資料としてトップ記事に置く
■ パンスペルミア説を証明できる実験が数十年ぶりにおこなわれ、成層圏で宇宙から地球への「侵入者」が捕獲される 「In Deep(2013.9.23)」より (※ 文略、詳細はブログ記事で)
地球の大気構造は「下から上へは上がりにくい」

■ 地球生命の火星由来説に2つの新根拠 「ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト(2013.9.6)」より
+ 記事
地球の生命の起源は他の天体から飛来したとする「パンスペルミア説」は、長らく議論されながらも多くの場合は否定されてきた。だがこのところ、この学説がにわかに息を吹き返している。生命の形成に不可欠ないくつかの物質が、初期の地球には欠けていたが当時の火星には存在した可能性が高いとするそれぞれ別個の研究が、相次いで2件発表されたのだ。

地球生命の火星由来説に2つの新根拠

 1つ目はフロリダ州のウエストハイマー科学技術研究所のスティーブン・ベナー(Steven Benner)氏によるもの。ベナー氏は8月29日、地球化学者の集まる国際会議ゴルトシュミット・カンファレンスで基調講演を行い、初期の生命の形成を可能にした要素のうち2つは、ほぼ間違いなく初期の地球上には存在しなかったが、初期の火星にはあった可能性が高いと発表した。

 生命の誕生にとって水が不可欠だったとする説は広く受け入れられている。そして、遺伝情報を複製するメカニズムを最初に備えたのはRNA(リボ核酸)であり、RNAは生命の誕生に欠かせない役割を果たしたとする説も多くの人から支持されている。しかし、RNAは水中ではうまく形成されない。

 ベナー氏は長年の研究によって、RNAが水中で分解されるのを防いだのはホウ素の存在であったと確認した。地質学の研究成果によれば、初期の地球にはホウ素はほとんど存在せず、RNAの広範囲での形成を支えられたとは考えにくい。しかし、初期の火星にはホウ素は比較的豊富に存在していたと見られる。というのも、火星から飛来した隕石の少なくとも1つに、ホウ素の含有が確認されているからだ。

 ベナー氏は実験によって、RNAの構成要素であるリボースの強固な結合には、ホウ素のほかに、高度に酸化されたモリブデンが必要であることも確認している。このようなモリブデンも、やはり初期の地球にはほとんど存在せず、火星に存在していた可能性のほうがはるかに高い。

 それでは、現状のDNAを基盤とする生命は、本当に火星でめばえたRNAに由来しているのだろうか。これらの生命体は、火星に隕石が衝突した際に飛散した岩石に付着して、地球まで到達したということになるのだろうか。

◆リン酸塩の問題

 ベナー氏の発表から間もない9月1日、今度はRNAやDNAやタンパク質の“背骨”の役割を果たすリン化合物について、同様の主張を行う論文が「Nature Geoscience」誌オンライン版に掲載された。

 論文の主著者はネバダ大学ラスベガス校のクリストファー・アドコック(Christopher Adcock)氏。リン酸塩は初期の地球にも存在していたが、ほとんどは安定した固体の状態であった。生命が誕生したと考えられている水の中には、これらのリン酸塩はほとんど含まれていない、とアドコック氏は説明する。

 早くから指摘されていたこの問題については「さまざまな仮説が存在するが、合意は得られていない」とアドコック氏は言う。

 アドコック氏らの研究の結果、火星ではこの問題は比較的小さかったと考えられるそうだ。初期の火星に存在したことが分かっている2種類のリン酸塩を合成したところ、水に溶けやすいことが分かった。つまりこの点でも、火星は生命の誕生にとって恵まれた環境だったと言える。

◆生命誕生の謎への答え

 パンスペルミア説が勢力を盛り返してきたのは、地球の生命の起源に関する科学界の長年の探求の成果と(というより、成果のなさと)軌を一にしている。ベナー氏が専門とする合成生物学の分野では数十年にわたって研究が行われてきたものの、壁を乗り越えられずにいる。

 たとえば、初期の地球表面に広がっていたと考えられている“原始スープ”の中で次第に生命を形成したとされている有機化合物は、実験室環境では生命の形成につながるような反応を示さないとベナー氏は言う。これらの有機化合物に、熱や光によってエネルギーを加えたところ、初期のRNAを生成するどころか、タール状に変化してしまった。しかも近年の複数の研究によって、かつての火星は現在よりも暖かく、水も存在していたことが明らかになっている。

 これまで火星には、生命はおろか有機物の痕跡すら確認されていない。しかし、今年はじめに火星探査車キュリオシティ(マーズ・サイエンス・ラボラトリ)が、かつて湖底であったと考えられる地点のドリル採掘に成功し、そこには生命の誕生に必要な要素がすべて揃っていたことを確認した。

