大阪都構想(2):「大阪市民に,自分たちの市を解体して5つに分割してもよいですか?」を問う投票
しかしもちろん,当方の記事は,間違ってなどいません.
ついては,その中身やその他の論点については,これからさらに詳しく解説してまいりますが,それはさておき,中でも特に多くの方が驚いていたのが,その「7つの事実」以前に当前のこととして記載していた,以下の事実です.
【事実0】今回の住民投票の対象者は,「大阪市民」だけです.「府民」は投票できません.
実は,当方の多くの大阪府民の知り合いに,大阪都構想の話をすると,かなりの方々が,
「えっ? 俺,投票いかんでええの? 行く気まんまんやったのにぃ....」
というリアクションでした.
なんともまぁ....その程度の事実も,ほとんど知られていない訳ですから,この状況のまま投票となれば,トンでもない事になるのでは…と改めて感じ入ったところです.
ところで,「なぜ,大阪府民全員が影響を受けるはずの『大阪都構想』の住民投票に,大阪市民だけが対象なのか?」と言えば,今回の「構想」が甚大な直接的影響を即座に及ぼすのが「大阪市民」に限られていて,それ以外の府民にはそこまでの影響は即座には及ばない,というのが最大の理由だと思われます.
なんと言っても,前回ご指摘した様に,
【事実2】今の「都構想」は,要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです.
というのが,事実なのですから,今回の投票を,より正確に表現するのなら,「大阪都構想」の投票というよりも,
『大阪市廃止分割』構想
と呼ぶことの方が,より一般の方にその趣旨が正確に伝わり安いのではないか,という指摘もしばしば耳にします.いずれにしても,こうした状況を考えれば,
「今回の投票は,『大阪市民に,自分たちの大阪市を解体して,5つに分割してもよいですか?』を問う投票です」
とも,解釈できるわけです.
是非とも,大阪の方,ご関心の方は,少なくともこの点だけでも,ご理解いただければ幸いです.
【本稿第一部】(完)
※ 以下は,「本稿第二部」.都構想についての詳細論点解説の第一弾です.詳しいところにご関心の方は,是非,下記もお読みください.タイトルは....
【第二部:『なぜ,大阪市民の税金が,大阪市「外」に使われるのか?』】
さて,この「都構想」あるいは「大阪市廃止分割」構想については,様々な論点がありますが,その論点の一つとして,前回のメルマガで,「大阪市から流出した大阪市民の税金が,大阪市『外』(例えば,千早赤阪村なども含めた自治体)に使われる」ということを指摘しました【事実4】.
ついてはこの点について,さらに詳しく解説を加えたいと思います.
しかし,この説明は
「信頼できない」
のです(つまりその説明は,結局はウソになるのでないか? という疑義が濃厚に存在している様に思えるわけです).
これが,当方が指摘した「事実4」を理解するポイントなのですが,以下,なぜ「信頼できない」のかについて,つまり,「どうやって,結局,大阪市民の税金が,市外で使われていくようになっていくのか?」のメカニズムを解説したいと思います.
協定書に書かれていない,ということは,いわば「確約されていない」ということです.
(例えば,かつての政権が掲げた「詐欺フェスト」とすら言われた「マニフェスト」は,結局は,厳正な契約ではなく,単なる口約束であった,という事を思い起こしてください)
ではなぜ「信頼できない」のかと言えば,それは,以前も記載したように,「所得の再分配」が行われるのが一般的だからです(つまり,財源の豊かな地域とそうでない地域とを,例えばワン大阪の理念などで一体運営すれば,個別に運営している場合よりも,豊かな地域のおカネがそうでない地域に使われるようになることは,通常は避けられないのです).
ですが,より具体的・行政的には,次のように説明できます.少々ややこしいですが,是非,ご確認ください(特に,当方の指摘が「デマ」「真っ赤なウソ」だと僅かなりとも疑った方は,下記をじっくりとご吟味いただきたいと思います).
(1)大阪市民の税金が市外に使われない様にするために「特別会計」をつくると(法定協議会の資料には)書かれてあるのだが…..
まず,大阪市民の税金が,大阪市以外に使われないようにするためには,大阪市民の税金「だけ」を管理する「特別会計」が必要です.そして,その特別会計の支出項目を一つ一つチェックして,現大阪市民から大阪府に流れた税金が,適正に「大阪市内」だけに使われているかを厳しく監視しなければなりません.
そしてこの特別会計が実際には作られなかったとすれば,「大阪市民の税金が,大阪市『外』に使われる」ことになるのはほとんど決定的となります.そして現状では,特別会計がつくられ「ない」あるいは,作られても早晩「廃止」される可能性は,協定書に書かれていない以上,十分に存在していると言わざるを得ないのです.
