それはなんでもないいつもの会話から始まった。ここはSOS団の部室で、谷口も国木田も休んだ俺は1人で教室で弁当を食べることが恥ずかしくて逃げてきたんだ。
そしたら長門が本を読んでいて、弁当を食べ終わった俺は無意識に話しかけていた。
 
「長門、その本は面白いのか?」
「ユニーク。」
 
まさにいつもの会話だと思う。ここまでは。
なにせ前にも同じような会話をした記憶があるしな。しかし何も考えていない今日の俺は一味違う。
 
「たまには違ったジャンルの本でも読んでみたらどうだ?」
「……?」
 
長門は数ミリ首を傾げて、何を言ってるのか分からない、というような表情を俺に仕向けてきた。
俺は少し考えて言った。
 
「恋愛物の小説でも読んでみたらどうだ? 人間の『恋愛をする』って感情がわかるかもしれないぞ?」
「そう。」
「それに恋愛小説ってのは曖昧な感情を意外と的確な表現で表してくるからな。情報の伝達に齟齬が発生しにくくなるぞ。」
「そう。」
 
言葉だけだと流されているように感じるが、長門は俺から目を離さない。意外と興味があるようだ。
 
さて、俺の手元には昨日買ったばかりの新刊の恋愛小説がある。今話題の小説で、なかなかのヒット作だ。少し読んだが、なかなかの面白さだった。今日明日中には読み終わるだろう。
もちろん、昨日恋愛小説を読んだから、長門にも恋愛小説というものを進めたのである。
ならば俺は読みかけのこの本を貸すべきなのか。読み終わってから貸せば良いのか。いっそのことあげて、新しいのをもう一度買おうか。
 
「長門は今読み終わってない本をどのくらい持ってるんだ?」
 
今長門が読んでいる分厚い本を軽く持ち上げた。
 
「それだけか?」
「そう。」
 
そうか。見ると、いつのまにか閉じられた分厚い本の終盤にしおりがあった。もう読み終わりそうなのか。
 
「じゃあ、それ終わったらこの本を読んでみてくれ。長門に合うかはわからないが、中々の面白さだったぞ?」
「そう。」
 
長門は俺にしか分からない程度に嬉しそうな表情をした。長門の嬉しそうな顔を久しぶりに見た俺も少し嬉しくなって、
「じゃあその本はやるから。俺はもう行くぞ。じゃあまたな。」
と言って退室しようとした。
 
「ありがとう。」
そう長門が言ったのを俺は聞き逃さなかった。俺は長門が感情を表現する方法を身に付けてくれればいいな、なんて思っていた。
 
教室に戻った俺は谷口と国木田がいないとハルヒしか話す相手がいないことに友達の少なさを実感してふて寝した。
起きるといつも通り放課後。部室に向かい、長門が薄い文庫本を読んでる以外には何ら変わりのない活動をし、帰宅した。
 
そして学校の帰りに俺は本屋で同じのをもう一冊買って、家に帰って読んだ。
その恋愛小説の内容はこんな感じだった。


 
中学生の男女の恋の話。ある女が仲の良い男と良く一緒にいるので、クラスで「付き合ってるんだろ」とか「お前ら夫婦なんだろ」とかよくバカにされていた。
実際当事者は男女とも恋愛感情はなかった。子供の頃から一緒に遊んできただけにお互いを異性として見たことがなかったからだ。
クラスのみんながバカにしなくなったころ、女と男はやや会話が減ってお互いに違う異性と話すようになってきた。
そしてお互いに、いつも一緒にいる人がいない違和感に悩まされるようになっていく。
 
そして、女が、男が異性と話しているのを見て、何でそこで話しているのが自分じゃないのだろうと嫉妬し、いつにも増して男と一緒にいるようになる。
その頃には女はその嫉妬が恋であることを自覚している。しかし純情な感情がそれを表にだせない。
 
人に相談できない女は1人で考え、押したり引いたり色々な手段を使う。
鈍感な男を振り向かせるためにずっと一緒にいる女の不器用なアプローチで男を振り向かせるまでの物語である。
最後に男が、『そんな不器用なお前の事を好きになったんだ』と言って終わるハッピーエンドのラブストーリーだ。



