やりすぎた嘘
ギーコギーコ俺とハルヒが授業中に痴態を繰り広げたのはもう一ヶ月も前の話になる。そして今日は土曜日、つまりは不思議探索の日なんだが今日は勝手が違う。シャカシャカいわゆるデートというやつだ。非常に楽しみなのは言うまでもない。シャーーーッ……言うまでもないんだが、遅刻をしてしまうのは何故だろうね。キキーーーッ駅前に着いた俺が見たのはアヒル口の団長様だった。それとさっきまでのは自転車の音なのであしからず。「キョン、遅刻ー」「すまん、なんというか……」「いいから、早く喫茶店行きましょ」スタコラサッサッみんなは気付いただろうか、いや気付いたに違いない。あのハルヒが遅刻したにも関わらず怒らないのだ。そりゃちょっとブーたれることもある、だが俺とハルヒが男女の付き合いを始めてからこいつが怒ることはほとんどなくなったと言ってもいい。最初は俺も気分が良かったんだが最近では調子が狂ってしょうがない、なーんてこと考えている俺は相当重傷なのだろうね。さて、ハルヒの背中を見ていた俺が悪戯心を働かせてしまうのは規定事項なのだろうか。俺はあの筆談騒動のときに散々懲りていたはずなんだが再びハルヒをからかってやろうと思ってしまった。本当に馬鹿だね俺も。「なあ、ハルヒ」「なーに?」「別れたい、って言ったらどうする」「え………!?」この前のパターンからすると泣き出すだろうな。ほら、泣きそうな顔してる。ちょっと名残惜しいが今回は早めにネタバらししとくか。「嘘d―――」「キョンが……別れたいって言うなら……わかっ………た…………」……………………へ!?お、おおoおooおおotitsukeore。aitsuimana………ふぅ、焦りすぎていたようだ。よし、とにかく落ち着け俺。今の状況を整理するんだ。 ハルヒに嘘付く⇒俺とハルヒ別れる Noーーーーーーー!!!!これはマズい、マズすぎる。とにかく嘘と言うことを早く伝えないと。「いやハルヒ、これは嘘だ。嘘だかr――」「………ねぇキョン、あたしが何でこんなに変わったか解る?」いきなり何を言い出してんだこいつは、俺の話聞いてんのか。「何言ってんだ」「あんたが最初に嘘付いたときあたしは本当に怖かった、あんたに嫌われたんじゃないかと思って。だからあんたに嫌われたくないから怒るのも止めるようにしてたの。…………あのときの嘘はまだ良かったわ、だってあれのおかげで付き合い始めたんだもの。でもね…………今回の嘘はないでしょう……」 ハルヒの大きな目から涙が次々と零れ落ちてきた。俺はハルヒを抱きしめようとした、が。「触らないで!!」バシッ「そうやって抱きしめてやれば何でも許されるって思わないで!!あんた最低よ!!」ハルヒは泣きながら去っていった。周りからの視線が痛い、しかし暫くすると周りが見えなくなってきた。――――ああ、俺も泣いてんのか。俺は震える携帯を感じながらその場に立ちすくんでいた。
逃げるようにその場を立ち去り、俺は行く宛もなくフラフラとしている。未だに携帯は震えているが出る気にはなれなかった。古泉すまんな、もう世界は終わっちまうかもしれん。悪いのは全部俺だ、ハルヒは決して責めないでくれ。俺はどうするかな、正直もう逃げ出しちまいたいよ。気付くと俺は駅前からは遙かに離れた少し大きめの国立公園に入っていた。土曜の昼前ということもあり親子が多い。そんな中に目の腫れた男がいるなんて周りからすれば非常に異様な光景に見えるだろう。ズンッそのとき、俺は何かが頭にぶつかるのを感じた。周りの喧騒が遠くなっていく……………………。ムクッん……、俺、眠ってたのか?うおっ、もうすっかり夜じゃねえか。冷えるな……しかしここはどこだ、少なくともこんな場所俺は見たことない。とりあえず家に電話しないと…………………あれ、俺の、家?俺の、家ってどこだ? というか――――――――――俺は誰だ?やべえ、目眩がしてきた………。と、とにかく家に電話してみよう。携帯に登録はしているはずだ。よし、あった。プルルルプルルル…以下エンドレス留守、みたいだな……。何てタイミングの悪い家族なんだろうか。しかしこれで手掛かりはなくしちまった。登録してあるのは友人かもしれんがこんな状態で無闇に電話は掛けれんからな。……………くそっ、こんなバカなことがあるわけねえんだ………………じゃあここはどこだ?俺の家はどこだ?俺は誰なんだ?畜生、誰か答えててくれよ!!泣きそうになってきた、これからどうしようか………。「キョン?」ん、キョン?ああ、あの鹿みたいなやつか。