(五)



雨宮 カナ(11才)。ちょっとチビで痩せっぽっちな女の子。しかし、顔立ちは十人中十人は可愛いと評価するだろう。
そんなカナは遠い通学路をトテトテと歩いていた。
今日も学校嫌だったな。 彼女にとって、学校は憂鬱そのものだった。クラスの男子はイヂワルでイタズラばかりしてくるし、女子は強い子ばっかりで取っつきにくい。あまり喋らないまま一日を終えた。
そんなカナに最近楽しみが出来た。ナツメヤシ園にいるお友達。その子と遊ぶのが彼女にとって唯一の楽しみになっているのだ。
ナツメヤシ園の中に岩と岩の隙間に出来た洞穴。ひょこっと顔を覗かせる。

「オールーロー」

カナがそう呼ぶと洞穴の奥で四つ目が光る。のそっのそっと巨体が姿を表した。
二本足で立つその姿は怪物そのもの。体はアルマジロの様に固そうな鱗に覆われている。サイの角の様な三本指。目は四つ。頭には中央の長い角を始めに両脇にも二本角が生えている。口を開ければ鋭い歯が幾重にも連なっていた。
普通ならそんな怪物に出会ったら飛んで逃げるだろうが、この怪物こそが彼女の友達だったのだ。

「オルロ!寂しくなかった?今日ね、学校でお菓子貰ったから一緒に食べよう」

オウっオウっとオルロと呼ばれた怪物は喜びの声をあげる。
この一人と一頭はこの近くの砂漠地帯で出会った。オルロが砂漠で倒れているのをたまたまカナが見つけたのだ。
初めは逃げようと思ったカナだったが、その時、倒れているこの怪物が泣いている様に感じたのだという。彼女はおっかなびっくり水筒の水を飲ませてあげたのだ。それからカナは毎日会いに来ている。
お菓子を食べながらカナはオルロに話しかける。

「今日ねクラスの男の子がまたイタズラしてきたんだよー。何で男の子ってあーゆーことするのかなー」

ほんとは普通に仲良くなりたいのにな。
カナは少し考えて顔が曇る。

「カナ。ダイ、ジョブ?」

オルロはそう言うと心配そう顔を覗きこんだ。そう、オルロはカナと一緒にいるうちに言葉を覚えたのだ。カナに絵本などを読んでもらいながら一生懸命真似をして覚えて、今では簡単な会話ならできるほどである。

「心配してくれるの?ありがとうー。オルロは優しいね」

カナは気を取り直してカバンから絵本を取り出した。

「ジャジャーン!今日は『星盗物語』と『恐竜の足音』でーす!」

オルロは絵本が出てくるのを見て両腕をあげて喜んだ。いつものようにオルロはうつ伏せになりその上にカナがまたうつ伏せになる。ページをめくるのはオルロの仕事だ。
最初の絵本の内容は子供向けの活劇で、拐われた少女を返してもらう為に星を取りに行く少年の話だった。

「少年と少女はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」
「メデタ、シ、メデタシ。」

絵本が面白かったのかオルロは両足をバタンバタンさせている。
次の絵本は砂漠に暮らしている恐竜が海が見たくて旅に出る話。途中、人に会い心を教えてもらうのだ。

「恐竜の流した涙は海にまじり、涙は海を渡り世界を巡ったそうです」

オルロが指先で恐竜の絵ををなぞる。

「ボク、ミタイ、ダ。
カナ、ウミッテ?」
「海はねー、この島の回りを囲んでるおっっっ、きな水溜まりみたいなものかなー?ごめんね、うまく説明できないや」
「ボク、イッテミタ、イ」

ここからでは海は遠目に見ることしか出来ない。カナはオルロに間近で海を見せてあげたくなった。

「わかったわ、オルロ。明日の朝になったら二人で海に行こうー!」

オルロは、嬉しい、やった、とオウっオウっと鳴いた。 明日は二人でピクニックである。




(空馬)

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最終更新:2010年04月25日 16:55