 
物語自体は普遍的なのだが、この作品は状況や感情の描写が非常におもしろい。ユニークかつ的確な表現をしている。
そういった作品の雰囲気がヒットしている理由だろう。
 
読み終わって満足した俺はすぐに寝てしまった。




 
翌日学校へ行くと、谷口と国木田がいた。
「なんだ? キョンは俺たちがいなくて寂しかったのか?そうか、お前も可愛いところあるじゃねーか。」
「何を言っての谷口。キョンには涼宮さんがいるから寂しくなんてないはずだよ。」
こいつら……。無視して席に着こう。
 
「よう、ハルヒ。」
「ふん!」
 
何を不機嫌なんだコイツは。
 
「聞いたわよ! あんた有希にプレゼントあげたそうじゃない。」
 
プレゼント? そんなのあげたか? それに何故、お前が不機嫌になるんだ?
 
「有希、昨日嬉しそうに本を読んでたじゃない。帰りに聞いてみたらあんたにもらったって言ってたわよ。」
「ああ、小説な。あいつにはもう少し感情豊かな人間になってほしかったんだ。お前にもやるよ。」
 
そういって俺は昨日読み終わったばかりの小説をハルヒにあげた。
 
「なんであんた同じの持ってるの?」
「いや、その場のノリであげちまったから後で読みたくなってな。帰りに同じの買って帰ったんだ。」
「バッカじゃないの?」
「いいから読んでみろって。 ハルヒもそんな恋愛してみたらどうなんだ?」
「うっさい! バカ!」
 
そういって俺から本をひったくる姿には不機嫌さは幾分か減少していた。
どうやらハルヒは授業中にずっと本を読んでいたらしく、珍しく平穏な一日だったと思う。
 
授業が全て終わり、さて部室に行くか、を鞄を持ったらハルヒはまだ本を読んでいた。
「ハルヒ、行かないのか?」
「もう少しで終わるから先行ってて!」
 
なるほど確かにあと少しだ。それに、なんだかんだでハルヒも気に入ってくれたみたいだ。長門はどうなんだろう。あいつの事だから読み終わってないことはないだろうが、気に入ってくれたかは微妙だと我ながら思う。
考えながら歩くといつもより早く部室に着いた気がした。ノックをして、エンジェルボイスを聞いて中に入り、お茶をもらう。
いつも通りな気もするが、何か違う。
 
朝比奈さんが、長門の席で小説を読んでいて、長門が俺の隣に座っている。古泉はいない。
「キョンくん、この小説わたしも借りていいですか?」
朝比奈さんがメイド服のまま違和感なく小説を読んでいて、ふとこちらを見上げて言った。
「それは長門にあげたんで、長門に聞いてください。」
「じゃあ長門さんはかしてくれるって言ってたので借りますね~」
 
朝比奈さんは本を呼んでいても似合うんだななんて考えていると珍しく古泉とハルヒが一緒に来た。
「ではこの本はお借りいたします。ありがとうございます、涼宮さん」
なぜ古泉までその本を! まあハルヒであることはわかっていたのだが。こんなにも凄まじい勢いでSOS団に小説が浸透していくとは、さすが文芸部室を根城にするだけはある。もちろん関係はないが。
古泉は朝比奈さんが同じ本を読んでいる事に気付き、談笑している。
 
ハルヒは俺と、俺の隣に座っている長門を見て不機嫌そうな表情を見せ、
「ああ、有希も読んだのよね」
なんて言って俺を長門で挟むように反対側に座ってきた。
申し合わせたように長門も軽く不機嫌そうな表情をみせる。
 
「おやおや、では僕と朝比奈さんは家に帰って団長オススメの本を読むのでこれで失礼します。」
「じゃあキョンくん、がんばってください」
古泉と朝比奈さんは笑顔で逃げるように去っていった。
 
