「長門、湯加減はどうだ?」
「いい」
「そうか」
湯加減といえば風呂である。しかし風呂といえば長門なんてこたない。
別に今俺はやましいつもりで長門を風呂に入れているわけではない。
妹が長門といっしょに風呂に入りたいだなんていきなりわめき散らすのが悪い。
それでは恒例、つまるところの回想シーンへ………

何者かに閉じ込められて長門が倒れた事件や努力賞が似合う古泉の
推理ゲームやその他の道楽が終わり新年を新たに向かえ、今のところ大きな
懸案事項がひとつだけ残っているという状態で新学期は始まった。

ハルヒはというと、これまた何やら訳の分からん個人活動に専念しているらしい。
そろそろ生徒会のお役所御免になる事態が起きそうだ。起きなければいいのだが…

いつもの効果音で今日の活動も終了。至っていつも通りである。大変喜ばしい。
ただひとつ、帰り際の長門のセリフでこの時点から今日いつもと違う日となった。
長門が、本という間接的手段を用いずに
「あなたの家の猫の様子を確認したい。できればこれからあなたの家に行きたい」
なんて言い出すんだからな。まあ夏休み末のイベントのときSOS団のメンツはうちの
おふくろの知るところとなったし、妹は元から知っている。問題ないだろうさ。

俺は重大な誤算をしていた。いや元から算段など無しで長門を家に連れてきてしまった。
うちのおふくろが長門の食いっぷりに見惚れていたことをすっかり忘れていた。

とまあつまり、あれだ。三毛猫にだけしか用事はなかった長門だが、結局のところ
俺の家でさんざん妹に遊ばされ夕飯にまで付き合わされ…今に至る。

「キョンく~ん、覗いちゃダメにょろよ?」
お前はいつから鶴屋さん2号になったんだ。人の口調を真似るのはよしなさい。
「てへっ」
反省の色全く無しの返事が返ってくる。長門は終始無言。まさか沈んでるわけないよな。

とりあえず長門は着替えなんてもって着ている筈もなく、まああの身体なら
余計なもので服が汚れるだのなんてのはないだろうけれどもそれだと外見的にまずい。
とにかく昔履いていた半ズボンやTシャツで綺麗なものを探さなければ。

そうこうしている内に妹はタオル1枚でゆでタコになって戻ってきた。風引くからさっさと
パジャマを着ろ。長門はまだ湯船のようだ。パンツは無いけど仕方ない我慢してもらおう。

「これを置いておくから着てみてくれ。サイズが合わなかったら取り替える」
「大丈夫」

頼むからTシャツに合わせて体つきを変えるなんて奇妙なことは止めてくれよ。
うちの家族には冗談はあまり通用しないたちなんだ。

長門が風呂から上がってきた。お前妙に顔赤くないか?
「入浴による熱の発散が上手く機能していない。必要時間以上湯に使っていたせいだと
考えられる」
あーそれは、俺のせいか。すまん。
「別に…いい」
かすかに火照った長門の顔を拝見しつつ、このまま変な事態にならないようにするためにも
俺は理性をフル動員で着替えをもった長門を連れて家に帰ろうとする。

「待ってぇー!!!!」
あ、見つかった。

帰ろうとする長門の腰にしがみつき、こら半ズボンが脱げる長門は今ノーパンだぞ馬鹿!
長門も長門で少しは抵抗してくれ。等身大着せ替え人形に変わり果ててもらっちゃ困る。

すったもんだでそのまま妹の部屋に連れられていく長門。こうなったら俺はもう寝るしかない。
さっさと寝ちまって明日主にハルヒ達3人に見つからないように登校するしか俺が
生き延びる選択肢は残っていない。やれやれ、もう神様なんて信じてやらねえ。

「ぬぉわっ!?」
ななにゃにゃがと!?
「私は、長門」
いやもうそんなことは三年前だか一年前くらいにとっくに知っていることで俺が言いたいのは
そういうことじゃなくて、なんでTシャツ短パンでついでにノーパンのお前が俺にボディープレスを
しつつ頬にキスなんてとんでもなくありがたいと言うかありえないことをしてくれているんだ。
「あなたの妹が私にあなたを起こす様指示した」
妹の指示なんて無視してのんびしてくれていても良かっただろうに。
「嫌?」
耳元でそんなおねだりみたいなセリフを言わないでくれ俺がおかしくなっちまいそうだ。
大体どこでそんな高等技術を習得してきたんだ、長門よ。しかも頬が赤らんで…
「昨日の入浴からの余熱が排熱されない。由々しき事態」
そんなこと言われてもお前の火照った顔のせいで思考回路がフリーズ中だ。
「緊急処置を取る」
どうやってさ。なんでもいいから早くしてくれ…。
「了解した。唾液に異常のある熱のデータを添付。あなたに送る」
なんだか分からんが唾液って言わなかったか?
「言った。すこし我慢して」










      目をつぶった長門の顔が鮮明にクローズアップってうわ…







長門の熱された唇が俺の唇に当たり長門の唾液が俺の口に1滴だけ滴り落ちた。
その瞬間、瞬く間に沸騰するような感覚の後俺の体温は急上昇、熱っ…。

暫くのぼせていた俺だったが、気づいた頃にはいつも通りの制服姿で俺の枕元で座っている
長門が俺のおでこに手を当てていた。ひんやりしていてなかなか気持ちがいい。
「あなたの母親と妹にはあなたが突発的な熱を出したと伝える」
そうしてくれ。それにしてもこんな熱を持った状態でお前は一晩も耐えたのか。すごいな。

