「料理対決をしましょ!」
ハルヒがそんなことを急に言い出したのは昨日のこと。
理由など知らん。
知ったところで、理解できるとは思えないけどな。
文句を言っても無駄なのは承知の上だ。
 
ルールは2人対2人のグループ対決。
で、くじの結果、俺と朝比奈さんチーム、長門と古泉チームで分かれて勝負をすることになった。
ハルヒはオーナーらしい。
 
で、今俺たちは学校の調理室にいる。
家庭科で調理実習をやる場所だな。
むかって右側が俺たち、左側が長門チームだ。
現在、ゲストとかいう人を待機中。
 
そして、今日の(?)ゲストがやってきた。
「どうぞこちらへ」
ハルヒが椅子を用意して、そこにゲストが座る。
 
鶴屋さん。
涼宮ハルヒの退屈で堂々のデビュー果たし、
その広いおでこと長い髪、そしていつも笑っているというところから一躍人気に。
その後、雪山での山荘を提供したことにより、SOS団名誉顧問になる。
なんと、長門や朝比奈さん、ハルヒのことを普通の人間ではないと誰も言ってないのに理解したすごい人。
多分、涼宮ハルヒの陰謀で、さらに人気になり、現在は長門についで2位の人気。
最も最近の作品、涼宮ハルヒの憤慨では、天才的な実力を発揮して、むちゃくちゃ面白い小説を書いてくれた。
って、ここでも俺がナレーターかよ!
 
「当店ではメニューはございません。お好きな料理をお申し付けください」
ハルヒがやけに丁寧に喋る。
ダメだ、なんか違和感がかなりある。お願いだから、普通に喋ってくれ。
 
「そりゃあ、もちろんいつでもあたしはスモークチーズが食べたいっさ!」
「分かりました」
分かったんなら、お前が作れ。
 
そして、ハルヒはどこからとりだしたか知らないが、ベルを鳴らした。
 
チャリンチャリン
 
「オーダー!スモークチーズを使った料理!」
というわけで、俺たちはスモークチーズを使った料理を作ることになったわけだ。
にしても、スモークチーズを使ってどんな料理を作りゃあいいんだよ・・・
 
ところで、俺は料理はほとんどしない。というか、全くしない。
なので、朝比奈さんには悪いが、共同で作るというよりも、朝比奈さんの手伝いをするというふうな感じにしかならないだろう。
まあ、でも朝比奈さんの料理はうまいからな。このハンデでもこっちのチームが勝つかもしれん。
いつも作ってくれる手作り弁当なんて絶品だ。
どこのどいつだ。塩と砂糖を間違えてもおかしくねーとか言ったやつは。
ところで、長門と古泉はどうなのだろう?
長門は・・・確か、バレンタインのときに作ってくれたチョコがうまかったな。
だが、普段レトルトやコンビニの弁当ばかりだろうから、まあ朝比奈さんのほうが上手と考えていいだろう。
宇宙的な力は禁止にしておいたからな。
古泉はどうなんだろうな?
そういえば、俺が入院してるときにやってたりんごの皮剥きがうまかった。
もしかしたら、古泉も料理は上手なのかもしれん。
 
ところで、ハルヒと鶴屋さんは雑談タイム。
少し耳を傾けてみよう。
 
「いやー、悪いねハルにゃん。あたしなんかが、こんな料理対決の審査員になっちゃって」
「いいのいいの、鶴屋さんにはいつもお世話になってるし。まあ、団員から感謝の気持ちを受け取ってくださいな」
じゃあ、お前が感謝してなにか料理を作れ。料理も得意だろうが。
まあ、たいして何もできない俺が言うのもなんだけどな。
「それより、鶴屋さんって何でスモークチーズが好きなの?」
「うーん。わかんないんだけどさ。いつの間にかそういう設定になっちゃったのさっ!」
なんりゃそりゃ。
 
