■ 中国が言いがかりをつける「第2次大戦後最大の日本軍艦」 「JB Press(2013.8.15)」より
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8月6日に行われた海上自衛隊護衛艦「いずも」の進水式の模様が、CNNやBBCをはじめとする米英メディアや中国中央電視台国際放送CCTVでも報道され、アメリカ海軍や軍事関係者の間では“ちょっとした”話題を呼んでいる。

 また、予想通り、中国は過剰反応を示し(あるいは言いがかりをつけ)、人民網英語版や環球時報英語版をはじめとする英文中国メディアは批判的に報じている。

「ヘリコプター空母」のように見える駆逐艦

 一般の米英メディアや海上自衛隊艦艇にそれほど詳しくない米軍関係者たちにとって、何と言っても奇異に受け取られている点は、防衛省が「いずも」をDDH、すなわち「ヘリコプター駆逐艦」に類別していることである。

 軍艦は便宜上それぞれ型式を類別して個々の艦艇ごとに識別番号(ペナントナンバー)が付与されることになっている。「いずも」の型式類別はDDHでありペナントナンバーは183であるから、DDH-183といえば「いずも」と特定できるわけである。

 現在のところ水上艦艇の型式類別には厳密な国際的定義が確立しているわけではない。そのため、運用国の国防当局が割り振った型式類別がその軍艦の公式類別となる(水上艦艇と違い、潜水艦の型式類別はかなり明確に決まっている)。だからといって、航空機を運用できない軍艦を航空母艦に類別することは常識的にもできないし、そのようなおかしな類別をしても何のメリットもない。

 ところが、「いずも」型護衛艦(「いずも」「いずも」の姉妹艦で建造予定の「24DDH」)、それに「ひゅうが」型護衛艦(「ひゅうが」「いせ」)の場合、世界中の海軍関係者がその艦影図とおおまかな概要を見れば例外なくなんらかの「航空母艦」と見なす艦形であるにもかかわらず、日本国防当局は「駆逐艦」と称しているため、海軍関係者たちや米英メディアが不思議がっているのである。

 上述したように、軍艦の型式類別は運用国が決定するわけであるから、日本国防当局が「ひゅうが」「いせ」「いずも」そして「24DDH」をヘリコプター駆逐艦(DDH)と類別した以上、いくら国際常識的類別ではヘリコプター空母(CVH)や軽空母(CVL)あるいは対潜空母(CVS)であってもそれらの公式類別は航空母艦ではなく駆逐艦なのである。

 ただし、全通飛行甲板と格納デッキを有した、全長248メートルで満載排水量2万7000トンという超巨大な駆逐艦は世界中に存在しないため、これらの“ヘリコプター駆逐艦”が国際社会ではヘリコプター空母と呼ばれてしまっても致し方ないことである。

F-35が運用できるのか?

 極めてユニークな型式類別以上に米海軍関係者たちが関心を持っているのは、ヘリコプター空母「いずも」に新鋭戦闘攻撃機「F-35B」が艦載できるのか? という点である。

 「いずも」はいまだに就役しているわけではないため、米海軍関係者たちにとってもこの問題は類推にしか過ぎないのであるが、2013年6月にサンディエゴでオスプレイを発着させた「ひゅうが」の経験などから判断すると、「いずも」の飛行甲板にF-35Bの運用に支障のない耐熱補強処理を施すことは日本技術陣にとっては何ら問題のない課題であると言われている。また、F-35Bの最大離陸重量は27.3トンであり、「いずも」より小型の「ひゅうが」で発着したMV-22Bオスプレイの最大離陸重量は27.4トンであることを考えると、この点でも支障はないはずである。

 このような理由から「いずも」では12機ほどのF-35Bの運用が可能であろうという意見が主流を占めている。

 もちろん、「いずも」ではF-35B戦闘攻撃機が運用可能であると言っても、それは「いずも」という軍艦が物理的にF-35Bの運用に耐えうる構造をしているという話をしているだけである。日本国防当局がF-35Bを用いるだけの必要性を認めて国会がF-35B調達予算を承認しない限り、さしたる意味を持たない単なるマニアックな話に過ぎない。

「攻撃型空母」という奇妙な概念

 英米のメディアや米海軍関係者が「いずも」の型式類別を話題にしているのは、あまりに特殊な類別方法であるからであって、それ以上の関心はないようである。同様に、F-35Bが運用できるという説明を紹介するのも、かつて第2次大戦中は空母大国であった日本が、戦後70年近くも経ってようやく戦闘機を運用することができる構造を持った軍艦を建造したという事実説明のために触れているだけである。現在のところ日本政府がF-35Bの調達計画すら持っていない以上、“まともな”メディアとしては、それ以上の類推は口にしていない。

 もちろん、英米メディアの中には、日本国防当局が「いずも」を駆逐艦に類別する最大の理由は、日本では航空母艦を攻撃兵器と見なす議論が存在しているため「いずも」が“攻撃型航空母艦”といったレッテルを張られてしまうのを避けるために“ヘリコプター駆逐艦”という類別にせざるを得ないのである、といった事情を説明しているものも見受けられる。

 そもそも「攻撃型航空母艦」という発想自体、極めておかしな思考回路によってもたらされた概念であり、いかなる兵器・武器でも攻撃する意図に基づいて使用すれば攻撃用となり、防御する意思で使用すれば防御用となる。また攻撃といっても、明らかに侵略する意図による攻撃もあれば、自己防衛のために攻撃をする場合もある。