 だからといって即座に、火星にかつて生命が存在したという証拠にはならない。それでもさまざまな科学研究の成果から、その可能性は少しずつ濃厚になってきている。

 では、ベナー氏とアドコック氏は、地球の生命の起源としてパンスペルミア説を支持しているのかというと、必ずしもそうではないらしい。

 ベナー氏は今回の研究成果について「生命が火星隕石によって地球に到達した可能性を示唆する証拠が、また1つ増えたにすぎない」と言う。仮説を科学的に証明するものではないが、これによって可能性が高まった。

 パンスペルミア説においては、問題が1つ解決したとしてもまた次の問題が持ち上がるとベナー氏は言う。「もし火星由来の微生物が本当に地球に到達したとして(略)、すぐに死んでしまった可能性もある」。

Image Processing by Jody Swann/Tammy Becker/Alfred McEwen, using the PICS (Planetary Image Cartography System), NASA/NSSDC



■ パンスペルミア説 | 福岡伸一の生命浮遊 「ソトコト」より
/
 DNAの情報をタンパク質へと橋渡しする仲介役のRNA。生命が始まった頃、このRNAが一人二役、すなわち、情報を保存し、次世代へ継承するDNAの役割と、化学反応を触媒するタンパク質の役割、その両方を担っていたのではないか。これが「RNAワールド」仮説である。そこではすべてをRNAが仕切っていた。

 とはいえ単純な化学物質しか存在しなかったはずの原始の海で、機能をもったRNAが、偶然の中から現れいでるためには膨大な試行錯誤の時間が必要だったはずである。RNAはヌクレオチドという単位がたくさん連結したもの。まず落雷や熱水、高圧など自然エネルギーの助けによって、メタン、アンモニアなど小さな化学物質からヌクレオチドが形成されなければならない。今度はそのヌクレオチドが連結しなければならない。連結はランダムなものではなく、特定の機能を持つために、特定の配列をとる必要がある。

 最初の生命が誕生したのは、今から38億年ほど前だと推定されている。原始的な細胞の化石が見つかったからである。現在の生命体に類似した細胞があったということは、この時点で、おそらくもうDNA、RNA、タンパク質すべてがそろっていたということである。タンパク質がなければ化石となって残るような細胞の構造を作り出すことはできない。それゆえ、RNAが一人二役をつとめていたのは、それに先立つ無細胞時代だったはずだ。そしてRNAが作り出されるまでにさらにさかのぼった長い準備段階があった。

 地球の誕生がおよそ46億年前だから、生命誕生までに8億年があったはずだ。これは長いようでいて、生命の歴史全体から俯瞰するとあまりにも短い。生命とは合成と分解の絶え間のないサイクルであり、情報の生成と崩壊の交換でもある。私はこれを動的平衡と呼ぶ。生命の動的平衡はひとたび作り出されれば、サイクルを回し続けながらバランスを維持し、少しずつ変容して進化を遂げることができる。それでも最初の細胞ができてから、そこにミトコンドリアやゴルジ体のような細胞内小器官が生まれ、さらに細胞が分化するようになって多細胞化を果たし、さまざまな植物と動物ができてくるのに38億年を要している。しかし、より困難なのは、動的平衡を維持することよりも、最初の動的平衡を生み出すことのほうである。RNAが合成と分解、情報の生成と崩壊を行うことができたとしても、そこに偶然、平衡が生み出されるためには目もくらむようなトライアル・アンド・エラーの繰り返しがあった。そのために8億年はおそらくあまりにも短い。生命の歴史38億年よりももっと長い時間が、動的平衡の創出には必要だったかもしれない。

 生命の始まりを考える上で、ひとつの仮説としてパンスペルミア説というものがある。地球ではなく、宇宙のどこか他の場所で生命に必要な動的平衡が作り出され、それが「種」(スペルミア)となって地球に流れ着いた、と考えるのだ。

 一見、荒唐無稽なSFに聞こえるパンスペルミア説。しかも、わからないことはすべて宇宙のかなたで起こったことにするというのは説明逃れに聞こえるかもしれない。その点ではそのとおりなのだが、ひとつだけ許せることがある。それは時間を味方にできるということ。宇宙の歴史は150億から200億年前のビッグバンにまでさかのぼる。そうなると動的平衡の誕生までにかなりの試行錯誤の時間的猶予があることになる。だから無細胞的な化学進化は宇宙のどこか他の場所で長い時間をかけて生成され、そこに最初の動的平衡が生み出されたと考えることはそれなりに合理性があるのだ。

 地球外の小惑星イトカワからサンプルを持ち帰った探査衛星はやぶさ。この中からもし、アミノ酸や核酸につながる有機化合物のかけらのようなものが少しでも発見されれば、パンスペルミア説はにわかに具体性を帯びるかもしれない。












.
最終更新:2013年09月23日 18:15
添付ファイル