──2011年、ネオ歌舞伎町。
 俺ことホストの獅子丸ちゃんは……ってこんなナレーションいらねえよ!

 このSS読んでるって事はネット環境あるんだろ!? じゃあ「ライオン丸G」でググってウィキペディアでもなんでも見てあらすじ見れば済むじゃん!!
 っつっても、ライオン丸Gなんて見てない奴が大半だろー、どうせ。
 オッサンしか知らないような快傑ライオン丸だの風雲ライオン丸だのを2006年に深夜枠で完全リメイクったって、誰も見ねえよなー!!

 知っている人は知っている、でも知らない人は知らないままでいいやー、もう。
 どーせ放送なんかとっっっくの昔に終わってるし、視聴率も円盤の売り上げももう全然関係ないもんねー!! 
 嫌々出てた出演者はもうライオン丸Gの事なんか完全に忘れ始めた頃だろ!
 権利者はいい加減、ユーチューブにアップされてるライオン丸Gの本編動画消せって!
 ……それでも2ちゃんでそこそこ評価されてるし!! 有名じゃなくても負けじゃねえし!!
 主演は今を時めくカリスマイケメン俳優、波岡一喜だぜ!! 見てないそこの君ー、ちょっとは興味出てきたかー!!

 とは言っても、この登場話もどうせ落ちるんだしもうやめた!! 帝都と合わせて二連敗!
 説明も宣伝ももうやらない!!
 ウンコブリブリーッ! チンコボリボリーッ! インキンカイカイーッ!

 てなわけで今夜はライオン丸と先代タイガージョーがお送りするサオリちゃんのオッパイ祭りだじょー!
 毒吐きとツイッター盛り上がってっかー!? 勃たせて待ちやがれ!

 あ、オープニング始まっちゃった。

 かーぜよー、ひかりよー、せーいぎのいのりー(ry




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 闇夜。──高層ビルが立ち並ぶ街並み。
 ある夜に、獅子丸が見た月の上に模造された何処かの都市であった。

 獅子丸は、自分がここに立っている事が不思議でならない。
 聖杯戦争を行う電脳世界など、まるでアニメや近未来SFの世界である。
 しかし、どうやら酔っぱらって見ている幻想ではなく、現実らしい。
 頭の中がはっきりしているのに、ありえない状況に陥っているのである。

「あんたは……」

 そして、そこには獅子丸だけではなく、もう一人──。
 其処に最初から存在した術式と共に、この現代に召喚された戦士が立っていた。

 威圧的な大柄。虎柄の衣装。片目の男。
 おそらくは、この日本の戦国の世から召喚された野蛮な武士の一人。
 有名人だろうか。──たとえそうだとしても、獅子丸は歴史の教科書の武将たちと会った事はないので、顔だけ見てもわからない。
 近いのは、伊達政宗だろうか。

「──」

 しかし、どうも獅子丸はこの男にそれ以外の見覚えがある気がした。既視感というやつだ。
 誰かに似ているようでもあり、また、かつてどこかで肩を並べたような気もした。
 時折、この男を夢に見たような覚えもある。

「問おう。お前がこの俺の主君か──」

 ……そう問われた頃には、獅子丸は腰を抜かしていた。
 サーヴァントは強面で、いかにも蛮族といった感じである。現代なら確実に暴力団かプロレスラーといった風体。
 少し前の獅子丸ならば咄嗟に土下座で謝っていたかもしれない。
 今の獅子丸でも、そのプレッシャーに、自身も気づかぬ内に足が竦み、尻と掌が地面についた。


「……」

 目の前の彼がこの聖杯戦争における、獅子丸のサーヴァントであった。
 その真名はわからないが、背には太刀を背負っており、一見すると≪セイバー≫のようでもあった。

「あ、あんたが俺のサーヴァントぉ……?」

 動揺して、裏返った声で、オウム返しのように、そう問う獅子丸。
 頭の中に言葉は浮かばなかった。相手が口にした言葉を何となく拾って、それをぶつけるくらいしかできない。
 サーヴァントの問いがまともに耳に通さなかった可能性もゼロではない。
 ……いや、実際そうなのだろう。声と言葉を聞いていても、意味が頭の中に入っていない。

