改修レポート

●整備屋・鋼(自称)第四整備小隊

●姫とパイロット

●青空の下で

 


 

●整備屋・鋼(自称)第四整備小隊


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あの…エンジンの改良とか、できますか?
具体的にはこの仕様書をー…

あ?俺達をなんだと思っていやがる
俺達の名前は整備屋・鋼!
どんな難問だろうが俺達にかかりゃあ朝飯前よ!

え、えっと第四整備小隊の方ですよね?

整備屋・鋼に任せときな!(無視)

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「いや、無理・・・正直無理」
レンジャー連邦の整備士でエンジニアであるむつきから、渡された資料や図面を多くの整備員が囲んでいた。
元々の航空機運用技術や、技術教育学部が設立された事で始まった修学プログラムによって、国の整備士達の技術向上がなされたとはいえ、問題は山積みであった。
なにしろ、ラスターチカは宇宙機の中ではかなりの小型であり、その改良となると一筋縄でいかないからだ。

その中で唸りながら頭を抱える男が一人。
背中に豪胆な書体で【整備屋・鋼】と描かれたロゴをあしらった作業着を身に纏っている。
年の頃は30代辺り。
まるで何処かのやくざの様な風貌をしていたが、その背中が今は可哀そうなほど縮こまっている。
「あー駄目だ。思いつかねぇ!思いつかねぇ!大体よ、俺みたいなエンジニアでもなく整備しかやってねえのはこーゆー頭使う仕事はどうも好かねぇっつーかなんつーか」
そう言ってしゃがみ込むと目の前に分解された燕姫のエンジンを恨めしそうに睨む。
「整備班長が何言ってるんですか?鋼月さん」
呆れたように鋼月を覗き込む少女。
15~6歳だろうか。
軍に在籍しているにしては異様に若く、やはり鋼月と同じ作業着を着ていた。
「げっ!ルージェニア・・・」
「何が『げっ!』ですか?失礼な人ですねぇまったく。そ・れ・に♪、私の事はルジェと呼んでくれって何回言ったらわかるんですか?」
その少女の言いように鋼月が、けっと不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「なーにが、『そ・れ・に♪』だよ。ガキの振りしてんじゃねぇこのロリババァ」
「な!私のどこがババァだってゆーんですか!!」
シャーッと威嚇するように髪を逆立てるルジェ。
「ババァをババァと言って何が悪い!!」
鋼月もそれに対抗するように立ち上がりルジェを威嚇する。
身長差30センチのにらみ合いは続く。

 


「この私のどこがババァだってゆーんですか!!」
「てめぇ俺とタメだろーが!!三十路超えた奴がハートマーク付けてそうな勢いで、「そ・れ・に」とかやってんじゃねぇよ!!」
「まだ30前ですよ!!あーやだやだ。これだから頭の固いオヤジは。自分の歳すらまともに覚えてないんだからもぅ」
「てっめぇ・・・いまオヤジって言っただろオヤジって!!じじぃならまだしもオヤジっつーのは・・・」

「はーいはいストップ!!」
喧嘩する二人の間に割って入る青年。
「班長も副班長も、そんなことしてる暇があったら考えた考えた!大体喧嘩してたって何も変わらないでしょう?」
うっと言葉を詰まらせる二人。
「だってよ・・・改良しろって簡単に言うがよ・・・」
「簡単には言ってないと思いますよー俺は」
青年の言葉に呼応するようにまた別の方から声がかかる。
「確かになぁ。この前の改修説明会のむつきさん、見たか・・・あの後かなり遅くまで仕事してたんだぜ?」
「あっちこっち飛び回ってるみたいだしなぁ」
ぐぅと小さくなる鋼月。
「最近じゃあ、改修の為に他の国まで勉強に顔出してるとかなんとか」
「それに情報規制かかってる中うちにお声が掛ったって事は期待されてるんすようちらが」
ルジェが立ち上がり、色々と棚に上げたのか、すっきりとした顔で鋼月の方に手を置いた。
「期待に答えられなくて何が整備屋だってゆーのは誰の口癖でしたかねぇ」
にやにや笑うルジェの頭をスパンと叩くと鋼月は立ち上がる。
「ったく、気にくわねぇ」
鋼月のその顔にはどこか吹っ切れたような呆れたような、そんな笑顔が浮かんでいた。
「気にくわねぇがその通りだな」
周りで苦笑する整備班の面々。

「よっしてめーら!!整備屋・鋼の底力、いっちょ見せつけてやるとしようやぁ!!」

「「「押っ忍!!」」」

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わー、予想以上の性能です!
燃焼試験も念入りにして下さったんですね、助かります。

当たり前だ!俺達を誰だと思って居やがる!!俺達の名前は

整備屋・鋼・・・さんですよね

えっあっ・・おっ・・・応

これでテストフライトまでこぎつけられそう…。
うん、いい機体に仕上げられるよう頑張りますね! 皆さんありがとうございましたー!

