■ マスコミが報じない「もんじゅ」の真実。「もんじゅ」をこのまま潰していいのか? 「さくらの花びらの「日本人よ、誇りを持とう」(2016.1.3)」より
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高速増殖炉「もんじゅ」が潰されようとしています。本当に潰していいのか、真剣に考えるべき時期が来ています。

良識ある国民が声を挙げていかなければ反対派の独壇場です。

テレビでは「動かないもんじゅに1兆円もかけて、さらに年間200億円も使っている。こんな無駄はない」と報じます。これだけ聞けば国民も無駄だと思って

しかし、真実はどうであるのか・・・・・。


原子力規制委員会(田中委員長)は「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構(機構)に「是正という段階を超えて、もんじゅを扱う能力がない」と断言しました。この田中委員長というのが曲者ですから名前を覚えておいて下さい。

「もんじゅ」は1995年にはナトリウム漏れの事故を起こし、2010年にようやく再稼働したと思ったら炉内の中継装置が落下して停止し、以来稼働されていません。この落下事故は反核派の活動家が「もんじゅ」に入り込んでやったと渡部昇一さんが著書で書いています。

また2012年には「1万件近い機器の点検漏れがあった」と報じられて問題となりました。しかし、なぜそうなったかは報じられません。

(※mono.--以下略、詳細はブログ記事で。下枠は元記事となったwillの記事のYahoo!掲載版です。)

★ 新聞・テレビが全く報じない「もんじゅ」と「規制委員会」の真実【金子熊夫×奈良林直×櫻井よしこ】 「Yahoo!news-Will(2015.12.2.1)」より
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もんじゅ「一万件チェック漏れ」の真相

櫻井よしこ 原子力規制委員会(以下、規制委)は十一月十三日、高速増殖炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構(以下、機構)について、所管省の長である文部科学大臣に厳しい勧告を突きつけました。
「機構については、単に個々の保安上の措置の不備について個別に是正を求めれば足りるという段階を越え、機構という組織自体がもんじゅに係る保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有していないと言わざるを得ない」と断じ、さらに「(安全確保上必要な資質がないと言わざるを得ない段階)に至ったものと考える」と、ダメ押ししました。
 日本はこれまでもんじゅに国税一兆円を投入してきましたが、一九九五年のナトリウム漏れ事故以降、ほとんど運転休止が続いています。その間も年間二百億円をかけて維持してきたわけですが、規制委が機構を、安全性を確保する能力も資格もないと、断言しました。
 二〇一二年には、もんじゅに一万件近い機器の点検漏れがあったと報じられました。報道を見れば規制委の批判はもっともだと国民は思ってしまいます。国民からもんじゅに対して不信の声が起きているのも当然ですが、報道されていない多くの問題があり、それらを知ったうえでなければ判断は下せないのではないかと思っています。

奈良林直 実は東日本大震災以前、機構にはもんじゅが実用化された後の技術移転のために、メーカーや各電力会社から出向してきた技術者が全体の五〇%いて、残りの五〇%が機構の職員で構成されていました。ところが、震災以降、機構が六〇%、三〇%がメーカと地元の協力企業で、電力の出向者は一〇%に減っています。再稼働を急ぐためですのでやむを得ません。

櫻井 現在は、最小限の人数しか機構にはいないということですね。

奈良林 さらにその中から福島の復興事業にも人手を割くなどしており、また予算も減らされているため、点検工程の延期と点検計画の見直しを規制委に再三に渡って要請していたそうなのです。しかし、一切無視され、三、四カ月ごとに規制委が機構に来て「まだ終わっていないのか!」と叱責する。

金子熊夫 もんじゅの機器類のうち「一万件のチェック漏れ」があったとマスコミに書き立てられると、「とんでもない組織だ」と思われてしまいますが、そもそもその「一万件」がもんじゅの安全な運営や技術の向上に本当に不可欠なものなのか非常に疑わしい面があります。

