ひととき


「新しい本だ~!!」
袋から出した本をぎゅっと抱きしめ、それだけでは足らず、きゃ~!と声をあげながら部屋中をごろごろ転がる。
 みぽりんは本が大好きだった。
しかも、今日手に入れたのは、ずっと読みたかった物語!
嬉しくて嬉しくてたまらない!
ひとしきり転がりまわった後、行儀悪く寝そべりながら、初めは鼻歌まじりで、そのうち無言になって、読み始めた。


 政庁。
まだ昼には幾分か早い頃、みぽりんは廊下を歩いていた。
(お日様がまぶしい~。溶けそう…)
面白いお話は、続きが気になるもの。
結局夕べはほとんど寝ずに本を読んでいた。
そのせいで、起きられず、朝ごはんも食べ損ねた。
おかげでお腹はぐ~となるし、なんだか頭もくらくらする。
「みぽりん、顔色悪くないか?」
ん?と思って顔をあげると、そこにいたのは摂政、七比良 鸚哥(ななひら いんこ)。
「摂政さまだあ~。おでかけですかあ?」
ふらふらしながら答えるみぽりん。
「いや。姫巫女さまに書類を届けに行った帰り」
「そうですかあ~」
えへへと笑うみぽりん。
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ~。元気ですう~…」
いつもの調子で話そうとするが、なんだか力が入らない。
やっぱり、こんな状態で訓練しに行ったのがまずかったか…。
(なんか、気持ち悪い~)
体がぐらりとしたかと思ったら、だんだん視界が暗くなる。
(あれえ?)
「みぽりん!!」
遠くのほうで、摂政さまの声がする。
体に力が入らず、そのまま座り込むようにして倒れる。
支えられたような気がしたけど、よくわからなかった。


(……ふにゃ~?)
時折、ぱさぱさという音がする。
なんか、聞いたことのある音。
そっと、そちらに目をやると、薄暗い部屋の隅の文机で摂政さまが、なにやら真面目そうな顔をして紙とにらめっこしていた。
(ああ、紙の擦れる音かあ)
ぼんやりと考える。
(ところで、ここはどこだろう)
みぽりんは、ふかふかの布団に寝かされていた。
自分の部屋、ではなさそうだ。
状況がよくわからず、ぽーっと考えていると、摂政さまが気がついて、ちいさなため息をこぼした。
「気分は?どこか、痛いところはない?」
「ないです~」
答える声が小さくなってしまった。
あれれれ~?と首をかしげる。
「廊下で倒れたの、覚えてる?」
うーんと考えて、そういえば、さっきは廊下にいたんだと思い出す。
そこから記憶がはっきりしてきた。
「思い出しました~。なんか気持ち悪くて、くらっとしたです」
「さっきまで薬師殿がいたんですが、過労だそうです」
薬師がどうしてもはずせない用があるとかで、摂政さまが部屋番を代わったという。
みぽりん、涙目。
「摂政さま、お仕事は?」
「持ってきたから大丈夫」
さっきの紙は書類だったのかと思い至る。
「摂政さまあ、ごめんなさい」
「ん?」
「あのね、本読んでて、寝るのが遅かったですよ。だからだと思います」
「そうですか」
笑いを含んだため息。
「知らせてあるから、今日はゆっくり休むといいです。もうひとねむりしたら?」
「……、怒らないですかあ?」
布団に半分顔をうづめ、おそるおそるたずねる。
「心配したのはわかってる?」
こくりとうなづく。
「だったらいいです」
穏やかな声。だから素直に反省できた。もう少し体に気を使おう。心配してくれる人がいるのだから。
心配されるのって、なんだかくすぐったくて、幸せになる。
なんだか安心して、目がとろんとしてきたので、お言葉に甘えることにした。
「じゃあ、おやすみなさい」
「はい。おやすみ」

そして、みぽりんはまぶたを閉じた。
幸せだなあ~、と思いながら。


                            おしまい                     作・みぽりん

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最終更新:2007年04月24日 22:12