「ああ。して、お前は俺の主君で合っている、よな……?」

 マスターとサーヴァントとの間に嫌な沈黙が流れる。
 どちらも自己紹介を始めない。
 先に問うたサーヴァントの方は、獅子丸の返答を待った。

 だが、獅子丸は、それからすぐに何か言葉を発せる頭がなかった。
 呆然としているというか、もうこの時点で気力を使い果たしているというか。
 あるいは、サーヴァントの出方を伺っているのか。



 やがて、サーヴァントの方が沈黙に折れて口を開いた。


「……今わかった。お前は、この聖杯戦争でも屈指の外れ主君だな……俺程度に怯えているようでは先が思いやられる」


 サーヴァントの方から帰って来た言葉は侮蔑であった。
 あまりにも露骨に、マスターを冷やかに見つめながら──。
 目の前の獅子丸から、弱者の香を嗅いだのだろう。
 この言葉は、流石に獅子丸の耳に届いた。

(そ、そんな事言ったって、じ、自分だってハズレサーヴァントじゃねえかよ……)

 獅子丸にしてみれば、そういった悪態をつけるのは心の中だけである。
 出来ればサーヴァントは女性──それもオッパイの大きい美女であって欲しかったのだろう。それなら令呪を使ってムフフな事もできるから、という理由だ。
 それと全く対照的な、男性らしさを象徴するような大丈夫が現れたのだから、失望もかなり大きい。

 だが、それよりも前に、ヤクザと肩をぶつけたのと同じ気分で、殺されるか殺されないかの緊張感が獅子丸の中に生まれている。
 冷静な状態でこういった相手と遭遇した時、獅子丸も流石に恐れを抱かずにはいられない。

「まあいい。仕方がないから俺の方から名乗ってやろう」

 ふぅ、と彼のサーヴァントは溜息を吐いた。
 獅子丸の様子を見て、呆れながらも、とにかく聖杯を勝ち取る為の情報交換を要としたのだろう。

「俺は、≪ランサー≫のサーヴァント、真名は虎錠之介だ。又の名を、……タイガージョー」

 ────虎、錠之介。
 ────タイガージョー。

 獅子丸は、その二つの単語に脳が刺激されるのを感じた。


 その名前、ごく最近どこかで耳にしたような…………。




「……って、待って、虎錠之介ぇっ!? 錠さんと同じ名前! それに、タイガージョー!?」


 その名前を聞いて、今度は獅子丸は思わず立ち上がり、飛びあがってしまった。
 目の前の男に感じた恐ろしさが押し切られるほどの衝撃だったのだ。


≪虎錠之介/タイガージョー≫


 獅子丸は、その名前の男をよく知っている。
 しかし、目の前の男ではない。フリーランスの用心棒で、この男とは対照的に痩せぎすの男だ。彼はいつも黒いスーツを着ていた。
 この大阪のおばちゃんのような虎柄の服など着用しているのを見た事がないし、両目ともしっかりその健康を露出している。
 何度となく錠之介と会い、殆ど友人といっていい関係になった獅子丸も、その姿を見間違えるはずはない。

 ……生涯の親友、虎錠之介。
 獅子丸は、そんな男に対してある約束を果たせずにいた。

 思わず痒すぎる股間を掻きながら、ここにいる「錠之介」と名乗るサーヴァントにすり寄り、じっとその顔を見る。


 ──うむ、やはり、別人だ。


 しかし、これだけ名前だけが同じ別人などあるのだろうか。
 「トラ・ジョーノスケ」という名前と「タイガージョー」という二つ名。
 いずれも獅子丸がよく知る錠之介にも共通しているキーワードである。


 ランサーはそんな獅子丸に訝しそうに訊く。


「随分な驚き様だな。何故だかはわからんが、今のでお前もまともに話す気になっただろう。お前の名は?」
「え、えーっと……俺は元ホストの獅子丸ちゃんっす!」


 嘘をつく理由はない。
 その口調は、かつて慕った錠之介に語るように、自然と彼なりの敬語が出てくるようだった。


「獅子丸?」


 今度は、ランサーの方が獅子丸の全身を眺めた。
 まるで自分と同じような行動をするなぁ、と呑気に思いつつ、やはりこうジロジロ見られると恐ろしい。
 しかし、股間が痒くなったので、獅子丸は自分の股間に再度手をやった。


 股間をせわしなく掻き続ける獅子丸の姿に、ランサーは彼と同名の男の姿を重ねる────事はなかった。
 流石に、ランサーが生きていた頃に出会ったあの男と、この獅子丸は似ても似つかないのだ……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ────群雄割拠する戦国時代。


