ひぐらしの憂鬱 第5章

・・・
青春ドラマみたいなシーンは終了だ。今はさっきと変わって厳かな雰囲気である。

先ほどまで賑わっていた会場が一気にシンとなり演舞を見ようと会場中の人が押し寄せる。
「すごい人だかりだな」小声で俺が言う。
「お祭りの一番の催し物ですからね」
「静かにしなさい・・始まるみたいよ」
太鼓が鳴る。
大きな鍬のような物を持って巫女装束に身を包んだ長門が神官に扮するじいさんたちをを引き連れ出てきた。
それを見守る老人たちは長門に向かって手を合わせ拝んでいるようだ。
「あのでかい鍬は何だ?」
「あれは祭事用の鍬でかなり神聖な農具なのよ」
ふ~んと相づちを打ち長門の方に目をやると、祝詞をあげ、祭壇に積まれた布団の山に向かっていった。
そして鍬で布団をたたいたりしていた。長門は涼しげな顔をしているが、俺の目から見てもあの鍬は
かなり重そうなだけに持っている本人は相当つらいはずだ。あの細腕で持っていることに驚くぜ全く。
大太鼓がドンとなると長門はこちらに黙礼をして舞台から降りていく、大きな拍手が起きた。
神官のじいさんが布団を担ぎどこかへと持って行くようだな。他のみんなもそれについて行く。
「今度はどこに行くんだ?」
「綿流しだって言ってんじゃない!あんたはあたしに黙ってついてくればいいの!!」
へいへいわかりましたよ、とどうせ聞いちゃいないだろうが返事をする。


行列はそのまま沢へ向かっているようだ。そこら中に灯がともっていてまぶしい。
どうやら朝比奈さんたちとははぐれてしまったようだな。どうせなら朝比奈さんと一緒にいたかったぜ。
そんな考えもお構いなしに、
「キョン!早く並ぶわよ!」
「なんで並ぶんだ?なんかくれるのか?」
「バッカねぇ!だから綿をくれるのよ!」
あぁ綿流しだもんな、なんだかようやく理解できた気分だ。俺たちの番がきて綿をもらった。
俺はハルヒについていくことしかできないので素直について行く。
「あんたしっかり見ておくのよ!」
そういうとハルヒは綿を右手に持ち左手でお祓いみたいにみたいにしてから額、胸、へそ、そして
最後に両膝をぽんとたたいた。やっぱこういうのってちゃんと決まっているのだな。なんて
しみじみ思う。
「これを3回繰り返しなさい、それで心の中でオヤシロさまありがとうって唱えるのよ」
「オヤシロさま?神社の神様か?」
「そうよ、オヤシロさまはこの雛見沢の守り神なのよ御利益もあるし祟りもあるんだからね!
 あんたちゃんと敬いなさいよ」といたずらっぽく言い俺にやるように促すハルヒ。
・・・えーと3回だな、オヤシロさまありがとう、オヤシロさまありがとう、オヤシロさまありがとう・・・
「そうやったらあとはその綿を沢に流して終わりよ」
その綿を水面に浮かべる、、、


    ・
    ・
    ・
「・・・あれハルヒ?」どうやら水面に浮かぶ綿を眺めているうちにハルヒとはぐれていた。
まぁ別に問題はないか、そのうちどっかで会うだろ。
ん?あそこにいるのって裕さんか?
「裕さーん」
「あぁキョン君か」
「こんばんはキョン君、お祭りはどうでしたか?」
「えっ?あ、とても楽しかったです」
誰だ?この女の人?どっかで会ったか?
「そう、それは良かったですね、おそらく心からお祭りを楽しめたのはあなただけかもしれないですね」
「え?どういう意味ですか?」
「そんな物騒な話はやめましょうよ」裕さんが遮った。
「物騒なって、何か関係あるんですか?ダム事件とかと」
「あら?ずいぶん勘がよろしいようですね」
うふふと妖しげに笑う女の人だな。
「聞きたいですか?後悔するかもしれませんよ?」
どうしようか、しかし俺はここの真実が知りたい・・・
「・・・教えてください」
ふぅとため息をつく裕さんだが、ゆっくりと話し始めた。

