シムルグは女である。そして女である以上に、異端である。見た目も、経歴も、中身も。何故ならシムルグは鳥だからだ。
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白と黒の格子模様を日本では市松模様と呼ぶが、ある種、シムルグは市松であった。
市松人形のように、という、言葉上の連なりで彼女……果たして彼女と形容していいのか、極めて疑問だが。というのもシムルグは性別に関心を持たない類の人格で、もっと言うなら生きた人間にまるきり関心を持たない人格だったからである……の容姿を形容したわけではない。
シムルグは黒であり白なのだ。
肌の半分は北国人の如く艶やかな白で、もう半分は南国人の日焼けた褐色よりも完全な漆黒。
漆と言えば東国だが、漆器のように、その半分の黒は肌が無機質に艶やかなのである。そして事実その黒にはまさに無機そのものの硬質が宿っている。
また、半分ずつが白くて黒いと言っても、体の真ん中を境に左が黒、右が白などと整然とはしていない。いや、規則性を持って整然としてはいるのだが、まるで紋様のように入り組んでいるから口では説明しづらいのだ。
この国では絶えて久しいシャーマンのような紋様が、それでもきっちり白と黒とで半々に分かれていると名言出来るのは、シムルグが酔狂にも自ら表面積を算出したり、また第三者が似たようなことをしたからではない。
シムルグは、己が白と黒とで半々であることを、自明の理として知っていたのだ。そしてシムルグを知る、ごく一部の人間たちも、また。
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現代日本に比べ、どこか古めかしい、けれど違いは激烈ではない、そんな国の、目立たぬ住宅街の近郊、丘の上、頂上の樹、上、ほったて小屋ならぬのっけた小屋。
それがシムルグの現在の住所であり、唯一この地の王より拝領する、彼女の領地であった。
最終更新:2010年06月22日 11:33