 しかしながら、日本社会には、呆れたことにメディアや国会議員の中にすら、攻撃型航空母艦といった概念を用いる人々が少なくないようである。

空母保有は憲法違反と宣伝する中国

 この種の軍事的事象に対する日本社会の心理的脆弱性を攻撃材料として日本ならびに国際社会に向けて発信しているのが中国情報戦の常套手段である。

 人民日報の記事をベースにした各種中国英文ニュース(CHINADAILY.com.cn、Global Timesなど)は、以下のような説明をし、F-35Bが艦載可能である「いずも」は航空母艦であることを強調している。

 「中国海軍の分析によると、『いずも』は戦闘機F-35Bを艦載可能としている。確かに現時点では『いずも』に戦闘機は艦載されないが、『いずも』は極めて強力な戦闘力を備えた航空母艦である。日本がヘリコプター駆逐艦と言っているのは『いずも』が侵略的軍事行動に用いる航空母艦であることをボヤかすためである──」

 そして、戦闘機を艦載した航空母艦という軍艦は日本国憲法が禁止している攻撃的あるいは侵略的な軍事行動に使用されるものであることを、ことさら指摘している。これは明らかに、日本社会に存在する“攻撃型航空母艦”という奇妙な概念を逆手に取った日本社会向け論調である。

 しかしながら、もし中国の言うように航空母艦が侵略的軍事行動に用いる軍艦であるならば、J-15艦上戦闘機を最大で60機も搭載可能な航空母艦「遼寧」(満載排水量6万7500トンで「いずも」の2.5倍)は、F-35Bを12機搭載可能と推測される「いずも」より数段攻撃能力が高い超強力侵略兵器ということになる。

艦名にまで“言いがかり”をつける中国

 中国メディアの「いずも」叩きは、中国海軍空母「遼寧」を棚に上げての侵略空母呼ばわりにとどまらない。どの報道でも「『いずも』という艦名は、1930年代に中国を侵略した日本艦隊の旗艦の名称なのである」というコメントを加えている。

 確かに、帝国海軍軍艦「出雲」は、上海派遣艦隊の旗艦を務めたこともあったが、ことさらそのような歴史をほじくり返してあたかも自衛艦「いずも」が侵略の道具である航空母艦であることを強調しようとしているようである。“言いがかり”もここまで来ると感心に値する。

 (日本帝国海軍装甲巡洋艦「出雲」は、日露戦争直前にイギリスに発注して建造され日露戦争中は第2艦隊に所属し蔚山沖海戦や対馬沖海戦でも活躍した。1932年に第1次上海事変が勃発すると、上海の日本人居留民を保護するために第3艦隊が上海に派遣されて警戒にあたった。第3艦隊に所属していた「出雲」は、1937年7月7日、盧溝橋事件が勃発すると第3艦隊旗艦となった。8月14日には中国軍魚雷艇の攻撃を受けるが反撃して魚雷艇を撃沈した。やがて日本に戻り、1945年7月24日、呉軍港でアメリカ軍艦載機の空襲により撃破された)

 ちなみに、2013年6月にカリフォルニアで実施された日米合同水陸両用戦訓練に参加した海上自衛隊ヘリコプター空母「ひゅうが」とイージス駆逐艦「あたご」は、人民日報的に解釈すると第2次世界大戦中アメリカ海軍と激戦を交えた航空戦艦「日向」と重巡洋艦「愛宕」の生まれ変わりということになる。そのような「ひゅうが」と「あたご」をアメリカ海軍・海兵隊は歓待したのである。

馬鹿げた言いがかりに対しても反撃が必要

 この他にも、中国メディアは航空母艦「いずも」の建造は安倍晋三首相の軍国主義的野心などと言っているが、22DDH「いずも」の予算を承認したのは民主党政権であって安倍首相とは無関係である。また、日本政府が「いずも」の進水式をわざわざ68年前にアメリカが原爆攻撃を加えた8月6日にしたのは、日本国民の原爆攻撃に対する感情に訴えて日本政府の軍国主義的野心を支持するように仕向けるためである、といった全く噴飯物の“分析”まで垂れ流しにしている。

 しかしながら、このような滅茶苦茶な“言いがかり”であっても、人民網や環球時報やCCTVなどの英語版や英文ウェブ報道などによってそのような情報が日本の実情や日中間の歴史などほとんど何も知らない国際社会の人々の目に触れ続けると、第2・第3の「南京大虐殺」が続々と誕生していき、国際社会に中国共産党政府バージョンの“歴史”や“分析”が浸透してしまうことは必至の情勢である。

 日本政府は国際社会に向けて、日本人から見ると荒唐無稽であり噴飯物である“言いがかり”や“難癖”に対しては、公式にかつ徹底的に反論を発信しないと取り返しがつかない国際世論が形成されてしまうであろうことは「南京大虐殺」のみならず「従軍慰安婦」でも経験済みである。

 “言いがかり”だろうが何だろうが言い続けたものが勝ちなのが国際社会である。日本政府・国防当局は、国防に有用な「いずも」のようなハードウエアの取得だけでなく、効果的な対外宣伝を中心とした情報戦を直ちに開始しなければならない。

(※ サイト記事には資料写真が数枚掲載されています。)









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最終更新:2013年08月16日 21:27