奈良林 ナトリウム漏れ事故以来、ナトリウムが万一漏れて火災が起きたらすぐに発見できるように、監視カメラを約百八十台設置したのですが、二十年経って古くなり、そのうち五十四台が故障していたのを指摘されたのです。ところが予算も人員も削減されているなかで、まずは原子炉の安全に関わるシステムや計器を優先度の高い順にチェックしていくので、カメラの検査などはどうしても後回しになる。すると「カメラがぜんぜん点検できていないじゃないか」と言われてしまう。しかし、このテレビカメラはそもそも保安規定にも盛り込まれていなのです。つまり検査対象に入っていない。そうしたものまで「やっていない」と責められ、新聞には「一万件チェック漏れ」と書かれてしまう。
 ちなみに、十二月十二日にもんじゅを視察したところ、全て新品の監視カメラに交換されていました。

金子 あの時、機構の理事長を務めていた鈴木篤之さんが「やるべきことはしっかりとやっているからいいじゃないか」と発言したら「とんでもない不謹慎な奴だ」となって解任されましたが、私が理事長でも同じことを言いましたよ。

奈良林 停止中と稼働中では使用する機器も稼働中のほうが多くなります。もんじゅは停止していますからまずは最重要の炉心回りを重点的に点検したり、機器のバルブでも稼働中にしか使用しないバルブより、まず停止中でも使用するバルブを優先的にチェックしていくわけです。必要最小限の人材で最大限のことをやる。ところが、規制委は稼働中に使用するものも全てを一括りにして「あれもできてない」「これもまだやっていない」と批判する。

規制委の手法は世界的に見てもおかしい

櫻井 そうした事情を機構側が規制委に主張しても受け入れられないという状況が見えてくるような事例です。もんじゅの地元の敦賀市や福井県には、規制委のコミュニケーション不足に対する不満があると「福井新聞」が伝えています。渕上隆信市長は「適切な指導があれば、勧告を出すような事態にはならなかったのではないかと述べていますし、西川一誠知事も「これまでの(規制委の)助言に親切さが欠けている」とさえ言っています(「福井新聞」一五年十一月十七日)。
 たしかにもんじゅを扱う機構にも問題があるのでしょうが、規制委の手法は世界的に見てもおかしいのです。

+ 続き
奈良林 一切聞く耳を持ってもらえないと機構の人は嘆いていました。悪意すら感じると。しかも、検査では膨大な資料が要求されます。例えば物差しで寸法を測るにも市販された物差しで測ってはならず、メートル原器で精度が保証されたものを使わなければならない。そのために「この物差しはメートル原器で精度が保証されています」という証明書を作るところからまず始めるのです。
 私が、ある発電所の傍にある駐在検査官の事務所を訪ねると、十万ページ、十メートルの書類が山積みになっていました。

櫻井 厚さ十センチのキングファイル百五十冊分。この電子化の時代、紙書類としては正気かしらと思う量です。

奈良林 その書類も品質保証の対象となりますから、仮に百万字のなかから誤字脱字が一個所でも見つかると、全ての書類が「不良品」「チェック漏れ」で突き返される。いま各原子力発電所でこの書類審査が行われているのですが、規制委はそれと同じことをもんじゅでも要求しているのです。発電所では数十人が品質保証の書類作りに専念していますが、もんじゅでは人手が足らない。そのなかで短期間のうちに膨大な書類作りと確認に追われ、機器の点検も「全てやれ」と言われてしまっている状況です。

櫻井 厚さ十センチのキングファイル百五十冊分は、審査する規制委にとっても大変な分量のはずです。規制委による原発再稼働に向けた審査が大幅に遅れているのも当然です。つまり現状では、審査する側もされる側も十分に対応できていない。規制委も含めて双方が「能力を有していない」状況に追い込まれてしまっている。

奈良林 ある駐在検査官が「私たちは上司にしかられるので、誤字脱字も見逃さないよう、毎日厳しく書類をチェックしていますが、これで原子力発電所の安全性が高まるとは到底思えません」と嘆いていました。アメリカでは検査項目などが全て電子化されていて、パソコンで閲覧が可能です。検査官は抜き打ちで発電所に行きその場で電子ファイルを見て、「この機器を動かして下さい」「あのシステムはどうなっていますか」と現場で実際に見て動かして確かめているのですが、日本では書類を清書することが第一になっている。必ず紙の資料も提出しなければならないのです。

