だって今までもそうだったもの。
今回だって私を助けてくれるんでしょう?


『―――ああ。勿論だとも。本当に予想外のことばかりで頭にくる。
 その中で最も予想外なのが君だよ、オルガ』


私にとって最も信頼出来るヒトがそう語る。
管制塔の爆発事故。突然のレイシフト。廃墟と化した冬木。
何もかも無茶苦茶だ。本当に予想外のことばかりで、頭がどうにかなりそうだった。
そんな中で、彼は現れてくれた。

レフ・ライノール。

真に頼れるのはやはり彼だけだ。
彼だけは私を助けてくれる。護ってくれる。
私一人じゃどうにも出来ないこの事態も、彼がいれば何とかなるかもしれない。
私は無邪気にそう信じていた。
彼ならば、この異常事態を解決してくれると――――



『爆弾は君の足下に設置したのに、まさか生きてるなんて』



――――思っていた。


彼の一言に、私は唖然とする。
私の足下に爆弾を設置した。
『爆弾』を、『設置』した?
何を言っているの、レフ。
言っている意味が、分からない。


『いや、生きているというのは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね』


レフは語る。真実という残酷な事象を、淡々と語る。

私には、レイシフトの資格はなかった。
マスターとしての素質を持ち得ていなかった。
しかし、今の私はレイシフトによって冬木へと転移している。
それは私が既に死亡し、残留思念となっているから。

私は死んだことで、初めて切望した適性を手に入れた。
しかし死人故にカルデアへ帰還した時点で、私の意識は消滅する。

信じたくない。
こんなこと、有り得ない。
私がもう死んでいるなんて。
だけど、全てが合致してしまった。
レフの語る真実と、自分の現状が、パズルのピースの様に嵌ってしまった。


『さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。
 あれがおまえたちの愚行の末路だ。あれが今回のミッションが引き起こした結果だよ』


そして、彼は―――残酷な真実を再び叩き付ける。
人類の未来を観測するカルデアスが、真紅に染まっている。
ヒトの繁栄を表す青色は何処にも無い。
そこにあるのは、死と滅亡を表す赤色だけ。
つまり、人類の破滅を表している。
その原因が―――――私達のせい?


『良かったねえマリー?今回もまた、君の至らなさが悲劇を呼び起こしたワケだ』


そんなことが有り得る筈が無い。
ふざけるな。こんなこと、断じて認めない。
私の責任じゃない。私は失敗していない。
私は死んでなんかいない。
私のせいなんかじゃ―――――


そんな反論の最中で、私の身体が『宙に引っ張られた』。


『このまま殺すのは簡単だが、それでは芸が無い。
 最期に君の望みを叶えてあげよう。“君の宝物”に触れるといい』


宝物―――つまり、カルデアスのこと。
カルデアスは高密度の情報体にして、次元が異なる領域。
つまりブラックホールや太陽のような物体。
それに人間が触れれば、どうなる。
分子レベルでの分解。生きたまま無限の死を味わう、文字通りの地獄。
私は『そこ』へ、引っ張られている。


いや――――いや、いや、いや、助けて、誰か助けて。
わたし、こんなところで死にたくない。
だってまだ、褒められてない。
誰もわたしを認めてくれていない。
どうして。どうしてこんなコトばかりなの。
誰もわたしを評価してくれなかった。
みんなわたしを嫌っていた。


やだ。やめて。誰か助けて。
私、まだ何もしていない。
生まれてからずっと、ただの一度も。
誰にも、認めてもらえなかったのに―――――――



『死』へと迫る間際に、私が触れたのは。
一筋の眩い光だった。



◆◆◆◆



「落ち着きましたか、マスター」


とある西洋風の豪邸の一室。
ぼんやりとしていた意識が、現実へと引き戻される。
カチャリという音と共にテーブルの上に置かれたのは紅茶入りのカップ。
椅子に座っていた女性―オルガマリー・アニムスフィアは、カップをまじまじと見つける。