こんな街中にもいるんだな。興味はないけど。「キョン、無視するのかな?」うわっあの人動物に話しかけて無視されてんのか。少し残念な人だな、顔立ちはいいのにもったいない。「……キョン?」……何で俺をずっと見てるんだあの人、俺の後ろにキョンがいるのか?バッ………いないじゃないか。「どうしたんだ、本当に大丈夫かい?」え、この人俺に話しかけてんのか?俺にこんな美人の知り合いがいたとは信じられんが……。「あの、どちら様ですか………?」「キョン、いくら久し振りに会ったからといっても忘却するのはいかがなものかな。僕は些かショックを隠しきれないよ」「あ、いやすまん。そうじゃないんだ。お前は俺の知り合いでいいんだよな?」「キョン?」 その後、俺はこの女に今の状況を話した。ちなみにこの女は佐々木というらしい。「――なるほど、それは少々厄介なことになっているね」「ああ、そうなんだ。佐々木は俺の家知ってるか?」「それは当然知っているが…………ふむ」何やら佐々木は考えこんじまった。というか当然知ってるってどういうこった、佐々木さんよ?「なあ、佐々k――」「キョン、今日は僕の家に止まりたまえ」「………は?」世界が停止する。あくまでも主観的にだけど。「君の家からここまで遠い。仮に今から君が僕から家の場所を聞いて帰ろうとするとしよう。この場合、君はその道中で道に迷ってしまう可能性がないとは言い切れない。もう一つ、僕が一緒に帰ってあげるという選択肢もあるが、君を家まで送っていたら僕が自宅に帰るときには日を跨いでしまうだろう。これは僕としては何としても避けたいからね」 「あー、理由は解ったがいいのか?」「何を今更、君と僕の仲じゃないか」………それはどういう意味なんですかね。本当に俺と佐々木の関係が疑われる。もしかして"禁則事項"な関係なのか。「さ、キョン早く行こう。僕の両親にも挨拶をしないといけないからね」グイグイッそんなに引っ張るなよ。両親に挨拶…………娘を下さいってやつじゃねえだろうな。しかしなんだろうか、こいつといると楽しくなる、さっきまでの憂鬱な気分が一気に吹き飛んじまった。 だが俺にはまだ聞きたいことが残っている。「キョンって俺のこと?」「何を言っている、当たり前じゃないか」はい、また憂鬱になった。 現在佐々木にぐいぐい引っ張られ、俺は佐々木宅に向かっている。…………何だ、この既視感は?前にもこうやって引っ張られたことがあるような………。そう、黄色いカチューシャの――――。「なあ、佐々木」「何かな?」「お前、黄色いカチューシャとか付けてなかったか?」ピタッ佐々木が急に立ち止まり、俺の方を見ないまま喋り始めた。「………どうかな、もしかすると昔付けていたかもしれないね」「やっぱりそうか。前にもこんなことあったような気がしてな。今は付けないのか?」「そうだね、今度またやってみるとしよう……………ねえ、キョン」そう言って、やっと振り向いた佐々木の顔は酷く哀しいものになっていた。「……ゴメンね」「??何を言っt――」俺はそれ以上喋ることは出来なかった。理由は簡単、俺の口が何か柔らかいもので防がれたからだ。それが佐々木の唇であるのは語らずとも解るであろう。 ズンッ俺の頭に再び圧力が襲いかかる。「ぐっ…………!!」もやもやとした頭の中で次々と映像が流れていく。これは……………、俺の記憶なのか?そうだ、これは俺の――。「あ……………」「………キョン、思い出した?」ああ、全て思い出した。俺のこと、家族のこと、学校のこと、団のこと、そして……………。どうして俺はこんな大事なことを忘れちまってたんだ、全く自分が恨めしいぜ。「佐々木、ありがとうな。お前のおかげで思い出せたよ。しっかし俺も馬鹿だな、恋人の―――――――――――お前まで忘れちまうなんて」俺の言葉に対して、佐々木は嬉しそうに、そして哀しそうに答えた。うん、意味が解らないのは理解してる。だが佐々木を見ていたらそう感じずにはいられなかった。「…………別に構わないさ。今は思い出してくれたんだろう?」「ああ、もう大丈夫だ。二度と忘れないことを誓うよ」だから佐々木、そんな顔すんな。せっかくの美人が台無しじゃねえか。まだ何かあんのか?「え、ああ、ちょっと悩み事があってね」悩み事?恋人の俺にも言えないことなのか?こういう時は…………………あれをやってみるか。「佐々木」「うん?………あ…………」チュッ「キョ、キョン?!君は一体何を!?」ジタバタ自分からもしてきたくせに何をのたまってんのかねこいつは。