まあ、たいして面白い話をしてないようなので、いいかげん料理の手伝いをすることにしよう。
「朝比奈さん、何か手伝うことはありますか?」
そう聞くと、朝比奈さんは下唇に指をあて、少しだけ考えて、
「じゃあ、このトマトを切ってください」
と、まさしく天使のような笑顔でお願いされた。
朝比奈さんにそう言われちゃあ断れない。
俺は手渡されたトマトをまな板の上に置き、包丁を手に持ち、トマトを切る。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
「何やってるんですか?」
どうやら、俺はトマトの切り方を間違えたらしい。
かなーーりつぶれてしまった・・・ぐちゃぐちゃだ。
朝比奈さんを見てみる。
一瞬、眉毛がピクピクというふうな感じで動いたような気がしたが、
まあ、気のせいだろう。
そう思わせてくれ。
ずっと、笑顔のまんまだしな。
その笑顔が怖いような気もしなくはないんだが。
 
まあ、そんなことがありながら、20分がたつ。
「できた!」
隣から古泉の声が聞こえてきた。
微妙に、長門の声も混ざっていたような気がする。
ん!この匂いはカレーか。
おいしそうだ。
 
「キョンとこはまだ?」
ハルヒが言う。
悪いが、俺にはわからないぞ。
「もう少しでできまーす」
朝比奈さんが言う。
どうやら、もう少しらしい。
俺はほとんど何もしてないがいいのだろうか?
いや、したよ。したけど・・・本当にあれでいいのだろうか?
 
「できた!」
朝比奈さんがそう言う。
うーん、こっちもいい匂いだ。
朝比奈さんを見てみる。
いつもの笑顔が怖く見えるのはなんでだろう?
まるで、
「この役立たずが!」
と、言われてるような・・・
いや、気のせいだ気のせい。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
さて、まずは長門・古泉チームから。
やっぱりカレーか。このこうばしいにおいがいいな。
いつものように、少し量が多いような気がするが。
「隠し味にスモークチーズを入れた。よかったら、このスモークチーズにつけて食べて」
「うわっ!本当においしそうだねっ!これ、二人で作ったの?いっただっきまーす!うーん、おいしい!」
鶴屋さんの顔を見てたら、こっちまで食べたくなるな。
食べ物のCMにだしてみるといい。
間違いなく売れるぞ。
ところで、ハルヒまでなぜ食べてるんだ?
お前はオーナーだろ。
 
あれ?それにしても、朝比奈さんはどこに行ったんだろう?
さっきまでいたはずなのだが・・・
 
「僕は、デザートを作らさせていただきました」
と言って、古泉が取り出したのが、パフェの上にスモークチーズを乗せたもの。
「うーん、こっちもおいしい!一樹君天才!やるねー!」
まさしく、ムシャムシャという擬音語になりそうな食べ方だ。
「めがっさおいしいよ」
鶴屋さんがそう言うと、ハルヒが、
「今なんていいましたか?」と聞き返した。
まるで、聞こえたけどもう一度聞きたいような言い方で。
別に、聞き返す言葉でもないと思うんだが。
「めがっさおいしいて言ったのさ!」
するとハルヒが、真正面に視線を固定して、
「めがっさおいしい!」
そう叫んだ。
何がしたいんだろうな?こいつは。
 
そして、俺もその視線の先をみようとしたその時。
「キョンくんキョンくん」
朝比奈さんの呼ぶ声が聞こえてきたので俺はそちらに振り向いた・・・
どこにいたんですか?そう聞こうとしたのだが・・・
そこにはなぜか、緑色のむちゃくちゃ長いウィッグをつけた、朝比奈さんが・・・
この人も何やってるんだ?
そう思ってると、
「スモークチーズはあるかい?」
朝比奈さんが、訊ねてきた。
「・・・ここにたくさんあるじゃないですか・・・」
「にょろーん」
・・・・・??
なぜかハルヒと鶴屋さんは爆笑している。
何が面白かったなんて俺には分からない。分からなさ過ぎて混乱する。
 
