Swan Song at Dusk (前編) ◆sUD0pkyYlo
カツオは逃げていた。
ビルの合間をジグザグに駆けながら、カツオは必死で思考を巡らせる。
カツオの側が持っているカードは、3つ。
自身の名前と正体。子豚だった少年の首輪。そして、禁止エリア指定装置。
ビルの合間をジグザグに駆けながら、カツオは必死で思考を巡らせる。
カツオの側が持っているカードは、3つ。
自身の名前と正体。子豚だった少年の首輪。そして、禁止エリア指定装置。
自分が「のび太」だと誤解されている、という事実は……どう使えばいいのか見当もつかない。
交渉材料になりそうな首輪は……しかし、こう追われている状況では、問答無用で奪われかねない。
どちらも「使えそうだ」とは思っても、カツオの頭では、「どう使えばいいのか」が分からなかった。
交渉材料になりそうな首輪は……しかし、こう追われている状況では、問答無用で奪われかねない。
どちらも「使えそうだ」とは思っても、カツオの頭では、「どう使えばいいのか」が分からなかった。
このあたり、磯野カツオという少年の限界である。
もとより飛びぬけた策士というわけでもない。悪戯なら知恵も回るが、それでも結局は「悪戯」レベル。
大抵の場合、調子に乗ったところでバレて大目玉を食らう、そんな悪戯だ。
頭の回転1つで凶悪な犯罪者と戦う探偵ではない。探偵たちを出し抜く犯罪者でもない。
ましてや、今は格好は似ていても、その頭脳を活かして「新世界の神になろう」などとは考えもしない。
彼は、良くも悪くも「普通の子供」でしかないのだ。
もとより飛びぬけた策士というわけでもない。悪戯なら知恵も回るが、それでも結局は「悪戯」レベル。
大抵の場合、調子に乗ったところでバレて大目玉を食らう、そんな悪戯だ。
頭の回転1つで凶悪な犯罪者と戦う探偵ではない。探偵たちを出し抜く犯罪者でもない。
ましてや、今は格好は似ていても、その頭脳を活かして「新世界の神になろう」などとは考えもしない。
彼は、良くも悪くも「普通の子供」でしかないのだ。
それでも、カツオは必死に考える。走りながらも、最後に残った選択肢・「禁止エリア指定装置」を取り出す。
カツオを追ってくる少年は1人。確かキルアとか呼ばれていただろうか? 鋭い目をした銀髪の少年だ。
もう1人仲間がいたはずだが、その姿は見えない。状況から見て、あのタワーに居ると思っていいだろう。
となれば……!
カツオを追ってくる少年は1人。確かキルアとか呼ばれていただろうか? 鋭い目をした銀髪の少年だ。
もう1人仲間がいたはずだが、その姿は見えない。状況から見て、あのタワーに居ると思っていいだろう。
となれば……!
(『B-7』、セット、っと……。あとは決定ボタンを押すだけ……!)