櫻井 それにしても日本の規制委はなぜこのような非合理の極みのような検査法をとっているのですか。

奈良林 なにかトラブルがあった際に紙の資料を証拠として提出するためなのですが……こんなことをやっているのは先進国の中で日本だけです。世界の規制と比べて日本がどれほど遅れているかという事実を国民も知らないし、政府も認識していない。
 私が会長を拝命している日本保全学会のなかにも、「もんじゅの保守点検について機構にアドバイスを続けているけれど、何を言っても対応してくれない」との不満を言う人がいますが、保全計画をまとめて、規制庁と交渉したり、保全計画を整備する中間管理層の人材が機構に不足しているのも大きな要因です。
 軽水炉の再稼働の審査対応では、電力会社では数百人の人が書類作りをしたり、東京に詰めて、規制庁対応をしています。これらのことをできる人が機構には払底しているのです。

日本では何でもかんでも「大事故」に

金子 こうした問題点はメディアでは書かれず、単に「一万件のチェック漏れ」と報じられ「とんでもない杜撰な組織だ」という印象だけが広く流布して定着してしまうわけです。一九九五年十二月八日に起きた「ナトリウム漏れ事故」も本来ならトラブル程度で済む話でした。

奈良林 フランスの実験炉では約三十年間に三十回ぐらいのナトリウム漏れ事故を起こしていますが、その間も安全を確保しながら動かし、改良を重ね技術革新を図りその知見を国際会議で発表しています。こうした事実はメディアで全くと言っていいほど報じられません。

金子 そもそももんじゅは実験炉、原型炉、実証炉、実用炉という四段階の二番目の段階のもので、普通の原発のような完成した実用炉(商業炉)とは異なるという視点が日本では完全に抜け落ちています。機器の不具合などを実験で確認し、トラブルがあればその都度改良を重ねていくための炉なのです。いわば、失敗があって当たり前なんです。
 ところがそれが「大事故」になったのは「事故隠し」を行なってしまったからですね。ナトリウム漏れ事故の現場を映したビデオから事故状況が映っている場面を意図的に削除したことなどが判明し、大きな批判を受けました。

櫻井 その点は厳しく責められてしかるべきと考えます。新しい技術開発で、しかも実験炉なら問題が発生するということは国民は理解できると思います。それを情報公開し、きちんと技術的に乗り越えれば理解も得られます。しかし、情報隠しをしてしまえば信頼の土台が崩れます。

金子 もちろんです。ただ海外ではナトリウム漏れぐらいでは大きな問題視はされません。日本はちょっとしたトラブルでも新聞に書かれて「大事故」にされ、予算が削減されてしまう。世界の基準に照らしても大したことはないと関係者の誰もが分かっていましたから、できれば小さなトラブルで済ませたい、との思いがどうしてもあったのでしょう。

奈良林 「事故隠し」は褒められたことではありませんが、ナトリウム漏れ火災を受けて、もんじゅでは温度計を改良したり、漏えい検知器を設置したり、受け皿を設けるなど徹底的な改善策を一年以内に講じています。また、万が一電源が喪失してもナトリウムの自然対流で炉を冷却する空気冷却系も設置している。もんじゅを視察すればすぐわかることで、そうした点もメディアは公平に報じるべきではないでしょうか。
 ちなみに「もんじゅ」の原子炉設置許可無効を求めて住民が起こした裁判で、二〇〇五年五月に最高裁は「見過ごすことのできないミスや欠落はない」として住民側の敗訴が確定しています。

櫻井 現場をよくご存知のお二人のお話しを聞いて、事情がよりよく分かりました。あまりにも厳しい重箱の隅をつつくような批判が現場を委縮させている、正面から問題に向き合うことを避けようとする空気を作ってしまっていると思います。これは報道の質の問題につながっていきますね。