「さっきのお返しだ。……………それにさ、悩み事があるんなら俺に言えよ。俺はそのためにお前のそばにいるんだ。ってまた泣きそうな顔しやがって、あの時もお前は――」あれ、あの時?あの時っていつの話だ?俺は何を言っているんだ?ほら見ろ、佐々木も心配そうな顔してこっちを見ているじゃねえか。「キョン……」「あ、ああ大丈夫だ。それよりお前の家に行こう。泊めてくれるんだろ?」「………そうだね、早く行こうか」 先程から、佐々木は俺の一歩前を歩いている。普通はこういう時は横に並ぶもんだろうに。もしかして、こいつ恥ずかしがってんのか?今更そんなこと気にしなくてもいいと思うけどな。……よし、こういう時は男から行動してやらなくちゃな。 ギュッ 「!!」おー、驚いてる驚いてる。というか顔赤いな、熱でもあるんじゃねえのか。俺はそんな佐々木の額に自分の額を持っていく。風邪を引いてたら大変だからな。……ちょっと言い訳っぽくなったが、行くか。ピトリふむ、熱は無いようだ……………ってさっきより赤いじゃねえか。本当に大丈夫なのかこいつ。「君が急に変なことをするからだ!!」あ、さいですか。そのとき携帯が震えた。俺はポケットから携帯を取り出し相手を確認する。 着信 涼宮ハルヒ はて、涼宮とな。誰だこいつ?うーむ。「おい、佐々木。お前涼宮って知ってるか?」「………知ら、ない」「そうか、一応出た方がいいかな?」「止めて!!」なっ!?いきなりどうしたんだ佐々木の奴。解った出ないよ、出ない。だからそんな顔するな。暫くすると電話は止まった。しかし、まだ気になることがあるんだよな。「佐々木、じゃあこの古泉一樹って奴はどうだ?かなり着信が来てるんだが俺はこんな奴見覚えないんだ」「……………」ブンブン 「そっか、まあ今はいいか……。それより佐々木、明日はどうする。佐々木団の活動はやるつもりなのか?」「……特に活動する予定はないね」「そうか、じゃあ明日どこか遊びにでも行くか。最近デートなんて行ってないしな」俺の提案に佐々木は一度躊躇うような顔をした後、吹っ切れたように笑って返事をしてくれた。「……うん、行こう。デートコースはキョンに任せる。もちろん生半可なものでは僕は満足しないからね」おい、いきなり態度が変わりすぎだぞ。やれやれ、明日は忙しくなりそうだ。なあ、お姫さm――ズキッ痛っ………くそ、何なんだよこの違和感は。 気を取り直して次の日のことを2人で話していると、いつの間にやら佐々木宅の門前にまで辿り着いてしまった。しかしまあ、相変わらず立派なお宅である。正に純和風の日本家屋といったとこだ。平均的な一般家庭の住居、まあこの場合俺の家と比較したら大きさの違いが一目瞭然であるのは間違いない。 「ほらキョン、いつまで呆けている気だい。早く入りたまえ」「ん、ああ」ガラガラまた家の中はなんと綺麗なことか。高そうな壺とか置いちゃってるし。「お邪魔します」「そんなに畏まらなくてもいいよ、キョン」「俺にも礼儀をわきまえるくらいの分別はある。お前の家なら尚更だ」「君がそんなに礼儀に重きを置いているとは思わなかったよ。それに中々どうして僕を喜ばせることを言ってくれるじゃないか」相変わらず堅苦しい喋り方をするな。付き合いだしたら少しは変わるもんじゃないかと期待したんだがね。せめて僕から私にクラスチェンジをしてくれてもいいだろうに。「じゃあキョン、先に僕の部屋に行って待っててくれないかな。僕は両親に説明をしなくてはならないからね」そういやこいつ、さっきは御両親に挨拶させる気満々だったな。俺としては別に構わないけど。………さすがに気が早すぎるかな。いや、だがこういうのは早い方が………………。ブツブツ頭をぐるぐると働かせつつ佐々木の部屋に入る。佐々木の部屋はシンプルで、ぱっと見、男の部屋と間違えてもおかしくない。しかし鼻腔に感じる香りがここを女の子の部屋だということを否応なしに意識させる。……………とりあえず、俺も親に連絡しとくか。さっきは留守だったけれど今は居るかもしれんからな。プルルルプルルルプル……『もしもしー。どちらさまですかあー?』うっ、こいつはいつもこうやって電話に出ているのか。正に恥曝しだ。「あー、俺だ俺」『キョンくん?』「ああそうだ、キョンくんだ。とにかくお前は今すぐ代われ、全力で代われ」『えーん。お母さん、キョンくんが非道いよー』………こいつの精神年齢を測ってみたい。間違いなく小学校低学年だろう。異論は受け付けない。『あんた何やってるの!?