この装置のことを上手く伝えれば、相手を脅すこともできるはず。
装置を素早く弄り、指定座標をタワーのある『B-7』に設定し、決定ボタンに指をかけた所で――
装置を素早く弄り、指定座標をタワーのある『B-7』に設定し、決定ボタンに指をかけた所で――
追跡者の方を振り返ったカツオは、見た。
銀髪の少年キルアが、地面を蹴って跳躍する姿を。
その高さは、とても人間のジャンプとは思えない。ビル数階分にも及ぶその高さに、唖然として足を止める。
そして、その一瞬の躊躇こそが、彼の運命を決めてしまった。
銀髪の少年キルアが、地面を蹴って跳躍する姿を。
その高さは、とても人間のジャンプとは思えない。ビル数階分にも及ぶその高さに、唖然として足を止める。
そして、その一瞬の躊躇こそが、彼の運命を決めてしまった。
「えっ――」
「――『鳴神(ナルカミ)』」
「――『鳴神(ナルカミ)』」
まさに、晴天の霹靂。
轟音が鳴り響くのと、カツオの身体を衝撃が駆け抜けたのは、ほぼ同時。
自分の身に何が起こったのか理解する間もなく、肉の焼ける臭いに包まれながら、彼の意識は暗転した。
轟音が鳴り響くのと、カツオの身体を衝撃が駆け抜けたのは、ほぼ同時。
自分の身に何が起こったのか理解する間もなく、肉の焼ける臭いに包まれながら、彼の意識は暗転した。
* * *
キルアは――カツオを追いながら、タイミングを狙っていたのだった。
太一を呼びつけるには、距離があった。彼を待っていたのでは、「のび太」に逃げられる危険があった。
だから、1人でも追うことを選んだ。早めに取り押さえる必要があった。
だから、1人でも追うことを選んだ。早めに取り押さえる必要があった。
ただ、カツオを逃がすまいと考えながらも、キルアの意識はもう1つの問題を忘れることはなかった。
N(エヌ)。タワーの展望室に陣取る、タワーの主。
彼の存在を忘れるわけにはいかない。
N(エヌ)。タワーの展望室に陣取る、タワーの主。
彼の存在を忘れるわけにはいかない。
(まだ、こっちの手の内は晒したくないな……特に、太一にも見せてないオレの『能力』は)
キルアは、まだNのことを信用しきっていない。
当面は敵対することは無いだろう、とも思ったが、用心しておくに越したことはない。
だから彼は、『念能力』の存在をまだ伏せておきたかった。
オーラを電気に変える彼特有の能力についても。超人的な肉体能力を与えてくれる、『念』の基本技術も。
これらは伏せておけばNに対するアドバンテージになる。
あくまで常人レベルのスピードで「のび太」を追いながら、キルアは機会を伺う。
当面は敵対することは無いだろう、とも思ったが、用心しておくに越したことはない。
だから彼は、『念能力』の存在をまだ伏せておきたかった。
オーラを電気に変える彼特有の能力についても。超人的な肉体能力を与えてくれる、『念』の基本技術も。
これらは伏せておけばNに対するアドバンテージになる。
あくまで常人レベルのスピードで「のび太」を追いながら、キルアは機会を伺う。