「もんじゅ」に対する偏見と怨念

金子 もんじゅに限らず東日本大震災後、各電力会社は大変な人材と資金を投じて改善策を講じていますが、そうした報道はほとんどありません。津波はもちろん竜巻など世界一厳しい基準をクリアすべく対策を講じている。それを重箱の隅をつつくようなことばかり取り上げて「けしからん」とやっていては本末転倒です。
 はっきり申し上げて田中俊一委員長はもんじゅとプルトニウムに否定的な考えを持っているとしか思えません。私も田中俊一氏が難しい立場で懸命に頑張っていることは十分認識しており、彼を個人攻撃するつもりは毛頭ありませんが、彼はかなり前からもんじゅをはじめ高速増殖炉計画に否定的であったことは事実です。ただ従来国策で進められてきたので横目で見ていたのが、東日本大震災が起きて以降、原子力に対する否定的な見方の広がりを受けて「これ幸い」とばかりに叩きにかかっているように見える。第一、氏の言動には温かみが全く感じられません。もんじゅを一生懸命立て直そうとしているときに、「お前たちは無能で不適格だ」とバサッと全否定されたらそれはショックですよ。
 もんじゅの青砥紀身所長が記者会見で、改善に向けて規制委とのやりとりを続けていた最中で「突然はしごを外された感がぬぐえない」と話していたのも頷けます。

櫻井 先ほどご紹介した福井県知事の西川氏の「親切さが欠けている」との批判と重なります。田中委員長が高速増殖炉にそこまで否定的になる理由として考えられる要因はありますか。

金子 かつて日本原子力研究所(原研)と動力炉・核燃料開発事業団(動燃)という研究機関がありました。田中さんは原研の副理事長を務めた人です。もんじゅに先行して敦賀に「ふげん」というユニークな新型転換炉(ATR)が建設され、その後にもんじゅが建てられたわけですが、どちらも動燃が実務的な研究開発を続けてきました。
 一方、原研は基礎研究がメインですから予算も動燃より少なかった。その両者が統合再編され、新たな独立行政法人として、これまで話に出ている機構が設立されたわけです。ところが、気風もタイプも違う両者の間で縄張り争いのようなことが行われてきた。そうした原研と動燃時代からの怨念を引きずっているという面があるのではないかと思います。つまり動燃やもんじゅに対する怨念です。
 ここのところはかなりデリケートなので、もう少し詳しく説明しますと、原子力の興隆時代、旧原研(当初の原研)は高速増殖炉も含め幅広い原子力研究を実施していました。その旧原研が「赤い組合」に牛耳られていたことから、国は新規に動燃という事業団を設立し、サイクル技術事業化開発(常陽、もんじゅ、東海再処理、プル燃料等)を委ねました。旧原研の流れを汲む研究者たちは、「もんじゅ」を筆頭とするこれらの壮大で魅力的な研究開発とそれに関連する潤沢な予算を動燃にとられた。本来自分たちが担うべきであったし、もし自分たちがやっていれば旧動燃や機構のような技術的な失敗(ナトリウム漏れ)や、あのような無様なこと(ビデオ隠し)は起こさなかっただろうという思いがあって、いまだに怨念に取りつかれているのではないか。あまり下司の勘ぐりじみたことは言いたくありませんが、公平な第三者の立場から見て、旧原研出身者にそのような、屈折した感情があるのではないか、という気はします。

櫻井 組織再編に関して、そうした内輪の話は意外と重要な要素ですね。

金子 実は私は、退官して大学教師をしていた当時、二つの組織が統合して現在の原子力機構になる時に偶々動燃の運営諮問委員会の委員をしていて、そうした可能性をひそかに懸念していたのですが、原子力研究者の世界では、そういうことも結構重要な要素のようですね。
 規制委は「もんじゅ」の再開に向けた準備活動すら禁止しました。明らかに「もんじゅ」を潰そうとしているとしか思えません。

規制委を監視する組織の創設を

櫻井 私のなかでもそこは大きな疑問です。なぜ、準備することを禁止するのか。金子さんの仰る「もんじゅ潰し」と言われても抗弁できないのではないでしょうか。もしそうなら、これは規制委の権限を逸脱していると言わざるを得ませんし、規制委には、「中立公正」さと運営の「透明性」が原子力規制委員会設置法(以下、設置法)によって求められるなかで、規制委はその法的要件を満たしていないのではないかと言えます。

