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スペインは国家の救済が必要か―銀行救済は序曲の可能性

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 スペインが国内銀行支援のため、他のユーロ圏諸国に最大1000億ユーロ(約10兆円)の救済を仰ぐことを決定したことは、もっと大きな疑問への序曲である。その疑問とは、「スペインは国として救済してもらう必要が出てくるのかどうか」だ。

 金融市場の関係者の多くは、結局はそうなるだろうとみている。スペイン政府は、同国が存続可能であると債権者を説得するという難題に取り組むことになる。

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 欧州にとっては、スペインが救済を仰ぐようになるかどうかは死活問題である。ユーロ圏第4位の経済大国を全面救済するなどということは、欧州にすれば大惨事だ。経済規模がギリシャやポルトガル、アイルランドを合わせたより大きいスペイン向けの救済資金の確保は、大変な負担になるだろう。

 ユーロ圏当局者は、今回の対スペイン救済は、緊縮財政など経済改革を必要としない限定的なものと位置付けている。一方で多くの関係者の関心は、17日に行われるギリシャの総選挙に集まっている。他のユーロ圏などから受けた金融支援の継続を主張する新民主主義党(ND)と、支援条件の再交渉を求める急進左派連合(SYRIZA)が接戦を演じている。SYRIZAが圧勝すれば、通貨同盟ユーロ圏に亀裂が入る可能性が強まり、スペインの金融部門の混乱はさらに広がる恐れが出てくる。

 スペイン経済は悪化の一途をたどっており、外国人投資家は同国国債から逃避している。同国は、現在対国内総生産(GDP)比で3.5%に達し、さらに拡大するとみられている大規模な財政赤字をどうやってファイナンスするのか。

 同国の銀行は今年初めにはその隙間を埋めていたが、今や手を引いてしまった。スペイン政府は、財政赤字補てんや満期国債の償還のため、今年860億ユーロの国債を発行する必要があるとしている。このうち480億ユーロは調達したが、残りの380億をユーロ資本市場から調達しなければならない。同国は他のユーロ諸国に国内銀行支援のための救済を仰ぐことで、資金調達が難しいことを暗に認めた形だ。

 UBS(ロンドン)のジャスティン・ナイト氏は、「スペインはどこかの時点で債券市場から完全に閉め出される可能性がある。スペインは救済を求めることで、債券市場へのアクセスが限られていることをさらけ出した」と語る。

 債券市場アナリストは、目先スペイン国債は値上がりする可能性があるとみている。同国政府は、国内銀行支援向けの資金手当てのため新規国債を発行しなくても済むためだ。先週末8日の欧州債券市場ではスペイン国債10年物利回りは他のユーロ圏への救済要請を見込んで6,25%となり、ピークだった5月30日の6.7%兆から下落した。

 クレディ・スイス(ロンドン)の欧州金利ストラティジー部門の責任者ヘレン・ハワース氏は、今週スペイン国債は安心感からラリーのような展開になるかもしれないと予想する。しかし同氏は、基本的には「スペイン国債の買い手は、同国の銀行を中心とする国内投資家以外にいない状態が続くと思う」と指摘する。

 ユーロ圏による救済策は、支援の見返りにスペインの銀行に何を要求するのかなど詳細が明らかになっていない。早急に救済策を取りまとめる必要があったためで、ユーロ圏の高官は「スペインが市場から資金を調達できなくなる瀬戸際に追い込まれていたため、素早く対応した」と、詳細が固まっていないことをほのめかした。

 今回の救済には、いくつかの弱点がある。まず、銀行の救済コストは結局スペイン政府にのしかかってくる。同国は他のユーロ諸国に融資を返済しなければならない。

 第2に、救済によりスペインは追加資金の調達がますます難しくなる。救済資金は新設の欧州安定メカニズム(ESM)が大半を融資するとみられているが、ESMの融資は優先債権とされそうだ。UBSのナイト氏は「一般的なスペイン国債の保有者は、劣後債権となるのを恐れる」ため、投資家はますます同国国債を避けるようになるだろうと指摘する。

 そして、スペイン政府は同国銀行部門の問題を解決できると、債権者を納得させる必要がある。これは簡単なことではない。加えて、同国政府はデフォルト(債務不履行)に陥らず存続可能であることも、債権者に納得させなければならない。

 スペインの銀行部門の問題は根深いが、同国政府が直面している問題はそれだけではない。同国経済は急激に縮小しており、失業率は驚くほど高水準にある。中央政府は、地方政府の財政をコントロールするのが難しい。今年第1四半期はリセッション(景気後退)に見舞われ、4人に1人が失業している。このため、スペインの財政赤字はさらに膨らみ、資本市場からの資金調達額必要額は一段と増加しそうだ。

 JPモルガンのストラテジストのパバン・ワドワ氏は、スペインは銀行の経営不安、政府の過剰債務、景気悪化という三重苦に陥っているとし、「このうち銀行の問題は解決され、国債相場は11日に急騰する可能性があるが、長続きはしないだろう」と予想する。

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