(このままビルの谷間を逃げてくれれば……よし、ここだ!)
彼が待っていて、そして「のび太」が知らずに踏み込んだのは、タワーの展望室から死角になる位置。
ビル群が上からの視線を遮ってくれる場所。
キルアは素早く『念』を練る。素早く足にオーラを集中させて脚力を『強化』。跳躍。
空中で『電気』に変換された『念』を手に溜めて、そして。
ビル群が上からの視線を遮ってくれる場所。
キルアは素早く『念』を練る。素早く足にオーラを集中させて脚力を『強化』。跳躍。
空中で『電気』に変換された『念』を手に溜めて、そして。
(間合いは――ギリギリか?
『念』の調子もおかしい……ジェダの言ってた制限か……念には念を入れて……!)
「えっ――」
「――『鳴神(ナルカミ)』!」
『念』の調子もおかしい……ジェダの言ってた制限か……念には念を入れて……!)
「えっ――」
「――『鳴神(ナルカミ)』!」
青空の下、雷が落ちた。
* * *
――白い砂浜を、1人で歩いていた。
明るい砂浜。静かな砂浜。あまりに光に満ち溢れて、あまりに眩し過ぎて、周囲はよく見えない。
カツオの刻んだ足跡が、波に洗われては消える。
ここはどこだろう。周囲を見回す。
遠くに、大勢の人が居る。その多くが、自分と同じくらいの体格の、少年少女たち。
あの大広間で見かけた人々のうちの、何人か。どうやら、彼の到着を待っている様子だった。
みんな、微笑んでいた。みんな、笑っていた。
(……ああ、そういうことか)
憑き物が落ちたように、不安も何もかも消えうせて。カツオは彼らの方に向かって駆け出した。
越えたら戻れないであろう、目に見えない一線を踏み越えながら、カツオは笑顔で天を見上げる。
どこまでも続く、光り輝く白い砂浜。延々と広がる青い海。頭上に広がるのは、抜けるような青空。
こんな日なら、海に還るのも悪くない。そう思える。
みんなが、笑ってる。お日様も、笑ってる。
今日も、いい天気――
* * *
「……っと、音がでか過ぎたかな。Nにも聞こえたか」
信号機よりも高い位置から、難なく着地を決めたキルアは、軽い調子で呟いた。
『鳴神(ナルカミ)』。それはキルアの持ち技の1つ。電気の『念』を、敵の頭上から叩き付ける技だ。
多少の距離があっても敵を捕らえることができる、という長所を持つが、欠点も無いわけではない。
オーラの性質を変える『変化系』能力者であるキルアは、遠距離攻撃である『放出系』を苦手としている。
その弱点を補うために、高い所から低い所に落ちる、という雷の特性を模倣している。
つまり、放つためには敵の頭上を取る必要があるのだ。
おまけに、どうも『念能力』そのものの調子が悪い。ジェダの制限のせいであるらしい。
そのため、ちょっと強めに技を放ってみたのだが……。
無人のビル街の中、思っていた以上に大きかった音が、反響してしまっていた。閃光も見えたかもしれない。
これならもっと距離を詰めて、スタンガン的な接触技『雷掌(イズツシ)』を使っておくべきだったか?