「じゃあ3人じゃあ何もできないから解散するか。」
俺の発言に対して長門がすぐさま
「帰るのは私1人。あなたがたはまだいるといい。」
と言い放った。ハルヒが一瞬うれしそうにしたあと、
「いいえ、あたしが帰るわ! ゆっくりしてってちょうだい」
なんて言うもんで、俺はそんなに嫌われてるのか、とショックを受けつつ3人で帰る事を提案した。
 
そうして三人は無言の気まずい雰囲気のまま帰路に着いた。あんなに俺といることを拒絶してた2人は何故か俺に近かった。距離が。
 
夜になり、寝ようと思った頃に古泉から電話がきた。
「もしもし」
「何の用だ?」
「いえ、お伺いしたいことがございまして。」
「俺は眠いんだ、急ぎじゃなければ明日にしろ。」
「おや、そうですか。今日の涼宮さんと長門さんの様子についてですが、たいして急ぐわけではないので…」
「説明しろ。今すぐだ。」
 
俺は起き上がり、真面目に聞く体勢を整えた。今日のハルヒと長門がいつもと違って見えたのは俺だけじゃなかったのか。
 
「率直に聞きます。今日はお二方ともあなたに対しての態度が変動的じゃあありませんでしたか?」
「そうだ。俺を拒絶したかと思えば帰りによりそってきたり、よくわからん。」
「なるほど。僕が思うに彼女たちは小説の女性のようにあなたにアプローチをしかけてきているのですよ。」
「意味を理解しかねる。」
「僕と朝比奈さんが帰る直前にあなたと長門さんと涼宮さんがならんで座ったときに、お二方が不機嫌になったのはご存知で?」
「確証はないがそう感じはした。」
「そこで、あの小説の女性のように嫉妬による恋をお二方は確信したのですよ。それで小説の女性のようなアプローチをしかけたと。」
「なるほど、経緯はわかったが、理解しがたい話だな。」
「信じる信じないはあなたの自由です。」
 
古泉によると、本を読んですぐピンときたらしい。そして朝比奈さんに連絡を取ったところ、同じような感想をもらったと。
朝比奈さんに夜中に電話をかけるなんて、あの可愛らしいエンジェルフェイスに肌荒れができてたら古泉のせいだ。夜更かしは美容によくないからな。
 
翌日のハルヒは学校に着いてからSOS団のアジトへ行くまで俺から離れようとしなかった。不機嫌でも上機嫌でもなく、ただたんたんと俺の近くに。
昼も今日に限って弁当だったハルヒは俺を連れてここ、文芸部室で一緒に食べた。もちろんデフォルトで文芸部室にいる長門もいて、一緒に。
放課後である今までずっと俺にくっついているハルヒはなるほど、確かにあの小説の女性のようであった。性格は違うがアプローチの仕方がにていたのだ。
長門に至っては放課後になってからというもの殆ど会話のないまま俺から離れようとしない。
 
朝比奈さんと古泉が笑っている。なんだろう美女2人に囲まれているのにこの敗北感は。
「美女が2人もあなたに小説のように恋をするなんて、あなたが羨ましいですよ。」
俺は朝比奈さんと2人で話しているお前のほうが羨ましい。というかそんな事この場で言うな! ハルヒと長門にも聞こえてるぞ!
「SOS団で小説のような恋と昼ドラのような修羅場が見れる予感がするわ!」
ハルヒは物騒なことを言うな!
「そう。」
肯定するな!
「ほえぇ~」
朝比奈さん、それはどんな感情なんでしょう?
 
「ところで、あなたに恋心を気付いてもらうために小説の女性のような振る舞いを見せているお二方ですが、もう本人も気付いていると思いますのでどっちをとるか選ばせてみてはどうでしょう?」
古泉は俺を殺す気だ。ならばやられる前に殺してしまおう。
「ほえぇ~」
 
このままじゃあ危険な流れだ。
「俺は良く恋愛感情なんてものは理解できないから選べと言われても選べないぞ。それでも選べなんて横暴なことをいうやつは俺は好きにはなれないだろうな。」
「……。」
「うぐっ」
長門とハルヒが言いあぐんだ。これで俺にうかつに手を出せまい。実際俺に選ぶことなんてできない。恋愛感情ってものがよくわかってないからな。
 
