「あ~あ~!わかったよ!俺が行ってくるよ!まったくお前はいつでも勝手だな!」
俺はそう言うと自分の部屋を出た。
俺はハルヒと付き合っている。だが、ケンカばかりだ。
今も飲み物をどっちが買いに行くかという些細な事でケンカになった。
実際、かなり怒ったが……ほんとは、ケンカなんてしたくない。いつもハルヒと触れ合って、優しく笑い合いたいだけなのに素直になれないんだよな。
「……いけね、財布忘れちまった」
俺は溜息と同時に呟いた。
また、ハルヒにどやされるな。今回は『あんたはいつも抜けてんのよ!マヌケ!』かな。
俺はゆっくりと一歩ずつ階段を登った。
ドアの前、防音のなってない扉の向こうからちょっとした泣き声が聞こえてきた。
「ぐすっ……、なんで……上手くいかないんだろうね、シャミセン」
ハルヒはシャミセンに向かって話しかけているようだ。
しばらくの間、ドアの外で様子を窺うことにした。


「あたしだって、キョンと仲良くしたいのよ?……でも、顔を合わせるとどうしても素直じゃなくなっちゃう」
「ニャア」

「ふふふ、あんたは良いわね。いつもキョンと一緒にいれる」
「ニャア」
「あたしも言葉なんか無くていいからキョンと分かり合いたいし、甘えたいよ……」
「ニャア」
「もう……終わっちゃうしかないのかな……」

そこまで聞くと、俺は静かに階段を降りた。金は親に借りよう。
俺は500円玉を片手に、家を出た。


俺だって……終わらせたくないし、もっと分かり合いたい。
だが、付き合う前の方が何かと気にせずに口論だって出来た。雰囲気もよかった。
それを考えると、結論が《終わり》へと向かってしまうんだ。
俺はどうすりゃいい?わかるなら、誰か教えてくれ。
……いや、実際わかっている。素直になればいいんだ。
それで『今まで以上に仲良くやろうぜ』と一言かけてやれば全てが変わる。
ただ、それだと何かが違う。そんなものは俺の求めるハルヒとの関係ではない。
じゃあ、どうすんだよ畜生……っと、自販機だ。
俺は同じジュースを二つ買った。少しでも、ハルヒとわかり合えるように……。

再び部屋の前に来ると、まだハルヒはシャミセンに話しかけていた。
「うん、あたし決めたわ。もうちょっと素直になる、もうちょっと優しくなる。シャミセンも、あたしの事……応援してよね?」
「ニャア」
「それよりキョン遅いわねぇ……まだかな」
ハルヒが待ってるな、そろそろ入るか。
俺はドアを開けてシャミセンとハルヒの待つ部屋の中に入った。
「すまん、待たせたな」
何事もなかったように、何も聞かなかったかのように部屋に入り、ハルヒにジュースを渡した。
俺はハルヒの座っているベッドではなく、机の所にある椅子に腰掛けた。
「キョン……ありがと。ごめん……」

ハルヒは弱々しい声で謝ってきた。…らしくないな。
「いいよ、俺も悪かったよ……ごめんな」
「ねぇ、あたしの横に座ってよ……」
寂しそうな声でボソッと聞こえてきた。
顔を見ると、泣きそうな顔をしていた。ハルヒを泣かしたくはない俺は、すぐに横に座る。
すると、俺の肩に頭を乗っけてきた。
「なんだよ。どうしたんだ?」
俺が尋ねると、
「なによ、甘えちゃ……いけないの?」
と答えが返ってきた。
「もっとあんたと仲良くなりたいよ……」
とても小さな、か細い声。しかし静かな部屋では俺の耳にしっかりと聞こえてきた。
「あぁ、俺もだ」
返事をすると、俺はハルヒに口付けた。存在を確かめあうような、ゆっくりとした、長いキスだった。
「………っはぁ…。いきなりね、どうしたのよ」
「知らん。ただ……お前が好きだ」
それからは、しばらくキスを続けた。
頬や額にしたり、舌を絡ませあったり……。その度にハルヒは身を震わせたり、抱き付いてきたりした。
「お前がシャミセンに語りかけてたの……何個か聞こえたよ」
口を離すと、俺はそう伝えた。
「……いたんだ。盗み聞きなんて趣味悪いわね」
少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んで返事が返ってきた。
「俺も、お前と同じ考えなのに……どうしてケンカになっちゃうんだろうな?」
「あんたも……甘えたいし、わかりあいたいの?」
「あぁ。ついでに言うと終わりたくないが終わるんじゃないかとも思った」
俺がいい終わるや否や、ハルヒにベッド押し倒された。普通は逆だしムードも何もねぇな……などと冗談を考えていた。
「あたしはやだから。絶対に別れない。……別れたく…ないよぉ……」
ハルヒは俺を押し倒した状態で、胸の上で泣き始めた。

みんなでいる時の明るいハルヒとは違う、俺にだけ見せる、初めての姿だった。
「そうやって、二人でいるときくらいは素のお前でいろよ。そしたら俺だって素の自分が出せるからな」
頭を撫でながらそう言うと、ハルヒは俺の胸で泣きながら二、三度頭を縦に振った。
「ニャア」
部屋の隅にいるシャミセンが、居辛そうに一つ鳴き声をあげた。


「泣いたら、すっきりしちゃった」
そりゃあ俺の胸で一時間も泣いてりゃ溜まったもんも全部流れるだろうよ。
「お詫びに一個だけあんたのいうこときいたげるわ」
「ほう……なんでもか?」
「なんでもよ」
何にするかな……奢りか?それとも次のデートで尽くしてもらうか?いずれにせよ捨てがたいな……。
などと俺が下らない思考に耽っていると俺の顔を見てハルヒが口を開いた。
「マヌケ面」
ほ~う…そんなことを言うわけか。少しいじめてやるかな。
「わかった、しばらく話すのをやめるか。それが願いだ。」
「えっ!?」
俺はそっぽを向いてベッドに寝転がった。
「ちょ……ちょっとキョン。冗談よね?」
無視。
「ね、ごめんって。謝るからさ」
なおも無視
「ほんと……許してよぉ」

そろそろ泣きそうな妹のような声になってきたから許してやるか。
「冗談だ。まぁ、願いは思いつくまで保留な」
ハルヒは半泣きで口をパクパクさせている。普段のこいつからは決して見れない面白い顔だ。
「さーて、どっか出かけるか。飯でも行こうぜ」
俺が手を差し出すと、ハルヒは我に帰ったような顔をした後、笑顔になった。
「あ、あんたの奢りだからねっ!!」
さっきまでのしおらしいハルヒは何処に行ったのかね。いつもの、SOS団にいる時のハルヒに戻っていた。
まぁ、俺の前だけで弱い姿を晒すハルヒがかわいくて仕方ないんだがな。

こんな感じで、プライベートでは優位に立った俺。
この関係は卒業しても、結婚してもずっと続くことだろう。
内弁慶だって?
そんなこと知るか。

終わり

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