 人と人との戦乱は衰退を見せ始めたが、代わりに妖怪や魔物がその姿を現し始めた。
 日本征服を目論む大魔王ゴースン。彼が妖術を用いて放つゴースン魔人の配下たち。
 それに立ち向かう正義の忍者がいた。


 何度もぶつかり合ったランサーの親友、快傑ライオン丸である。
 その本当の名が「獅子丸」であった。


 果心居士から受け継いだ金砂地の刀を操り、大魔王ゴースンを倒す為に沙織、小助と共に旅をするライオン丸──。
 大魔王ゴースンの用心棒として、日本一の剣豪を目指して強い者と戦い続けてきた「銀砂地」のタイガージョーには、彼との出会いは宿命だった──。


≪もう一度言う……正しい者が勝つのではない、強い者が勝つのだ!≫


 無論、当初は、刃を交える敵として二人は出会った。
 最初の勝負では、タイガージョーは右目を潰され、ライオン丸に敗北した。
 その時の傷が今もこの右目の視界を暗くしている。
 英霊として再現された時にも、ゴースンに奪われた左目が健在でライオン丸に奪われた右目は失われたままなのは、おそらくその決着と仇に固執するあまりだろう。
 この傷、この失明こそがライオン丸との戦いの証であり、友情の印だ。
 ──この右目が回復される事など永久にありえない。錠之介に心がある限り、この右目の傷は絆として残り続ける。


≪俺とお前は所詮戦わねばならない運命なのだ……≫


 やがて、戦いを重ねる中で、いつの間にか、共に力を合わせてゴースンの打倒を目指すようになっていた。
 ライオン丸がタイガージョーに惹かれ、タイガージョーもまたライオン丸に惹かれたのだ。
 共に力を合わせる事の意義もタイガージョーは戦いの中で知った。
 剣術以外の時間が楽しいと思った事もある。


 ……しかし、今も決して二人が敵でないわけではない。ライオン丸とタイガージョーとは、「味方」であり「敵」なのである。
 それが剣士と剣士が出会った時の終わらぬさだめなのだ。


(獅子丸……)


 生きていた時の戦績は一勝、一敗、二度の引き分け。
 双方が同じ数だけ勝利し、敗北している。
 だから、いつか決着をつけるはずだった……。
 いつか、またそれぞれの剣をぶつけ合い、結果を受け入れ、共に手を取り合うはずだった。


 ────まだ二人の決着はついていない。


≪錠之介! しっかりしろ、錠之介!≫
≪獅子丸か……すまない≫


 錠之介の最期の記憶が右の瞼の裏に思い出される。
 ──あの日。
 ゴースンとの決着をつけようと決めたあの日であった。


≪……お前との勝負、預けっぱなしにして……。俺だけ先に逝ってしまうなんて……≫
≪馬鹿! これくらいの傷がなんだ……お前もタイガージョーと呼ばれた男じゃないか!≫
≪いや……今度ばかりは堪えたぜ……。すまん、先に逝かせてくれ……≫


 ……そう、決着がつかぬまま、タイガージョーは、あっけなく逝ったのである。
 全身を銃で撃ち抜かれ、最後に獅子丸と言葉を交わせた事さえも奇跡であった。
 あの悔しさを、あの痛みを、虎錠之介は地獄の底でも忘れる事はなかった。


 そして、そんな虎錠之介の聖杯への願いは、剣士として、ライオン丸と最後の決着をつける事であった。
 それが剣士としてのけじめであり、錠之介の悲願である。


 他の誰でもない、宿敵ライオン丸との勝負の為に、彼は≪ランサー≫として、再び現世に召喚されたのである。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




(気のせいか……いや、この男からは何かを感じる。予感で終わればいいが、カマをかけてみるか……)


 ──ランサーは少し、思案した。


 あの獅子丸と、ここにいる獅子丸は共通点の一つもないが、どうも関係がある気がしてならなかった。
 虎錠之介とタイガージョーの名に反応したのが一点。
 そして、戦いを求めるランサーの嗅覚が、僅かばかりだがこののダメ丸の中にも戦士の匂いを感じ取ったのが一点。
 それが杞憂でなければ、あるいは……本当に、獅子丸と関係があるのかもしれない。
 しかし、できればそうでない事を願いたい気持ちがランサーの心の大半を占めている。