「有希、ちょっといい?」
「いい。」
長門を連れてハルヒは部室から出てった。俺はチャンスとばかりに古泉に文句言ってやった。
 
「それは申し訳ありませんでした。それでもいずれあなたは選ばなければならないのですよ?」
「うるさい。そのときになったら選ぶ。」
「ですからそのときを作ってあげたじゃないですか。このままではあなたは近い将来に選ばなければならないときに同じ事をしてしまいますよ?」
「今の俺には恋愛感情なんてもんはよくわかってないんだ。恋愛なんて俺の好きにさせてくれ!」
「そうですか、ではそうしましょう。」
 
帰りはハルヒが古泉を誘って二人で帰った。捨てゼリフの様に明日の探索は中止、と言ってきた。
俺は長門に誘われて長門と二人で帰った。俺は明日が土曜日なのを今知った。それほどてんぱっていたのだろう。
朝比奈さんは少し寂しそうに1人で帰った。後姿はさらに寂しそうだった。
 
そして夜に携帯がなる。
「待ってたぞ、古泉。」
「おや、待っていてくれるとは光栄です。」
「今日の帰りの現象はなんだ?」
「おそらく、ですが僕の予想では涼宮さんと長門さんは『押し』と『引き』を決めているようです。」
「よくわからん。俺にわかるように話せ。」
「涼宮さんは、僕といることによってあなたに寂しさを覚えさせようと考えた。これは涼宮さんらしい、あなたが涼宮さんの事が好きという自信がないとできない行動ですね。」
「多少は理解した。長門は?」
「ですから『押す』という言葉の通りにあなたと出来る限り近くに居て…、いえ、というよりは長門さんは涼宮さんに『押し』と『引き』を提案されたときにあなたと一緒に居たかったから『押し』を選んだのでしょう。」
「よくわからんがわかったことにしておく。ところで俺は明日長門に誘われたんだがお前はハルヒといるってことか?」
「ご名答です。涼宮さんには『嫉妬させるようにうれしそうに伝えといて』と言われたのですが、その通りにするとあなたは暴走するか、嫉妬しないで僕たちを祝福してしますと考えたのでこのような伝え方をしました。」
「わかったよ。そういえばお前は俺とハルヒをくっつけたいんだったな。」
「その通りです。ですから暴走も祝福もしないでほしかったので説明したまでです。」
「まあムダに俺のためとか言われるよりもよっぽど信用はできるがな。」
「ありがとうございます。」
 
そうして夜は更けていく。




 
昨日早く寝たせいか、長門と約束した時間が早かったのか今日は早く目が覚めた。妹が起こしに来たときにはすでに外出できる準備が整っていた。
「キョンくんでかけるの? 連れてって~!」
そうだな、俺はお出かけだ。ふと妹も連れて行ったら長門も無茶しないんじゃないかとも考えた。が、長門だ。何をするかはわからん。
俺は妹が可愛いから心を鬼にして置いていくんだ、と心の中で言い、妹を無視して長門の家に向かった。
 
昨日長門に言われた通りに何も持たず自転車で向かう。見慣れた景色がやけに色あせて見える。
ハルヒと長門が全面戦争したらこのあたりは焼け野原になるんだろうな、何て妄想しながら周囲の景色を脳裏に焼き付ける。
あの2人の兵器が争わないためにはどうしたらいいんだろう。俺はどうしたいんだろう。俺はきっと現状維持したいんだな。
 
俺が望む現状維持に持っていくためにはどうしたらいいのか考えながら自転車をこぐとすぐに長門のマンションに着いた。
考えてる時間というのは、楽しい時間と同じくらいの速さで過ぎていく。
脳内会議での結論がでないまま長門の部屋にたどり着いてしまった。
 
「俺だ。」
「…。」
 
ガチャ。
 
「よう、待ったか?」
「いい。」
 
その後無言で通された俺はリビングのコタツに入った。
 
「あなたは早起きしたから今日は睡眠不足のはず。私の膝の上で寝るといい。」
長門よ、もしかしてそのために今日早い時間に指定したのか?
「俺は昨日早く寝たからそんなに眠くないんだ、すまんな。」
ふう、長門は頭がいいからどんなトラップをかけてくるかわからない。
ただ、俺がトラップにかかりハルヒに知られると修羅場になることは間違いなさそうだ。
 