「原因は不明。なんらかの問題によって私の体温調節機構に不順が生じた」
そうか。しかしこのまま暫くこうしていて欲しいなんて甘えたことを口にするつもりは無い。
「そろそろ学校へ行かないといけないんじゃないのか?このままだとまずいことに成る気がする」
「分かった。私は放課後まで通常通り授業に参加していたことにする」
うんそれじゃぁまた…なぁ?授業に参加していたことにするって長門お前。
「SOS団の活動には確実に出席する。それまでは私に看病させて欲しい」
お前熱じゃあるんじゃないか?なんてボケをかましたら失望されるだろう。俺は、
「分かった。任せる」
それだけ言って目を閉じた。

扉の入り口で黄色い声と白色の声が話し合っている。
俺が熱を出して学校を休みその看病を長門がするということを伝えているのだろう。

暫くしてまた額に冷ややかで柔らかい感触が降り立った。
「熱がいつ下がるかはあなたの体力によって変わる。今日中に治ると断言出来ない」
無言で頷いておく。しばらくして緩やかな眠気に誘われ俺は睡眠をとることにした。

長門が妹となにやら話をしている。訂正、妹が一方的に喋っている。
そういえば長門の顔、特に普段とかわりない気が…
「キョンくんはねー」
「かぜで寝こんだことが無いからかんびょーされたことが無いんだよー」
「分かった」
「それとねー」
「明日は有希ちゃんがキョンくんを起こしてあげてー」
そんなことをいいつつ妹は長門の方にボディプレスの要領で飛び込んだ。
「キョンくんなかなか起きないからこうするといいんだよー」
何勝手なことを抜かしやがる。長門に起こされるなら普通に起きれるさ。
「分かった」
さっきから分かったしか言ってないじゃないか…こんな感じで今朝のことは吹き込まれたのだろうか
「それでねー有希ちゃん」
「何?」
「有希ちゃんは…









起きなさああああああああああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁい!!!!!!!!!!!








ビクンと身体が反応しそのまま目の前のハルヒ?に頭突きした後ベッドの角に後頭部を打ちつけ
悶える俺。足のほうでうめき声がする。
「やれやれですね」
古泉の声。
「あ、あの、あの…ふ、二人とも大丈夫ですかぁ?」
朝比奈さんの声。
「大ぃっ丈夫じゃないわよバカキョン!!!!」
耳に響く耳に響くこのアホが…。
「全くだらしないわね。熱なんかで学校はおろかSOS団までも休むなんて」
お前の思考回路の学校とSOS団の順位を正せ。
「おやおや、ここまで涼宮さんと張り合えるならすぐに元気になりますね」
解説ならもうちっと医者っぽいセリフを頼みたいところだね
「残念ながら私には医療の知識も経験も無いのでそんな勝手なことは出来ませんね」
夏の合宿での演技はどこへ行った。
「私が出来るのはせいぜい演技までですよ」
うるさい黙れ近づくな耳元で息を吹きかけるな

そんなこんなで団員達は帰っていった。ハルヒの奴が
「仕方がないわ。私は団長だから団員の看」
「すまんが今日は一人で養生させてくれ」
古泉が携帯を手に取り頭を掻きお先に失礼しますと言って帰っていった。
すまんが古泉、今回は許してくれ。あとで裏庭のコーヒーでも奢るから。
「もういいわ、そんなに言うなら一人でなんとかしなさいよ!これで明日学校に来ないなんて言うんじゃ
絶対に許さないからね!それと、今週末は喫茶店でキョンの奢りだから。良いわね!さあ帰りましょ!
有希!みくるちゃん!」
長門は無表情で、朝比奈さんは肩を震わせながら
「お大事にしてくださいね」
なんてマザーテレサのような一言を残して去っていった

そして夜も更けてきた。そろそろ寝るのに丁度いい頃合だが俺は待たなければいけない。
誰かって?決まってるだろ。

コンコンと俺の部屋のドアをいちいちノックして来るような人さ。
「どうぞ」
ドアが開く

「すべての責任はわたしにある」
それ前にもどっかで聞いたな。古泉よろしくの私立病院だったか。
「私は私の不明な行動パターンの選択に抗えなかった」

正夢ってのはときどきあるらしい。

「私には問題は無かった。あなたを一時的な高熱状態にしたのは私の独断専行」
それくらいなら俺は文句は言わんよ。一度やってみたかったんだろう?看病ってヤツを。

「あなたから高熱の元とされる情報を取り除かないといけない」
分かったが、それは具体的にどういうことをするんだ。
「情報を送ったときと全く逆のことをすればいい」
まさか今度は俺が長門に?
「そう」

その後のことは察して欲しい。とにかく熱は収まった。
そして裏道から二人で登校する俺と長門。別々に登校しようという俺の提案は長門に
よって脆くも崩れ去った。だが悪い気はしないね。丁度肩の辺りに頭を添えて俺の
左腕を右手でロックしているこいつとなら。SOS団に通じるメンツに見られてなきゃいいがな。

それでまあ、結局見つかるのがSOS団の方程式らしい。
この後俺はハルヒによって無理難題を押し付けられる羽目と成るのはまた別の話である。

そして最後に、妹を近いうちに賞賛してやらねばならんね。


Fine

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