「…一応、少しはマシになったわよ。未だ信じられないことばかりだけど…」

何とも言えぬ態度を見せながら、オルガは目の前に置かれたカップを手に取る。
そのままカップに入れられた紅茶をゆっくりと口の中へと注ぎ、味わっていく。
暖かな液体の味が喉を通っていく。

(……悪くはないわね)

思ったよりも悪くない、というのが最初に抱いた感想。
こんなものは従者の軽い気遣いに過ぎないと思っていたが、思いの外美味しかった。
騎士と言えど美味しい茶を淹れられる程度にティータイムを嗜みはするらしい。

この紅茶を淹れたのは、オルガマリーの傍に立つ男―――サーヴァントだ。
白銀の甲冑を身に纏い、金色の長髪を持つ端正な顔立ちの騎士。
クラスはランサー。槍を自在に操る槍兵の英霊。

一口飲んだ紅茶のカップをテーブルに置いたオルガマリーは、ゆっくりと己の右手の甲を確認する。
渦巻く焔と太陽を模した様な奇妙な紋章が浮かんでいる。
自らのマスターの証であり、サーヴァントに対する絶対命令権である令呪。
彼女はサーヴァントを従える存在、マスターになっていたのだ。


(本来ならば――――私に、マスターの適性なんて無い)


切実の願いだったマスターへの転身。
普段ならば泣きながら歓喜していたかもしれない程の事象だ。
しかし、今のオルガマリーには素直に喜ぶことなど出来なかった。

信じていたレフの裏切り。
燃え盛るカルデアスへと放り込まれた記憶。
未知の聖杯戦争の開幕。
そして、マスターになれる筈の無い自分がマスターになったという事実。

自分の理解の範疇の出来事が余りにも起こり過ぎていた。
あの時、自分はレフに裏切られた。
彼の手で燃え盛るカルデアスに放り込まれ、永遠の地獄を味わい続ける筈だった。
しかし、こうして自分はこの場に居る。
死を宣告された筈の自分が聖杯戦争に召還され、仮初めの肉体を獲得し、剰えマスターとしての闘いを運命づけられている。
これもまた特異点の一つなのか。或いはレフの仕掛けた茶番なのか。
それとも、全く未知の事象なのか。
答えは解らない。しかし、これだけは聞いておきたかった。


「ねえ、ランサー。この聖杯戦争に敗北した人間は――――どうなるの?」


不安げな瞳を向け、オルガマリーは己のサーヴァントに問いかける。
ランサーは僅かながら暗い面持ちを浮かべ、少し悩む様に口籠る。
暫しの沈黙の後、ランサーは口を開いた。


「…聖杯によって消去されます。生き残れるのは、勝者だけです」


消去。
つまり、敗北は死を意味する。
それを聞いた瞬間、オルガマリーは僅かに顔を青ざめさせる。
覚悟はしていた。『聖杯戦争』という儀式が何なのかは知っていた。
それが今、はっきりとサーヴァントの口から語られた。
敗者には死あるのみ。生き残る為には、戦わねばならない。


「ですが、マスター…貴女は一人ではない。私というサーヴァントが居る。
 主を護るのは従者の役目。貴女が望むのなら、私は貴女を護る騎士となりましょう!」


頭を抱えるオルガマリーを励ます様な騎士の一声。
忠義を見せる様にその場で跪くランサーを、オルガマリーは驚いた様子で見下ろす。


――――そう、彼はサーヴァント。生かすも殺すも自分次第だ。


オルガマリーは自らの置かれている状況、これまでの経緯を追憶する。
名門の当主でありながら、自分にはマスターとしての適性が無かった。
それ故に気丈に振る舞い、名家としての体面を守ろうとした。
しかし上手くは行かなかった。
周囲から疎まれ、嫌われ、誰からも認められず。
そして最期は信じていた男に裏切られ、無様に散っていった。


