何故、飛ぼうと?
「――――空が」

「空が、見たかった」
見ればいい、いくらでも。
見上げればあるじゃない。
「違う」
なんで首を横に振る。
なんで未練がましい目つきをする。
「私は、私の空が見たかった」
は?
「私は、私にしか出来ないことがしたかった」
やったじゃないか。
「…………」
真似出来ないよ。
新しい世界樹を創り出そうとして、国民を皆殺しにした。
挙句自分だけは生きている。
屍の上から見た空はどうだい?
綺麗かい?
喋りなよ。
なんで黙る。
なんで黙る権利があると思っている。
お前に出来るのは懺悔ぐらいなものだろう。
はは!
霊鳥?
蝿だよねえ、王。
廃王。
過ちでも、罪ですらもない。
望んで殺したんだ。
進んで殺したんだ。
腐肉喰らいの悪王!
今も高いところにいる。
飛びたいのかい?
まだ、飛べると?
飛べないさ!
聞こえるだろう。
聞こえるだろう、その身の二つ分かたれた片側色から。
焼き付けられた翼の刻印がお前を呪ってる。
飛べもせず、落ちもしない。
お前は這うのだ。
這い王。
「――――それ、でも」
あん?
「それでも、私は、」
生きている、ってか。
空も見えない癖に。
何も見えない癖に。
何も見てない癖に。
何も見ない癖に。
生きているってか。
「生きている」
生きている!
ご大層だね、ご立派だ!
なんだって出来そうな金科玉条じゃないか?
笑えもしない癖に。
お前が鳥なのは、翼があるからじゃない。
曲がらない嘴を持っているからだ。
軽い骨。
脆すぎる。
鳥ってのは、本当に困る。
鳥の名に隠れるなよ、蝿。
蝿を名乗れよ。
鳥にさえ迷惑だ。
もう一つだけ言ってやる。
人を茶番に付き合わせるな。

/*/

「…………」

片方だけの立て膝に押し付けていた額から、血の気が失せて、感覚もなくなっていた。
シムルグは空を見上げる。青い空。
割れたまどろみの欠片は、その空に吸い上げられ、刹那ほどの余韻もない。
ねじくれた枝の上で、そうしてうたた寝から覚める。
朽木色の瞳は何も変わらない。
ただ、平たい。

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最終更新:2010年06月22日 11:33