【誤作動~部室にて~】
 
コンコン。
………彼が来た。
「は~い、どうぞぉ!」
朝比奈みくるが返事をすると、彼が笑顔で入ってくる。
「こんにちは、朝比奈さん。」
わたしは普段通りを維持して、本に目を傾けている。
「こんにちは、長門。」
彼がわたしに挨拶をする。
わたしは少し頷いて、それに答える。
……ここまでは、いつもの日常だった。
 
彼は、朝比奈みくると喋っている。
ずっと、楽しそうに…。
その様子を見ていると、わたしの体に異変が起こった。
正確に言うと、《心》に異変が起こった。
 
感情が抑えられない、コントロール出来ない。
誤作動が起こる。
 
「………お茶を。」
「ふぇっ!?」
「…………お茶を…ください。」
喋り方までおかしくなった。
自分のやっていることが、わからない。
「め、珍しいな長門。お前が茶のおかわりなんてな。」
彼が笑いながら近付いて来る。
何故?
いつもは彼が笑うと嬉しいのに、今は何故か気に障る。
「お前らしくないな、熱でもあるのか?」
わたし…らしくない?
ワタシラシクナイ…あなたにとってのわたしは何?
考えるより先に言葉が出てくる、誤作動。
「何故……そんなにヘラヘラしてるの?」
「へ?」
「誰にでも、ヘラヘラしている。そんなに……【八方美人】でいたいの?」
違う。言いたいのはこんなことじゃない。
ほんとに伝えたいのは、
『もっと、わたしと喋って。』のはず。
「なぁ…長門。どうしたんだ?相談に乗るぞ?」
あんな言葉を言ったのに、彼は優しい。
でも、また誤作動が起こる。止められない、止めたくない……。
 
「……わたしは、あなたの煮えきらない態度が不快に思う。誰にでもヘラヘラと笑いを振りまき、肝心な所ではウジウジと悩む、あなたの態度が……」
パシッ!!
………?
彼にはたかれたらしい、わたしの顔は横を向いている。
痛みはない、だけど……心が……痛い、と表現すればいいのだろうか。
「……あっ、…うぁぁあん!あぁあぁあん!!」
……誰?わたしの声?涙?
何も考えれない。
わたしは…泣いている。
「うわぁぁぁん!!あぁぁぁぁん!!」
わたしにも、こんな感情があるんだ…。
「あ……、な、長…門…。………くそぉっ!!」
彼の走る音が聞こえる。
この部屋から出ていったのだろう。だけど、泣きやめない。何故?
「うっ…うっ……うわぁぁぁあん!」
「ちょ、ちょっと有希!?どうしたのよ!!」
「す…涼宮……さん、うぅぅう……あぁぁああん!」
わたしは泣き続け、次に気がついたとき、涼宮ハルヒに抱かれていた。
 
「有希……もう大丈夫?」
「涼…宮さん……。」
「みくるちゃんに、全部聞いたわ。」
この言葉を聞いた辺りで、《元のわたし》が少し戻って来た。
「………そう。」
 
「どうして、どうしてあんな事……言ったの?」
また……胸の奥から込み上げて来る。
わたしの口が勝手に喋りだす、誤作動。
「わたし……だって、彼に、彼にもっと構ってもらいたかった。彼は…二人でいる時しか……わたしに構って…くれない。………くやしい、悲しい。」
涼宮ハルヒと朝比奈みくるが顔を見合わせている。
……わたしも、わたしの中にこんなに熱い《感情》があるなんて、思わなかった。
「……わたしは、彼と仲良くなっているあなた達が…羨ましかった。あんな言葉を言ったのは…たぶん、あなた達に対する嫉妬。わかっているのに何も出来ない自分への……苛立ち。」
そう、わたしは自分自身に対しての苛立ちを彼にぶつけてしまった。
到底、許されることではない事をした。
「そっか……。ねぇ、有希。あたしね、有希の気持ちすっごく分かるわ。あたしも、あいつがみくるちゃんと仲良くしてるとムカついちゃうの。」
朝比奈みくるは部屋の隅で居辛そうに、小さくなってしまったようだ。
 
「でもね、有希の仲直りの手伝いは出来ないわ。」
「………何故?」
「あたしもね、もっと構ってもらいたいもん。それこそ、あたしだけを見て欲しいくらい。」
「…………。」
「でもね、やっぱり思うだけじゃダメみたい。ちゃんと、素直に本当の気持ちを伝えないと……伝わらないの。」
まだ、涼宮ハルヒは言葉を繋ぐ。
「あたしって、こんな性格だから…あいつの前じゃ本音が言えない。有希も、本音を伝えなきゃわかってもらえないわ。」
「…………そう。」
「だから、自分の口で謝って、説明して構ってもらいなさい?……あたしに出来るのは、ここまで。ここから先は……ライバルだから。」
涼宮ハルヒがわたしの体を起こす。
わたしは途端に息苦しくなり、胸が痛んだ。
そして、また、思考を経由せずに言葉が出た。
「……お願い、落ち着くまで……抱いてて。」
「…しょうがないわね、今日だけだから……ね?」
 
わたしは、彼女に抱かれたまま、様々なことを考え、結論を出した。
まず、彼に会おう。
会って、謝って………ほんとの気持ちを、《わたしにもっと構って》と言おう。
帰宅時間。
わたしは、涼宮ハルヒと朝比奈みくるに支えてもらい、帰宅した。
 
彼に……電話してみよう。
わたしは、電話を手に取り、1つ1つ、丁寧にボタンを押した。
わたしの感情の高鳴りを、思い出しながら……
 
終わり

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最終更新:2020年03月15日 18:30