(2)ただし仮に「特別会計」があっても,「厳正に監視」できなければ現大阪市民の税金が市「外」にも使われることは決定的.そして,その肝心の「厳正な監視」はほとんど無理.
一方で,もしもこの特別会計が作られたとしても,その特別会計を管理する人達が,「大阪市民から流れた税金の使い道」を厳しく監視しなければ,それが大阪市「外」に使われることになるのもまた,ほとんど決定的です.
つまり,今行政的に説明されている「大阪市外には使わない」という説明は,「大阪市民の税金が,市外に使われない様に厳密に,誰かが,監視する」と宣言しているに等しいわけです.
そもそも,府に流れた大阪市民からの税金は.「大阪府の一般会計」といって,本来なら,大阪府の裁量で自由に使用できる会計です.だから,「大阪市民の税金が市外で勝手に使われないようにするためには,大阪府のカネの使い方を,誰かが厳正に監視し続ける」ことが不可欠なのです.
しかし,問題は「そうした厳正な管理」は,極めて難しい,あるいは実質上,無理だ,という点です.
したがって,府に配分された予算の執行を,大阪市域内に「限定する」という様に大阪府が「確約」しない限り,「大阪市民の税金が大阪市外に流れることは必定」なのですが,大阪府は,そんな「確約」を毎年行い続けることはほとんど無理,と言えるでしょう(もちろん,行政に聞けば「いえ,流用しません」という「官僚答弁」を繰り返すでしょうが,それはタテマエで,実際には、以下の理由で「流用」されてしまうメカニズムが存在しているのです!).
そもそも,大阪府の判断は,7割もの大阪市外から選出した大阪府議会議員が甚大なる影響をもたらすのですから,議会の判断として,「常」に大阪市だけを優遇するようになるとは,到底考えられないのです.
もうこれだけで,「大阪市民の税金が市外で勝手に使われないようにするためには,大阪府のカネの使い方を,誰かが厳正に監視し続ける事」は,実質上不可能だとことが見えて参りますが,それ以外にも,「都区協議会」においては,府(知事)の影響力は大変に大きなものである,という点からも,そうした「監視」は難しいだろうということが見えて参ります.
仮に,協議会内では法的に対等だとしても,実際上の政治的パワーにおいて,区(長)と府(知事)とでは対等ではないからです.したがって,その「大阪市民から流れてきた税金」の使い道を,完璧に特別区のメンバー(つまり大阪市民)の思い通りに決定していくことは,この点からも絶望的に難しい,ということが見えて参ります.
さらに付け加えるなら,仮に,(実質上,それはほぼ不可能とも思える前提ですが)以上の問題を全てクリアしたとしても,2200億円にも上る巨額の大阪府の予算執行業務を,「監視」できる事務処理能力が,「都区協議会」という大阪府の外の組織体に存在していなければならないのですが,こうした実務的条件をクリアすることもまた,大変に厳しい条件だということも言うことができます.
これらの理由から,特別会計が仮にあったとしても,実質上,大阪府に配分された予算の管理は(有権者の7割の「大阪市以外」の大阪府民の付託を受けて議員が選出された)府議会が決定し,かつ,その特別会計についての各判断に(同じく有権者の7割の「大阪市以外」の大阪府民の付託を受けて選出された)知事が大きな影響力を持つことから,遅かれ早かれ結果的に,大阪市民からの税金が大阪市「外」に活用されていくことはほぼ決定的(=極めて蓋然性が高い)だと考えられるのです.
(4)そして何より,「ワン大阪」の理念を尊重すればするほどに,現大阪市民の税金を,現大阪市民のためだけに使っていくことは,ほとんど絶望的.
しかも,以上の問題を全てクリアしたとしても
(つまり,
(1)大阪市から府が吸い上げた大阪市民の税金のためだけの特別会計が作られ,かつそれが半永久的に存続し,
(2)大阪府ではなく都区協議会がその税金の『市外への流用』を防ぐためにその特別会計を厳密にチェックし,
(3)都区協議会の議論において特別区(大阪市)側の意向が最大限に尊重され,
(4)しかも,都区協議会の「監視」の下で大阪府の予算執行をコントロールできる事務処理能力が存在している,
という,超絶に細い針の穴を幾重にも通すことができたとしても ※注),
それでもやはり,大阪都構想の中心理念である「ワン大阪」の理念がある限り,大阪市民の税金が現大阪市民のため以外に使われるのは,ほとんど決定的だと言っても差し支えありません.
(※注 仮に,この四つが成立する確率が,それぞれ50%という大きな確率を想定しても,これらの内いずれかが成立せずに,結局,2200億円が大阪市「外」で使われてしまう確率は実に94%,仮に30%程度だとすれば実に99%以上,つまり実務的には実質100パー!とも言いうる水準となります.これに,下記の「ワン大阪の理念が真面目に遂行されすぎてしまう」という可能性も加味すると,その確率はさらに高まります)
そもそも,大阪都構想とは,「大阪都と大阪市との間の壁を取っ払い,大阪の都心を大阪全体で支えていこう!」という理念です.
