雄猫だった少女~永久二君之唄~ 螺子巻キ之章・其ノ弐「絶対之唯一」
昔々あるところに少女がおりました。その少女は、自分の主人を愛していました。そして主人の愛が自分にだけ向けば良いなと考えたのです。方法を思いつくのは早いもので、少女は考えました。そう考えてしまったのです・・・。 すずき ゆめこ短編集『血霧輪舞』より「猫」雄猫だった少女~永久二君之唄~ 螺子巻キ之章・其ノ弐「絶対之唯一」女の子になったシャミセンと暮らして数週間。家族の前に出す訳にも行かず、とにかく部屋で密かに飼う・・・いや、今は人間だから同居か。とにかく、そういう事をしていた。そんなワケであってもしつけは大事だ。だからとにかくシツケを第一にしていた。「ご主人様」シャミが俺を呼ぶ。「ん?」「またお出かけですか?」「あぁ」「休日なのにいつも大変ですね」「まぁ、でも、楽しんだぜ?」「私も行きたいです・・・」「駄目だって。シャミは非科学的な存在なんだから」「はぁい・・・」ショボーンと猫耳とシッポが垂れている。やれやれ、可愛すぎるな。俺はシャミにキスをすると部屋を出て行った。・・・・・・・・・・・・お出かけとはもちろんSOS団だ。休日だろうが何だろうが自己中心的な団長様に振り回されるのが団員の悲しい定めだ。「さぁ、みんな!くじ引きよ!!」「・・・ハルヒ、なんかクジが微妙に多くないか?」「よく気付いたわね!今までは必ず複数人で探索してたけど、今回から単独の可能性もアリなのよ!!」「・・・なんだそれは」「もしかしたら単独の方が見つけやすいかもしれないじゃない」「・・・・・・」こいつは真性のアホだと思ったね。で、結果。俺がその記念すべき単独探索の一人目になった。「キョン、さぼるんじゃないわよ!!」・・・やってらんねぇな。内心そう思いながら、「さぼらねぇよ」とぶっきらぼうに答えてやった。はぁ・・・。・・・・・・・・・・・・・・そんな訳で一人で街中をブラブラを歩くことにした。適当に街中を見渡すこと数分。「あ、キョンくんだ」ふと誰かに名前を呼ばれた。「ん?あぁ・・・誰かと思ったら柳本か」「今日は一人?」そう言いながら寄ってくる。何で荷台を持ってるんだ・・・。「いんや、みんな一緒だ。ただくじ引きで単独行動に決まった」「あらあら」柳本は何が面白いのかクスクスと笑っている。「じゃあ、一緒に歩かない?」「いいけど・・・時間制限があるからなるべく周辺で頼むぜ」「OKよ。私も近くに用事があるだけだから」俺達は適当な事を話しながら近くにあるデパートに入った。そして、柳本の用事―――新体操部部員用のスポーツ飲料のダンボール―――を荷台に載せて運んでいた。変わりに運んでやろうか、と提案したが別に良いよと断られた。その後も、柳本の部活に関する商品を荷台に乗せていった。「あ、俺そろそろ集合の時間だな」「そう?じゃあね」「あぁ、また学校でな」俺達はそこ別れた。そんでもって急いで集合場所へと向かったわけだが・・・。言うまでもない事であるが、既に集合場所にはハルヒ達が居た。ちなみに午後は俺単独ではなく、「どこに行きましょうか?」「買いたい茶葉があるので、デパートに行っても良いでしょうか?」「朝比奈さんが望むなら」というわけで朝比奈さんと合同になった。ふぅ・・・良かった。朝比奈さんと合同になって。<柳本視点>デパートでキョンくんとわかれて、私は真っ直ぐに家へと帰った。「はぁ・・・疲れた」部活用用品をダンボール買いした物を家まで荷台を引いて持って帰る。そんなシュールな事をして、家の自分のベッドに横になった。いくら荷台で運ぶとは言っても、やっぱり坂道はキツい。結構大変だった。これなら、親の力を借りて車を出して貰うべきだった。おかげでしばらく疲労で動けそうに無い。「ふぅ・・・」ほっと、一息を付く。家の中は、家族も居ない。だからとても静かだった。―――ズルッ。ズルッ。そんな中で不審な音がした。「・・・お母さん?お父さん?」―――ズルッ。ズルッ。この音は何だろう。解らない。解らないけど、怖い。本能がひたすら警告を慣らしている。―――ズルッ。・・・。「・・・!!」止まった。扉の前。部屋の扉の前に、それは居る。・・・体が意思と乖離したように扉へと向かう。
―――いやだ。 いやだ! いやだ!!
