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「……何だ、これは」
「結婚式のプランよ」
 目を丸くしつつも抗議するなんていう何とも言えない状態にある俺の前で、ハルヒはふふんっ、とでも言いたげに胸をそらした。
 頭が痛い。
 おい、一樹、ただ笑っているな。
 有希、お前もただ紙を見ているんじゃない。
「お前なあ……」
 高校時代から数えて何度目になるかな、この手の台詞は。
 ハルヒに振り回される役どころの筆頭は当の昔にハルヒの隣で笑っている似非爽やか野郎に譲ったつもりだったんだが、どういうわけか俺は相変わらず巻き込まれキャラその一の立場を継続中だ。
 いや、この場合その一じゃなくてその二か三ってところか?
 まあ、そんな順番はたいした問題じゃないんだが。
 ちなみに今の状況についてだが、冒頭のやり取りと俺達の関係から大体察してもらえると思うのだが、あえて説明するならば、このたび晴れて俺と有希が結婚することになり、結婚式を挙げることになったのだが、その話を聞いたハルヒが、結婚式のプランはあたしが立てるわ! などと言い出し……、現在に至るわけである。
 反論する暇なんて全く無かったな。
 まあ、一樹が、親戚の居ない有希が結婚式で不自然な状態にならないよう色々手を回してくれたりコネを使って式場を安く借りられるようにしてくれていたりするので、俺がその嫁さんに逆らえるわけが無いだろうって気もするのだが。
 さて、当たり前だがハルヒがまともな結婚式のプランなんてものを作ってくるわけが無い。
 そもそもこいつの結婚式のときからして……、いやいや、それについては蛇足になるから今は語らないでおこう。とにかく、無茶苦茶だったことだけは確かだった。
 あの日は、終わったときにはハルヒは元気だったが、一樹は無茶苦茶疲れた顔だったからな。まあ、幸せそうでは有ったけどさ。
 色々てんこ盛りすぎて見ているだけで結構うんざりって状態で、俺はあんな結婚式はしたくない、何て思ったはずなんだがなあ。
「何よ、せっかくあたしが有希とあんたのために考えてやったのよ、感謝しなさい!」
「いや、けどなあ……」
 ハルヒの心遣いというか、その、考えてくれたってこと自体には感謝してもいいが、世の中には出来ることと出来ないこととか、限度とかってものが有るんだ。ハルヒにその理屈が通用するかどうかはちょっと怪しいところだが。
 ……ん、有希?
 何でそんなじっと紙を見ているんだ。
 まさか、お前、
「ねえ、有希は良いと思うでしょう?」
「……良い」
 マジかよ!
 待て待て待て、待ってくれ有希。
 お前は確かに数々の特殊能力持ちな宇宙人であり体力的な限界とか運動能力という意味では人間を遥かに超越していたりするが、対する俺は普通の人間であって……、って、ああ、そんなこと、ハルヒの前で主張できるわけも無いよなあ。
 おまけに有希と来たら、滅茶苦茶期待するような目で俺の方を見て来ているし。
 おいおい……、これじゃ、勘弁してくれ、なんて言えるわけもないか。 
 分かったよ有希、俺も男だ。お前のためにやるだけやってやるさ。


 それから俺達は準備に追われ、あっという間に結婚式当日になった。
 そして俺は今、タキシード姿で野原のような場所に立っている。
 少し離れたところには出席者達が揃っている。一応今は一樹が近くに居たりするんだが、こいつとももうちょっとしたら物理的に距離をとることになる。そうでないと危ないからな。
「なあ」
「なんですか?」
「本当に大丈夫なんだよな?」
「普通の人間同士でも出来ないわけではないですし、有希さんなら尚更大丈夫でしょう。彼女なら、自分の周囲の風向きや自重の調整くらいお手のものでしょうからね」
「まあ、そうだろうが……」
 俺と一樹のこのやり取りも、もう何度繰り返したことか。
 そう、俺は今、有希を待っている。

 空から降ってくるはずの、花嫁を。

 ……冗談じゃないぞ、大マジだからな?

