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前書き

『 この物語を愛する偉大なる先人アンデルセンに捧ぎます。 
  貴方に愛を。 』


< Star duster >


やわらかな雪が、君に降る。
小さな体に染みる熱。
君から雪に渡る熱。

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きゅうと詰んだフェルト地のコート。
灰色の空に吐息が浮かぶ。
真っ赤なほっぺの君は空を見上げた。

/*/

売るべきマッチもないけれど、
ぶつようなお父さんもいないけれど、
あたたかいレンガのお家が待っているけれど、
――何故だろう。
こんな午前10時の街並みに、
胸の前が、ぎゅう、となる。

胸じゃない。
そこにないはずの体がいたむみたいに、
胸の前の、何もない空気が、
ぎゅう、って、いたくなる。

/*/

行きかう人はだれも顔を見合わさない。
大きな背たけの大人たち。
みんなから出る音は止まない。
なのに君には音が聞こえない。

空気を渡る、その音が。

サンタクロースみたいに真っ赤なミトン、
白い毛皮の房飾り、
夜海色のフェルト地の、詰んだコートに、
ふかふかの靴。

ひらひらと雪が君に降る。
小さな体に染みる熱。
午前10時の冷たさが、袖の上でとけて水玉になった。

/*/

君は吐息をくり返す。
灰色の空色。
何もない胸の前に、けん命に吹きかけるようにして、
しきりと手をこすりあわせながら、
ないものねだりをする子供のように、
けん命になって地団駄を踏んで、
体の熱であたためる。

胸の中が、さむくなった。

/*/

夕やけのない夕方に、
空は、君とおなじ夜海色を落としてくる。
雪にうずもれた街は白くかがやいていた。

空とおなじ色をした君は、
空を見上げている。

真っ赤なほっぺが、さむくて、いたい。
真っ赤なミトンを君は外した。
手のひらに、雪が降る。

/*/

湯気の立つおいしそうなごちそうも、
大きな鉄のストーブもいらない。

雪が止んで、雲がどこかへ行って、空には、
街から広がった夜海色が、たぷん、たぷん、あふれている。

小さなマッチの火なんていらない。
そんな光も熱も、作ってまで、ほしくないから。
だから。

だから。

/*/

真っ赤にしもやけた君の小さな手は、
ぬりつぶされた空から何かをつかみ出そうとして、
夜海色の中を真っ赤に握る。

どくん、と、手の中で熱く、心ぞうの音が鳴った。

手のひらを広げると、その上に浮かぶ、白い星粒。

ああ、なんだ。

そこにあったんだね。

/*/

君は星くずを見た。
とても、とても遠くの小さなそれを。

胸の前から、冷たさがいなくなった。
もう、いたくない。

午後10時のぬくもりを君は握りしめて家路を急ぐ。
街に行きかう、おなじ音。
きっとだれかに待たれている。

ほんのちょっとだけ恥ずかしそうに、
笑顔の音が、午後10時の空気の中を、渡っていた。

おかえりなさいとだれかが言う。
君は答えた。

/*/

『ただいま――!』


あとがき

マッチ売りの少女はかわいそうなお話なのでしょうか、しあわせなお話なのでしょうか。そもそもマッチ売りの少女のお父さんがちゃんと稼いでいればマッチなんて擦る必要もなかった気がするわけで、でも、だからと言って、お父さんだけに責任を押し付けるのもおかしい気がするのです。お父さんだってマッチを精一杯作っていたはずだ。

だから、周りの大人たちがマッチを買ってあげなかったのも、悪いかどうかなんて決めつけられない気がします。マッチを買う1円だってあればお金を貯めておきたい生活の厳しさは、きっと今も昔も変わらないでしょう。

でも、それって大人の物の見方であって、絵本を読んでいる子供たちにはわからないんだと思います。

マッチ売りの少女は、はたしてかわいそうなお話だったのか、しあわせなお話だったのか。

知りたいから、マッチを売らなかった少女に聞いてみました。
マッチ売りの少女は何が欲しかったのか、聞いてみました。

彼女なりの答えが、この物語となっております。
マッチ売りの少女がなくしたお母さんの靴、どうなったのかなあ。

<マッチ売りの少女が死んだ、古い一年の最後の夜の六日前、
 新しい一年が始まる一週間前の、クリスマスの夜に……
 城 華一郎(じょう かいちろう)>