 もし、本当に関係があるとすれば、ランサーは、どうするのだろう。


 この獅子丸と決着をつければ良いのだろうか。
 ……いや。それはない。
 タイガージョー自身が決着をつけたいライオン丸でなければ意味はない。
 だが──。


「俺も獅子丸の名に聞き覚えがある。──いや、こう呼ぶべきか、ライオン丸」


 それを聞いて、どんな答えが返って来るとしても、ランサーはこう訊かねばならなかっただろう。
 杞憂であるならば良い。
 しかし、もし現実あるならば、ランサーは激しい失望を覚えるに違いない。




 生まれ変わりか、




 あの獅子丸の子孫か、




 それとも只の偶然なのか、




「はぁぁぁぁぁ!? なんであんたがライオン丸の事を知ってんの!?」




 その解答は、双方にとって残念な物であった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ライオン丸──それは、ネオ歌舞伎町では、獅子丸がキンサチで変身した姿の事である。


 しかし、ネオ歌舞伎町でも半ば都市伝説のように有名になっていった「ライオン丸」の正体が、ネオ歌舞伎町ワースト1ホストの獅子丸だとは誰も思うまい。
 ライオン丸は巷では、スカルアイをキメたカブキモノたちと死闘を繰り広げている謎のヒーローらしいのである。
 一方、獅子丸は少し前まで、ただのバカなホストに過ぎなかった。
 誰もライオン丸と獅子丸を結び付けようとはしない。


 ……しかし、ランサーはすぐにそれを見抜いてしまった。


 その理由はすぐにわかった。
 事情を聞くうちに、獅子丸は自分が戦国時代に活躍した「快傑ライオン丸」の子孫、あるいは生まれ変わりであるという事に気づき始めたのである。
 獅子丸、錠之介、沙織、小助(コスK)、キンサチ、ギンサチ、ライオン丸、タイガージョー……身の回りのあらゆる単語が、まるで仕組んだように共通している。
 生まれ変わりについて先に察したのは、ランサーの方であった。


「しっかし、俺が本当に戦国時代のライオン丸の生まれ変わりだったとはなぁ……この金玉のインキンもその時からだったりして……うわぁ! 嫌だぁっ!!」


 それぞれがそれぞれの生まれ変わりであるとするならば、時折見る「夢」にも説明がつく。
 獅子丸は、このキンサチを手に入れて以来、時折、白い獅子の戦士のデジャヴュを見る事があるのだ。
 だとすれば、超カッコいいじゃん! ……くらいにしか認識していないのがこの獅子丸という軽い男であった。
 極力、聖杯戦争のような厄介事は避けたいが、こうもヒーローっぽいシチュエーションだと心意気がまた違う。


「これもまた宿命か。……だとすれば仏も何もあった物じゃないな。よりによって、こんな奴が未来のライオン丸だとは──」


 ランサーは激しく項垂れている。それは虎錠之介としての彼の人生でもかつてないほどの落ち込みようであった。
 百戦錬磨の武人が頭を抱えるほどの相手と言えば、獅子丸の肩書きも少しは様になるだろうか。
 これを、むなしさと呼ぶのだろう。
 獅子丸の意気が高揚し、ランサーの戦意が喪失するとは、まるで先ほどとは正反対である。すっかり立場が逆転してしまった。


「いや、こんな奴って何すか! 俺だって、つい最近までライオン丸として立派に活躍してきたんすから!」
「俺が現世にいた時、ライオン丸……獅子丸は俺の好敵手だった。しかし、その魂を継いでいる筈の貴様は何だ。……脆弱だ! もはや斬る価値もない」
「ねえ、……聞いてます!?」


 よりにもよって、獅子丸がホスト。ホストの概念がないランサーにとっては、もう殆ど、売春と同義である。
 ましてや、この獅子丸は剣の経験も無く、あの獅子丸ほどの正義感も持ち合わせていない。
 本来なら相手にしないような屑、雑魚だ。
 しかし、彼が獅子丸の生まれ変わりであるという。信じたくないが、その可能性が非常に高いと聞いて、平静を保つのは難しかった。


「だが、少なくとも、主君もライオン丸として戦えるのは不幸中の幸いか……」
「ん? それ! 確かにそうっすね! マスターもサーヴァントも変身できるとか、俺たち超強ぇーじゃん!」
「……」


