棲地MIに存在する敵の主力機動部隊の撃滅を目的としたMI作戦。
提督が帰還し、秘書艦の長門含む艦娘が総力を挙げて参戦したこともあって、見事完遂された。
だが、聞くところによると赤城はその戦いで幾度となく轟沈する夢に苛まれ、それと同時に何か見えない力が働いていたらしい。
まるで『轟沈する』という運命を強制するような何かが…。
そして、それは他の艦娘にもいえることだったと暁型駆逐艦1番艦「暁」は思い知ることになる。




◆◆◆◆




MI作戦が終了してから何日か何週間か何か月か。
とにかくそれなりに時期が経ったある夜のこと、暁は夢を見た。
それはとてもおぞましい夢。

暁を先頭とする艦隊が作戦海域に到着した頃には既に日は沈み、とうに夜になっていた。
辺りはとても暗く、探照灯なしでは深海棲艦が近くにいることは分かっているのに狙いを定めることができない状況だった。
暁は意を決し、深海棲艦へ探照灯を照射した。敵の標的になるリスクがあるが、これしきのことを恐れていてはレディーではない。
光に浮かび上がった深海棲艦は人型に巨大な腕が生えた軽巡だった。

しかし、それが悲劇の始まりであった。
探照灯で浮かび上がった敵に向かって味方の艦娘が雷撃を2発食らわせたが、その深海棲艦は思いの外頑丈で仕留め損ねてしまう。
そしてその直後、暁に砲弾が直撃した。
「痛い」と感じる暇もなく、2発目を被弾。
更なる被弾に続く被弾。
探照灯の照射に対する代償はあまりにも重すぎた。
暁の華奢な体に容赦なく集中砲火が浴びせられた。

轟沈する刹那、暁の脳裏に鎮守府にいる妹達や他の艦娘が走馬灯のように浮かび上がる。
もう、あの楽しかった鎮守府の生活に戻ることはできない。
W島攻略作戦で轟沈した如月のように、自分も沈むのだ。
きっと妹達は自分の轟沈を知ったら悲しむだろう。


――そんなの、イヤ。


――こんな所で沈むの、嫌だよぉ…。


暗い深海へ沈みゆく中、暁が一心に生きることを望んだ、その瞬間。

"奇跡"が起きた。




◆◆◆◆



バタバタバタと階段を踏みつける足が登っていく。
その歩幅は狭く、足の短さからその持ち主の年齢はおよそ小学生くらいだろう。
実際、暁は小学生としか思えないほどにちんまりとした身長であった。
それとは正反対に腰まで伸ばされた髪が特徴的だ。
小さな身体には少し不釣り合いな大きな皿を両手で持ちながら、なんとかドアを開けて部屋に戻る。

「できたわよ!第六駆逐隊の特製カレー!」

暁が自身の部屋の中に向けて仄かな匂いの漂うカレーライスが盛られた皿を見せつける。
必要最低限な家具が目に入る質素な個室の真ん中には暁の体格にあった小さなテーブルがあった。
そして、そのテーブルを前に正座で暁を待っている男がいた。
その身体は真っ当な成人男性といった体つきで、ただでさえ背の低いテーブルが余計小さく見える。
白、黒、赤を基調とした軍服を身に纏っており、暁の知る司令官が着用している二種軍衣によく似ている。
旧日本の軍人然とした厳かな雰囲気を放っており、彼の存在だけで部屋はどこか時代離れした風情があった。

「カレーライスか、懐かしいな。陸軍にいた頃によく食したものだ」
「暁が一人で作ったのよ!えっへん!」
「困ったことにサーヴァントと成っても空腹だけはついてまわるらしいのでな。食事を提供してくれる主君に仕えることができるとは自分も運がいい」
「そうよ!暁がアーチャーの司令官なんだから!一人前のレディーとして扱ってよね!」

アーチャーと呼ばれた男は暁のサーヴァント――つまり、この二人は主従関係にある。
暁は、この聖杯戦争に参加しているマスターの一人。
本来は飲まず食わずでも問題ないサーヴァントにも関わらず空腹に悩まされていたアーチャーに、かつて妹達と一緒に作ったカレーをご馳走しているところだ。
やや大盛りのカレーライスがテーブルの上に置かれ、アーチャーはスプーンを使い、それをゆっくりと口に含む。