金子 だから田中さんは、あくまでも「勧告」と言っているわけですよ。強制はしていないと。

櫻井 田中委員長は、文科省に対して「半年を目処として」、機構に代わるもんじゅの新たな運営主体を見つけるよう勧告したと同時に、「看板の掛け替えは認められない」(朝日新聞十一月十四日)とも語っています。
 新しい運営主体を見つけられなければ、廃炉を検討せよ、と事実上求めたとも言えます。「勧告」であっても現実には命令に等しい効果があるのではないですか。

金子 原子力はこれまで一貫して国策で進められてきました。国のその姿勢は今後も変わりません。ですから本来なら「稼働させる」という前提で、安全性をチェックするのが規制委の使命のはずです。ところが、今の規制委はそうなっていません。「稼働させない」あるいは「稼働できなくても構わない」という前提で動いている。国家行政機関の一つとして規制委はその本来の役割を果たしているとは言えません。

奈良林 自民党のプロジェクトチーム(PT)が提言書を纏めて田中委員長に提出しました。そのなかには規制委が行政手続法に基づいてきちんと規制委としての役割をはたしているかチェックする監視組織を作る案が盛り込まれています。

櫻井 現実は、規制委が真に原発やもんじゅの安全性を高めることに役立っていないことを示しているわけですから、自民党は急いでそのような組織を作ることが必要です。
奈良林 アメリカの原子力規制委員会(NRC)のなかにも適正に規制を行っているかをチェックする組織が作られています。さらに米国原子炉安全諮問委員会(ACRS)という専門家の組織があり、NRCに対して随時アドバイスを行っています。

金子 ところが、田中委員長は設置法で五年間の任期を保証されているので、何をやっても、やらなくても職を解かれることはありません。
 米国のNRCの場合は、委員長に問題があると、議会が徹底的に追及して自ら辞任に追い込むことができます。事実、福島事故当時のグレゴリー・ヤツコ委員長、彼は正真正銘の反原発派ですが、議会の追及に耐え切れず任期半ばで辞任しました。それが民主主義の原理です。

櫻井 規制委は委員長の任免を天皇が認証し、公正取引委員会同様、内閣総理大臣といえども介入できない3条委員会です。かといって彼らが独断専行で日本の基本政策を覆すようなことをしてよいはずはありません。原子力産業は日本のエネルギー政策の根幹ですし、国民生活を支えるものです。その重要産業の行方が公正さを欠く手続きで決められるとしたら問題です。

金子 田中委員長は任期まであと一年半ありますから、その間に「中立公正」とは程遠い、重箱の隅をつつくようなことがますます横行する恐れもあります。

菅直人元首相が仕掛けた「時限爆弾」

奈良林 北海道新聞(二〇一三年四月三十日)に菅直人氏が次のように語っています。
「たとえ政権が代わっても、トントントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」
 この記事で菅氏は1「活断層と認定する」か、2「40年問題」(建設後40年経過の原子炉の安全性検証を著しく困難にした)で多くの原発を廃炉にしていき、2030年代半ばには日本の原発をゼロにできる。3もんじゅと再処理もやめさせることで核燃料サイクルも無くせる、という趣旨の発言もしています。
 まさにいま、菅直人氏の仕掛けた「時限爆弾」が爆発している。

櫻井 菅氏の思惑通りに事態が進行している、という認識が政府・自民党の側にあるのかと疑わしく思います。3条委員会を尊重することと、彼らが設置法に基づいて公正な審査をしているかをチェックすることは両立するのです。
 奈良林さんが先ほど言及されたアメリカのチェックの在り方などを参考に、日本も専門家の知見や国会の機能を活用して、規制委の公正な審査を実現していかなくてはなりません。

金子 政治を変えるのはやはり世論の力も大きいですから、もんじゅについても科学的な正しい知識と情報を国民に知ってもらい、外側から機運を温めて“冷たい規制委員会”を溶かしていくような動きが必要です。
 それとやはり霞ヶ関の構造も変える必要がありますね。先ほども申しましたように、「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故(一九九五年)、さらに東海村JCO臨界事故(一九九九 年)が重なって、監督官庁である科学技術庁が廃止され、十以上あった原子力部門を圧縮して、文部省に嵌めこんだ。それが現在の文部科学省ですが、スタッフの規模からいっても弱体化は否定できません。