 そう上手に事が運ぶ事もないだろう。
 他のマスターがこぞって高い戦闘能力を有している可能性も否めない。
 第一、基本的にマスターは魔術師たちが成るべきものであって、獅子丸のような人間はマスターには向いていない。


(どうせならば、俺自身の生まれ変わりの男の方が主君に向いていたかもしれんな)


 自分の生まれ変わりも、どうやら褒められた人間ではないようだが、それでもヤクザの用心棒だというのなら、まだランサーに通じる何かがあるだろう。
 それなりに頭の働くタイプの人間であるらしいので、ランサーのマスターには丁度良いはずだ。
 この際、魔術の才など求めないので、せめて剣術の才を欲したかった。


 とはいえ、もうこの悪条件は覆らない。
 そろそろ覚悟を決めて、自分が組まねばならない相手を受け入れる必要がありそうだ。
 ランサーは、獅子丸に向き直して言った。


「獅子丸。これ以上、お前に失望している時間と余裕はない。ただ幾つか、俺の方から言わせてもらう。
 俺の主になったからには、恥ずべき行いをするな。そして、もう一つ。俺は誰にも縛られるつもりはない。ましてや、お前のような主君にはな」


 ……そう、それだけ聞き届ければもうあとは良い。
 この獅子丸が変身したライオン丸にどれほど強さがあるのかはわからないが、その力を酔って乱用するような真似を絶対にしない事を願いたい。
 万が一にでも、酔った勢いで「自害せよ」などと命令されたらたまらないのである。しかし、それをする不安があるのがこの獅子丸であった。


 そんなランサーの申し出に、獅子丸は、大きな声で笑い出した。


 どうしたのか。


「いや、本当にそういう所も錠さんにそっくりだな~。でもまあいいっすよ。俺は誰も縛るつもりはないし。
 ……って、あれ~? もしかして、こっちの錠さんも童貞なんじゃないっすか~!?」


 下品だが、懐かしむようにそう言う獅子丸の姿に、ランサーは何も言えなくなってしまった。
 獅子丸は、ランサーの目の前で股間を掻き続ける。
 そんな、どこにもあの好敵手の片鱗も感じさせない男に、一瞬だけ、ライオン丸の姿が重なった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




(……錠さん)


 このストイックな男が錠之介が生まれ変わる前の姿だと知って、獅子丸の中には強い喜びが生まれていた。
 今は亡き親友、虎錠之介とまた会えたような、そんな錯覚がしたのだ。
 何度もぶつかり合いながら、いつの日か共に戦う仲間になっていたあの男の面影をどこか感じさせる。
 亡くしたはずのものとまた会える。
 共に抱えている一つの後悔を、聖杯を得る事で払拭できるはずなのだ。


 そう。
 戦国時代、虎錠之介が、獅子丸と決着を果たせなかったように──。
 この獅子丸にも、かつて錠之介と交わし、果たせなかった約束があったのである。


≪決めた。俺はお前をもっと強くしてやる≫
≪本当に?≫
≪約束する≫


 これが、錠之介が獅子丸に約束した内容だ
 獅子丸はそれと同じだけ価値がある契を、錠之介と交わした。
 あの朝日が差す廃倉庫の中で。



≪────じゃあ、俺もソープに連れてくの、約束します!!≫



 あの時の固い握手に報いる為に、獅子丸は、ランサーの力が必要だった。
 もう二度と果たせないと思っていたあの約束が果たせるのなら、獅子丸は何だってする。


 豪山が犠牲にしてきたホストクラブの仲間、ハルナとハルカ、スナックマスター、錠之介の両親……それもみんな、全て、もう一度だ。
 獅子丸がライオン丸であったばかりに死んでしまった大事な友人たちに、獅子丸は謝らなければならないし、ああして奪われた身の回りの命を獅子丸はまだ受け入れきれなかった。
 たとえ世界中で、毎日いくらでも戦争の犠牲者が出ているとしても、獅子丸は自分のエゴの為に彼らを甦らせたいのだ。


 その為に、また新しい犠牲を作る覚悟ならある。
 男と男は、一度交わした約束を絶対に果たさねばならないと──それならば。




 ────どんな犠牲を払ってでも、何万人が死んだとしても聖杯を手に入れ、豪山に犠牲にされた人々を生き返らせ、錠之介をソープに連れていく。



(錠さん……マジで、待っててください。絶対、錠さんを童貞のまま死なせたりなんてしません!)



