菅直人でございます。14日間の代表選の最後のお訴えをする、その前に、まず皆さんに心からお礼を申し上げたいと思います。

 選挙前、円高などの経済状況の厳しい中、「代表選は避けるべきだ」という声もありました。しかし私は、結果的にはこの選挙戦、やってよかったと思っております。この選挙戦を通じて、日ごろ話し合う機会が持てなかった若い皆さんを始め、多くの仲間と真剣に向き合うことができました。

 そしてこれまでの社会経験や、地元の人の意見に裏付けられた真剣な政策提言をたくさんいただくことができました。国民に選ばれた国会議員が、国民の声を政治に反映させる。このことこそが議会制民主主義の原点だと改めて確信をいたしました。

 すべての皆さんに心から感謝するとともに、皆さんの思いに応えるべき政権交代の原点、民主党の原点に立ち返りながら、民主党代表として、そして内閣総理大臣の重責を引き続き果たさせていただきたいと思います。

 皆さんからいただいた叱(しつ)咤(た)激励、あるいは叱(しつ)責(せき)や失望の言葉も、その思いを原動力として、私菅直人は日本のために、日本国民のため、命をかけて邁(まい)進(しん)することを、まず冒頭みなさんに固くお約束を申し上げます。

 この代表選にあたり民主党の原点は何か、そう自問自答をいたしました。その時、多くの顔が頭に浮かびました。事業仕分けで注目されるかなり前から特殊法人や特別会計を徹底的に調査し、恐れることなくその闇と戦い、道半ばにして暴漢に襲われ命を落とした石井紘基さん。そしてもう1人、自らがんと戦いながら、ガン対策基本法と自殺対策基本法の必要性について徹底的に議論し、自身の命を削りながら他人の命を守る法律の制定に全力を尽くされた山本孝史さん。この2人に共通するのは、誰にも指図されず、誰にも依存せず、自立しその志で世の中の不条理と戦い続けたことです。私はこれこそが民主党の原点だと思います。そして彼ら以外にも、政権交代を目にすることなく、この世を去っていった仲間のことを思うと、この民主党の原点ともいうべき世の不条理に立ち向かう精神を忘れてはならないと思います。

私が30年ほど前、新人議員として丸山ワクチンの問題に取り組んだのは、命にかかわることが厚生省と製薬メーカーとのなれ合い構造によって扱われていたことへの憤りがきっかけでした。その後土地問題に取り組んだのも、普通のサラリーマンには到底手が届かない高い土地価格への疑問でした。薬害エイズも、そして自民党一党独裁への挑戦も、一部の者のために多くの人が不利益を受けることは決して許されないという、強い思いが私の原動力でした。その思いを抱き、チームで徹底的に調査し、議論し、打ち破っていく。このような戦いを続けてきたのが、私の30年間の政治活動でありました。この場におられるすべての皆さんも、社会のあり方に対し、このままではいけない、変えなければならない。そのような強い思いを胸に、政治家になられたのだと思います。

 皆さん、先輩たちが地道に続けてきた戦いを正面から引き継ぎ、不幸に泣く人々を一人でも少なくするために、そして多くの国民の夢を実現するためにこれからもしっかりとチームを組んで、戦い抜こうではありませんか。

 もう1つ、民主党の原点とは、すべての国民が参加できる参加型民主主義であり、これを支える自由闊達な議論だと確信をいたしております。民主党結成から10年余り。私たちは文字通り、全員参加の議論で政権交代を実現しました。ときには、青くさいと揶(や)揄(ゆ)されながらも国民の声を聴き、開かれた議論を繰り返し、政策の力を深めてきました。こうした真(しん)摯(し)な姿勢が認められ、政権交代は実現したのです。全員参加による、党内の開かれた議論は、政治主導の確立のためにも不可欠です。

 昨年、事務次官会議を廃止し、政務三役中心の行政へ、大転換いたしました。政務三役の皆さんはこの1年、大変な努力で官僚依存からの脱却を進めてこられました。しかし、どんなに努力をしても、各省5人程度の政務三役だけではすべての政策を政治主導で実現することは困難です。政治主導をさらに進めるために、私は政策調査会を復活させました。政務三役だけでは集めきれない国民の声を、部門会議を通じてしっかりと内閣に反映させる。また、多様な政策課題、テーマについて役所の中だけで検討せず、数多くの特命チームを作り、それぞれの議員が持つ専門分野、得意分野を生かして立案、実行していくことこそが本当の政治主導の姿だと考えます。

