第二章

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入学式当日の夜、私はとあるアイドレスの仲間へと呼び出しをかけた。

「お、いるな。待ち合わせ前に来るとは感心感心」

マウスクリック、かち、かち。
クッキーが残っているのでチャットへの入室は一瞬。

『やあやあ今日は一体どうしたね、わざわざ呼び出しをかけるとは>ヒメオギ』
『いやあちょっと話があって…>アイトシ』

挨拶もそこそこに、さっそくカマをかける。

『ていうかぶっちゃけ…西薙?>アイトシ』
『あれ、ちょっと待ってふーあーゆー?>ヒメオギ』

 うわ。

 偶然という確率にビビりながら、とりあえずこれ以上オープンの場で個人情報を話すのもまずいと思い、チャットに備わっている、読む相手を指定可能なささやき機能を使って話し掛ける。

『ささやき機能:えーと、やっぱり西薙っぽい?>アイトシ』
『ささやき機能:おいおい申し訳ありませんがどちら様だ、まったく身に覚え無く…>ヒメオギ』
『ささやき機能:本名をそのまま使う馬鹿はいくらなんでもナシでしょう。石野です>アイトシ』
『ささやき機能:? えーと…>ヒメオギ』
『ささやき機能:覚えてないのかよ!>アイトシ』
『ささやき機能:残念ながら>ヒメオギ』
『ささやき機能:隣の席だー!!>アイトシ』
『ささやき機能:ああ!あの! いやあ夕方ぶり、明日からまたよろしく!>ヒメオギ』
『ささやき機能:いきなり忘れてたろうが!>アイトシ』

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と、まあ、こんな風にして互いの正体を確認したのが先週の事。

こういうのは再会というべきなのか、初めましてというべきなのか、どっちにしたものか……

「ふー……」

高校生活最初の日曜に、私は半ば頭痛にも似た気持ちで芝生の上に寝転んでいた。近所のものではない、定期券を利用して少し遠出をしてきて見つけた公園だ。見知らぬ土地という事もあり、あまり無防備にしているのは妙齢の女性としてどうかと自分でも思ったが、まあすぐ近くに神社もあるし、お年寄りが日向ぼっこばかりしているので、これぐらいはいいだろう。

「ふー……」

その、隣。
なぜか一緒に来る事になったクラスメートの小ヶ峰晴美が、石野の真似をするように一緒に息を吐いていた。

「いやあ、人疲れした身には染み渡りますなあこの空気」
「晴美ちゃん年寄りくさい……」
「ええっ!? そ、そうかなー…?」

などと慌てふためくのは、現代の女子高生とは思えないのどかさである。学校が始まって早々ネットで嫌でも顔をあわせる西薙とばかりつるんでばかりもいられないし、勇気を出して、たまにはのんびりしないかいと、誘いやすい相手に声をかけてみたところ、ほいほいついてきたのがこの子だった。

「みんなといると、楽しいけど、ちょっと疲れるねえー」
「そだねー…」

じんわり二人で冗談抜きに縁側の老人さながら日向ぼっこをする。

この子はいい子だ。

とりたてて目立つところはないけれど、さりとて私みたいに不自然に構えているわけでもなくて、そんな自然体に助けられて、いつの間にか一緒にクラスに馴染んでいた。

こういう風に、私もなれたらなあ……

「石野ちゃん石野ちゃん、凝視されるとなんだかこわいよ」
「おおっと、ごめんごめん」

石野ちゃんは変な子だねえーといいながら、晴美はもそもそ途中のコンビニで買ってきたよもぎ団子を食べ始めた。この子の方こそ変な子だろうと思う。私の趣味の、散歩と写真のために何もする事がなくてもついてきてくれたのだ。

「今更花見でもないだろうに何故団子…」
「おいしいものに季節は関係ありませんー」

彼女は私と違って体格は普通、あまり食べる量を気にしなくてもいいのだろう。これがなかなかこの140センチ前半という身長になると、日々のカロリー計算にも気を使っていけない…

「ふう……」

ぱたん、と、そんな彼女をよそにして、また芝生の上へと倒れこむ。

「ちょっと散歩してくるー」

はーい、という声を背中に受け、私は気まぐれにすぐ立ち上がって歩き出した。

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神社に立ち寄って、お賽銭を投げてきた。

街の小高い丘にあるので、見晴らしはいいが、その分人気がない。

何をお願いしようかなー、こないだの原作キャラクターデートチケット抽選、当たらないかなー、など、ぼけーっとしていると、

「おーい」

と後ろから声がかかった。

「おや西薙」
「おや石野」

西薙は、袴姿をしていた。

170センチ後半の彼女が巫女装束を着ていると、なかなかにその、迫力に溢れるところがある。

平たく言うとでかい。

「これ、柏手柏手」
「おおっと」

格好につっこみを入れる暇もなく姿勢を正される。

ぱん、ぱん、と柏手を打ち、あらためて、がらんがらん。
正しい作法に従っていると、なるほど、確かに霊験あらたかな感じがする。これならお願いも聞いてくれそうだ。よーし神様、デートチケットデートチケットデートチケット……

「ところで西薙、巫女さんだったのか」
「いやあ親戚の家なんだよー。家事手伝いかな、バイトかな、まあ、その、なんだ、学校にはくれぐれも」
「内密にというわけか…まあ、仕方あるまい。しかしまるで萌えないな」
「やかましい。かわりにおみくじを引かせてやろう」

わあい。

事務所の前まで移動して、かろんかろん。
箱を回して出てきた番号を、確かめておみくじと交換する西薙の手際がいい。

「末吉……」
「金運いいぞ。恋愛運は、気長に待つべし、だそうだ」
「あ、なになにーおみくじー?」

あれ、小ヶ峰、と、西薙が振り返る。

「遅いから追跡しちゃった」
「ついてきちゃったじゃないのか…」
「跡をたどりましたからー」

この子はこの子でやっぱどっかしら変だなあと思いつつ、あっさりこいつバイトしてるぞーと本人の目の前でバラす。

「口止め料に、おみくじ引いていきなさい」

わあい。
言われて嬉しそうにかろかろ箱を、念入りにぶんまわす晴美。
それを並んで微笑ましく見守る私と西薙。

「ほわ?」

ぽーん、と番号の書かれた玉が飛び出て地面に転がった。
その玉は、二人の足元まで転がってきて、こつんと止まる。

「おおお」

しゃがみこんで、拾い上げようとすると、抱えている箱から一気にじゃらじゃら玉がこぼれ出した。
それをそのまま二人で無言のうちに眺める。

「わー」

晴美が慌てて右往左往する傍ら、
ぱんぱん、と互いの肩を叩きあい、
和気藹々と、握手して。

「いやあ、いい子を見つけたねえ」
「萌えるでしょう」

そうして私と西薙は再びここで友情を確かめあった。

「え、え、何何、話が見えないよ~」

ぴょんこぴょんこ、二人の顔を交互に覗き込む、仲間外れの小ヶ峰だけが、
一人、困った顔で、つられて笑っていた……

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三章

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最終更新:2008年01月29日 00:26