そんなことを考えながら、ゆっくり「のび太」に近づいたキルアは、そして。
多少の距離があっても敵を捕らえることができる、という長所を持つが、欠点も無いわけではない。
オーラの性質を変える『変化系』能力者であるキルアは、遠距離攻撃である『放出系』を苦手としている。
その弱点を補うために、高い所から低い所に落ちる、という雷の特性を模倣している。
つまり、放つためには敵の頭上を取る必要があるのだ。
おまけに、どうも『念能力』そのものの調子が悪い。ジェダの制限のせいであるらしい。
そのため、ちょっと強めに技を放ってみたのだが……。
無人のビル街の中、思っていた以上に大きかった音が、反響してしまっていた。閃光も見えたかもしれない。
これならもっと距離を詰めて、スタンガン的な接触技『雷掌(イズツシ)』を使っておくべきだったか?
そんなことを考えながら、ゆっくり「のび太」に近づいたキルアは、そして。
「さて、色々と話を聞かせてもらうぜ。おい、聞いてるのか――!?」
倒れて動かない相手に、それでも反撃を恐れて慎重に近づいた彼は、急に何かに気づいてハッとする。
恐る恐る、相手の頭をつま先で蹴る。
恐る恐る、相手の頭をつま先で蹴る。
ゴロン、と、力を失った首が、蹴られるままに転がって。
白目を剥いた少年の顔。開かれっぱなしの口から、一筋の煙が上がる。
――死んでいた。
白目を剥いた少年の顔。開かれっぱなしの口から、一筋の煙が上がる。
――死んでいた。
焦りのせいか、Nの視線を意識していたからか、それともジェダの能力制限に動揺したせいか。
あるいは、所詮は「ただの子供」に過ぎなかった、カツオのタフネス不足のせいか。
キルアは彼らしくもなく、『鳴神(ナルカミ)』の威力調整を間違えて――
あまりのことに呆然とする彼は、死体の手から小さな機械が零れ落ちたことに気付かない。
落雷の衝撃で決定ボタンの押されてしまった『装置』が、音もなく道路脇の側溝に落ちたことに気付かない。
あるいは、所詮は「ただの子供」に過ぎなかった、カツオのタフネス不足のせいか。
キルアは彼らしくもなく、『鳴神(ナルカミ)』の威力調整を間違えて――
あまりのことに呆然とする彼は、死体の手から小さな機械が零れ落ちたことに気付かない。
落雷の衝撃で決定ボタンの押されてしまった『装置』が、音もなく道路脇の側溝に落ちたことに気付かない。
「お、おい! この程度で死ぬなよ! おいっ!」
殺す気は無かった。ただ痺れさせて、動きを止めるだけのつもりだった。なのに。
別に殺人行為自体には躊躇いはない。この少年の生死そのものにもさほど関心もない。
ただ、太一とNに対する説明に困る。そして、死なれてしまっては情報を引き出せなくなる。
慌てて少年の胸に手を押し当て、止まった心臓に電撃を叩き込む。電気ショック療法の要領で蘇生を試みる。
けれども、半ば黒焦げになったような死体が、簡単に息を吹き返すわけもなく……。
別に殺人行為自体には躊躇いはない。この少年の生死そのものにもさほど関心もない。
ただ、太一とNに対する説明に困る。そして、死なれてしまっては情報を引き出せなくなる。
慌てて少年の胸に手を押し当て、止まった心臓に電撃を叩き込む。電気ショック療法の要領で蘇生を試みる。
けれども、半ば黒焦げになったような死体が、簡単に息を吹き返すわけもなく……。
磯野カツオは、その本名と正体を知られることなく、また、禁止エリア指定装置の使用にも気付かれることなく。
タワーの死角、ビルの谷間の小さな路地で、その生涯に幕を閉じた。
タワーの死角、ビルの谷間の小さな路地で、その生涯に幕を閉じた。
* * *
「……こちらから見る限りでは、まだ帰ってきませんね。そちらはどうです?」
『こっちも相変わらず反応ないぜ。ま、そのうち戻ってくるだろ。何なら探しに行くか?』
「いえ、それには及びません。そこで見ていて下さい」
『こっちも相変わらず反応ないぜ。ま、そのうち戻ってくるだろ。何なら探しに行くか?』
「いえ、それには及びません。そこで見ていて下さい」
何度目になるかも分からぬ会話を交わして、ニアは溜息と共に受話器を置いた。
どうにも上手く行っていない感じがする。理屈抜きに嫌な予感がする。
理性的な考えかたをするニアには、珍しいことではあるのだが。
どうにも上手く行っていない感じがする。理屈抜きに嫌な予感がする。
理性的な考えかたをするニアには、珍しいことではあるのだが。
あの後――階下の太一は、すぐに電源を復旧させてくれた。明かりも放送も水道も、全て元通りになった。
基本的にイイ奴なのだろう。ああいう形でお願いすれば、断るような人物ではないようだ。
ただし。太一が守ったのは、ニアのお願いだけではなかった。キルアのお願いもまた、正確に守っていた。
「Nを見張っていろ」――飛び出していく際、彼はそう言い残していったらしい。
