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それはわたしにとって、選び辛い二択だった。部室の机に乗っている一枚のお皿。
「どうしたんですか?食べないのでしょうか?」
「ま、待ってくださいっ!もう少し……悩ませて……」
赤く光沢を放つりんごさん。黄色くみずみずしいみかんさん。どっちもおいしそうなんです……。
わたしは悩みに悩んだ。それこそ、思わず声に出ちゃうくらいに。
「じゃ、じゃあ……り、りん……み、みか……やっぱり……でも……」」
意を決して、わたしはりんごを取ることに決めた。
ゆっくりと手を延ばしていくと……あと10センチの所で赤く光沢を放つりんごはヒョイと消え去った。
「どちらか迷っているようなので、僕がりんごをもらいますね」
ひ、ひどい……わたしの苦悩はなんだったんだろう。
そもそもの始まりとして、何故おいしそうな果物が部室にあるのかを説明します。


「実はですね、とても高級なみかんとりんごを知り合いの方に3個ずつもらいましたので、分けて差し上げようかと」
わたしが部室で言われたのはそんな言葉だった。

部室で、一人でみんなを待っていると、古泉くんが今日の部活の休みを伝えに来てくれた。
じゃあ、何で残りが2個なんだろう?わたし達は5人だから3個余るはず……。
と考えていると、古泉くんは笑顔のまま喋りだした。
「涼宮さんは、僕に休みを伝えた後、りんごを掴むとその場で囓りながら帰って行きました」
あぁ……涼宮さんらしいな。様子が映像で出てきそうなくらいやってそうだ。
「長門さんは、みかんを無造作に掴むと、やっぱり無言で帰って行きましたよ。あ、少し頭を下げたようには見えました」
家でコタツに入ってみかん……やってそうだなぁ。
「問題の彼は、『妹の為に一個ずつ持って帰ってもいいか?』と聞いてきたので了承しましたよ。彼は優しいですね」
キョンくんは優しいなぁ……。でも、2個なんてずるいんじゃないかな……。
「残ったのを1個ずつもらいましょう。どうぞ、朝比奈さんから選んでください」
と言われて、わたしの辛い二択が始まったのでした。


わたしは少し拗ねて、みかんの皮を剥きはじめた。皮からも漂ってくるいい匂いがわたしの気持ちを少し安らがせた。
「朝比奈さん」
古泉くんの声が聞こえる。わたしの安らぎを邪魔しないでほしいな……。
そのまま、振り向かずに皮を剥き続けた。
「朝比奈さん?」
もう……何の用なのかな?いつもは全然わたしに用事なんて無いのに。
「なんですかっ?わたしになにか……はむっ?」
口に広がる甘酸っぱい味。わたしの口の中に、綺麗に皮が剥かれたりんごが入っていた。
「半分あげますよ。今、切り分けますから」
甘くて美味しい……。古泉くん、少しでも怒っちゃってごめんなさい。
あなたはとても、とっても優しい人です……。

口の中で甘いりんごを噛み締めながら、わたしはみかんを一つ取って、古泉くんの口に押し込んだ。
「お返し、ですっ!」
古泉くんは少し驚いたけど、すぐに笑顔になってりんごの皮剥き作業を続けた。
わたし達は半分こと笑顔で話をしながら二人で果物を食べあった。
今度、お礼しなくちゃなぁ……。


次の日、わたしは早起きをしてアップルパイと搾り出しのオレンジジュースを作ってみた。
古泉くんへのお礼として、あげるために。
誰にも見せないで放課後まで教室におき、掃除を終わらせて部室に向かった。
古泉くんはまだ来ていなかった。
「朝比奈さん、こんにちは……ってそれ何ですか?」
キョンくんが聞いてきた。さすがに部室で隠すのは無理だったみたい。
「こ、これは……アップルパイと、オレンジジュースです……」
その時、一人の目が輝いた。やっぱり涼宮さんがわたしに向かって来たのだ。
「みくるちゃんありがとっ!もちろんあたしの為に作って来たのよねっ!?」
一直線にアップルパイに向かってくる涼宮さんの手をかわし、わたしは丸まるようにしてアップルパイを抱え込んだ。

「だ、ダメですっ!これは古泉くんにお礼だから渡せませんっ!」
後ろから両肩に強い圧力が。涼宮さんの怒りが伝わってくるみたい……。
「みんなで食べた方が美味しいんじゃないの?……早く渡しなさ『やめとけ』
もうわたしは泣く寸前だった。それをキョンくんが涼宮さんを制してくれたおかげで踏み止どまれた。
「……なによ。あんたは食べたくないの?有希だって欲しそうな顔してるじゃない」
長門さんを見ると、視線がピタリと合ってわたしは目を逸らした。……だって恐いんだもん。
「そりゃ食べたいさ。だがな、朝比奈さんがお前に反抗してまで古泉に渡したがるのを邪魔してまで食べる気はない。それよりお前が俺と長門の分を作ってきてくれよ」
キョンくんは涼宮さんの両手を掴んだままそう言った。
「む~……わかったわ。あんたと有希を感動でむせび泣かせるようなアップルパイを作ってきたげるわ!」
あぁ、よかった。これで古泉くんにきちんと渡せる。……今度キョンくんにもお礼しなくちゃ。
その時、部室のドアが開いた。優しい笑顔の古泉くんがそこに立っていた。

「おやおや、プロレス大会ですか?マスクくらい用意してきた方がよかったですかね?」
また見当違いな話をして、おどけてみせた。
わたしは立ち上がって、コホンと咳払い。その後、古泉くんの顔を見ながら口を開いた。
「き、昨日のお礼ですっ!よかったら食べて……?」
古泉くんはみんなの機嫌や態度を伺うために、部室を見回していた。
いつの間にかみんなは普段通りの態度になっていた。……みんな、ありがとう。
わたしの目の前で優しい笑顔がさらにほころんだ。
「じゃあ、半分こで食べましょうか」
年下なのに、年上に見える古泉くん。そう言った時の笑顔はとても大人びて、優しくて、引きつけられた。
「はいっ!」
そう答えて、わたしは作業を始めた。古泉くんと半分こする作業を。
ごめんなさい、みなさん。
今日だけはわたしにささやかな幸せをくれた人に、ささやかな幸せを独占させてあげてくださいね?


おわり
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