 私は、皆さんの力と可能性を信じます。皆さんは多くの経験を積まれ、それぞれの背景と、得意分野をお持ちになっています。わが党の中には会社員から経営者まで、そして、公務員、知事、市町村長経験者、地方議会、国内外の議員、議会スタッフ、議員秘書、政党職員、労働組合、シンクタンク、金融機関、弁護士、裁判官、検事、公認会計士、税理士、フィナンシャルプランナー、社労士、司法書士、行政書士、気象予報士、ジャーナリスト、アナウンサー、ツアーコンダクター、派遣社員、神主、僧侶、牧師、医師、歯科医師、医療介護関係者、看護師、薬剤師、団体職員、学者研究者、学校の塾の経営者、学校幼稚園の先生、保育士、俳優、スポーツ選手、農業、林業、牧場経営、植木職人、自衛官、NPO、NGO、国際機関、薬害被害者など、本当に多種多彩な背景と経験を持った方が集まっておられます。この多種多彩な議員の集まりこそが民主党の強みであり、財産であると私は、自負を致しております。一人ひとりの経験と問題意識が重要です。皆さんの行動が日本中で苦しんでいる方を助ける大きな原動力となります。皆さんの行動が日本中で輝きながら頑張っている方を応援する大きな力となります。皆さんが抱える一つひとつの問題意識の集合体が、日本が抱える問題のすべてになると私は考えています。

 政治主導は1人でできるものではありません。100人弱の政務三役で政治主導を進めるのではなく、412名の民主党全員で、政治主導を実現しなければなりません。いわば、412人内閣を作り上げたいと思います。その412人による全員参加の内閣が本当の政治主導を実現すると、私は信じています。

 今、日本には多くの問題が山積しています。その中で最も緊急にかつ強力に解決を図らなければならないのは、経済を立て直すこと、そして、雇用の安心を確立することです。雇用を失うことは、収入を失うにとどまりません。居場所と出番、つまり社会とのつながりを失うことは、孤立を招き、自らの存在意義を見失って、希望までもが奪われていきます。

 20年に及ぶデフレから脱却し、強い経済を作り上げ、雇用を立て直す。そのために、新成長戦略を策定しました。新成長戦略は計画の段階ではなく、もはや実行の段階です。7つの戦略分野と、21の国家戦略プロジェクトで強力にこれを推進します。特に21のプロジェクトについては「特命チーム」を多数設け、党内各議員の皆さんにも、それぞれの専門分野を生かして、参加をいただき、民主党の総力をあげて実現する態勢を作ってまいります。

 今、日本を変えるために何が一番必要かと問われれば、政策だ、いやいや政治力だとさまざまな意見があるでしょう。しかし、私はそれ以上に大切なものがあると思います。それは国民の信頼です。信頼ある民主党の主張ならば厳しい提案であっても理解できる、この党がいうなら信用して一緒にやろうじゃないかと、国民の皆さんとの間でそのような思いが共有できて初めて今の行き詰まりを突破する道が開けると、私は信じています。 

 小沢さんは「ぼくには夢がある」とおっしゃいました。私にも夢があります。35年前、私の政治人生は自民党に代わりうる政権担当可能な政党を作りたい。そのような夢をもってスタートしました。政権交代といっても、岩盤のような政官業のトライアングルの中で本当に実現できるんだろうかと、ことあるごとに自問自答し、何度、絶望的な気持ちになったことでしょう。しかし、昨年、私たちは多くの皆さんの力で政権交代を実現することができました。だからこそ、マニフェストで国民にお約束したことを最大限に実現し、目の前の経済や雇用問題に積極的に立ち向かう。未来の設計図を示し、実現への道筋をつける、成長戦略をはじめ、メニューはできあがっています。

 いよいよ本格稼働し、国民の期待に応えなければなりません。私には夢があります。20年に及ぶ閉(へい)塞(そく)状況を打ち破り、日本の国の形を指し示し、元気な日本を復活させる。そして、その元気な日本を次の世代に引き継いでいきたい。私自身は、ボロボロになって倒れようとも、その先頭に立って戦い抜き、志をともにする次の世代にしっかりとバトンを渡していきたい。それが、35年前に描いた夢に続く、私の新しい、そして最後の夢です。

 なんとしてもやりぬく決意です。どうぞ、皆さん、よろしくお願いします。一緒に戦いましょう。ありがとうございました。


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最終更新:2010年09月14日 16:51