★ 3万人に含まれない 自ら食断ち「孤独死」 「MSN産経west(2012.6.9)」の記事を全文コピペ。

■ 日雇い肉体労働も求人が半減 若者にも影

 昨年11月20日、“とっつぁん”は死んだ。75歳だった。

 大阪市西成区萩之茶屋のマンションの一室で、介護のケアマネジャーが発見した。とっつぁんは床に足を投げ出して座った状態で、ベッドにもたれかかるように死んでいた。自ら食べることをやめた結果だった。


 とっつぁんの本当の素性を知る人はほとんどいない。この街では、過去を語る人はほとんどいないからだ。少なくとも10年前にはあいりん地区にきていたという。

 わずかにとっつぁんを知り、亡くなるまで交流があったという男性(69)は、「政治や社会問題の話題ができるのはあの人だけだった」と振り返る。

 資産家の家に生まれ、東京の大学を卒業したが家の金を使い込んだ、と話していたという。亡くなった部屋から広辞苑と源氏物語が見つかったというから、大卒は嘘ではなかったかもしれない。

 とっつぁんと男性は約5年前に簡易宿泊施設から単身向けのマンションに移り住んだ。男性が受け取っていた年金は月6万円ほど。最低限の生活費で無くなる額だ。当初はパートの仕事で食費を工面していたが、その職もなくなった。

 仕事をして食べていきたい。でも仕事がない。実際、あいりん地区の求人数はこのところ、激減している。西成労働福祉センターによると、リーマン・ショック前の平成19(2007)年と比べると約4割減少している。

 ためらい悩んだすえ、男性は生活保護を申請した。「とっつぁんも同じような生活をしていた。足りない分は生活保護を受けていた」という。

 長期の失業とマンションでの独居、生活保護の受給。年を重ねていくさなか、ケガが拍車をかけた。

 自転車で転倒して足を骨折し、松葉づえが必要な体になったのだ。

 このころから、とっつぁんは死を口にするようになった。「(自分の部屋がある)10階から飛び降りたら楽になれるのにな」。男性は「最初は冗談だと思っていました」と振り返る。しかし日増しに酒量が増え、食が細っていった。

 アルコール依存症の治療のため入院した病院からも、すぐに「脱走した」と戻ってきたという。

 亡くなる約1カ月前、男性はとっつぁんの部屋を訪ねた。男性がちゃんと食べるよう促すと、「『もういい。医者にもかからず自然に死ねるのがありがたい』と言うんです」。

 その後、とっつぁんは一切の食を断ったようだ。

 警察によると、こうした死は通常「衰弱死」とされ、毎年3万人を超える自殺統計にはカウントされない。近年は「孤独死」と呼ばれるようになった。自殺と他の死の境界は限りなくあいまいになっている。

 とっつぁんを死に追いやった状況は、実はそんなに特殊なことではない。

 こころの健康センター(大阪市都島区)の精神保健医療担当課の松本孝博課長は、「この人には全てが集約されています。独居や生活保護受給に加え、長期の失業、アルコール依存の問題もある。しかしすでにこうした状況にある高齢者は、全国に数多くいらっしゃるはずです」と言う。

 そしてその危機は高齢者だけの問題ではない。不況は、すでに若者にも黒々と影を落としている。

最終更新:2012年11月06日 15:52