★ 視察10分で「出てけ」、教育研修は休みで無人の学校…公費3400万円「丸抱え職員上海研修」の無駄、無駄、無駄 「msn.産経ニュース(2013.8.12)」より
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 鹿児島県が7月から始めた県職員ら300人の「公費丸抱え上海研修旅行」が予想通り、県民の猛批判を浴びている。実際、1時間の市場見学の予定が10分で退場させられたり、夏休みで生徒のいない学校を訪問したため授業見学ができなかったりと、現地でのお粗末な実態が次々と明らかになっている。計画を打ち出した伊藤祐一郎知事はあくまで「研修は立派な行政マンに育つ糧になる」と強弁するが、県民は「お気楽な慰安旅行にほかならない」として責任追及に向けた動きを活発化している。(熊本支局 谷田智恒)

1時間の見学予定が10分で打ち切り

 公費3400万円を使った今回の上海旅行について、県は職員らの研修に加え、利用が低迷する中国東方航空の鹿児島-上海路線の存続に向けた搭乗率向上を狙いとして挙げている。

 県職員については7月10日出発の第1陣に続き同31日、8月7日とすでに3回派遣。今後も8月21日、9月4日、11日の出発日程で続けていく。また、これとは別に教職員の上海研修も7月24、31日、8月7、21日出発の4回に分け実施中。派遣されるのは教育次長2人と社会教育、総務福利両課長の管理職4人を団長に、県教育庁職員9人▽小学校44人▽中学校27人▽高校12人▽特別支援学校4人-の計100人だ。 

 さて気になる研修の中身だが、第1陣の上海研修2日目の農政部職員による野菜卸売市場の視察について、鹿児島の地元紙・南日本新聞は7月12日付1面で「市場見学10分で退場 当初計画は1時間」との見出しで、「警備員に促されるまま、わずか10分で強制退場させられる一幕もあり、職員らは硬い表情をみせた」と報じた。

 また関係者によると、同日に土木部職員が上海の洋山深水港を訪れた際も、職員の乗ったバスが規制区域ゲートを通過したところ、港湾管理局パトロール車に制止された。職員らは事情聴取を受け約30分も足止めされたため、その後の視察行程に影響が出たという。


制止されたのは報道陣のせい?

 研修が予定通りいっておらず、研修の効果や県の計画が疑問視される内容だが、こうした情報に関して県側は“反論”。中国側に制止されたのは日本の同行取材陣の行動が影響した「取材事故」だったとし、総務部長の取り扱いで同行の報道各社の一部に宛てて「取材事故について」と題した抗議文を出した(産経新聞は今回の上海旅行へは同行していない)。

 関係者によると、市場の見学では職員が入場した際、取材陣がカメラ撮影を行いながら後に続いたことから、約5分後に警備員2人がカメラ撮影を制止するとともに全員退去を命じた。このため、当初1時間を予定していた視察は約15分間で終えるハメになったという。また、港の視察で職員のバスが制止されたのも、取材車両が続いたのが原因だとしている。

 県人事課行政管理室によると、研修出発前の7月5日に、県職員一行の同行取材を申し出ていた報道各社向けに説明会を開催。担当者は「研修先でのカメラ撮影の可否については、各社の責任で取材先に確認してもらうよう文書を配布し、口頭での注意喚起を含め申し入れを行っていた」と釈明する。しかし調整が不十分であったことは否めず、「県、報道機関のいずれに問題があったかはわからないが、検証が必要だ」(自民党県議)という声も出ている。


夏休みで〝無人〟の学校訪問した「教育研修」

 一方、教職員が対象の研修は定員100人を超える164人の応募があり、「研修参加計画書を提出してもらった上で、地域バランスや希望日を考慮して絞り込んだ」(県教育庁総務福利課)という。

 初日は上海の総領事館で上海市の概要説明を受け、2日目は上海博物館や、子供らが芸術を中心とした課外活動に取り組む施設を訪問。3日目は2班に分かれ小学校や小学~高校一貫校を訪れ、教職員との意見交換や施設見学などをし、学習塾の授業も見学するスケジュールだった。

