俺が涼宮ハルヒと出会ってどれくらいの月日が経過したのだろうか。
コレまでも、寝てる間に閉鎖空間に連れ込まれたり、時間を巻き戻されて
何度も八月を体験したり……
寝起きドッキリには多少どころか多分に耐性が出来ていると思っていたのだが……
「何だコレは……」
――――目を開けるとそこは不思議な世界でした
どこのジブリかと自分自身に突っ込みを入れたくなる。
さて、冷静に現状を整理してみようか。まず第一にここは俺の部屋じゃない。
カレンダーも、MDプレイヤーも、更には教科書までもがこの空間には存在しない。
ログハウスのような木の質感がはっきりと見て取れるこの部屋にあるのは
俺が今まで寝ていたこのベッドと、壁にかかっている地球のものかもわからない不思議世界地図、
後は小さな、洋服いれとも小物いれともつかない棚だけだ。
第二に、起こしに来た妹の服装が、少なくとも一般的な日本人が着るようなものではなくなっている。
例えるなら、カカリコ村のコッコ姉さんみたいな服装とでもいえばわかりやすいだろうか。
わかりやすくなくとも今の俺にはそうとしか表現できないな。

「ほら、キョンくん早くー。ごはん冷めちゃうよー?」
わかったわかった。今から行くから先に行ってなさい。
はーい、と間延びしたいつも通りの声で返事をして、俺の部屋の戸を閉めると、
妹のとたとたと階段を降りるような足音が聞えてきた。
少なくともここは二階建て以上らしい。
階下に向かうとそこにはまた見慣れない光景が広がっていた。
両親の姿には変わるところがないのだが、家も、食事のタイプも全く違う。
ここで食パンにシリアルでも出てきたのなら俺はもっと安心できたろうに、
今朝のメニューは見たこともない魚の丸焼きにキノコや木の実のサラダだった。
……不味くはないが、なんともいえない不思議な感じがした。
さて、部屋に教科書がなかったから俺は学校に行かなくても良いんだよな?
食事のメニューから考えるに畑仕事や魚捕りはやらされそうだが。

「キョンくんは今日から『まおー』をやっつける冒険にいくんだよね?」
妹よお前は何を言っているんだ?まおーはやっつけるものじゃなくて
スケートリンクに見に行くものだろう。……我ながら寒いギャグを思いつくものだ。
オヤジ選手権があればコレだけでトップスリーには食い込めることだろうきっと。
「えー?キョンくんこそ何言ってるの?剣も買って、一緒に冒険に行く友達も見つけて、
昨日あんなに張り切ってたのにー」
やれやれ、俺の知らないところでストーリーはそんな風に進んでいるらしい。
この世界の異常の心当たり。まぁ心当たりも何もこんなことが出来るのは俺の知る限りハルヒしかいない。
どっかの学園ギャグマンガみたいに今までの生活全てが俺の夢だといわない限りな。
この話の筋書きを書いたのはハルヒだ。そうするとこの流れに乗っかればそう遠くないうちに
ハルヒに出会うことは出来るだろう。乗り気はしないが、
ここはとりあえずその“お友達”とやらと合流して冒険の旅に出るとしようか。
まずハルヒに出会わないと話が進まない。魔王と戦うなんてのはゴメンだけどな。