「…うむ、うまい。少し甘口だが、絶妙な味加減だ」
「当然よ!鎮守府のカレー大会で1番を取るほどおいしいんだから!」
「小童が作る料理にしてはかなりの練度だな」
「く、くわっぱ言うな!暁は一人前のレディーとして扱ってって言ったでしょ!」
「『こわっぱ』だが…気を悪くしたのなら謝ろう、すまぬ」

暁は先ほどの上機嫌とは一転してぽかぽかとアーチャーの肩を叩きながら「小童」とお子様扱いされたことにぷんすかと怒る。
ただ、自慢のカレーを褒められたことに関しては嬉しかったため、満更でもなさそうな表情だった。

「もう、暁と同じ名前の男の人にお子様扱いされるなんて…」
「自分が聖杯戦争の戦場に現界している以上、伝承に従うならば『アカツキ』と名乗るべきであろうと思ったのでな」

アーチャーの真名は、暁と同じ『アカツキ』であった。
大戦終結から半世紀後に北極海に浮上した潜水艦から当時の姿のままで現代に甦った戦時の人間。
「任務ニ失敗セシ時は全テノ電光機関を破壊セヨ」という命令を完遂するために命を賭して戦った護国の鬼。
暁に召喚され、その名を名乗った時は大層驚かれたものだ。

「聖杯戦争…」
「…怖いのか?」
「こ、怖くないわよ。暁だって深海棲艦と戦ったことだってあるし、艤装だって持ってるもん」

暁は願いを叶えるための命を賭した戦争の中にいることを思い出し、その四文字を言葉にする。
実際のところ、「怖くない」という言葉は半ば虚勢であることは否定できない。
鎮守府で楽しい日常を送っていたとしても、深海棲艦を目前にすればそこは命を落とす危険が付きまとう戦場。
聖杯戦争とて同じことだ。先の如月のように轟沈して、姉妹を悲しませるなど長女としてあってはならない。
脳裏に蘇るのは、聖杯戦争の舞台に召喚される直前に見た悪夢。
暁が轟沈する夢を最後に記憶は途切れている。

アカツキによれば、己の胸に秘める願いを強く望むことが召喚のファクターになり得るらしい。
あの夢の中で、暁は「沈みたくない」と願いに呼応して呼ばれたのだろうか。

「赤城さんも、あんな夢を見てたのかしら」
「お前がここに来る前に見ていたという夢か。その赤城という者の話から察するに予知夢の類らしいが」
「うん。夜戦で敵に探照灯を当てたら蜂の巣にされた、とってもリアルな夢」

あの戦いに暁が出撃してその通りになってしまったらと思うとゾッとする。
現に、MI作戦でも途中までは赤城が見た夢の通りに事が進んでいたという。
如月が轟沈した時、気丈に振る舞う睦月は見ているのがつらかった。
次は妹達が睦月のようになるのかと思うと、なんとしてでも正夢になることを回避したい。

「探照灯に夜戦…?いや、まさか――」

アカツキには悪夢の内容に思い当たる節があった。
元は旧帝国陸軍の高級技官だったアカツキだが、大戦時に戦局を覆し得る新兵器・電光機関の輸送任務中のことだ。
その任務が元で、アカツキは冬眠制御により半世紀もの間眠りにつくこととなる。

「お前は確か、「特III型駆逐艦1番艦の暁」と名乗っていたな?」
「え、ええ。それがどうかしたの?」
「…『暁』。その名を聞いたことがある」

アカツキの任務に同行していた海軍兵が話していたのを覚えている。

『第3次ソロモン海戦で果敢にも探照灯を照射したことで集中砲火を浴びて轟沈した駆逐艦があった』

とのことだ。
その駆逐艦の名は、「特III型駆逐艦1番艦 暁」。
目の前にいるマスターが初めてアカツキに名乗った名だ。

それを聞いた暁は愕然として目を見開いた。

「じゃ、じゃあやっぱり赤城さんが見てた夢は…」
「前例があるのならば、疑う余地はあるまい。その夢は、いつか現実のものとなるだろう。
大戦中、海軍に赤城という空母も存在していた記憶がある。…恐らくは、同じ名前の艦と同じ運命を辿るよう強制する力が働いているのだろう」