【クラス】

 ランサー


【真名】

 虎錠之介(タイガージョー)@快傑ライオン丸


【パラメーター】

 筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運E


【属性】

 混沌・中立


【クラススキル】

対魔力:D
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。


【保有スキル】

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

不朽の魂:B
 サーヴァントとしての死亡時に残存した魔力を用い、生前使用していた道具を使ってマスターや仲間を手助けする事ができる。
 その効力は長くは続かず、保って十分程度。動かせる物体や時間も、消滅時点で残存している魔力に比例する。



【宝具】

『銀砂地の虎(タイガー・ジョー)』
ランク:B 種別:対己宝具 レンジ:- 最大補足:-
 背の銀砂地の刀を抜き、「ゴースンタイガー」と唱えて空中回転する事で虎面の戦士に変身する虎錠之介の宝具。
 この姿に変身する事により、一時的に、筋力A、耐久B、敏捷A、魔力B、幸運Dにパラメーターが底上げされる。
 必殺技はタイガー霞返し。


『象牙の槍』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:1
 大魔王ゴースンを唯一倒す事ができると言われる槍。
 ……であるが、史実では使用より前に破壊されている。
 強力な妖術の素養を持つゴースンの唯一の弱点たるこの槍は、強い魔力の持ち主に対して効果を発揮する。
 即ち、相手の魔力のランクが高ければ高いほど、受けるダメージが大きくなる槍である。


【weapon】

『銀砂地の太刀』
 戦闘の時だけ鞘から外す事が出来る太刀。
 主に、『銀砂地の虎(タイガー・ジョー)』 の宝具を発動する際に使用。


【人物背景】

 戦国時代に存在した剣術使い。この聖杯戦争は「象牙の槍」の所有者であった為か、ランサーとして登場。剣術の腕も健在。
 ある戦国大名の家に生まれたが、日本一の剣士をめざし、出奔。強さを求めてゴースンと手を結び、銀砂地の太刀を得てタイガージョーとなった。
 卑怯な真似を嫌い、己の戦いに美学を持つ典型的なダークヒーローである。
 獅子丸ことライオン丸との初戦では敗北し、右目を突き刺されて重傷を負うも、続く二回戦ではライオン丸に勝利する。
 そうした戦いを繰り広げるうちにライオン丸との間に友情が芽生え、やがて獅子丸、沙織、小助とともにゴースンを倒す為の旅をするようになった。
 最期はゴースンに挑むも返り討ちに遭い、その後にゴースン魔人・ガンドドロに殺害されたとされる。生涯のライバル、ライオン丸と決着をつける事はなかった。


【サーヴァントとしての願い】

 獅子丸(@快傑ライオン丸)との決着をつける。


【方針】

 獅子丸(@ライオン丸G)と共に聖杯を得て、願いを叶える。
 その際にセイバーなどの強力な剣士と出会う事があれば、一戦交える。



【マスター】

 獅子丸@ライオン丸G


【マスターとしての願い】

 聖杯を手に入れ、豪山によって犠牲にされたみんなにもう一度生を与える。
 そして、錠之介(@ライオン丸G)をソープに連れていきたい。


【weapon】

『キンサチの太刀』
『ギンサチの太刀』


【能力・技能】

 キンサチの太刀を抜き、ライオン丸へと変身する事ができる。
 物語途中からはキンサチの太刀の影響で生身でも高い戦闘能力を発揮するようになり、錠之介に鍛えられた事で更に成長する。


【人物背景】

 ネオ歌舞伎町のホストクラブ「ドリーミン」のワースト1ホスト。客はハリセンボンしかいない。
 ある時、ホームレスの果心居士に「キンサチの太刀」を託された事でライオン丸の力を得て、「カブキモノ」と呼ばれる狂人と戦う事になる。
 普段はカプセルホテルで生活しており、性格は臆病でいい加減で女好き、しかも借金まみれでインキン持ちと良いところがない。
 普段からどんなところでも下ネタを連発し続けるバカであるが、それでも人懐っこく、性根は誰にでも優しい性格をしている。
 ライオン丸として戦ううちに成長していき、虎錠之介や沙織などたくさんの人々と友情を育んでいく。
 作中では、快傑ライオン丸の生まれ変わり、または子孫である事を示唆する描写がある。


【方針】

 ランサーと共に聖杯を得て、願いを叶える。

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最終更新:2015年12月09日 18:42