一本の樹が丘にある。丘というよりは崖の上で、崖というよりは崖っぷちに生えている、そんな樹。

名前は知らない。木肌がつるつるしていて黄色味がかっており、幹は太く、枝ぶりはうねってたくましく横に広い、そんな樹だ。

下生えのない、地肌が露出した箇所に立っている。背はそんなに高くない。精々が、枝の大きく分かれている部位までで、大人の背丈、一番高いところでもそのニ倍半。

だが、平たく広げた枝の中心、幹の真上には、粗末な木組みの小屋があって、どれくらい粗末かというと、まず床がない。幹の頭に直接人が腰掛けられる程度。

そもそもあまり大きな樹ではない、子供でも三人は並んで座るのに難色を示す床面積ならぬ幹冠面積だ。従って枝も山小屋に使うような本格的ログの重みに耐える太さがない。

だから壁も屋根も全部小枝の寄せ集めで、薄っぺらい。寝返りを打てば間違いなく何もかもが砕け散るちゃちさ。というより、繰り返すが、まず床が無くて次に下面積が狭いから、とても人が眠れない。

この時点で人が使う小屋の定義から、かなり遠ざかっている。

まるで止まり木のようで、そして事実この表現は的を得ている。

住むのは鳥で、この鳥の名を、シムルグと言った。

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最終更新:2010年06月22日 11:32