その理念がある以上,大阪府が吸い上げた2200億円程度の税金を「必ず大阪市内だけに使う」という仕組みを続けていくことは,「理念的」に不可能だと言えます.
例えば,仮に新大阪府の初代大阪府知事が「大阪市民から吸い上げた2200億円だけは,特例的に大阪市民に使う!」と宣言したとしても,将来の都知事がワン大阪の理念により強くこだわった途端,2200億円は「現大阪市内だけ」に使われるとは限らなくなってしまいます.
あるいは,「ワン大阪」の理念に沿って,今,大阪市内にある大阪府の施設(病院,体育館,等,の整備・運用に(特にそれが十分に効率化されるでもなく),ただただ2200億円の一部が流用したというだけでも,それだけで,現在の大阪府の財政が「軽減」され,その「軽減」された分が「大阪市外」(例えば,千早赤坂村や大阪府の債務返済を含む)に使われるようになるのは決定的です(そもそも、おカネに色もなく名前も書いてはいないのです).
いずれにしても,今,大阪市・大阪府は,「大阪市民の税金は,大阪市以外に流れることはない!」という説明を,協定書に明記しないままに,公言していますが,現実的な状況を精査すれば,その説明通りに財政を運営できるようになるためには,厳しいハードルをいくつもいくつも超えていかねばならないのです.
したがって,「協定書に,明確に保証する記述が不在である現状」において,「市外に流れた大阪市民の税金が,市外に使われることは無い」という事を長期的に保証し続けることは,実質上,ほとんど不可能であると言って良い状況にあるのです.
そういう状況にあるにも関わらず,「大阪市民の税金を,都構想実現後も,大阪市外には使いません!」と言い続けとたら,我々は
「信頼できない」
と言わなければならないのではないか,という事が,協定書や協議会資料を精査すれば,明らかになってくるのです.
なお,念のために申し添えておきますが,「信頼できない」と言っているのは,説明者の人間性故に信頼できない,という事を指摘しているのでは決してありません.状況的に,ほとんど不可能な事を「やります!」と断定しているが故に,信頼できない,と指摘しているに過ぎないという点を,是非,誤解無きようにお願いいたします.
それはまるで,かつてある政党が「事業仕分けさえやれば,このマニフェストに書いてあることは全部出来ます!」と公表しつつ選挙を戦ったという事態と類似した構図にあると考えられるのではないか,というのが,筆者の見立てです.
以上が,当方が,「府に流れた大阪市民の税金が,大阪市以外にも使われる」と指摘した根拠です.
以上を踏まえてもなお,当方の指摘が「嘘八百」「デマ」と断ずることは,はたして可能なのでしょうか? 当方は無論,それは不可能だと認識しています.それ故,過日公表した原稿の中に,この論点を「事実4」として記載した次第です.
.....最後に.....
大阪維新の会の豊中市選出のうるま府議会議員のチラシ(現時点において配布されているもの)の中には,「橋下徹とうるま譲司の豊中をよくする8つのお話」の第7番目のお話として,次のような文言が記載されているのです.
「大阪都構想の実現でさらにムダがなくなり,使えるお金が増えます(2634億円)」
ここで,この「節約額2634億円」なるものの大半(法定協議会資料では,1980~2303億円程度)は現大阪市行政の効率化によってもたらされるものです(!)(注:地下鉄民営化による税収増は,大阪市行政の効率化で増えるものと見なした場合2303億円になります).
だから,「大阪府が大阪市(特別区)から吸い上げた税金は,必ず大阪市に使う」という現在の行政的説明が正しいとするなら,「豊中市で使えるお金」は2634億円にはならないのです! なんといっても,その大半は,大阪市から来ているのですから!
したがって上記文言は,「大阪府が大阪市から吸い上げた税金の一部は,大阪市外に使う」という,「デマ」「ウソ八百」とまで断じた当方の指摘を,あろうことか,まさにその当人が「自身の主張の前提」としていた可能性が暗示されているようにも思えるのですが….いかがでしょうか?
.....
「大阪都」構想,あるいは,「大阪市廃止分割」構想は,今年の5月の投票に参加する大阪市民に甚大なる影響を及ぼします.
投票者を中心とした大阪,関西,そして日本の皆様は,上記を含めた各種情報をしっかりとご吟味願えると幸いです.
PS
改めて申し添えるまでも無く,本記事に限らず本メルマガ記事は全て,一人の学者としての見解を示すものです.当方が講義をしたりアドヴァイスする等の形で関与する組織の見解とは一切関係なきものであることを申し添えます.
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