 ところが上海の学校も日本同様、夏休み中で、実際の授業の様子は視察できずじまい。学習塾だけの見学となった。これは県教育庁も申し開きできない問題だが、帰国後に鹿児島空港で取材に応じた豊島真臣教育次長は「教員の話を聞き、子供たちの活動も見られて有意義だった」などと成果を強調している。


肝心の上海ー鹿児島路線維持も「?」

 ところで、第1陣と同じ飛行機で7月10日に上海入りした伊藤知事は現地の中国東方航空本社を訪れ、鹿児島-上海線の維持を申し入れたが、確約は得られなかった。知事や県によると、会談した旅客マーケティングの責任者で副社長クラスの董波氏は運航コスト低減の支援などを要望し、県側は具体案を検討する方針を伝えたという。

 路線維持の確約が得られぬばかりか、足下を見られて、新たな“宿題”を背負わされた形だが、伊藤知事は帰国後の定例記者会見で「具体的な細かい話や条件ではなく、一般的にこちらがお願いしますというわけだから。あちらから来る方の便益を図ってくださいね、という程度の話だ」と開き直った。

「路線維持のための緊急措置」という目的が達成できなければ、知事の政治責任が問われることになる。県が掲げる「職員の国際感覚や幅広い視野の醸成などを図る」との目標もお題目に過ぎず、実態は「お気楽な慰安旅行」に尽きるのだが、伊藤知事は「個別の成果はそんなに期待していない。心の中に織り込んだ風景がやがて立派な行政マンに育つ糧になる」と、何だかよく分からない発言をしている。


高校生の修学旅行の方がマシ

 当然だが、今回の研修旅行への県民の反発は相当なものだ。

 「高校生の修学旅行の方がまだ充実しているかと思える内容のない無意味な計画」「財政調整積立基金から繰り入れるのは違法だ」

 伊藤知事に派遣中止の勧告を求めて住民監査請求を起こした鹿児島オンブズマンは7月18日、その意見陳述会で事業をこう批判した。

 意見陳述したのは主婦2人と女性介護士、鹿児島市議、住民団体代表の5人。陳述の中で主婦(33)は、県が「今後の県政運営を担う県職員にとってダイナミックに成長を続ける上海の現状を体感することが不可欠」などと主張していることについて、「何がどうして必要不可欠と言えるのか、意味が不明。まるで高校生の修学旅行のしおりの文言のようだ」と批判。その上で、「不当な公金支出である以上、派遣された職員に返還させるか、無理やり計画を推進した知事に返還していただきたい」と語った。

 同団体の続博治代表も「多くの県民の批判を受けて事業規模を3分の1に縮小し、充当財源は財政調整積立基金を取り崩すことになった。場当たり的な事業費計上であったとしか言いようがない」と指摘。さらに、「付け刃的な研修への支出行為は県の研修規定にも違反した研修と言わざるを得ず、その財源を財政調整積立基金に求めること自体も違法な支払い行為」だとして、支出額の返還を求めるとともに、今後の職員派遣を中止することを求めた。

 しかし、県監査委員は8月2日、「県議会の審議・議決を経て予算化されており、知事の判断が著しく合理性を欠き、裁量権の範囲を逸脱して乱用したものとは認められない」として中止勧告の請求を退けた。

 これに対し同オンブズマンの続代表は「県の主張のみに基づいた判断をしている。税金の使い方としての問題点には触れず、意味のない監査結果」と批判している。

 平成元年の大阪市公費乱脈事件では、当時の幹部職員と一部議員による接待・宴会に年間7億円もの食糧費が新地の高級料亭や高級ラウンジに消えていたことが発覚。市民グループ「見張り番」が結成され、食糧費乱脈支出を住民監査請求・住民訴訟で8年かけて返還させ、裁判で和解終結させた。鹿児島オンブズマンなどは今後の対応を検討するとしているが、税金を使った夏休み旅行をめぐる騒動はまだ収まりそうにない。










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最終更新:2013年08月12日 14:14