「…そんなの、嫌よ。このまま轟沈する運命なんて」

認められるはずがない。
わなわなと肩を震わせながら暁は言う。
そんなとき、聖杯に頼るという行動が暁の頭をよぎる。
聖杯戦争を勝ち残り、聖杯の力で強引に運命を変えてしまえばいい、と。

「聖杯なら運命を変えられるかもしれないけど…聖杯戦争って、戦争だから人がいっぱい死ぬんでしょ?」
「この世界においては主君と従者は一蓮托生。聖杯の奇跡に達するまで少なくない命が失われるであろうな」

多くの命を犠牲にしての願望機が起こす奇跡。
暁はそれを悪魔の囁きと断じて振り切る。

「…なら、暁は聖杯なんていらないわ。ただ、生きて鎮守府に帰る!」

自分の見た夢が正真正銘の予知夢――それを知っただけで暁は十分であった。

「こっちにも運命をひっくり返した『前例』があるんだもの。暁にもできないわけないわ!」

MI作戦も、1人だけではない、皆が挫けずに立ち向かったからこそ犠牲なき勝利を取ることができた。
赤城の運命を変えられたように、鎮守府の皆で力を合わせれば自分の運命も変えられるはず。
ならば、それを悲観してはいられない。ここで挫けては皆にまた子供扱いされてしまう。

だから、予知夢のことを皆に伝えるために。響に雷に電――吹雪や長門さんに運命に抗う力を貸してもらうために。

「アーチャーも力を貸してくれるわよね?」

暁は生きて鎮守府に戻る必要があった。こんなところで死んでは予知夢を見た意味がない。

「自分が召喚されたということは、まだ電光機関が存在するのか、あるいは従者として成すべきことを与えられたということか。
ならば聖杯の導きに従い、それらのために生を全うすべし。マスターの命令に背く気はない」

アカツキはマスターの方へ向き、頭二つほど小さい少女を見つめる。
その性格は誠実・硬派・実直。旧日本軍人の鑑ともいえる人物だ。
かつて自分を嵌めた上司の命令でさえも半世紀後に完遂せんとしたその精神は、サーヴァントとなった今も受け継がれていた。

「……憂きことの尚この上に積もれかし。限りある身の、力試さん。お前がその『運命』に抗うがために進むのなら、自分もサーヴァントとして最期まで戦おう」

暁の水平線に勝利を刻まんがために、『あかつき』二人の聖杯戦争が開戰しようとしていた。


【クラス】
アーチャー

【真名】
アカツキ@アカツキ電光戦記

【パラメータ】
筋力C+ 耐久C+ 敏捷C+ 魔力A 幸運D 宝具A

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:C
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Cランクならば一日程度の現界が可能。

【保有スキル】
魔力放出(雷):A+
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
アーチャーの場合、放出された魔力が『電光機関』により電力に変換、電光被服の性能を上昇させる。

電光体質:A
アーチャーの持つ、並外れた『電光機関』への適合性。
魔力放出(雷)及び『電光機関』の使用による消耗を最小限に抑えることができる。
アーチャーは古代アガルタ文明の末裔であり、『電光機関』の酷使で消滅することはない。

空腹:C
『電光機関』の長時間使用により、アーチャーはサーヴァントにも関わらず空腹を訴える。
極度の空腹状態に陥った場合、アーチャーの全パラメータが低下する。
逆に言えば『電光機関』による消耗は食事をとるだけで回復できることにも繋がる。

戦闘続行:B
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負ってなお戦闘可能。

高級技官:B
生前、アーチャーが陸軍の高級技官を務めていたことによる技術の知識。
機械や兵器などの構造・機能を瞬時に把握することができる能力。
また、技術系の敵のスキルや宝具の能力を看破できる。