そして悩んだ太一は、電源を復旧させると同時に、2機のエレベーターを緊急停止させてしまったのだった。
階下の制御室から緊急停止されては、展望室の側には復旧させる手立てがない。
電源の回復には成功したが、事実上展望室に軟禁された状況には変わりが無いのだった。
基本的にイイ奴なのだろう。ああいう形でお願いすれば、断るような人物ではないようだ。
ただし。太一が守ったのは、ニアのお願いだけではなかった。キルアのお願いもまた、正確に守っていた。
「Nを見張っていろ」――飛び出していく際、彼はそう言い残していったらしい。
そして悩んだ太一は、電源を復旧させると同時に、2機のエレベーターを緊急停止させてしまったのだった。
階下の制御室から緊急停止されては、展望室の側には復旧させる手立てがない。
電源の回復には成功したが、事実上展望室に軟禁された状況には変わりが無いのだった。
(ここで太一君が出て行ってしまっては、本当に降りる手段が無くなってしまいますからね……。
万が一、エレベーターを復旧させる人が居ない状態で、ここが立ち入り禁止区域に指定されてしまえば……)
万が一、エレベーターを復旧させる人が居ない状態で、ここが立ち入り禁止区域に指定されてしまえば……)
そんなことになったら、本気で死にかねない。
頭脳だけならLにも迫ると自負するニアだが、体力面ではからきし。その点スポーツ万能でもあったLとは異なる。
非常階段を降りるとしてもこの高さだ、どれだけの時間がかかってしまうことやら。
ワイヤーや鉄骨を伝って降りるのも論外だ。アクション仮面の犠牲を忘れてはいけない。
頭脳だけならLにも迫ると自負するニアだが、体力面ではからきし。その点スポーツ万能でもあったLとは異なる。
非常階段を降りるとしてもこの高さだ、どれだけの時間がかかってしまうことやら。
ワイヤーや鉄骨を伝って降りるのも論外だ。アクション仮面の犠牲を忘れてはいけない。
だから、太一にキルアを探しに行かせるわけにはいかなかった。タワーから離れさせるわけにはいかなかった。
イザという時、エレベーターを復旧してくれる人が必要なのだ。何としても留め置く必要がある。
イザという時、エレベーターを復旧してくれる人が必要なのだ。何としても留め置く必要がある。
それに、太一が1階に居れば、彼の持つ『首輪探知機』の効果も期待できる。
実のところ、展望室からの観察には、限界がある。
ビル群による死角も各所にあるし、ニアが一度に見れるのは1つの方向だけだ。
太一の首輪探知機は、範囲こそ限られているが、展望室からの観察の欠点を補ってくれる。
そしてその効力を活かすためには、探知機を持った者は1階に留まる必要があるのだ。
探知機の効果範囲は半径50メートル。タワーの高さはそれを軽く越えている。
もし仮に展望室のニアの手元に探知機があっても、地上を動く参加者を捕らえることはできないのだ。
実のところ、展望室からの観察には、限界がある。
ビル群による死角も各所にあるし、ニアが一度に見れるのは1つの方向だけだ。
太一の首輪探知機は、範囲こそ限られているが、展望室からの観察の欠点を補ってくれる。
そしてその効力を活かすためには、探知機を持った者は1階に留まる必要があるのだ。
探知機の効果範囲は半径50メートル。タワーの高さはそれを軽く越えている。
もし仮に展望室のニアの手元に探知機があっても、地上を動く参加者を捕らえることはできないのだ。
(今は、これでいい……この状況を維持するのがおそらく最善……。
けれども、何なのでしょうか、この焦燥感は……!)
けれども、何なのでしょうか、この焦燥感は……!)
タワー1階の奥にいた太一は気付いていなかったようだが、つい先ほど、気になる音と光があった。
ビル街の方向、タワーからは建物が邪魔で直接見えない場所だ。まるで雷でも落ちたような閃光と轟音。
キルアが「のび太」を追っていった方向にも近い。
きっと、追う者と追われる者の間で、「何か」があったに違いないのだ。
ビル街の方向、タワーからは建物が邪魔で直接見えない場所だ。まるで雷でも落ちたような閃光と轟音。
キルアが「のび太」を追っていった方向にも近い。
きっと、追う者と追われる者の間で、「何か」があったに違いないのだ。
(まあ、キルアもあの性格です。こちらを……というより、太一君を長時間放ってはおかないでしょう。
仮に問題が起こったとしても、深追いはせずに戻ってくるはずです。
キルアか弥彦君が戻ってきたら、太一君を説得して、一時的にでもエレベーターを使わせて貰いましょう。
全ては、彼らの到着を待ってからでも問題ないはず……!)
仮に問題が起こったとしても、深追いはせずに戻ってくるはずです。
キルアか弥彦君が戻ってきたら、太一君を説得して、一時的にでもエレベーターを使わせて貰いましょう。
全ては、彼らの到着を待ってからでも問題ないはず……!)