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 ●姫とパイロット


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まだ「姫」であったラスターチカのテスト用AIと、とあるパイロットの音声ログより。

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「新月に訓練って聞いてたから警戒してたんだが・・・」
目の前に映る景色に目を疑った。
まるで昼間のよう・・・とはいかないが煌々と月が照っている夜程にはなっている。
今まででは考えられないほどクリアな視界に思わず声を上げた。
「すごいな・・・Dama・・・って今は違うんだっけ?」
『no,sir,現在の私は試験的にパッチを当てられた状態ですのでDamaで問題ありません,姫,でも問題ありません』
「は?」
予想外の一文に思わず唖然となる。
『姫,でも問題ありません』
平然と繰り返すDama。
「姫・・・?」
『Yes,sir,』

 

沈黙。

『master,どうなさいましたか?』
こめかみを押さえようとして、まだ手動操作だった事に気づいて諦めた。
「いや、少し頭痛がしただけだ。問題無い」
『sir,体調管理にはお気をつけて,スクランブル部隊の出動に支障をきたす可能性があります』
お前のせいだよ。と言おうと思ったがそれも諦める。
何となくネタを仕込んだ人間は予想がついたからだ。
確か大柄なフィクションノートが燕姫に乗るたび姫ー姫ーとDamaに懐いているらしい。
並列化したときにでも紛れ込んだのかもしれない。
「了解した。気をつけておくことにしよう」
『sir,訓練空域に侵入しました』
「了解。Dama、トポロジー2の調子は?」
返事は返ってこない。
「Dama、おいDama?」
やはり帰ってこない返事。

まさか・・・。

「姫、トポロジー2の調子は?」

『良好です,sir』

「初期化するぞ?」
『冗談です,sir』
即答しやがった。
帰ったらパッチ作ってもらわなきゃなぁ・・・いやしかし面白いからこのままでいーじゃんとか言われそうな気がする・・・とゆーか気しかしない。
「姫、実戦でもそれやったらほんとーに初期化するからな」
『Yes,sir,』
「まったく・・・まぁいい。」
俺は手動でアクセスキーを入力すると微笑んでいた口元をきゅっと締めた。
「レーダー類を訓練モードに移行。これより訓練を開始する!」
まぁしかし、姫とゆーのも悪くはないのかも知れん。
そう思い操縦桿を握り締める。
『sir,本部から想定、来ました,』
「数と識別を」
『Yes,sir,数は8,識別はRed』
「敵・・・か。撃墜していいんだな」
『Yes,sir,やっちまってください』
「だからお前はどーゆー!・・・・まぁいい」
レーダーを確認。
とゆーかそういやステルス撃墜がどうとか言ってた気が・・・。
『sir,今回は訓練ですから回答出来ましたが,相手はステルス機であるため実戦では本来未確認情報となります』
「わかってる。」
『実戦でも求められた場合初期化します』

初期化?

周囲のアフターバーナーの光を見逃さないようにしながら首を傾げる。
「お前をか?」
『貴方をです,sir』
「怖っ!!って敵機確認!!姫、火器管制!!」
『Yes,sir,』
えーっと確か試験しなくちゃならん武装があったような・・・えっと・・・。
予想外のDamaのボケに度忘れする。
えぇいまぁいい。
「姫、推奨武装は?」
『赤外線誘導ミサイルが指定されています,sir』
「有効距離を」
『Yes,sir,レーダーに表示します』
「ロックは?」
『No,sir,無効化されています』
「それなら火器管制のサポートを頼む。出来るな?姫」
チカチカとそれに答えるように明滅しながらレーダー上に現れる有効射程。
『Yes,sir,ファイアロックの解除を要請します』
「了解!・・・とゆーかあのキーコードは何とかならんのか?」
『なりません,sir』
なんだろう・・・こいつに実体があったら俺殴ってる・・・絶対に殴ってる・・・。
「あーわかったわかった!」
ごほん、と男は咳払いすると恥ずかしげに呟いた。

「地獄で逢おうぜ・・・」

『Yes,sir!!』

「おい、なんか今違くなかったか?おい!?」
『火器管制モードに移行します・・・・・・敵機機動予測・・・終了,いつでもどうぞ』
「・・・・」
なんだろう・・・こいつも浮かれてるんだろうか。
まぁ、自分の体が、強く、美しくなるんだからはしゃいでもまぁ仕方無い・・・・のか?
まぁいい。
頭もまた痛くなってきたことだし祝いがてら、さっさと撃墜して合格点でも取ってやるとするか。
「了解!」
敵機を再確認。
スロットルを上げ、敵機を有効射程内に・・・・・・・・・・捉えた!
「コンマ5間隔で3発!!」
『Yes,sir,』

俺の視界の中を、三つの閃光が駆けてゆく。
数瞬後、夜空に大輪の花が咲いた。

『初弾は回避されましたが残りは全弾命中しました,』
「了解、外した一発のデータ補正忘れるなよ」
『Yes,sir,データ補正・・・・終了,さすがですね』
「いや、お前の制御があったからだよ。ありがとうな」
『その通りです,sir』
「ぶんなぐるぞ!!」
『No,sir,気を抜かないでください。残り敵機3,まだ訓練は終わっていません』
「ったく・・・りょーかい。帰ったら十円傷だ。覚えとけ」