何もなし得ず、何も得られず。
自分の人生とは、何だったのだろうか。


自分はまだ誰からも認められていない。
誰からも評価されていない。
誰からも褒められていない。
このまま何もなし得ず、ひっそりと死に行き、人々から忘れ去られるのか。
そんなのは―――――――嫌だ。
私はまだ死にたくない。生きていたい。
生きてカルデアに戻りたい。
故に、彼女は答える。



「気になることも山ほどあるけど、これだけははっきりしてるわ。
 ―――――私は、生きたい。まだ死にたくない。
 その為にも、貴方の力が必要なの。手を貸して頂戴、ランサー」



◆◆◆◆



彼は、アイルストという王国に尽くす一人の騎士だった。
国の為に、王族の為に。
ただひた向きに忠誠を貫く、義の戦士だった。
しかし、そんな彼の忠義は王の嫉妬によって打ち砕かれた。
実子である王子と王女の絶大なる人気に焦った王は、愚かな命を下した。
護国の真龍の討伐。数々の魔物から国を守る龍を討つことを、騎士に命じたのだ。
騎士は王への忠義を貫いた。
騎士は真龍へと立ち向かい、これを討ち取ったのだ。

その結果、護る筈だった国は破滅の道を辿った。
抑止力たる龍を失った国に、無数の魔物が攻め込んできたのだ。

騎士は己の所業を悔やんだ。己の愚かさを嘆いた。
国を崩壊へと導いたのは己自身―――そう戒めた騎士は、慰霊の旅に出た。
各地へと巡礼し、自らの罪滅ぼしをせんとした。
そんな中で、彼は星の島を目指す騎空団へと誘われた。
彼らとの交流や旅の中で、騎士は己の罪と向き合う決心を固めた。

そして、騎士は再び祖国へと戻った。
滅びた筈の祖国で目にしたのは、復興しつつある街の姿だった。
生き残った者達が切磋琢磨し、再び街を蘇らせていたのだ。

騎士は愕然とした。
帰るべき場所は滅びていなかったのだ。
そんな中、生き残っていた王家の姉弟の誘いで彼は再び祖国の為に尽くす道を選んだ。
自らの罪と向き合い、真の贖罪をする為に。
結果として真龍は王家の儀式によって再び蘇り、騎士は救われたのだ。


生前への悔いは無い。
自分は思うがままに命を燃やしたのだから。
聖杯によってかつての罪を無かったことにするつもりもない。
己の罪は英霊になって尚背負い続けると覚悟したのだから。
そして、既にアイルストは王家姉弟と市民達の手によって復興している。
それを覆すのは、彼らの想いと努力を踏み躙るも同然の行為だ。


そんな彼が、何故サーヴァントとして召還されたのか。
それはオルガマリーの願いを感じ取ったから。
『生きたい』という純粋な想いを受け取ったからだ。


ランサーのサーヴァントは、騎士である。
祖国と民の為にその槍を振るった義士である。
故に彼はオルガマリーの下へと駆け付けた。
気丈に振る舞う裏で、死に怯え続ける淑女を救う為に。
死を恐れ、生を望むという純粋な願いを護るべく。
ノイシュは主への忠義を尽くす一人の騎士として、この地に召還されたのだ。



「―――――サーヴァント、ランサー。
 主の為に槍を振るう一人の騎士となりましょう」



故にランサーのサーヴァント、ノイシュはそう宣言する。
生還を望むマスターを護る、一人の騎士となることを誓った。



【クラス】
ランサー

【真名】
ノイシュ@グランブルーファンタジー

【パラメーター】
筋力B 耐久B+ 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
騎乗:C+
乗り物を乗りこなす才能。
乗馬の技能に長ける他、現代の乗り物を一通り乗りこなすことが出来る。
宝具「翔けよ紅蓮の焔馬」で生み出した焔の馬も騎乗スキルによって乗りこなせる。