結局、ニアに頼れるのは己の知性のみ。
頭を大きく振って不安を振り払うと、彼はメタちゃんが変身した双眼鏡を手に、周囲の観察を再開した。
頭を大きく振って不安を振り払うと、彼はメタちゃんが変身した双眼鏡を手に、周囲の観察を再開した。
* * *
キルアは結局、自分が殺した少年の死体を埋めて隠すことに決めた。
死体があれば、その損傷の具合からキルアの能力が見抜かれるかもしれない。
いや、死体単独から推測するのは難しいだろうが、あの雷の音と光も合わせて考えられたらかなり危険だ。
それに、技の加減を間違えて殺してしまいました、なんてことを素直に認めるのは、キルアのプライドが痛む。
いや、死体単独から推測するのは難しいだろうが、あの雷の音と光も合わせて考えられたらかなり危険だ。
それに、技の加減を間違えて殺してしまいました、なんてことを素直に認めるのは、キルアのプライドが痛む。
死体さえ始末しておけば、Nや太一には「追いかけたけど途中で逃げられた」と言えば済む。
「追跡の最中に相手がランドセルを落とした」ことにすれば、荷物だけでも持ち帰れる。失点を補える。
夕方に流されるという定期放送で「のび太」の名前が呼ばれても、知らぬ存ぜぬを押し通せばいい。
キルアはけっこう嘘つきなのだ。もしも嘘が必要なら、いくらでも嘘をつける。
「追跡の最中に相手がランドセルを落とした」ことにすれば、荷物だけでも持ち帰れる。失点を補える。
夕方に流されるという定期放送で「のび太」の名前が呼ばれても、知らぬ存ぜぬを押し通せばいい。
キルアはけっこう嘘つきなのだ。もしも嘘が必要なら、いくらでも嘘をつける。
ランドセルの中には、確かに首輪があった。それに、支給品らしき天体望遠鏡。他には共通支給品のみ。
『ゲームに乗ってはいるが、支給品に恵まれていなかった』……まさにNの分析通りの状況。
改めてNの推理力に感心してしまう。そんな相手、できれば敵にはしたくない。
『ゲームに乗ってはいるが、支給品に恵まれていなかった』……まさにNの分析通りの状況。
改めてNの推理力に感心してしまう。そんな相手、できれば敵にはしたくない。
(ま、実戦の方はからきし駄目、という可能性はあるけどな)
それでも、現時点でNや太一に、「キルアもゲームに乗った」と誤解されることは避けたかった。
僅かでもそんな可能性があるなら、潰しておきたかった。
僅かでもそんな可能性があるなら、潰しておきたかった。
幸い――と言っていいのか、太一の手元には『首輪探知機』がある。タワーの上にはNもいる。
他の参加者がタワーに近づいても、すぐに分かるだろう。
Nの知恵と慎重さがあれば、もし好戦的な相手が近づいて来ても大事にはならないだろう。
キルアがこの死体を運び、埋めてくるくらいの時間なら、彼らだけでも身を守るのに問題はないはずだ。
他の参加者がタワーに近づいても、すぐに分かるだろう。
Nの知恵と慎重さがあれば、もし好戦的な相手が近づいて来ても大事にはならないだろう。
キルアがこの死体を運び、埋めてくるくらいの時間なら、彼らだけでも身を守るのに問題はないはずだ。
キルアは死体を担ぎ上げる。頭の中に地図を思い浮かべる。
現在地はB-7、タワーの北側に広がるビル街の狭間。確かB-6の北のほうで街が途切れていたはず。
いや、ここからなら、東に向かってC-7かC-6に抜けた方が早いか?
ともあれ、死体を埋めるつもりなら、アスファルトに覆われた街から出なければならない。
キルアは死体を肩に担ぐと、ビルの陰、タワーから死角になる位置を選んで歩き出した。
現在地はB-7、タワーの北側に広がるビル街の狭間。確かB-6の北のほうで街が途切れていたはず。
いや、ここからなら、東に向かってC-7かC-6に抜けた方が早いか?
ともあれ、死体を埋めるつもりなら、アスファルトに覆われた街から出なければならない。
キルアは死体を肩に担ぐと、ビルの陰、タワーから死角になる位置を選んで歩き出した。
* * *
ただ――この時点では、キルアも気付いていなかった。
雲1つない青空の下で響いた、雷鳴の音。それが、街の中にいた他の参加者を引き寄せてしまったことに。
カツオの死体を担いで歩み去るキルアの背中を、1人の少女が見つめていた。
立ち並ぶビルの1つ、高層階のバーの窓。
遠ざかる背中を見下ろしながら、少女は唄うように小さく呟く。
雲1つない青空の下で響いた、雷鳴の音。それが、街の中にいた他の参加者を引き寄せてしまったことに。
カツオの死体を担いで歩み去るキルアの背中を、1人の少女が見つめていた。
立ち並ぶビルの1つ、高層階のバーの窓。
遠ざかる背中を見下ろしながら、少女は唄うように小さく呟く。
「ふふふっ……どうやら、今まで会ってきた子とは、違う感じね。
あの子は、私たちと同じ臭いがするわ。……そう思わない? 兄様?」
あの子は、私たちと同じ臭いがするわ。……そう思わない? 兄様?」
* * *