森園生の電子手紙
エピローグ1
side国木田
森園生の誕生日
 
「ねえ…新川さんは何が良いと思いますか?」
 
ザッと事務所の清掃を終えた僕は、残って書類整理をする新川さんに尋ねてみる。
「そうですなぁ…森はあの様に見えて可愛い物が好きなようですからな。」
 
何故僕が事務所の掃除をしていたかと言うと、最近ここでアルバイトを始めたからだ。
森さんや新川さん、古泉君が使う、この「機関北口支部」という所の事務所の清掃が僕の仕事となっている。
因みに紹介は森さん。別の仕事が終わってから、ここの掃除をするのは疲れるらしい。
「可愛い物ですか?」
「そうですな…可愛いものに限らずとも、貴方からの贈り物なら森は何でも喜ぶでしょうな。」
「それじゃあ身も蓋も無いですよ…。」
「まぁ今日含め、後3日あります。ゆくっり悩むのもよろしいでしょう。」
 
収穫なし。新川さんに聞いてもしょうがないか…仕方ない、幸い夏休みだし明日駅前をウロウロしてみよう。
 
などと考えながら帰る準備をしていると森さんが来た。
「あら?国木田君…掃除は終わり?」
「はい、森さんも会社は終わりですか?」
ここでバイトを始めて分かったのだが…どうやら、森さんも新川さんも普段は別々の会社に勤め、ここの事務所に来るのは別の目的の為らし。
まぁ…良く分からないんだけどね。見てるとそんな感じ。
 
 
 
「えぇ、仕事終わりよ。じゃあ一緒にに帰りましょうか?」
「あっでも…新川さん…良いですか?」
「はい。私が戸締まりしておきましょう。まだ馬に蹴り殺されたくはありませんからな。それではまた。」
新川さんはそう言ってククッと不適に笑うと僕達に手を振った。
 
帰り道、森さんのマンションに向かって僕達は並んで歩いている。
「森さん、明後日お暇ですか?」
「明後日?平日だから多分18時以降なら大丈夫だけど…」
 
18時以降か…じゃあ半位に待ち合わせて、そこから晩御飯行って、そこで誕生日プレゼントを渡して…かな…後はどうしたらいいんだろ?
やっぱり記念日だしちゃんとしたいし……とか考えていたら森さんのマンション前に着いていた。
 
「じゃあ、その…明後日お仕事が終わったら、駅前で待っててくれますか?」
森さんと付き合いだして、1ヶ月と少し経つけど、やっぱりまだ顔が熱くなってしまう。
「楽しみにしてるわ。」
森さんはくすりと笑う。それだけで僕の心臓はどうにかなりそうな勢いで鼓動を刻む。
「じゃあ、また明後日ね?お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
森さんは少し背伸びし、僕の唇に軽く唇を押し当てる。
数秒後にっこり微笑むと、マンションに入っていった。
 
 
 
 
はぁ…駄目だ…ちゃんと僕からしたいのに、いつも森さんにリードして貰っている。男として格好付かないよね…。
などと思っても顔は綻んでしまう。最近両親に顔が緩みっ放しだと、よく笑われるけど…あんな綺麗な女性が彼女なら仕方ない。
 
 
 
翌日、僕は昼過ぎから駅前に向かった。もちろん森さんへのプレゼントを買うためだ。しかし…男1人で女性向けの店を見て回るのって何の羞恥プレイなんだ?
知り合いに見られたら死ねる。そんな気分で色々回ってみたが…なかなかどうして良い物が見付からない。
「ややっ!そこに居るのは国木田君じゃないかい」
「鶴屋さん?」
アクセサリーショップに居たのは涼宮さんの団の野球や映画等でご一緒した元気印の先輩だった。
 
 
 
「なるほど!年上の彼女へのプレゼントっかい、確かに迷いどころにょろね~。森さんの趣味は良く分かんないっさ!」
いつの間にか、暇でブラブラしていた鶴屋さんとプレゼントを選ぶ事になっていた。まぁキョンや谷口に見つかるよりは良いけどさ…やっぱり恥ずかしい。
「やっぱり指輪…とか…」
「うーん…嬉しいけど、正直最初のプレゼントに指輪は重いっさ!」
「そうなんですか?」「指輪は本当に大事な時に1つだけ送るものっさ!左手の薬指は1人1本しかないにょろよ~。」
ひっ左の手の薬指って……僕は思わず真っ赤になってしまう。
 
「そうなんですか?」
 
「アッハハハハ!真っ赤にょろ~?まっ好きな人に貰った指輪はそこに着けたいって思うのが乙女心っさ!」
なるほど…もっと勉強します。
「それに高い物を貰うのも萎縮しちゃうっさ…うーん。そうにょろね…」
腕を組んで自分の事の様に悩む鶴屋さん。何気にキョンの知り合いって良い人多いよね。
「良い事思いついたっさ!こっち来るっさ!!」
とか考えてたらいきなり全力で目的地に向かいだした……良い人多いけど…みんな個性が強い。大丈夫かな?
 
 
結局鶴屋さんのある提案により、僕はその日徹夜を強いられた。まぁ…夏休みだから良いけどさ。でもこれなら森さんも気に入ってくれるかも知れない。鶴屋さんに感謝かな…眠いけど。
 
さて…森さんとの待ち合わせは夜だし、寝る事にしよう…もう空が白いや…。
僕は道具を片付けると、プレゼントを忘れないよう鞄にしまい、ベッドに潜り込んだ。
 
 
 
「ご主人様…私をご主人様の好きにして下さいませ。」
メイド姿の森さんが上目遣いで懇願する。
「ふっ…可愛いな園生今夜もたっぷり悶えてさせてあげるよ…」
 
 
「はっ?!夢!?」
フロイト先生も抱腹絶倒だぁぁぁってキャラ違うから…。
 
 
 
 
 
で今はいったい何z……アレ?
何故長針様と短針様が一直線なんでしょうね?
 