魔力放出(炎):C
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
ノイシュの場合、燃え盛る炎が魔力となって使用武器に宿る。

護国の騎士:B
祖国と民衆の守護者としての逸話がスキルへと昇華されたもの。
使用することで一定時間耐久値にプラス補正が付加され、更に防御判定の成功率が上昇する。
ノイシュが味方と認めたサーヴァントもこのスキルの恩恵を受けることが出来る。

不屈の意志:A
己の弱さを受け入れ、再び祖国の為に立ち上がった忠義の意志。
敵の攻撃に怯みにくくなり、重傷を負ってなお戦闘の続行が可能となる。

【宝具】
「咎負いの騎士(ディアドラ・ベイン)」
ランク:B 種別:対竜宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
かつて愚王の命に従い、護国の真龍を討伐してしまった逸話の具現。
『竜』の属性・血縁を持つ存在に有利な攻撃判定が発生し、更に強力な追加ダメージを与える。
また前述の条件を満たす存在から仕掛けられた状態異常などのバッドステータスを無効化する。
忠義の騎士が犯した過ちの具現であり、彼が背負いし罪そのもの。
しかし己の罪と向き合う決意をした騎士にとってまさしく象徴と言える宝具。

「翔けよ紅蓮の焔馬(イヴァル・アスィヴァル)」
ランク:C+ 種別:対城宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:200
魔力によって生み出した焔の馬に跨がり、騎士槍を突き出した超高速の突撃を仕掛ける宝具。
ノイシュの奥義と言える技であり、敵の攻撃や防御に対する強力な判定が与えられる。
攻撃終了と共に焔の馬は霧散し消滅する。

【Weapon】
騎士槍、盾

【人物背景】
アイルスト王国に仕える騎士。
かつて愚王の命によって護国の龍ディアドラを討伐し、結果として国の壊滅を招いてしまう。
国を滅ぼし多くの民が犠牲となったことを己の罪として背負い、慰霊の旅を行っていた。
旅の末に罪と向き合う決意をしたノイシュはアイルストへ帰郷し、王の子である姉弟の主導で国が復興しつつあることを知る。
ノイシュは贖罪のため再び国に尽くす道を選び、ディアドラ復活の儀式を始めとするアイルスト復興活動に尽力した。

【サーヴァントとしての願い】
なし

【方針】
マスターを生かす為に戦う。


【マスター】
オルガマリー・アニムスフィア@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】
生きてカルデアへ帰還する。

【weapon】
なし

【能力・技能】
名門の血筋に恥じない優れた魔力を持つが、マスターとしての適性は皆無。
本来ならばマスターになることが出来ない存在。
この聖杯戦争ではマスターの資格を得ているが、やはり正常な魔力供給は行えない。
魔術回路の大半が魔力供給源として機能していない為、一般人よりやや上程度の魔力しか供給できない。

【人物背景】
魔術師の名門「アニムスフィア家」の当主にして人理保障機関カルデアの所長。
元々はマスター候補生の一人だったが、父親の死を契機にカルデア所長を引き継ぐこととなる。
高飛車でヒステリックな性格だが裏では所長としての重責、マスター適性が無い自分への劣等感など数々の心労を抱えている。
その為か根は寂しがり屋で小心。とはいえ所長としての威厳が無い訳ではなく、落ち着いている時には気丈に振る舞う。

カルデアの爆発事故をきっかけに冬木へのレイシフトに巻き込まれ、主人公らと行動を共にしていた。
しかしその後信頼していたレフの裏切りに遭い、更に自身が既に死亡しているという事実を叩き付けられる。
絶望の最中でレフによってカルデアスの内部へと放り込まれ、最期まで無念を叫びながら消滅した。

【方針】
とにかく生きて帰る。
その過程でこの聖杯戦争について調査もしたい。

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最終更新:2015年12月08日 01:55