「なら私が寝る。膝を貸して。」
ちょっと待て! と言いたいが、それくらいならイイだろうと思って貸してやる事にする。
「わかった。ゆっくり休んでくれ。」
 
長門が寝ている間にいろいろとゆっくり考えよう。
これからどうしようか。長門が起きたら図書館に連れて行くか。とりあえずそれで今日は何とかなるはずだ。
明日以降ハルヒにはどう接しよう。ハルヒにはいつも通りでいいか。何も気にしないでハルヒが小説の事を忘れるまで待とう。
ハルヒと長門がぶつからないために朝比奈さんを選んだらどうなるだろう。いや、共同戦線を張られたら人類が滅亡する恐れもある。
長門はもしかしたらこの状況を楽しんでるだけじゃあないのか?
 
そんな事を考えていると長門にしては珍しく寝息を立て始めた。長門が寝ている所を見るのは初めてかもしれない。
考え事をしている時間は恐ろしいほど早くながれ、時間に余裕がある今は楽観的な事しか考え付かないものだ。
俺が考えていた今後の事はきっと実際は役には立たないだろう。
 
それにしても、寝ている長門も可愛いな。頭を撫でてやろう。起こさないようにな。
俺は長門を起こさないように最新の注意を払いながら頭を撫でた。
 
どれくらいの時間がたったのだろう。俺の脚は感覚が無くなるくらい限界を迎えていた。
長門を起こすのは忍びないので、俺は起こさないように慎重に近くの座布団の上に長門の頭を乗せた。
 
「ふぅ。」
 
ため息をついてから足を伸ばし、横になった。長門はスヤスヤ寝てるんだろうな、と思っていると俺も眠くなってきた。あれだけ寝たのにな。
寝ても長門の家だし、長門にはあまり迷惑をかけないだろう。それに長門自身寝てたし、俺ももう寝よう。おやすみ…







 
「おきなさい!!!」
 
誰だよ、眠いな。もう少し寝かせてくれ。
 
「起 き ろ !!  バ カ キ ョ ン !!!」
 
え!?? ハルヒ?? また夢か?
あれ、起き上がれない。仕方ないので目だけ開けて様子を伺う事にする。
 
そこには何故か俺に添い寝した長門、その上には怒り心頭に顔が真っ赤の鬼、ハルヒ。そういや奥の方で困った顔でにやけてる古泉がいたな。
「長門、起きろ。朝だぞ。」
「朝じゃないわよ! 夕方よ!!あんたたち昼間から何してたのよ!」
「もう夕方か。何してたんだっけな。長門、夕方だ。起きろ。」
 
長門はコタツの中でモゾモゾ動き、眠そうに言った。
「朝してたように、頭を撫でてくれたら起きる。」
しょうがないな。少しずつ頭が覚醒してきたのを感じ、長門の頭を撫でてやる。
「あんた達朝から何やってたのよ!」
「ちょっと待ってくれハルヒ。今起きたばかりなんだ。少し落ち着く時間をくれ。頭が覚醒してない。」
 
長門の頭を撫でながら古泉にお茶をいれてくれ、と頼んでお茶の到着を待った。
「ところでハルヒ、何でここにいるんだ?」
「有希と昨日、この時間に報告会をする約束したのよ!」
じゃあ何で古泉がいるんだ?とは聞かないし聞けない。
「そう。」
長門よ、起きたなら起き上がってくれ。もう手がしびれた。
「そう。」
 
お茶を入れた古泉がテーブルに並べると、ハルヒはコタツを挟んで俺の正面に座り、俺の右に古泉が着席した。
長門は今度は再び俺の膝の上に頭を乗せている。俺は無意識に頭を撫でている。
「朝比奈さんはどうしたんだ?」
古泉によると、声をかけてすらいないらしい。1人寂しくお留守番か。最近の朝比奈さんは影が薄いな。
「で、俺は何に答えればいいんだ?」
「だから、朝から、何していたのか、よ!」
そんなにどなんないでくれ、と言った後俺は今日の出来事を事細かに説明した。
長門は相変わらず膝の上に居て、しかも一言も発していない。
 