こんな夜遅くまで連絡しないで!!』おお、マイマザー。いきなりの怒声はきついんですがね。「連絡しなかったのは悪かったよ。とりあえず友達の家に泊まることになったから」『友達って…………あ、またハルヒちゃんのところでしょ。あれ、でもそういえばハルヒちゃんからはさっき電話がきてたから違うわね』「……ハル、ヒ?違う佐々木だよ、佐々木。とにかく明日には帰るから」ブツッ ハルヒ……………あの涼宮ってやつのことだよな?やはり俺が忘れてるだけで知り合いなのか。ズキッ思い出そうとすると頭が痛くなる。これは何を意味するんだ?俺にとって涼宮とは何なんだ?しかもどうしたことか俺は涼宮の家に泊まったことがあるらしい。佐々木にバレたら………………考えたくもねえ。
そのとき少々顔を赤くした佐々木が苦笑い混じりで部屋に入ってきた。涼宮のことについてはまだ話さないでおいたほうがいいだろう。「………えーっとね、キョン」「どうした?」「実は今日、僕の両親は仕事の都合上帰宅することが出来ないそうなんだ」……えーっと佐々木さん、それはつまり………「つまり………明日の朝まで2人っきりだ」 ……………………もう無理だ、俺の中の男の欲望が抑えきれん。そりゃそうだろう、こんな密室に美人の彼女と2人きり、しかも親はいないときたもんだ。正常な男ならば耐えれる方がおかしいような状況下。俺は僅かに残っている理性を確かめながらも佐々木の華奢な体を抱きしめた。「佐々木………」ギュッ「キョン……」「…………いい、よな?」「うん………来て」その言葉を聞いて俺の最後の理性はあっけなく崩壊した。もう今の俺には欲望しか残っていない。俺は抱きしめていた腕を一旦離しそのまま佐々木を押し倒した。止まらない俺は、佐々木の綺麗な首筋に顔を埋め――ガンッ「ぐ、あっ………!!」今までの比じゃない、今度こそ頭が割れる――。 ……おい佐々木、言っただろ。そんな顔するなって。その想いを口にすることはなく、俺は意識を失った。 ――――闇に包まれた世界、俺はそいつだけを手掛かりにしていた。決してこちらを振り向こうとしない黄色いカチューシャの女。俺はそれが誰かは解っていない。しかしその後ろ姿を見つけたとき、追いかけずにはいられなかった。あれは俺が追い求めている女なのか?だったらその名前を呼んでやればいい。「――佐々木」俺の足元は崩れ落ちた。カチューシャの女は俺に気にすることなく歩みを進め続けている。――嫌だ!離れたくない!佐々木――――― シャリシャリ俺の耳に涼しい音が届いた。その音に比例するように意識が覚醒していく。目も開けず、取り戻しつつある意識の中俺は思う。 ――嫌な夢を見た。 内容はあやふやで、はっきりと覚えているかと訊かれれば迷わず"いいえ"と答えるだろう。しかし佐々木に関する、それでいて嫌な夢だったという外形だけは俺の頭からこびりついて離れない。 戦々恐々とする思いを交え、俺はすっかり重くなってしまった目蓋を開く。 ………眩しい。闇に慣れていた俺の目には蛍光灯の光すら簡単には受け付けなくなっていた。ぼやけた目のまま天井を見上げる。天井は白一色。ここは、病院か?俺はどうなったんだ?佐々木の家に行って、佐々木の部屋に入って、佐々木と2人きりになって、それから佐々木と―――「おや、お目覚めのようですね」初めて聞くはずの声は俺を酷く安心させた。未だに完全には開けていない目で声の主を見やる。顔はぼやけているため解らないが、北高の制服を着ていることだけは確認できた。「今回も大変でしたよ。前回ほどではありませんが、まあ通常の4、5倍といったところでしょうか。ああ、宜しければリンゴをどうぞ」柔らかな口調でそいつは言葉を続けている。………こいつは何を言っているんだ。それより佐々木は、佐々木はどこにいる。辺りを見回す俺の行動が滑稽だったのか、そいつはクスリと笑う。「彼女でしたら、そちらに」そいつが示した先にはベッドに寄りかかって眠る一人の女がいた。頭には……黄色いカチューシャ。佐々木―――これは夢とは違う。未だに定まらない視界の中でカチューシャがついている頭に手を置いた。良かった、佐々木はここにいる。暫く手を置いていると、佐々木がそんな俺の手にむずがるように頭を揺らし、顔を上げた。―――その瞬間、俺は目を疑う。既に視力の戻っていた俺の目に写る黄色カチューシャの女は…………………佐々木じゃ、ない………?
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