「4年前の綿流しの晩にね、ダム工事現場の監督がバラバラにされて殺されたんだ。現在もその
右腕は見つかってない・・・」
週刊誌で見たのと同じだな、、、
「それが祭と関係あるんですか?」
「そこからだんだんとおもしろくなっていくのですよ・・・」妖しく笑うこの女性に質問を遮られた。
「・・・その翌年の綿流しの晩に、ダム工事の誘致派だった村の夫婦が旅行先崖から転落して死亡、
奥さんの死体は未だにあがっていない。
その翌年の綿流しの晩、ダム反対運動に消極的な神主が原因不明の奇病で死亡、奥さんはその日の
うちに沼に入水自殺。
さらにその翌年の綿流しの晩、近所の主婦が撲殺体で発見された。この主婦はその2年前に亡くなった
誘致は夫婦の弟一家らしい・・・」
「ちょっと待ってください・・・そ、それじゃあ、」
「そうなんです。毎年綿流しの晩には必ず人が死ぬのです。ですからこの怪事件はこう呼ばれるのです・・・」
ゴクッと唾を飲み込んだ・・・。
「・・・オヤシロさまの祟りと、、、」
「た、祟り・・・そ、それで次の年には誰が?」
「さぁ、だれかな?キョン君は誰だと思う?」
ふふふ、うふふと笑って誤魔化そうとする2人になんだかむかっときた。
「はぐらかさないでくださいよ!」
「ごめんごめん、べつにそういうつもりじゃないんだよ・・・つまりその次の年って言うのは・・・」

      「今日です」


スパッと言い切られてしまい俺はしばし呆然としてしまった・・・え、今日?今日、このにぎやかな
祭の晩に誰かが死ぬ?冗談だろ!?
「やはり刺激が強かったようですね・・・」
「・・・」
「大丈夫だよキョン君!今年は誰も死なないさ、これまではたまたま同じ日に事件が重なっただけさ
もしも祟りがあったって、雛見沢が好きなキョン君が祟られるわけないさ!」
やけに裕さんの言葉が頼もしかった。
「はい!」
「裕さん、私はそろそろ行きますねまた後ほど・・・キョン君失礼しますね」
そう言うとその女性は去っていった。


・・・
「キョーーン!!あんたどこいってたのよ!」
こっちのセリフだ!そこにハルヒたちがやってきた、SOS団全員集合だ。
「全く!あ、裕さんもいたのね!ちょうど良かったわ、有希もさっき賞品をゲットしたのよ!
 これで今日の罰ゲームは裕さんで決定ね!!」
後日談だが、長門は演舞が終わった後、射的屋に向かったそうだ。もはや賞品が少なくなり、小さく
狙いにくい物しかなかったそうだが長門はそれを百発百中で打ち落としたらしい。
なんてヤツだ・・・。
「さぁ裕さん覚悟は良い?」
うふふとにじり寄るハルヒ、おい怖いぞ。
「ハルヒ、なるべくソフトなやつにしてやろうぜ」
「バカね!そんなこと言ってらんないでしょ!勝負は非常なのよ!!」
そう言うとハルヒはマジックを取り出した。なんだ落書きか?
「ちゃんと洗濯しても落ちないように油性にしたからね!!覚悟ッッ!」
ハルヒは・・・裕さんの着る服にマジックで何か書き始めた。
『や~いビリ!! ハルヒ』
「それじゃあたしも・・・」
『がんばってメジャーデビューしてください みくる』
「それでは失礼して・・・」
『今度はがんばりましょう 古泉』
「・・・」
『勝った 有希』
なんだか寄せ書きみたいだな・・・まぁこんなのも良いかな、フフッ。
「・・・あなたの番」
「あぁ!」
『また来てください キョン』

「・・・」
服を黙って見ている裕さん、感動してるのか?
「・・・みんなありがとう!」
「ほらほら!何メソメソしてんのよ!早く行きなさいよ全く!」
「あぁわかってるよ、ハルヒちゃん、みんなありがとう!必ずまた来るよ!」
そう言い裕さんは手を振って・・・行ってしまった。やけにあっさりした別れだったな。
「さぁみんな帰るわよ!」
長門は巫女ということで祭の反省に、古泉は反対方向なのでここで別れた。
家に向かう道で俺とハルヒと朝比奈さんが月明かりに当たりながら歩いている。
さっき教えてもらった‘オヤシロさまの祟り’、それがあったから、この2人は俺にあまり詳しくは
教えなかったのだろう。俺を不安がらせないために、その気持ちはとてもうれしかった。
仲間だからという意識が浮かぶ。
「2人とも気をつけて帰ってくださいねぇ~」
「みくるちゃんこそ気をつけなさいよー!」
はぁ~いという返事を言い手を振る朝比奈さん。
こんな楽しい日常がこれからも続いてほしい。今日何もなければ祟りなんか無いってことになる。
そしたら明日からまたいつもの毎日が続いていくんだ・・・

「どうしたのよキョン、なんか変なもん食べたの?」
「ん?なんでもねぇよ」
ハルヒといつもの分かれ道で別れる。
気をつけろよ!なんて言おうとしたがそんなの不要か、あいつほど無敵な奴もいないしな。
「じゃあな」
「また明日ね!!」
明日か・・・明日俺の望むような明日が来てくれるのだろうか、、、
「キョン君おかえりなさい♪」
「あぁただいま」
もしも望まない明日が来てしまったら・・・俺はどうするのだろうか・・・
遠くから聞こえる沢の音が静かに、語りかけるようにサラサラと流れていく音が聞こえた・・・


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最終更新:2007年03月20日 02:04