櫻井 田中委員長は勧告書のなかで文科省に対しても「これまでの対応は結果的に功を奏していない」と批判しました。客観的に見て文科省が高速増殖炉の研究開発の主管官庁でよいのかという疑問はあります。

金子 現在、文部科学省に原子力の名前が付く課はわずか一つです。優秀な技術系のキャリア官僚やエンジニアが省庁を去り、予算も力もなくなった。つまり原子力の研究開発を所管する官庁が極端に弱体化してしまっているのです。大臣も人によりますが、文部行政に強い人が就くことが多く、科学的な分野に関してはあまり明るくないことが多い。
 他方、原子力発電所や核燃料関係は通産省、現在は経済産業省が所管している。この際、原子力発電とそれに関連する核燃料サイクル、廃棄物関係は文科省から切り離して、研究も実用も、全て一括して経産省・資源エネルギー庁で行うように改組するべきだと思います。そうすれば電力会社や原子力メーカーも経産省の指揮の下、「もんじゅ」などにも一層協力しやすくなるのではないか。現在の状況では電力会社はなるべく距離を置いていたいようですが。

教育用原子炉停止で深刻な弊害が

奈良林 問題がもう一つあります。文科省所管の各大学には教育用の原子炉があるのですが、それがいま全て止められているのです。

櫻井 具体的にどの大学ですか。

奈良林 京都大学と近畿大学、それから東京大学です。東京大学の弥生の原子炉は二〇一一年三月を以て永久停止となりました。京都大学の原子炉や臨界実験装置は全国の大学の教育にも使われています。私も大学の修士の時に研修を受けましたし、北大の学生も毎年、研修を受けています。これまでは文科省のなかに大学の研究炉を担当する部門があり、規制庁が設立された半年後に文科省から規制庁に担当者が異動したんです。ところが、担当者が規制庁の人と入れ替わったため、今では大学の原子炉を理解していない人が商業炉と同じような感覚で規制を行っているのです。

櫻井 そこでも膨大な書類を要求されているのですか。

奈良林 そうです。規制委から「商業の発電所と同じ審査をするので、書類を提出しなさい。許可が出るまで動かしてはならない」との指示が出され、大学側は大慌てです。
それによってどのような弊害が起きているかと言いますと、例えば京都大学は原子炉の中性子を使って脳腫瘍などで苦しむ患者さんを治療し、年間六十人ぐらいの命が救われていたのですが、原子炉を止められているため、その治療ができない状況が続いているのです。
 さらに、人材育成という面でも原子炉特別実験という決められたカリキュラムを学生たちが受けられないため、いまは韓国に頭を下げて韓国の原子炉で学生たちは研修を受けているのです。

「日米原子力協定」の交渉で不利に

奈良林 もんじゅなどの高速増殖炉は軽水炉の原子力発電で生じる使用済み核燃料からプルトニウムとウランを抽出して再利用しますので、新たな燃料なしで二千五百年間、エネルギーを供給できる潜在的な能力を有する、資源小国の日本にとってはまさに「夢の原子炉」です。

櫻井 使用済み核燃料を放置すれば、人間に対して無害な天然ウランと同じ水準に戻るのに十万年かかります。高速増殖炉で燃やせばこれが三百年に短縮され、量は約七分の一に減る。使用済み核燃料の処理にも高速増殖炉が大いに役立ちます。
 また、原発から生まれるプルトニウムの平和利用の姿勢も明示できます。現在日本はプルトニウム四十七トン、核爆弾およそ五千九百発分を蓄積しています。このまま持ち続ければ、核兵器製造を目論んでいると疑われかねません。高速増殖炉を稼働させることで、日本の目的はエネルギーだと納得してもらえる。

