インタビュー:日銀は無制限緩和を、物価目標2─3%が適切=浜田宏一教授

2012年 12月 28日 08:47 JST
 
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[東京 27日 ロイター] 安倍新政権で内閣官房参与に就任した米エール大の浜田宏一名誉教授は27日、ロイターとのインタビューに応じ、日銀の金融緩和策について、買い入れる資産の総額をあらかじめ設定せず無制限にすべきだと指摘、物価上昇率目標の達成に向け、より残存期間の長い国債や株式などリスク性資産の購入拡大が必要との認識を示した。外債購入も一案に挙げた。

目指す物価上昇率は諸外国並みの2─3%が適切と述べ、政府による目標設定や、それに伴う説明責任を明確化するため、日銀法の改正は「当然だ」と語った。

インタビューは電話で実施した。概要は以下の通り。

──日銀は12月の金融政策決定会合で10兆円の追加緩和を決定し、「物価安定の目途」も見直す方向だ。

「努力はしているが、Too Little Too Lateというペースは変わってない」

「(物価安定の目途で示している)1%のインフレ率は、他の国が2%という中で、1%ずつ円高が進む政策。景気振興策としても非常に弱い。デフレだったから目指す物価上昇率が低くていい、という考えはまったく逆で、現在のようにデフレ予想が定着している中では、むしろショックを与えないといけない。(物価目標は)2%ないし3%がふさわしい」

──2%の物価目標を達成するために有効と思われる緩和策は。

「国債を買う場合は、なるべく長期のものを買うべきだ。国債だけではなく、CP(コマーシャルペーパー)や株式、REIT(不動産投資信託)などを拡大していけば、国民経済に影響を与える。外国の通貨や債券を買うのもその一部だと思う」

──安倍首相は先の衆院選において無制限緩和も主張していた。

「(金融緩和に)制限はつけない方がいい。円や物価が反応している限り、どんどん買い進めるべきだ。どれだけ必ず買うなどというのは固定的な政策だ」

「通貨で言えば(ドル/円で)95円、100円に近くなれば金融政策が効果的ということになる。ただ、固定相場制のように為替レートを目標にするのはよくない」

──自民党は日銀法の改正も視野に入れている。

「中央銀行の独立性とは、政策手段を自由に選べるという意味。物価上昇率という国民経済全体に影響を与えるような政策目標まで決めることを意味しているわけではない。その意味で日銀法を改正するのは当然だ。目標を政府が決め、達成できない場合の説明責任を設けるべきだと思う」

──高い物価目標の設定と大胆な金融緩和によって長期金利が上昇する懸念はないか。

「金融を拡張すれば名目金利は上がるが、インフレ率あるいは期待も上がり、実質金利は下がる。投資や消費に響くことを考えれば、金融拡張が金利を通じて景気に悪影響を及ぼすことは理論的にほぼあり得ない。株価も上昇するので信用も改善する」

──物価が上昇しても、雇用・所得環境が改善しなければ、景気には悪影響ではないか。

「今のデフレ状況の中では、デフレ率が変わらなくても過剰設備・失業率が増えていくという関係がある。過剰設備が少なくなり、完全雇用に近づいた時に初めて物価(上昇)の(経済に与える)心配が出てくる。何もやってないのに、金融を拡大すると困ったことになるぞと言うのは、ゴルフ場でグリーンに向かってボールを打つのはいいが、グリーンの向こうには崖があると言って、ありもしない崖をしきりに叫ぶ日銀の常とう手段。それは間違いだ」

「米国のインフレ率は2%程度だが、今も大胆な金融緩和を続けている。これに対して共和党は、さらに金融を緩和しても雇用には効かず、物価に響くと心配しているが、これは2%という物価上昇率の中での議論。日本はどこよりも低い物価上昇率なので、(大胆な金融緩和は)経済にプラスの影響だけで、インフレによるマイナスの影響を心配する必要はない」

──安倍政権は大型の2012年度補正予算の編成も打ち出している。

「金融緩和をするので財政も、というのは違う。日本の財政は危機的ではないが、深刻な状態だ。金融緩和で増えた税収は、財政再建に使うべき。税収が上がるので大盤振る舞いすると、せっかくの金融緩和の財政への好影響がなくなってしまう。財政再建のために消費税を増税すれば、パイがしぼむ。景気が回復してから、税率を最小限度だけ上げるのが望ましい」

「防災・減災や震災復興など本当に必要なことを遅れずにやっていくことは極めて重要。ただ、国土をすべて強靭(きょうじん)化することはできない。財政による景気振興政策はむしろ考えない方が、日本経済の健全な発展に重要だと思う」

(ロイターニュース 伊藤純夫 金子かおり:編集 石田仁志)

*文中の表現を一部修正します。

 
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