「じゃあ、次はキョン・みくるちゃんチーム」
そうハルヒが言って、朝比奈さんがとりだしたのが、スモークチーズの間にトマトやらレタスやらを挟んだ、
まあ、いわゆるスモークチーズ版サンドウィッチみたいなものだった。
ほほー。なかなか、おいしそうじゃないか。さすが朝比奈さん。
「おおー!!こっちもめがっさおいしいよ!これみくるが作ったの?みくるって料理できるんだね!!」
そういや、文化祭のときは、朝比奈さんは調理係じゃなかったんだよな?
調理係になってれば、もっとおいしかっただろうに。
 
ところで俺は、実は言うと朝比奈さんの言われたとおりにやって作った料理が一品だけある。
おいしいのかどうかは分からない。
その名も、
「どうぞ、スモークチーズティーです」
はっきり言って、まずいとしか思えない。
でも、朝比奈さんのあの笑顔でお願いされて断れるわけがないだろ。
なっ?そうだろ?
そんな俺を誰が責められよう・・・
いや、だからといって、朝比奈さんを責めちゃあダメだぞ。
その時の朝比奈さんが何かたくらんでいるような気もしたが、気のせいだ気のせい。
 
「スモークチーズティー?」
鶴屋さんがじろじろこっちを見ながら、そんな疑問形を言ってきた。
鶴屋さんらしくありませんよ。
「はい、スモークチーズで作ったお茶です」
自然と俺は笑顔になる。
まあ、いわゆる笑って許してってな・・・
 
「ユニーク」
反対側から小さい声が聞こえる。
「これはこれは、あなたが作ったのですか?」
うるせー古泉。
ああそうだよ、俺が作ったんだよ。
 
鶴屋さんはその後、何秒かスモークチーズティーを見つめ、
そして勢いよく、全てを飲み干した。
静かな調理室にゴクゴクという音だけが聞こえる。
「………」
無言。
「………」
あの鶴屋さんが無言。
「………」
あの・・・そろそろ何か喋ってくれませんか?
 
「あっ!ごめんごめん、いやー、なんか言葉に表せないあじでさー!」
でしょうね。
「いや、でもいいよこの味!最高!」
お世辞ですか?
「いやいやホント。もう残ってないの?もう一回飲みたいんだけど」
はっきり言って、今の俺には鶴屋さんの言葉がお世辞としか思えないんだよ。
だから、こう言ってみた。
「分かりました。もう一度作ります」
こう言ったら、「いや、それは・・・」とか言うと思ったんだよ。
「本当に!じゃあ、作り方も教えてよ!!」
あれれ?もしかして、本当にお世辞じゃなかったのか?
そして、俺がもう一度作ろうとしたその時、ハルヒが、
「ちょっと待って、そろそろ判定してちょうだい。鶴屋さん」
「そうだねっ!じゃあ決めるよ!」
 
やれやれ。ようやく料理対決終了か。
「判定は!」
ハルヒの威勢のいい声が鳴り響く。
そして、鶴屋さんは・・・
左手を挙げた。
 
「キョンとみくるちゃんチームの勝ち!!」
な、なんと、勝ってしまった!!
いやー、これも全て朝比奈さんのおかげだ。
とりあえず、相手チームの表情を伺ってみるか。
古泉は、いつもと同じだな。
長門も、いつもと同じ・・・・・?
いや、どこか悔しそうだ。
 
「じゃあ、これにて第一回料理対決は終了よ!」
ハルヒがどこに言ってるか分からない声で、そう言った。
第一回って、次もあるのかよ!
そして、全員解散しようとしたその時。
「ちょっと待ってハルにゃん。まだ終わっていないにょろよ」
ん?なんかあるか?もう料理は残ってないぞ。
 
「勝ったチームにプレゼントにょろ!」
ほほー、わざわざそんなの用意していたのですか・・・
わざわざすみません。
と、思ったその時、俺だけにプレゼントが渡された。
 
さて、そのプレゼントがなにかは省かせてもらおう。
とりあえず、そのプレゼントがもらえた瞬間、古泉の携帯が鳴ったとだけ言ってやる。
俺個人で言えば、ちょっとうれしかったけどな。

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最終更新:2020年08月26日 21:13