。でも、実際になると……辛ぇよ。
「あ~もう!こんな所にいたのかいっ!探したよっ!」
涙でぼやけた視界の先には鶴屋さんが居た。
「や~、キミ足速いねっ!追いつくのがやっとだったさっ!…………泣いていいよ?あたしが居てあげるさ」
鶴屋さんの優しさが、心に染みた。俺はいつの間にか、涙を流していた。
「畜生……俺だって本気だったのに……畜生………」
鶴屋さんは俺が泣いている間、ずっと頭を撫でていてくれた……。

「もう、大丈夫かいっ?」
「はい……。すんません……ってか、ありがとうございました」
「いいっていいって!」
ほんとに癒された気がする。俺の心はだいぶスッキリしていた。
「しっかし、ハルにゃんにちょっと妬けちゃうな!こんなに良い男達にモテモテだもんねっ!!」
鶴屋さんは俺の顔を覗きこみながら笑顔を浮かべた。
「こんなフラれた時に優しくされると……好きになっちゃうじゃないっすか」

俺は精一杯の笑顔を作ったつもりで返事をした。
畜生、顔が引きつるよ。
「あははははっ!!あたしは別に構わないっさ!キミ、結構かっこよかったし……男らしい子は好きさっ!」
そう言うと、鶴屋さんは俺の頬にキスをした。……へ?
「ちょ……ちょっと鶴屋さんっ!?」
「嫌だったかい?」
「そうじゃなくて!そんな……俺みたいな…変な平凡な奴になんで?」
鶴屋さんはあくまでも笑顔で素敵な先輩だった。
「プププッ!谷口くんはいい男さっ!あたしじゃダメかいっ?ハルにゃんしか受け付けないなんて、お姉さん悲しくて泣いちゃうにょろ~」
まったく泣いていないような泣き真似をして、俺を元気付けてくれる。
「鶴屋さんがそれでいいなら…付き合わせてください」
俺が肩を掴むと、目を閉じた。
つまりこれはアレですか?……キスをしろと?
「早くするっさ。女の気持ちは変わりやすいにょろよ?」
俺は覚悟を決めて、鶴屋さんにキスをした。……女の唇ってこんなに柔らかいんだな。
「うへへへ~、これであたしも彼氏もちだねっ!!よろしく!谷口くんっ!」
俺達は、手を繋いで駅前公園を後にした。
……今週は最後にいいことがあってよかったよ。


「ハルヒ……頬、大丈夫か?」
「あんたこそ……あざになってるわよ」
俺達はベンチに座り、お互いの頬を撫であった。
「あんたの手、冷たくて気持ちいいわ~……」
ハルヒは目を瞑って、日なたぼっこをしているシャミセンのような、気持ちの良さそうな顔をしている。
頬を撫でている、目を瞑った。……構わないよな?
俺は、そっとハルヒにキスをした。
「ちょっと!いきなり!?」
「あ、いや。つい」
「ついじゃないわよ!あ~もう!……初めてだったのにぃ…」
ほんとは初めてじゃないんだけどな、お互いに。
「じゃ、またやってやるよ」
俺はもう一度、二度……と数回、くっつけては離すキスをした。
「……もう。バカ…」
「そんなバカを選んだのはお前だ」
俺はそんなやり取りに、幸せを感じながら頬の痛みで谷口のことを思い出した。
「……谷口になんて謝るかな?」
ハルヒも少し真面目な顔になり、考えだした。
「明日、二人で行って頭下げよっか?その後は谷口になんでも尽くしてあげれば許してくれるわよ」
確かに、バカ正直に行くしかないか。
「だな。とりあえず今日は帰ろうぜ、もう遅いし」

俺達は、水道で顔を洗った後、二人で手を繋いで帰った。


「谷口!本当にすまん!」
「ほんとごめん!あたし達に出来る事ならなんでもするから!」
昼休み、俺とハルヒは谷口に頭を下げまくった。何故なら、谷口は理由はわからんが昼休みに学校に来るという行動をしたからだ。
さすがに谷口でも堪えたか……。
「なんでも……だな?」
谷口の目が光った……ような気がした。
しかし男に二言はない。
「あぁ、なんでもだ」
俺が真面目に答えたのに対して、谷口は笑いだした。……何がおかしい。
「はははは、ジョークだって。俺もお前を殴っちまったからな。おあいこだ」
「でも、それじゃああたし達の気が……」
ハルヒが申し訳なさそうな顔で口を開いた。
谷口は何故か満面の笑みで返事をしてきた。
「わかったわかった、じゃあダブルデート行くとして、そんときの金、奢りな!」
は?ダブルデート?こいつはとうとう頭が逝っちまったか?
隣りのハルヒを窺う。俺と同じような顔をしていらっしゃる団長様。惚気だがそんな顔もかわいいぞ。
「やっほー!谷口くん、ご飯一緒に食べるっさ!!」

教室の外から聞こえてくる、鶴屋さんの元気な声。
俺、ハルヒ、教室にいる連中はさらに呆然。
「ま、そういうわけだ。お前らも一緒に飯食おうぜ」
鶴屋さんから全てを聞いた俺達。四人で飯を食うために屋上に向かった。
その前に俺は教室のある人物の様子を窺った。
「国木田……お前も頑張ってくれ」
「………キョン、同情ならいらないよ…」


終わり
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