「あっそう。有希と2人でイチャイチャくっついてたんだ。」
「じゃあ一応聞いておくが、お前は古泉と2人で何をしてたんだ?」
 
古泉はそんな俺の言葉に満足したのか、安堵したようなニヤケ面をし始めた。
ハルヒは待ってましたとばかりに『フンっ』と鼻を鳴らし、
「あんたには関係ないでしょ? 気になるなら教えてあげてもいいけど?」
と言った。正直想定の範囲内なのであまり気にならなかったが古泉の嘆願するような顔に負けた。
「じゃあ気になるから言ってくれ」
そういうとハルヒは今日の出来事と思われる事を1人でずっと説明してた。古泉は苦笑い。
俺は長門の頭を撫でてハルヒの発言を右から左に流してた。頭を撫でるたびに見せる長門の表情が可愛い。
 
ハルヒの話が終わる頃には俺は長門の頬を軽く引っ張ったり撫でて遊んでいた。長門は嫌そうな顔をせず、というかほぼ無表情なのにどこと無く嬉しそうな顔でいた。
そして完全にハルヒが話を終えたときにようやく俺は口を開いた。
 
「そうか、そんな事があったのか。」
正直、まったく聞いてなかった。長門が可愛くて見とれていた。
「ちょっとキョン! 何で嫉妬とかしないの?」
「俺は普段どおりのSOS団が好きなんだ。みんながバカやって、仲良くやって、楽しくやっていきたいんだ。ハルヒと古泉が仲良くなってなんで嫉妬するんだ?」
ハルヒの怒りのボルテージが上がるのがわかる。
「ついでに言えば、俺は今は恋人を作る気はまったくない。恋人を作ってSOS団の楽しいひと時を壊したくないからな。
今回の騒動で朝比奈さんは今日は一人ぼっちで寂しい思いをしてるかも知れない。俺はSOS団のみんなで仲良く遊びたいんだ。」
「あなたの口からそんな言葉が出てくるとは思いませんでしたよ。前に涼宮さんに、SOS団なんか辞めて普通に恋人作れと言った人の発言とは思えません。」
古泉よ、お前はあくまでハルヒの味方なのか。
「ハルヒだって恋愛は一種の精神病と言ってたしな。人の考えは変わるのもだ。変な言い方かも知れないが、俺の恋人はSOS団だ。そして団員全員だ。」
 
そういって長門に起きるように促し、俺がいかにSOS団にいることが楽しく思っているかを熱弁した。
ハルヒは納得したようなさせられたような表情をして、古泉はニヤケたまま、長門は俺によりかかって幸せそうにしていた。
「わかったわ! 今回はおとなしく引き下がるわ! 明日からはたっぷりこき使ってあげるから覚悟しなさい!!」
ハルヒは笑顔でそういい、その代わりにSOS団に飽きたら付き合いなさいと言って来た。そこを俺は無視して
「じゃあ明日からは今まで通りに戻ってくれよ」と。
でも長門はハルヒの言葉に反応してとんでもないことを言った。
「あなたが彼と付き合うことを確約するのなら私は今夜彼を帰さない。」
やめてくれ、争いは。俺は確約はしない旨を必死で長門に説得し、また不機嫌に戻っているハルヒにSOS団将来的にはお前が恋人かもな、とごまかすとすぐに笑顔になってくれた。
ハルヒは結局満足して古泉を連れて帰っていった。
 
俺は長門の家に一泊した。長門は寝るまで膝に頭を乗せて本を読んでいた。起きたらまた抱きついていた。変なことは決してしていない。
ハルヒにはあんなことを言ったけど、膝枕してるときの長門の表情見たら長門以外考えられないんだろうな、なんて考えてた。
そうして考える時間に余裕ができた俺はハルヒが小説の事を忘れていることを祈り、俺に対して恋愛感情以外のものを抱いて欲しいと思いながらとりあえず長門といる今を満喫している。

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最終更新:2020年03月15日 19:15