一話「出会い」


「奪還・・・とかいってたな。物は何なんだ?」
東京都新宿の一角にある、古びた館。
その名は刻命館。
館の主の純夜は、盗みを生業としている。
「まぁまぁ、帰ってきたばっかりなんだから、純兄も先生もくつろいで」
銀のトレイにコーヒーをのせて持ってきたのは、金髪蒼眼の
純夜と同い年位の青年だ。
眩い金髪と、大量のピアスが特徴的だ。
「始めまして、先生。
俺は朝霧 亮って言います。」
「朝霧?それじゃあ純夜さんとは・・・」
「父違いなんですけどね。一応兄弟ですよ。」
亮はにこりと微笑んで、その後にぼそっと付け加えた。
「まぁ、ある意味兄弟よりも深い仲ですけどね」
亮は途端に小悪魔の顔になった。
「え・・・どゆ事・・・」
「ばっ!・・・話の途中だろ!早く内容を言え」
純夜は亮を睨み付け、話を本題に戻す。
睨まれた亮は、全く気にせずに希美の横に座る。
「私の・・・未来を奪還してもらいたいんです。」
「はぁ!?」
「実は私・・・その・・・ギャンブルを嗜んでいまして、
つい癖で賭場場を潰してしまったんですよ」
純夜と亮は顔を見合わせる。
「自慢か?」
「いえいえ・・・ここまでなら大した事なかったんですが・・・」
十分凄いですよ、と亮は思っているが、口には出さない。
「その賭場場を経営してたのが如月組の系列だったようで・・・」
「如月って・・・あのやくざ屋さんですか?」
如月組は、西日本を牛耳っているといっても過言ではない程大きな団体だ。
東の紫名月 西の如月と歌われるだけはある。
「逆恨みされっちゃって、毎日つけられてるんですよね~」
希美は視線で窓の外を指す。
それに促されて亮は窓際まで行き、こっそりと外を見渡す。
「あ、いますね~。強面さんが2人程」
のんきすぎる亮の答えだが、慣れている亮は無視し、
波長がにている希美は頷くだけだった。
「それで、私も痺れを切らして、言っちゃったんですよね」
「・・・何を」
希美は申し訳なさそうに次の言葉紡いだ。
「『今月の最終日に例の賭場場で勝負しましょう』的なのを・・・」
純夜は呆れたように希美を見つめ、逆に、亮は楽しげに希美を見る。
「だから、立会人になってくれるだけで良いんですよ」
「断る。自分のしでかした事だろ。自分で片をつけろ」
純夜は、矢継ぎ早に攻める。
断られるのが意外だったのか、希美はしばらくフリーズしていた。
そんな様子を満足に眺め、純夜は更に追い討ちをかける。
「ギャンブルやった罰だ。さっさと帰れ」
そういうと、純夜は席を立ち、接客用のソファーから、自分の机に移動した。
(まぁ、あれでもいい人なんで・・・)
(どこがですか!?)
(俺が取り持ってもいいんですが・・・俺の頼み聞いてくれます?)
(聞きます聞きます!)
亮はにっこりと笑って立ち上がり、純夜の横に寄り添う。
「・・・?」
「純兄~♪・・・ん」
亮は純夜に抱きつき、キスをした。
・・・しかも口に。
『!!!』
「はい、これで断れないよね?純兄」
「な・・・!」
亮は無邪気な微笑みを見せる。
「先生、さっきの頼みっていうのは、
純兄達と同じ学校に行けるように取り計らってもらえませんか?」
「・・・はっ!はい!お茶の子さいさいです」
「亮・・・お前なぁ!」
純夜の頭に血管マークがついている事は、誰が見ても一目瞭然だろう。
「同じ学校の・・・しかも弟と・・・なんて噂が流れたら困るよね?
ご愁傷様だけど、証人もいるしね」
「・・・。わっ~たよ!じゃあ、引き受けてやる!」
希美の印象は
(ブラコンの亮君と、意外とまぬけな純夜君)
という物だった。
「ところで、忘れてもらっちゃ困るんだが・・・報酬はいくらなんだ?」
純夜はそう切り出す。
「ん~付き添ってもらうだけですしね・・・300万程度でいいですか?」
希美の一言に、その場が固まる。
「・・・・・は?」
「え?安かったですか?」
「希美先生の金銭感覚が良く分りました・・・」



