秋も中盤に差し掛かり、焼き芋が旨くなってきたころ、
俺は安らかに眠る団長の側にいた。

今から数日前のことになる。



「遅れてごめーん!…って来てるのあんただけ?」
悪かったな。
「別に悪いなんて言ってないわよ。他の団員は?」
長門と朝比奈さんのクラスは学級閉鎖、古泉はバイトらしい。
何でこんな時期に学級閉鎖が起こるんだか。
「ふーん。まぁいいわ。あ、そうそう。今週の土曜日のことなんだけど…」
こいつと付き合いだしてからというもの、町中不思議探索は
ほとんど俺とハルヒの二人っきりが行っている。
古泉に言わせると「涼宮さんがそう望んでいるからでしょう」
の一点張りだ。
まぁ最近はそれらしくなってるからよしとするか。
「……だからこの辺…ってキョン、人の話聞いてるの?」
「ん?あ、ああ」
「全く…まぁいいわ。今日は他に誰も来ないみたいだし、
早めに切り上げましょ。」
「そうだな。」
そして、ハルヒが部室を出ようとドアノブに手を
掛けたときだった。

「……っ」
「どうした?」
返事がない。ただの屍…
「…っく」
ハルヒはその場に崩れ、俺はそれを受け止めた。
「おいハルヒ、大」
丈夫そうじゃなかった。
胸元を握りしめ、顔は苦痛に歪んでいる。
俺はすぐに救急車を呼び、ハルヒを横に寝かせた。
こういう時の対処法を知るわけもなく、背中を
さすってやったりしてやることしか出来ず、
容態は悪くなる一方だった。この時俺はすごくおろおろ
してて、格好悪かったと思う。
「くそっ、どうしたらいいんだ…」
いったい救急車は何をしてるんだ。
「もう…大丈夫だから…心配…しないで」
これのどこが大丈夫なんだ
「大分…良く…なっ…て…き…」
「おいハルヒ、しっかりしろ、おい!」
「ごめん…ね…」
そして、ハルヒは意識を失った。
その直後辺りか。救急車が来たのは。
ハルヒが意識を失ったせいで頭が真っ白になってしまって
よく覚えていない。
仲間が死にそうなのには冷や冷やするだけでも、やっぱり
恋人が死にそうになっている時には頭が真っ白になるほど
気が動転するものなんだなと思った。

俺が落ち着きを取り戻したのはハルヒが集中治療室に
運ばれてからしばらく経った後だった。
その頃にはハルヒの両親も到着済みで、俺が状況説明を
し終わった時くらいか。
集中治療室から医師が出てきた。
「先生、ハルヒは…」
「非常に危険な状態が続いています。彼女の場合、心臓の
筋肉が広範囲にわたって壊死していて、いままで
生きていたのが不思議なくらいです。すぐにでも
移植を行うか、あるいは奇跡でも起こらない限り、
助かる見込みはないでしょう。」

助かる見込みはない…?ははは、冗談だろ?昨日までは
あんなに俺らを振り回してこれ以上ないってくらいの
笑顔を振りまいてたんだぜ?それが、生きてるのが不思議だ?
どうゆうことだ、誰か説明してくれよ、なあ、おい!ハルヒ!!

どうやらまた俺は発狂してたらしい。手から血が出ている。
どんだけ壁を殴ったんだ。

ハルヒの母親が泣きながら俺を止めていた。

そして、今日までの数日間俺は学校を休んだ。始めの1日
くらいは放心状態で何もしてなかったが、残りの数日は
ハルヒのドナーを探すためだ。
谷口や国木田、他の団員からメールが来たりしてたが、
ハルヒからは1通も来なかった。まぁ当たり前と言えば
当たり前なんだが、本人から生存確認が出来ないのは少し
辛い物があった。
しかし、ドナーという人は、やっぱりというか、なかなか
というか、とにかく見つからなかった。今日までの収穫は0。

そして、気を落とし気味にハルヒの病室の前に来た時だった。
ハルヒの両親が泣いている。

もしや…

「どうかしたんですか?」
「あの子がようやく…ようやく目を覚ましたんですよ」
ハルヒが…意識を?
未だに情緒不安定だった俺は何とか平常を保っていた。両親は
俺から何かを悟ったのか、「ごゆっくり」といって去って
しまった。
おそるおそるドアをノックする。

「どうぞ」

力のない、いかにも病人という感じのハルヒの声がした。

「入るぞ」
ゆっくりとドアを開ける。

「あ…」

ハルヒは俺だということがわかると顔を背けてしまった。

「何で来たのよ」
「何でも何もないだろ。団長がぶっ倒れたってのに。」
「…この間はごめんね。」
「何のことだ?」
「あたし部室で倒れたじゃない。それであんたここに居るんじゃないの?まぁ
土曜日の予定も飛んじゃったってのもあるけど。」
「ああ、謝るほどの物でもないだろ。」
「…」
「それより、もう大丈夫なのか?」
「あんまり良くないわね。ときどき痛むし、胸に跡が着いちゃって取れないわよ。」
「そうか。」
「他の団員たちは?」
「元気にしてる。」
「…そう。」
「…」
「…」
「…あたし、いつ退院できるのかな。」
「…投薬治療で何とかなるって言ってたしな。気合いと根性でどうにでもなるんじゃないか?」
「気合いと根性…か。」
「まぁ、そんなに重く考えるな。こっちのことは俺がやっとくから、今は自分のことだけ考えてろ。」
「うん…」
「……………」
「……………」
「…ねぇ、キョン?」
「ん?」
「あたしが寝るまで…一緒にいてくれる?」
「…ああ、いてやるさ。」