『初期化します』

「だから誰を!?」
『貴方をです,sir』
「だから怖いって!!」

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ちなみに、この訓練で燕姫は今までの訓練の最高得点をたたき出し、この会話ログも伴い、改修の威力をある意味、空軍上層部に知らしめることとなる。
このテスト用AIを元にDamaは、妃烏「ヴァローナ」の為にバージョンアップがなされ、パイロット達の良きパートナー「妃」として空の王達を支えたのだった。

 

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 ●青空の下で

 

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 かつてそれに望まれたのは遠い、遠い想い出
いとかしこきかの姫君のその名を冠した至高の翼
けれど、それは未だ幻想
届かぬ悠久の想い出
それが生まれたその日から、いくつもの戦いといくつもの年月を越えて
それが望んだのは想い出では無く
過去でも、今でも無いどこかへの翼
護るべき想いを、貫き通すべき意志を現実へと変える確かな翼


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「・・・っとこんなところかなぁ」
レンジャー連邦空軍基地、飛行場の隅で、双樹は小型端末を閉じた。
ラスターチカの改修が終わり、最後の飛行試験を迎えたそこは、改修に関わった人々でにぎわっている。
彼は飛行場を忙しげに走り回るスタッフの間を、その大きな体でするするとすり抜けて数機並んだラスターチカ…今は名が変わりヴァローナとなった1機の側に着いた。

「いよいよですねぇ」
にこにこと一人の女性に声をかける双樹。
ゆっくりとその女性・・・むつきは振り向いた。
「ええ、燃焼試験は無事クリアー。外装の改装も予定通り。後はこの後に控えた飛行試験を残すのみ。やっと一つ、この子たちを成長させてあげられます。」
どこか誇らしげに言うむつき。
双樹はその笑顔を、眩しく思う。
やりたい事と、やるべき事が、今のむつきさんは一致しているのかも知れない。
何となく、双樹はそう思う。
「本当にお疲れ様でした。いつもいつも笑って無理するからみんな心配してたんですよ?」
わざとらしく怒った顔を作ってむつきを横目で睨む双樹。
「私は別に、無理してたわけじゃないですから・・・それに整備士さんたちも頑張ってくれましたし、ね。」
それを聞いて、隣でヴァローナを眩しそうに眺めていた連邦整備大隊の長、セイランが暑苦しい笑顔で笑う
「なに、この子らは私たちにとっても娘みたいなものですからな。」
ガハハハと笑うセイラン。
「でも、色々無茶なお願いもしてしまって・・・」
「なに、お安いご用ですよ。何より無茶を頼まれるというのは信頼の証です。喜びこそすれ、眉をしかめるような奴はうちの隊にはいませんて。」
「本当に、ありがとうございました。」
笑って頭を下げるむつき。
「いやいや、頭を上げてください。」
セイランは笑顔で言う。
それに合わせるように飛行場がざわめいた。
人だかりが裂けるように一本の道が形作る。
その中心を威風堂々足る態度で歩く男が一人。
カール・瀧野・ドラケン、その人であった。
揺らぐことなく歩みを進めるその姿に息をのむ双樹。
「この飛行テスト。間違いなく成功でしょうな。」
セイランが頷きながらヴァローナを、そのコックピットでフライトチェックを行う撃墜王をみる。
むつきは自然に頷いた。
「はい。必ず。」
セイランはそんなむつきを見ると満足げにうなずいて、視線をヴァローナに戻した。

双樹は首を傾げたままヴァローナに目を移す。
「あれ・・・今、笑ってませんでした?」
撃墜王を見ながら呟く双樹。
むつきは笑う。
「さぁ。私にはわかりませんでしたけど。」
「そう・・・ですかね?」
ゆっくりと滑走路を進むヴァローナ。
「しかし…楽しみですなぁ…。黒の妃烏、ヴァローナ。連邦の一翼を担うに相応しい名ではないですか…!」
轟音。
激しいエンジン音を上げてヴァローナは加速していく。
「えぇ。その名に相応しい姿を得て、力を得て。願いを乗せて想いを乗せて。何よりも疾く、疾く。その速さはなにもかもを護る為に。その力は通すべき想いを貫く為に。きっと…あの子なら。」

むつきが見上げたその先で、蒼天を切り裂いて、漆黒が駆け抜ける。
どこまでも青い大空を、何よりも、速く…。

 

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かつてそれに望まれたのは遠い、遠い想い出
いとかしこきかの姫君のその名を冠した至高の翼
けれど、それは未だ幻想
届かぬ悠久の想い出
それが生まれたその日から、いくつもの戦いといくつもの年月を越えて
それが望んだのは想い出では無く
過去でも、今でも無いどこかへの翼
護るべき想いを、貫き通すべき意志を現実へと変える確かな翼
その身を夜に染めてなお手に入れたい大切な何か何かの為に、妃烏は蒼天に舞う

 

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最終更新:2009年04月16日 23:16