「・・・ところで、ありすとはなんで仲良いんですか?」
別の仕事で、純夜は外に出ていた。
「学校でも良く会いますし、ありすさんもギャンブラーなんですよね」
亮は溜息混じりに笑う。
「ま~たギャンブルやってんのか・・・あ、すいません。
・・・ところで」
「なんでしょうか?」
「ありすの本職って興味ありません?」
「本職・・・ですか?」
亮は、にっこりと笑って人差し指を立てる。
「見に行ってみますか?」
数分後、刻命館から2人の人物が出かけた。



「この豪邸がありすさんの家ですか?」
正に豪邸といって、大きな屋敷を目前に、希美は庭を見渡した。
「まぁ、家というか仕事場にしか使ってないんですよね。
・・・というか、先生の金銭感覚ならこれぐらいの家をもってらっしゃるんじゃ?」
「私は質素な暮らしが好きなんです。聖職者として。
おじ様は違いますけどね」
会話の合間に、扉を叩く。
「・・・は~い。どなたですか~・・・って先生!?」
扉を開けたありすは、希美を見て大げさなリアクションを取る。
「よう!先生にお前の仕事を紹介したくてさ」
「ふ~ん・・・先生、上がってよ。兄貴も来てるんだ~」

「げ・・・」
純夜は、入って来たのが2人だと確認すると、怪訝な顔をする。
「機嫌直してよ純兄~」
ありすが来るのも待たずに、亮は純夜に抱きつく。
(いつもこんな感じなんですか?)
(うん。大体ね)
紅茶を持ってきたありすは、そんな2人の光景を見て溜息をつき、
希美の質問に答える。
(・・・でも、先生は大丈夫なんだね)
(何がですか?)
(この2人の事見てても。
大体の人は固まっちゃったり、再起不能なダメージ受けちゃうのに)
(なんていったらいいのか・・・見慣れてるんですよね)
「ありす!引き受けるのか?」
純夜は一際大きく咳払いし、話を切り出す。
「もちろん良いよ。何てたって兄貴の頼みだもん」
「・・・いくらだ?」
「う~んとね、赤字覚悟の出血サービス!
今なら前金20万、成功報酬80万の計100万でどう!?」
ありすはにこりと笑いながら、そろばんを出す。
「100・・・ありすお前な~」
「100万・・・安いですね。何のお仕事なんですか?」
純夜は、口を開けたまま固まる。
「ありすはキィラーなんです」
すかさず、といった感じで、亮が話し始める。
「キィラーですか?」
「そう。情報入手とか、偽造パス・カードの作成とか・・・」
「まぁ、平たくいや何でも屋ですね」
亮の説明が気に入らないのか、ありすは一歩前にでる。
「NON NON・・・依頼者の鍵を作るって意味でキィラーなの。
何でも屋なんて軽い言い方されたくないわよ」
ふんと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「前金は渡す。仕事は完璧にしろよ」
「あたしが失敗した事あった?」
ありすは怪しく笑う。
「ふん・・・金目当てなだけだろ?」
「せいか~い♪」
ありすは純夜から封筒をひったくると、手早く中身を確認する。
「じゃな」
短く終えると、有無を言わさずに出て行ってしまう。
「あ、純兄!・・・先生、行きましょう」
亮も続いて、扉の近くに走った。

急に止まり、ありすのほうを向く。
「ありす。あんまり賭場には行かないほうがいいぞ?」
それだけ言って、再び走り出した。
「い~だ!何よ、兄貴ぶっちゃってさ!」
ありすは、地団太を踏んで怒りをあらわにした。
「ありすさんは亮君が嫌いなんですか?」
「別に嫌いってのじゃないけど・・・いつも兄貴とべたべたしてるしさ・・・」
要するに、この2人は兄妹そろってブラコンなのである。





一話「出会い」 完





















最終更新:2007年02月21日 22:33