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プーチン大統領、国防相を解任-スキャンダルか政争か

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 【モスクワ】ロシアのプーチン大統領は6日、スキャンダルを引き起こしたアナトリー・セルジュコフ国防相を解任し、後任に最側近を充てた。クレムリンでは異例の人事であり、アナリストはこれがロシア指導部での内部抗争の兆しである可能性もあるとしている。

Associated Press

ロシアのプーチン大統領(左)と解任されたセルジュコフ国防相(中央)(5月、モスクワ)

 プーチン大統領は2000年に権力の座に就いた時から閣僚の威厳ある交代という形を好んで、解任したことはほとんどなかった。しかし、捜査当局は先週、セルジュコフ氏の愛人と見られる女性のアパートを家宅捜索し、捜査の手は同氏自身にも迫った。この女性は、国防省の資金を吸い上げていたとの容疑がかかっている企業に勤めていた。

 クレムリン系のサイトは、当局による早朝の家宅捜索の模様の詳細を伝え、政府高官の私生活の一端を垣間見せ、妻のいるセルジュコフ氏がこのアパートにいたと報じた。捜索では現金や宝石、絵画、骨董品なども押収された。同国の最高捜査機関である連邦捜査委員会は、不動産を含む軍事資産が市場価値をはるかに下回る価格で売却されたことで、政府は30億ルーブル(約76億3000万円)の損失を被ったとしている。セルジュコフ氏は捜査が完了するまではコメントを拒否するとしている。

 腰痛とみられモスクワ郊外の大統領公邸で執務しているプーチン氏は現在、大統領3期目(1期は6年)の最初の数カ月における行動する男としてのイメージを保とうと苦労している。

 新国防相に指名されたモスクワ州のセルゲイ・ショイグ知事(57)は、大統領の古くからの盟友で、20年近くにわたり政府部内で地震や航空機墜落事故などの災害対応の指揮を執ってきた人物だ。この仕事ぶりでショイグ氏は政府当局者としては異例ともいえる人気を博した。同氏はまた、マッチョな離れ業という大統領と共通の趣味を持ち、ペットのラブラドールレトリーバーの「コニー」を大統領にプレゼントしたことでも知られる。アナリストらは、ショイグ氏は政治的野心を見せず、大統領のライバルになることはなさそうだとみている。

 ロシア政府は今回の異例の事態について、セルジュコフ氏は辞表を提出しておらず、解任されたと強調した。プーチン大統領はこの決定を公邸から発表し、「全ての問題に対する客観的な捜査のための条件を整えるために」行ったと述べた。

 アナリストらは、セルジュコフ氏はクレムリンのエリートたちの抗争に巻き込まれた公算が大きいとみている。ロシア高官の多くは、民間企業や国営企業での役割を担い、巨額の資産を保有し、それが政府のコネを通じて蓄えられたとしても、当局者間では許容されることが多い。大統領は最近まで、軍内部から批判されていたセルジュコフ氏の防衛政策を公に支持していた。

 カーネギー・モスクワ・センターのアナリスト、マーシャ・リプマン氏は、プーチン氏は「捜査対象になっているといった理由だけで閣僚を更迭したことはない」とし、「今回の決定は拙速で、プーチン氏らしくない」と指摘した。

 セルジュコフ氏は、やはり実力派の政治家、ビルトル・ズブコフ元首相の娘と結婚した。ズブコフ氏は娘婿を支援して税務職員としたあと、2007年に国防相就任を実現した。しかし、セルジュコフ氏は国防省資産部門の元トップの女性を愛人とするようになり、この女性のアパートが先週、捜索された。

 また、セルジュコフ氏が軍隊には腐敗がはびこっているとか支出が多すぎると批判して、前任者のセルゲイ・イワノフ氏の憎しみを買った可能性があるとみるアナリストもいる。

 独立系アナリストで軍関係の専門家であるアレクサンドル・ゴルツ氏は「この陰謀はプーチン氏が始めたものではない」と述べるとともに、「今ではわれわれはロシアの全てのことがプーチン氏の独断で決められているわけではないことを知っている。さまざまなグループが独自のゲームを始めている」と指摘した。

 アナリストらは、今回の人事がロシアの軍事政策にどう影響するのかは分からないとしている。セルジュコフ氏は07年以来、ロシア軍を戦争を行う伝統的集団から北コーカサスのイスラム武装組織などが引き起こす恐れのある国内紛争を鎮圧できる小規模な軍に変えようとしていた。しかし、将校の間で同氏の改革は不人気で、同氏はかつて彼らを「宇宙人」と呼んでいた。プーチン大統領は軍の近代化を続けると誓約している。

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