……ああああああぁぁぁぁぁ!!1!1!!ヤバい時間が無い?!昨日徹夜で風呂も入ってない!でもこのままじゃ会えない!…ととと取り敢えずシャワーだけでも。
 
 
僕が家を出たのは待ち合わせの5分前だ。急げ!誕生日デートに遅刻はマズい!
 
 
待ち合わせ場所には、もちろん既に森さんが持っていた。
「はぁっ…はぁっ…森さんっ…遅れてごめんなさいっ!」
「まったく…国木田君が遅刻の常習犯とは思いませんでしたね……。」
森さんはワザとらしく大きく溜め息をつく、喋り方も敬語に戻ってるし…めちゃくちゃ怒ってるよねぇコレ。
「……あの森さ」
「ケーキ。」
「森さん?」
「誕生日だし苺かなぁ?まぁ2人だし小さなホールケーキが良いわよねぇ」
「……はい、すいません。」
「ふふっ…冗談よ?」
僕の様子がそんなに面白かったのだろうか?森さんは満足そうに笑うと僕の頭をクシャクシャと撫でた。
「じゃあ…えっとご飯食べに行きましょうか?」
そう言って、下調べしておいた小洒落たレストランに向かったんだけど。
 
気分じゃないと一言で却下され、ファミリーレストランに向かう事になった。
 
 
 
しかし…ファミレスはピークタイムで長居も出来ず、プレゼントも渡せないまま店を出てしまった。
 
 
何か…お洒落なデートから遠ざかって…普段2人でご飯食べに行ってるのと変わらない気がする。森さんやっぱり怒ってるのかなぁ?
 
公園に差し掛かった時、森さんに休んで行かない?と言われ自販機で珈琲を買って、公園のベンチで休む事にした……あれ?
「ここって…もしかして…」
「そう、貴方と初めてあった場所よ。」
そっか…森さん、ちゃんと覚えてくれてるんだ……僕が何を考えてるか察したらしく、森さ照れたように笑った。
「少し貴方に話そうと思って……」
「話し…ですか?」
森さんは吸っていた煙草をもみ消すと少し俯いた。
「そう…あと謝りたくて…その…ごめんなさいね…貴方がちゃんと考えてくれたプランを…何て言うか…メチャクチャにしちゃって…」
「分かってたんですか?」
「当たり前でしょ?優しい貴方だもの…私の為に色々考えて、いっぱいいっぱいなんだろうなぁ~って」
森さんは可愛いらしくクスクスと笑う。
「じゃあ…どうして?」
此方に向き直ると僕の頭をポンポンと撫でる。
「一言で言えば、私に合わせて無理して欲しくない…かな…」
 
 
「僕は、別に無理なんて…」
「国木田君」
彼女は僕の言葉を少し厳しい声色で遮る。
「私から見ると、無理して背伸びしてるように見えるわよ?だって、今日行こうとした高級なレストランに普段入らないでしょう?」
すべてを許し見透かす様な瞳…僕は素直に答えるしかない。
「はい。」
「私は普段のそのままの貴方が好きなの…あの時…病室で私を許してくれた優しい貴方は、肩肘を張った貴方じゃないでしょう?」
「それは…その…必死でしたから…」
「そうでしょう?なら、自然な貴方で居て?…少しずつ貴方が大人になるのを私はちゃんと待ってるから…だから心配しないで?」
彼女がじっと僕を見詰める。目が離せない…優しい目…
「大丈夫よ…無理して背伸びしないで、私はありのままの貴方が大好きよ。」
「森さんっ!」
僕は思わず彼女を抱き締める。何て愛おしい…きっと心から人を好きになるって多分こういう事なんだ…。
森さんも僕の背に手を回してくれた…抱き締め合うってこんなに心地良くて安らぐものなんだ……。
「落ち着いた?」
しばらくして体を離した後優しく彼女は囁いた。
「はい、ありがとうございます。……あっ…そうだこれ」
僕は鞄からラッピングされた小さな箱をを取り出す。
 
 
 
「ありがとう。開けて良い?」
「はい、気に入ってくれるかどうか…」
森さんは箱を開けると、中の物を取り出す。
「ピアス?あっ可愛いらしいわね、緑と青のビーズ…こんなのこの辺りに売っるの?………あっ」
森さんがピアスの金具にある彫り文字を見つけたらしい、喜びと驚き、半々の表情で僕を見る。
「I…love…you…Sonou……これ…まさか…貴方が作ってくれたの?」
「あはは、そのせいで遅刻しちゃいましたけどね。」
「ありがとう…凄い器用なのね…」
森さんは着けていたピアスを外しプレゼントした物を着ける。
「どう?似合ってる?」
「作った僕が言うのも恥ずかしいですけど…似合ってますよ」
彼女は天使の様に微笑む。
「ありがとう…ずっと大切にするね」
 
僕は彼女の微笑みに魅了された様に目を閉じ彼女の唇に唇を重ね、深く口付ける。
「んっ…んぅっ…」
最初は驚いた様に彼女は体を強張らせるが、優しく僕を受け入れてくれた。
初めての深いキス。唇を離した時…森さんは少し涙ぐんでいた。
 
「お誕生日おめでとうございます。これからも一緒に居て下さいね…。大好きです。」
「はい…一緒に居ます…私も貴方が大好きです。」
 
森園生の電子手紙エピローグ1国木田side
end
 

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最終更新:2020年03月13日 09:20