【宝具】
『電光機関』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:1人
アーチャーが身に着けている電光被服(軍服)に装着されている特殊機関。
装備することで無尽蔵に電気を生み出すことができる。
チベットの秘境で発掘された古代文明アガルタの超科学技術を元に開発された。
強力な電力で敵の装甲を溶かし、発生する電磁波により電子兵器を一切無効化する。
他にも高圧な電気を弾にして飛ばしたり、敵に直接電気を送り込んで感電させるなど、様々な応用が可能。
電光被服を介して身体能力を強化し、筋力・耐久・敏捷のパラメータを上昇させることもできる。
電光機関の電気は生体エネルギー(ATP)を変換して得られるものであり、
使い続けた者は死んでしまうという欠点を持つ。
アーチャーはサーヴァントであるため、生体エネルギーの代わりに魔力を消耗する。
アーチャーは電光体質スキルにより消耗は少なく、魔力消費も微量なため、魔力低下を気にせず使い続けることができるが、
出力が大きければ大きいほど頻繁に空腹が発生するようになる。

『我が身は死して護国の鬼と成りぬ』
ランク:C 種別:対己宝具 レンジ:―― 最大捕捉:自分
かつて任務が解除されたにも関わらずその任務を遂行しようとしたエピソードに由来する宝具。
アーチャーの軍人然とした性格と、正義感・義務感に基づく行動原理自体が宝具となっている。
アーチャーに対する令呪は、一画あたり二画分の効力を持つ。
そのため、令呪による強化も通常の令呪の倍の影響を与える。

『神風』
ランク:A+ 種別:対戦車宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人
電光機関の出力を最大限まで解放し、極限まで強化された肉体とともに放つ、アーチャーの最終特別攻撃。
この宝具を発動している間のみ、上記の全パラメータにプラス補正が更に一つ付与される。
素早く、威力の高い連撃を放った後に敵を空中に打ち上げ、落下してきた対象を最大出力で生み出した衝撃波により吹き飛ばす。
破壊力は非常に高いが、あくまで『対戦車宝具』であるため、巨大な戦車を破壊することはできても『対城宝具』ほどの範囲・威力はない。

【weapon】
電光被服
アーチャーが装備している電光被服。
電光機関と組み合わせることにより超人的な身体能力を得ることができるようになる。
アーチャーのものは型落ちした旧型であり試作型だが、その分機能が単純で高出力で、使いやすい。

【人物背景】
帝国陸軍の高級技官。技術官僚ながら、体術にも長ける。
前大戦の終戦間際に同盟国からの新兵器輸送中に北極海にて死亡したとされていたが、
潜水艦に積まれていた冬眠制御装置により当時の姿のまま半世紀を生き延び、潜水艦の浮上により現代へ生還する。
アカツキは「任務ニ失敗セシ時ハ電光機関ヲ全テ破壊セヨ」という上官の命令を果たすために、各地を奔走する。
ただ一人生還してなお任務を遂行する様や「我が身は死して護国の鬼と成りぬ」というセリフに表されるように、軍人然としたストイックな性格の持ち主。
既に任務解除を言い渡されているが、独断で電光機関の破壊活動を行っている。
この事から、行動原理ははむしろ正義感、義務感に近いものとなっている。

【サーヴァントとしての願い】
サーヴァントとしての使命を全うする。
まだ世界に電光機関が残っているならば、それを破壊する。


【マスター】
暁@艦隊これくしょん(アニメ版)

【マスターとしての願い】
予知夢が見せた運命を回避する

【weapon】
艤装

【能力・技能】
他の駆逐艦の艦娘と同等

【人物背景】
大日本帝国が開発した、特Ⅲ型駆逐艦のネームシップ。
――が、深海棲艦に対抗すべく少女の形に当てはめられて再臨させられたもの。
竣工当初は漣と同じ第十駆逐隊に配属されており、こちらとの付き合いの方が妹達より長い。
妹達と同じ第六駆逐隊に編入されたのは、第十駆逐隊解隊後の1939年11月であった。

【方針】
鎮守府に戻って皆に協力を仰ぐために帰還する

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年12月08日 01:40