 ハルヒが考えた、俺と有希の結婚式のプラン。
 その最初のイベントがこれだ。
 空から降ってくる花嫁を、地上に居る花婿が受け止める。
 結婚式なんだからこのくらいのインパクトが必要だというハルヒの理屈も、目を輝かせていた有希の主張したいところも、まあ、分からないことは……、無いことは無い、ということにしておこう。
 実際にこういう結婚式が有ったかどうかは知らないが、一応は人間同士でも大丈夫だろうってことだし、有希は普通の人間を超える能力を持っていたりするからな。
 受け止める方の俺は普通の人間なんだけどさ。
「そろそろみたいですね」
 無線で有希と共にヘリに乗り込んでいたハルヒと連絡を取り合っていた一樹が、開始時刻が近いことを教えてくれた。
 緊張の一瞬、どころじゃないな。
 結婚式の開始時点でこんなわけの分からない理由で緊張しまくる花婿なんて、世界広しと言えど俺だけ……、いや、まあ、ここに居るこいつもそうだったのかもな。
 今度暇なときに思い出話でも聞いてやるか。まあ、暇なときに限らせてもらいたいが。
「では、頑張ってくださいね」
 一樹はぽんと俺の肩を叩くと、さっさと離れていってしまった。
 遠く高い位置に、ヘリが見える。
 一応有希が降りてくるときには、合図としてライトを光らせてくれるはずだ。

 合図が来るまでの、長くて短い、不思議な時間。
 耳を澄まし目を開き、ただ始まりの合図と、花嫁姿の有希だけを待つ。
 ふっ、と、晴天の中でも煌く、一つの光。
 そして、パラシュートを背負い降りてくる、細身で小柄な花嫁。
 俺は落下予測地点で空を見上げつつ、そのパラシュートが開き、有希がゆっくりと地上に降りてくるのを待っていた。
 速度としては思っていたよりもゆっくりだったわけだが、だからと言って俺が余裕を持って有希を受け止める、なんてことが出来たわけじゃなかった。
 有希は自重か風の動きを調節したのか寸分の狂いも無く落下地点に下りてきたが、地上数百メートルから降りてきた人間を受け止めるなんてことを生まれて初めてやった俺は、その場で尻餅をついてしまった。ひっくり返らなかっただけマシってことにしておいてほしい。

「……」

「……」

 こういうとき、なんて言えば良いんだろうな。
 いや、こんなレアな状況はめったに無いだろうから、言葉が出てこないのも仕方ないことだとは思うのだが。それにしても、情けないことに変わり無いな。
「ああ、その……」
「んっ……」
 言葉が見つからない俺の唇を、有希が塞いだ。
 お、おいおい、誓いのキスはまだ……、まあ、こういうのも、有りかもな。
 何せ世にも奇妙な奇想天外な結婚式なんだ。
 順番がちょっとくらい違っても、かまわないよな。


 空から降って来る花嫁を受け止めた後も、結婚式のプランは色々と凄かった。
 何せ覚えきれないくらいの回数のお色直しが有ったり、どうやってケーキカットするんだよってくらいでかいケーキがあったり、出席者の出し物が凄かったり……、まあ、良い結婚式だったさ。
 俺と有希にとって、この日は、一生ものの思い出になってくれることだろう。
 有希も、嬉しそうだったしな。


「なあ、有希」
「何?」
「お前、今日は楽しかったか?」
「楽しかった」
「お前、今、幸せか?」
「幸せ」
 俺の質問の仕方のせいもあるだろうが、有希の回答が簡潔なのは昔とあんまり変わらない。
 有希は有希なりに色々考えているみたいだし、表情に出てるように見えるときもあるんだが、言葉にするのは今も昔もあんまり得意じゃないんだろう。
 まあ、俺は、そういうところも有希の魅力のうちだろう、何て風に思っていたりもするわけだが。
「そっか」
「……あなたは? あなたは、幸せ?」
「ああ、俺は幸せだよ。……今までも、これからもな」
「そう」
「有希も、一緒に、今以上に幸せになろうな」
「……」
 俺の腕の中に居る有希が、無言で首を縦に振る。
 本当、こういうときの有希は、凄く可愛いよな。
 可愛くて、愛おしくて……、俺には、有希が一番だって思うんだ。きっと、有希も俺が一番だって思ってくれているんだろう。
 なあ、有希。
 これからも、一緒に居ような。


 ……ああ、それにしても、空からの花嫁か。
 そういや、有希は……、宇宙から、空から、やって来たんだよな。
 けど、空からやって来た少女が、もう一度空から、今度は花嫁として降って来るなんて……、何だか、不思議な感じだよな。
 浪漫がある、なんていうのは、こういうことを指すのか?
 まあ、こんな稀有な経験をしている奴が俺以外に居るとは思えないが。そういや稀有って単語は有希って名前に似ているな。いや、そんなことはどうでも良いんだが……、まあ、有希に出会えたこと自体が稀有な出来事だってのは本当だけどさ。
 けど、浪漫か……、俺には似合わない単語だよなあ。
 まあ、有希のためを思うなら、今日この日だけは、この単語を使ってやってもいいかもしれない、何て風に思わなくもないけどな。


 終わり

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