★ フィリピン、ベトナム、マレーシア 「中国の脅威」で日本の安保見直しに期待 「産経ニュース(2014.7.11)」より
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 安倍晋三政権が集団的自衛権の行使容認を決めたことで、中国、韓国などを除くアジア各国では、日本がこの地域の平和と安定に向け、より重要な役割を果たすことを期待する声が多い。なかでもフィリピンは、アキノ大統領自身が、安倍首相との首脳会談で、こうした日本の姿勢を高く評価した。(SANKEI EXPRESS)

あくまで自国利益優先

 フィリピンが日本を評価するのは、南シナ海における中国との領有権をめぐる問題があるためだ。フィリピンに限らず、ベトナムやマレーシアなど中国との間で同様の問題を抱える国々は、日本の政策転換が南シナ海における中国の振る舞いを少しでも抑えることができると、日本の「積極的平和主義」に基づく安全保障政策見直しに期待を寄せている。

 ただ、フィリピンは日本の姿勢を評価してはいるものの、それはあくまで自国の利益を実現するうえで役に立つからだ。逆にもし、中国が現在のような行動を取っていなければ、今回のように日本の政策転換を支持しなかったかもしれない。

 フィリピンの現地紙インクワイアラーは、先の日比首脳会談を受けた社説で、1992年6月に当時のラモス大統領が日本の自衛隊の軍事的側面を危惧した際、米紙ニューヨーク・タイムズは日本が軍事的な主導権を取れば地域の不安を呼び起こすと報じたことを紹介。そのうえで「先の首脳会談でアキノ大統領が日本の平和憲法の改正を後押しした。92年から2014年までの間、何があったのか。それは中国だ。中国が南シナ海における攻撃的な姿勢を取るようになったからだ」として、変わったのは日本ではなく、中国なのだと指摘した。

 さらに、中国外務省報道官がアキノ大統領の発言を非難したのに対し逆に東南アジア諸国連合(ASEAN)との間の南シナ海行動規範(COC)の締結に消極的な中国の姿勢を厳しく批判した。

 親日的なフィリピンだが、尋ねれば、先の大戦での日本軍による占領当時の蛮行を聞くことができる。東南アジア諸国は、中韓のような反日教育は行っていないが、シンガポールなどと同様に戦時中に起きたことを客観的な歴史として教えており、フィリピンも例外ではない。

 数年前、マニラ北西のパンパンガ州にあるクラーク経済特別区(CSEZ)を取材した際に会った地元の知事が「フィリピンはスペイン、米国、日本に占領された。それぞれひどいことをした。われわれに謝ったのは日本だけだ」と語っていたことを思い出す。

米国には複雑反応

 今、フィリピンの経済は好調だ。今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は5・7%だったが、政府は通年では6・5~7・5%成長が可能と強気の構えだ。

 中国との関係悪化で中国からの直接投資は減少したものの、代わって日本や米国からの投資が拡大した。安全保障面でも、アジア回帰を掲げる米国の重要拠点の一つがフィリピンだ。

 フィリピン国内では、日本に対するよりも、米国に対する感情的なわだかまりの方がはるかに大きい。かつて米海軍が基地としていたスービック湾でも経済特区(SEZ)開発が進むが、米海軍の寄港を認めた政府に対し、地元民はかつて米兵が多くの事件を引き起こしたことに反発しており、長期駐留につながるとして反対デモも行われた。

 こうした声も、目の前に中国という脅威があるがために、大きなものになってはいない。しかし、「理屈ではわかっても感情は別」(インクワイアラー紙)だ。

 アキノ大統領は安倍首相との首脳会談後の記者会見で、「第二次大戦中、わが国が被った惨劇を疑問視する人はいない。しかし、20世紀半ば以降、日本との関係は信頼と永続的な支援で形作られてきた」と述べたが、フィリピン国内にある複雑な対日感情に配慮したものであるのは明らかだ。

 フィリピンやベトナムが日本の政策を支持するのは、自国にとって都合が良いからだ。19世紀の英国の首相、パーマストンが言った「国家には永遠の友も永遠の敵もいない。あるのは永遠の国益のみ」という言葉は、今も正しい。(編集委員 宮野弘之)











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最終更新:2014年07月11日 16:01