巫でのとある幸運なケース
「おにーちゃーん おなか減ったよぅ」
小さな子どもが指をくわえながら兄と姉と並んで大通りの端の広場に座り込んでいた
どうやらこの兄弟、3人だけで外からやってきたようである
普通、力のある大人は入国時に工事現場などでの仕事の斡旋を受け、そうでない者も農作業の手伝いなどに行っている
増えた国民のためのあれこれで、仕事はあるのだった
そして子どもを大切にするという国の考えにより、一定年齢に満たない子どもには一定の食料支援が行われることになっている
しかし、親が国内で新しい仕事を見つければ定期収入を得て生活できるものの、この国に来たばかりで頼るもののない子どもだけでは仕事を探すことも難しく、じきに打ち切られるであろう食糧支援に頼るしかないのが現状なのであった
兄は渋い顔をしていたが、それも仕方のないことだろう
だが、この兄弟は 幸運な出会いをすることになるのである
「あんた達、外から来たのかい?」
兄弟の暗い雰囲気を感じ取ったか嘆きを聞いたか、長い黒髪を後ろに縛った若い女が兄弟に声をかけた
「そうだ」
「国はしっかり対策をしていたはずだけど・・・そんななりでいるってことは わけありなのかい?」
「・・・」
疲れがたまっているのか、兄は口数少なく姉はうつむいていた
「ふっ、もし行くところがないってんならうちにくるかい メシくらいは食わせてやるよ」
思いがけない女の申し出に顔を上げた兄弟は固まっていた
「だが・・・いいのか?」
「もちろんただってわけじゃないけどね。家事手伝いや仕事の手伝い、人手はいくらあってもいいのさ」
「よろしくおねがいします」
兄弟は何事か話し合っていたようだったが、深々と頭を下げその申し出を受けることにしたようだった
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その後、女の家についていった兄弟はひとまず腹を満たし住み込みで女の仕事を手伝うことになった
この女、女手ひとつで息子を育てながら畑を耕し少しだが生活用品の売り買いをし生きてきた強い人物であった
そしてこの女の家には兄弟の他にも、外国からやってきた親のいない子どもが何人かいた
同じようにどこからか連れてきて仕事と国の常識を教えながら食わせてやっているのであった
初めはこの家の子どもと仲良くなれなかったり、移民の子どもどうしでの揉め事もあったようだが、そんなこともじきに目にしなくなった
女は移民であることも血がつながっていないことも気にせず、一気に増えた子どもたちを愛したのである
そして子どもたちもまた、民族の違いという些細なことにこだわらず母を愛し互いに仲良く力を合わせ母を助けたのであった
イラスト:ミツキ SS:雹
最終更新:2008年06月18日 23:55