金子 二〇一八年に現行の日米原子力協定の期限が来て、改正がなければ自動延長になると規定されています。現行協定では、日本は米国産の核燃料の再処理や二〇%以上の濃縮に関し「包括的承認」を与えられており、この権利は絶対に確保しておくべきです。
 従って、日本側から協定改正を言い出すことはありませんが、もし先方から何らかの改正提案があったら外交交渉が必要となるかもしれません。その場合に、「再処理もプルトニウムの利用もちゃんとやっています」という実績を作っておかないと交渉で不利な状況に陥るおそれもあります。
 米国の行政府はともかく、議会にはけたたましい核不拡散主義者がいて、非核兵器国による再処理やプルトニウム利用には猛反対で、日本の核燃料サイクルにも厳しい目を向けているので、油断は禁物です。我々が三、四十年前、文字通り骨身を削るような苦しい外交交渉をしてようやく勝ち取った権利を簡単に手放すことはできません。一度手放したら二度と回復できませんから。

櫻井 日本はこれまで徹底した情報公開、いわば「正直路線」で国際社会の信用を勝ち取ってきました。結果、非核保有国として、唯一、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理をすることができます。いま、高速増殖炉への道を閉ざせば、日本が築いたこの信用の上に成り立つ核燃料サイクル全体も破綻しかねません。それは日本の重要技術のひとつが途切れてしまうということです。

世界が「もんじゅ」の技術維持発展を待望している

金子 それにはやはり政府の側の責任も大きく、「国としてこれをやるんだ」という国家百年の大計に基づき、強い気概を持って政府が舵取りをしていくことが求められています。もしいま開発を止めてしまったら、せっかく長年積み上げてきた日本の技術は消失し、将来この技術が必要になった時は外国頼みとなってしまう。
 例えば、かつて原子力技術の最先進国であり、日本も師と仰いだ英国は、いまや自力で原発を新設する技術もカネもないので、フランス、中国の技術と中国のカネを頼りに原発を再建しようとしています。しかし、それによって英国の安全保障にマイナスの影響が生ずるのではないか、中国の言いなりになるのではないかという批判が英国内からも噴出しています。将来の日中関係を考えたとき、そんなことは日本として絶対にできません。「原子力技術立国」の旗は何としても守り抜くべきです。

奈良林 いま中国とインド、ロシアが高速増殖炉に力を入れていて、中国はすでに臨界に達し一年以上運転を続けています。中国は国家戦略として高速炉を将来のエネルギー源の中核にしようと考えている。十年後、二十年後、日本は中国に頭を下げて中国から高速増殖炉を買うことになりかねません。

櫻井 日本にとって最悪のケースです。

金子 実は日本では福島事故の前に、既に高速増殖炉の実証炉の研究も進んでいて、その技術水準は世界的にも非常に高いものがあります。そして、世界が日本のもんじゅの技術の維持発展を待望しているのです。
 アメリカは国内では高速増殖炉をできないので日本に期待していますし、フランスも「アストリッド計画」(次世代型高速炉開発計画)には、もんじゅの知見やデータが不可欠と見ている。日本は高い技術があるにも拘わらず、それを自らの手で縛り上げて、終には葬り去ろうとしているのですから……残念としか言いようがありません。

櫻井 国際社会のエネルギー政策が原発重視にあることは間違いありません。日本の国益にとっても、原発のスムーズな稼働と高速増殖炉の開発を続けることが重要です。規制委は原子力の安全確保を高めるのにもっと公正で合理的な審査を行ない、政府自民党は規制委の独断専行をチェックする体制を急ぎ整えなければなりません。政府・自民党はあくまでも国益を考えたエネルギー政策に取り組んでいくことを強く求めたいと思います。(了)


金子熊夫
一九三七年愛知県生まれ。外交評論家・エネルギー戦略研究会会長。ハーバード大学法科大学院卒。元キャリア外交官。一九六〇年代半ばにベトナム戦争中のサイゴンの日本大使館に勤務し、テト攻勢(一九六八年)で死線を経験。帰国後外務省の初代環境担当官、国連環境計画(UNEP)アジア太平洋地域代表などを歴任。『かけがえのない地球』の創案者。一九七〇年~八〇年代に外務省初代原子力課長として日米再処理交渉等を担当。日本国際問題研究所研究局長、太平洋経済協力会議日本委員会事務局長、外務参事官等を経て八九年に退官後、東海大学東海大学教授を経て現職。著書に『日本の核・アジアの核』(朝日新聞社)など。