結局言えなかった。
移植が必要だといつか言おうとは思っていたが、結局
投薬治療で何とかなるとか誤魔化してしまった。
どうすりゃいいんだ?どうやってハルヒに言えばいいんだ?
そんなことをいつまでもうじうじ考えながら病院を
出たときだった。

「これはこれは。こんな遅くまで涼宮さんのお見舞いですか?」
「お前こそ何でこんな所にいる。」
「たまたまですよ。僕もこっちの方が帰り道が近いので。」
「…この前の件、どうだった?」
「全くだめですね。成果ゼロです。」
「長門はなんて言ってる?」
「このまま観測を続ける。だそうです。」
「結局、助かるすべは無し、か…」
「そのようですね…」

古泉には『機関』を通じてドナーと新薬の検索を、長門には
ハルヒの壊死した組織の再構成を頼んで見たんだが、どっちも
だめらしい。

「これで涼宮さんが世界を崩壊させるような事を考えて
いなければいいのですが。」
世界崩壊…か。ハルヒと一緒に死ねるならそれもいいかもな。
「冗談はよしてくださいよ。」
いや、冗談を言ってるつもりはないぞ。どうせ恋人が死ぬなら
いっそのこと自分も…ん?
「どうかしましたか?」
「古泉、聞きたいことがある。」

「ハルヒには世界改変能力があるって言ったよな?」
「ええ、言いましたが…」
「それを他人がハルヒに何かを吹き込んで改変させるのは可能か?」
「それは涼宮さんが望むかどうかですが…」
「…古泉、俺はもうしばらくの間学校を 休むことになりそうだ。」
古泉はやれやれといった表情で肩をすくめた。
「長門や朝比奈さんのこと、頼んだぞ。」

それから俺は、毎日ハルヒに「気合いと根性」を注入するために
病室へ向かった。検診や両親との面会中以外の時間はずっと
ハルヒの側にいた。しかし、ずっと学校を休む訳にも
いかなかったので、朝から晩まで居れたのは最初の4、5日だけ
だったが、それでも、毎日通っていた。
そんな俺の努力が実ったのか、それともハルヒの世界改変能力が
絶大な威力を発揮したのか、ハルヒの余命は+1週間、+1ヶ月と
どんどん延びていき、最後の方には壊死してた組織が全部
元通りになっていた。なんつー回復力だ。
そして、退院が決定し、それの前日の時だった。
ハルヒの母親がにこにこしながら話しかけてきた。

「あの子があなたに渡したい物があるそうよ」

ドアをノックする。
「どうぞー!」
威勢のいい、今までのハルヒだ。
「よう」
そこにはなぜかウエディングドレスに身を包んだハルヒがいた。
「どう、これ?」
「どうって…うーん」
「どうなのよ!」
「似合ってるぞ。」
ハルヒの顔は少し赤くなった。
「そ、そう?」
「ああ、そりゃもう。俺にとってはこの世で1番だね。」
「そ、そんなお世辞言ったってなんも出ないわよ!」
「ん?お世辞を言ったつもりはないんだが。」
「なっ…ま、まぁいいわ。はい、これ。」
そういって、小さな箱を乱暴に渡される。
「開けていいか?」
「…さっさと開けなさいよ!」
俺はゆっくりと箱を開けた。
…ペアリング?
「年が年だからまだ許してもらえなかったけど、雰囲気だけなら
ってお母さんに用意してもらったのよ。あ、安心して。そんなに安物じゃないから。」
よく見ると、裏に俺とハルヒの名前が入っている。
「…はめていいか?」
「うん。」
そういうと、俺はハルヒの手を取り、薬指に指輪をはめた。
「似合ってるぞ、ハルヒ。」

それからのことは皆さんのご想像にお任せしよう。
まぁ、大抵予想はつくだろうが。

これからハルヒの退院パーティーがある。いくら全快したとはいえ、
数日前までは病人だったんだから、ほんのささやかなものになる
…はずだったのだが、我らが団長様がそんなのを許すわけもなく、
結局、クリスマスパーティー並の大イベントとなっていた。

今俺はハルヒと一緒に部室の前に立っている。
まぁそれだけならいいのだが、なぜか俺はスーツを着ており、
ハルヒは退院前日同様、ドレスを着ている。これもハルヒの要望らしい。
全く、何を考えている事やら…
「さて、行くとしますか。」
俺は、教会さながらに装飾された部室の中に入っていった。

ハルヒの手を強く握りながら…


end

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最終更新:2007年01月14日 01:54