剣とかいう凶器を取りに一旦部屋に戻り、
タンスの中から見つけた友達との待ち合わせの場所を書いたメモと
薬草(らしきもの)を道具袋にねじ込んだ俺は、『世界樹の森の広場』なる場所を目指した。
村のヒトに話を聞くとそこは村を出て北東に行ったところにあるらしい。……魔王に村人に
タンスから薬草、いよいよ世界がドラクエめいてきたな。
もしかして道中、モンスターなんかが出てきたりするのか?
善良な一般高校生に生き物の殺生なんかさせるなと言いたいね。どっかの愛護団体から訴えられてしまうじゃないか。
物語的に運が良いのか悪いのか、目的地の広場へと続く道程にモンスターが出てくることはなかった。
……まぁ遠くにそれらしき影はチラチラと伺えたのだが、そこは上手くスルーしてきた。
目立たないことと現状維持は俺の得意技だ。
驚くほどスムーズに広場へと到着し、後は友達とやらの到着を待つことになった。
ここに来てふと疑問が浮かぶ。なぜハルヒは眠っている間にこんな世界を作り出してしまったのか。
今までのケースから見ると、ハルヒはこの世界の住人になることを強く願ったということになる。
たしかにハルヒの望むカタチではなかったかも知れんが、SOS団の面々でわいわい遊ぶのに
大分満足していたと思うのだが。俺にはハルヒの気持ちがこれっぽっちも想像できないね。

森の、そう遠くない場所から、ざっ、っと足音のようなものが聞こえた。
俺は腰に引っ下げた剣に手を伸ばしつつも広場の木の陰に隠れて、足音の聞こえた方を伺った。
……人影が見える。
例の冒険の“友達”か?
いや、遠すぎて判断できない。
仲間の可能性は高いが、同様に敵――つまりはモンスター――である可能性も否定できない。
見慣れない世界だからこそ、不測の事態に備えて最大限の警戒を。
それにしてもあの人影が仲間だったとして、それが谷口だったらイヤだな。
頼りないことこのうえない。
無駄なことに俺のささやかな脳細胞が活動をしている間に、
その人影は俺のほうへと大分近寄ってきていた。
……はっきりとは見ていないが、あの体格なら女だな。
露出の多い服装だから、俺のゲーム知識から考えうる役職からして女戦士といったところか?
武器の携帯は見られない。
どうやら向こうに敵意は無いようなので、
警戒はしつつも俺は木の陰から一歩足を踏み出した。

―――そこにいたのはハルヒだった

いつか会うだろうとは思っていたがそれがこんなに早くに実現してしまい、
俺はひどく狼狽した。
しかしそれは向こうも同じ様子、きっとハルヒも俺と似たようなことを考えていたのだろう。
「なっ……ハルヒ!この世界は何なんだよ!?」
「そんなの私にだって解るわけないでしょ!」

そうだった。古泉曰く、コイツは自分に力の実感のない不完全な神様みたいなもんだったな。
コイツに聞いたところでことの真相が解るわけでもない。
さて、これからどうしようか。
「そんなの知らないわよ。あたしだって朝起きたらいきなりこんなになってるし、
一体世界はどうなっちゃってるわけ?」
根本の原因はお前にあるんだよという発言を喉の奥に飲み込み俺は軽く思案してみる。
「とりあえず長いものには巻かれるということで一緒に旅でもしてみるか?」
「なんでキョンなんかと一緒に旅をしなきゃ行けないのよっ!それにアンタどことなく
弱そうだし、モンスターに会ったら一発でやられそうじゃない」
ぐっ、戦いを避けていた俺としては全く否定ができない。
しかしそういうお前はどうなんだ?見たところ戦士っぽいが剣も何も持っていないじゃないか。
「私は武闘家よ。アチョーってなかんじで敵をバシバシやっつけちゃうわけ」
なるほど合点がいった。モンスター相手にドロップキックを笑顔でぶちかますハルヒの姿が
容易に想像できる。
それにしても衣装と役職が全くかみ合っていないな。まぁお前らしいといえばお前らしいが。
「一応タンスの中に武闘家の服もあったんだけどね、可愛くないからやめたのよ。こっちのほうが
私としては気分が出るし」
それはわかった。で、結局行くのか行かないのか、どっちなんだ?
「行くわよ。アンタがココにいるってことは、有希やみくるちゃんや古泉くんもどっかに
いるかもしれないし、SOS団異世界支部の結成ね!」
……非常に心強い反面、非常に不安だ。予測される多難な前途に俺はこの言葉を送りたいと思う。

―――やれやれだ


~To be continued?~

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最終更新:2007年01月15日 08:07