心で、私は叫ぶ。だけど体は止まらない。好奇心という原動力をエネルギーにして扉へと迫っていく。ちょっとずつちょっとずつ、意思の抵抗を振り払いながら扉に近づいていく。そして、ドアノブに手が届く範囲まで来た。
―――開けるな。駄目!やめて!!
「いやぁ・・・」勝手にドアノブへと好奇心に促されて手が伸びる。
―――怖い。怖い。怖い怖い怖い。―――こわいこわいこわいコワイコワイコワイ!!―――ガチャ・・・。とうとう、手がドアノブを押し下げた。そして、扉が少し開く。少しだけ見える隙間。その向こうには闇。今ならまだ間に合う。閉めよう。そして、扉を閉めようとした。「・・・あれ?」閉まらない。強く押しても閉まらない。「ど、どうして・・・」ふと扉の下の方を見やる。―――少女の足が挟まっていた。
「!!!」私は悲鳴を上げようと口を開いた。それと同時に扉が思いっきり開けられて何かが私に飛び掛ってきた。刹那。
私は首に違和感を覚えた。やがて、それは激痛に変わる。そして、理解した。首を噛まれている、と。そのすぐ後。グチャッ。瑞々しい音が静かな部屋にこだました。「あ ― ― ― ―」首から空気が抜けていく。声にならない声がスースーと音を立てる。
―――苦しい。痛い。苦しい!痛い!苦しい!!痛い!!
噛み千切られたのだと理解するのに時間はいらなかった。「ゴボッ!!」何か声を上げようにも、喉から吹き出る血沫になるだけで声にはならない。私の首を噛み千切った何かはそれだけで済ませなかった。ブチュッ。「――――――!!」目が見えない。目が痛い。目が見えない。目が痛い。生々しい音と共に両方の目が一斉に抉り取られた。そして、舌を引き千切られて、そして、耳を千切られ、そして鼻を、そして――――――。もう、何も理解する事の出来ない。そんな私の耳に届いた、多分人生で聞く最後の言葉。「ご主人様は私だけを愛してくれれば良い。他に愛を分け与える対象はいらない。私だけのご主人様」<キョン視点>「よう、シャミセン。良い子で待ってたか?」「はい」「よしよし」俺はシャミの頭を撫でる。気持ちよさそうに耳がピコピコ動いてシッポが揺れる。「お土産買ってきたぞ。安売りしていたマグロだ」「ありがとうございます!ご主人様!!」シャミはさっそくと言わんばかりに割り箸を手に、ぎこちなく食べ始めた。そりゃ、元が猫だからお箸の使い方なんて知らないもんな。「ハムハム・・・」「美味しいか?」「はい!」俺は輝かしい程の笑顔で答えるシャミセンを見て思わず微笑まずには居られなかった。ふと、その時電話が鳴った。「ちょっと待っててな」「はい」俺は一階に降りて電話に出る。「もしもし」『あの、柳本と申しますが・・・娘を見かけませんでしたか?』「柳本、ですか?今日デパートで出会いましたけど・・・」『いつですか!?』「お昼前、ぐらいに。ちょいちょい会話しながら歩きましたし・・・」『情報ありがとうございます』そこでガチャっと切れた。「・・・何なんだ?」俺は首を傾げて、二階の自室へと向かった。翌日。俺はこの電話の意味を知る。螺子巻キ之章~終焉ハ開演~「物語之螺子ハ巻キ終ワルハ物語之動キ出シ始メル事」へ続く
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