冥王   Providential Darkness


1.
 “影の予言”によってその降臨を予言された、暗黒帝国の最高存在。“闇のもの”たちの神。
 暗黒帝国とは、第二紀中頃より始まった“暗黒の胎動”とよばれる現象の極限に出現した勢力である。この現象は賢者たちにもまったく説明することのできないものであったが、世界中で“闇の力”になんらかの律動が及ぼされ、各地で闇の力が活性化していたという。そのなかでもカロア周辺には比類なく凝縮して闇が満ち、これが集積してこの地に暗黒の帝国が生まれることとなった。
 暗黒帝国の発動は、冥王の降臨をもって為される。冥王は暗黒帝国のすべての意志を統括する支配者、闇のすべてを司る王。それは地上でもっとも神を体現し得た者である。
 冥王の居城であるアルド・バルン(“氷の城”)は、マイエルヴァーン深くより浮上した巨大城砦だが、ここは冥王の純粋な居城にすぎず、その内部の無数の魔獣、無数の回廊、無数の罠のすべては、ただ冥王の意のままにできる玩具として配されているといわれる。暗黒帝国の軍事的な機能は、帝国のふたつの城都、“影の門”と“黒の街”が果たしている。冥王はアルド・バルンの奥深く、自分が完全に掌握する玩具の領域にたたずみ、そこから全世界の闇の勢力を文字通り玩具のように意のままに統括するのである。

2.
 冥王の名は隠されている。

3.
 冥王は白く巨大な魔霊に似た形象を持つ。魔界のメルグアズールのような、定まった姿を持たず次々とその姿を変える存在と違って、冥王はこのたったひとつの姿しかとらない。
 神である冥王は絶対であり、その力はこの世を越えた領域にまで到達する。最強の種族とはいえ所詮、ドルウィー・デュナルは現世的な存在にすぎない。しかし冥王は、地上の摂理を超越した存在だ。この世の束縛を軽々と飛び越え、世界の運命を手のひらの上でもてあそぶ。
 人の子が暗黒の帝国を越え、氷の城の深奥へ到達することなどありえないが、もし冥王にその居城で対峙しえた戦士がいたとするならば、その戦士が戦いそのものを始める前には片づけなくてはならない障害がいくつもある。冥王の眼差しの前では、どのような勇者であれ、ただその前に立つだけで魂を消し去られる。冥王の玉座は神界の光輝に満ち、この輝きはもっとも熱い炎より熱く、同時にもっとも冷たい氷よりなお冷たい。そして冥王自身は常に、目に見えず触れることもできない強固な鎧によって幾重にも包まれている。
 これらすべてを仮に無効にしえたとしても、冥王はなお嘲笑をもって戦士をもてあそぶだろう。人の子の用いる魔法などは冥王にとっては児戯にも等しい。冥王はのぞむ事象すべてを即座に現前させることができる。そして剣であれ魔法であれ、たとえ黄金龍の聖炎であっても、冥王に傷どころか、なんらかの影響を与えることすらできない。冥王は現世の肉体を持っているわけではないのだから。ただ“至高の道具”である聖剣のみがもしかしたら何かの効力を持っているかもしれない。また、バルバド魔法の最高奥義である“英雄の魔法”もあるいは効力を持つかも知れない。だがそんな一縷の望みも、あらゆる意志を超越する絶対的意志の前でいつまで維持されるだろうか?

4.
 冥王の起源は謎に包まれている。暗黒の胎動が冥王を生んだのか、暗黒の胎動は冥王の降臨の付随物にすぎないのか、それも不明だ。
 そもそも、闇の力、“闇”とは‥‥‥?

5.
 冥王は、“闇のもの”たちの神。

6.
 冥王は、“闇のもの”たちによってつくられた神。
 世界に呪われた種族であるドルウィー・デュナルたちは、自分たちの世界を築くために、地上世界を一掃して、さらにこの世の摂理をねじ曲げて闇の世界につくりかえることを望んだ。だが彼らは不老不死とはいえ、現世の束縛にとらわれた存在であり、全世界をつくりかえることなど到底できない。そこで“闇のもの”たちは自分たちの望みをかなえるための神をつくることにした。世界を根底からつくりかえるだけの力をもった神を。自分たちがつくったその神のもとに、彼らは自ら支配下に入ることにした。
 “闇”は彼らの本質であり、彼らの存在そのものの持つ力、彼らの魂そのもの。“闇”の律動を制御し、全世界において暗黒の力を活性化する。それははかりしれぬ年月を経て、ひとつの存在を生み出す。それが闇の“影”である、冥王。隠されたその名を手にした者のみが、冥王に相対することができる。

7.
 冥王の名:エルザエンド。







最終更新:2009年10月26日 10:08