奈良林直
一九五二年、東京都生まれ。東京工業大学工学部機械物理工学科卒業後、同大学理工学研究科原子核工学修士課程修了。専門は原子炉工学。その後、東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に携わる。九一年、工学博士号授与。同社原子力技術研究所主査、電力・産業システム技術開発センター主幹などを経て、二〇〇五年、北海道大学大学院工学研究科助教授に就任。〇七年には同大学教授に就任し、現在に至る。

櫻井よしこ
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。一九九五年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第二十六回大宅壮一ノンフィクション賞、九八年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第四十六回菊池寛賞を受賞。二〇〇七年十二月「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。

金子熊夫(エネルギー戦略研究会会長)×奈良林直(北海道大学大学院教授)×櫻井よしこ(ジャーナリスト)



■ 事故れば北半球が終わる 「ネットゲリラ(2012.9.10)」より
  • もんじゅ支持のネトウヨが「事故なんか起きねえから安心しろよ知的障害者」とか言ってるんだが、もんじゅ支持するのって、こういう、口の利き方も知らない阿呆です。つうか、いきなり会話の相手を知的障害者扱いするようなニンゲンの言葉をマトモに聞く人はいませんね。シンタロの言葉も、だから、マトモに聞くヤツはいないです。

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★ 「廃炉なんてとんでもない」 東京・石原慎太郎知事 「msn.産経ニュース(2012.9.9)」より
  • 石原慎太郎知事は6日、事故で現在停止している高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を視察した。
 「高速増殖炉は政治家になる最初の選挙、参院全国区に出るとき(昭和43年)に主題にした」と、こだわりをみせた石原知事。「画期的な技術体系。絶対にフランスにもアメリカにも先んじて完成しなくてはいけない」と語った。
 廃炉も取り沙汰されているが、「画期的な技術が不具合で止まっているのは残念。廃炉なんてとんでもない。後でほえ面をかく。危ないから、という短絡的なものの考え方はやめた方がいい」という石原知事。
 その上で、多くの原子力発電所が再稼働していない状況について、「経済を疲弊させて失業者を出し、社会の混乱につながる」と指摘。「お遊戯みたいな原子力発電の反対運動はナンセンス、とても危ない」と述べた。


  • そしてこのシナリオには「日本がどうしても原発稼動を止めない事情」も含まれているやもしれません。それはプルトニウムの軍事利用・・・・・・とてつもなく巨大なタブー、「日本の核武装化」。
  • 現在の青森県・六ヶ所村で、この三菱重工が主幹事会社となって建設してきた核燃料サイクル基地(再処理工場)が、プルトニウム兵器の製造の為である
  • 動燃にとって廃棄物の処理が目的ではなく、「プルトニウムの抽出が目的で」廃棄物を扱うことになったからである。
 動燃が、廃棄物問題でこれ程いい加減な作業を続けてきたのは、彼らが、廃棄物のことに全く関心がないからである。作業の目的は、核兵器にしかない。その為、国も無制限に予算を与えてきた。

■ 福島より怖い福井「もんじゅ」の現状 「ゲンダイネット」より

 ・「燃料棒交換のための『炉内中継装置』(長さ12メートル、重さ3.3トン)が原子炉内に落下、破損して抜けなくなったのです。落ちたタイミングも最悪で、発電実験に必要な新しい燃料棒を入れ終え、引き抜く途中。

 ・ナトリウムは水や空気に少しでも触れると、猛烈な勢いで発火します。原子炉に空気が入らないようアルゴンガスを常に充満させながら、少しずつ引き抜かざるを得ないのです」(前出の設計技師)

 ・いざ、ナトリウムが発火し、MOX燃料棒に燃え移れば、その恐怖と破壊力は福島第1原発の比ではない。
 米・英・独・ロ・仏と世界中が断念する中、高速増殖炉に固執しているのは日本だけ。大マスコミは警告してこなかったが、この国の原子力行政は何から何まで狂っているのだ。


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最終更新:2016年01月04日 22:41