さて、今から言うことは俺の妄想の産物である。目がさえてはいたが、
眠らないと明日がきつくなると思ったので、無理やりベッドの中に潜り込んでみたものの、
やっぱり寝られない。今時、眠るために羊を数えるのも相当アレなので、
ちょっと気を紛らわせるためにあることを妄想してみようと考えている。

まず、今日の夜にあったことが妄想を作り出すキーとなる。
恐らく地球人類の大半は認識しているであろう、人間の最大の敵、国際テロ組織ブラックデビルの
工作員が我が家に侵入攻撃を仕掛けてきたのだ。ちなみにやたらと大仰にぼかしてあるのはストレートに表現すると
大変胸くそ悪くなるからという短絡的な理由なので気にしないでくれ。
で、我が妹がキャーキャー黄色い悲鳴を上げて逃げ回るのを尻目に、
俺はスリッパとホウキという通常戦力で立ち向かうがあえなく撃沈。陸空を動ける高機動性を甘く見ていたぜ。
やむえず、国際法に違反しかねないと自覚しつつも、化学兵器を投入して勝利を収めることができた。
……アフリカの原住民に負けそうになったイタリア軍みたいなんていうちょこざいなツッコミは受け付けんからな。
まあ、そんなこんなで我が家に平和が戻ったのだが、ふと考えたことがある。
それはSOS団の連中が同じ状況になったらどんなリアクションを取るのだろうか?というささやかな疑問だ。
その時はそのまま思考終了だったが、せっかく時間をもてあましているのだから、ちょっと妄想してみようと思う。

★ 舞台設定
まず、舞台設定だ。とくに凝る必要もないし、団員が誰もいない部室に入ったところ、
団長席をテロリスト工作員が占拠していたというもので良いだろう。

● SOS団団長涼宮ハルヒの場合 (ヒーロー編)
トップバッターはまずハルヒだ。まあ、普段の超強気な性格からして我が妹と同じ行動を取るとは思えないな。
まず、部室にハルヒが登場。
「やーっほーっ……って誰もいないじゃん。ったく、みんな不真面目ね! ちょっと説教してやろうかしら」
そんなことをぶつくさ言いながら、部室の真ん中辺りまできて、工作員に気が付くわけだ。 
「なっ……!」
眉毛を引くつかせて、額に神経を浮かせるハルヒ。当然、それは恐怖ではなく怒りのためだ。
「こここここぅらあぁぁぁぁ!」
奇声のような意味不明な叫びを挙げて、掃除用具入れからホウキを取り出すハルヒ。
そして、団長席にじりじりと詰め寄っていく。
「ふふふふふふ、神聖なるあたしの団長席を占領するとは良い度胸じゃない! その宣戦布告は受け取ったわ!」
そうハルヒは威勢良く敵とにらみ合いを続ける。
そのまま、数分間が経過し、ついにハルヒが仕掛けた!
「とおっ!」
昔の特撮ヒーローのかけ声を挙げつつ、一気に机上の敵にホウキを振り下ろす!
しかし、奴も負けてはいない。即座に超高速機動を発動し、華麗にハルヒの攻撃をかわした。
ホウキが机に叩きつけられる音だけがむなしく部室内に響き渡る。
「おのれちょこざいな!」
負けることが運命づけられているようなセリフを吐きつつ、ハルヒは容赦ない追撃を開始。

「まてー!」
結構かわいい声を上げながら床を高機動で逃げ回る奴を追いかけていくわけだが、敵も中々しぶとい。
あの手この手を使い、持ち味の高機動を駆使して、部屋の隅に逃げ込もうとする。
しかし、我らが団長涼宮ハルヒも負けてはいない。致命的ダメージを与えられないものの、
巧妙なテクニックでやつらの聖域(壁の隙間とか本棚の後ろとか)への撤退を許さないのだ。
これは持久戦か……という展開を思わせていたが、意外に決着は早く付いた。工作員が不利を悟ったのか、
起死回生の手段に打って出たのだ。
「うわっ!」
そう悲鳴を上げるハルヒ。なぜなら、奴が突然彼女の顔めがけて特攻を仕掛けてきたからである。
ここで一度ハルヒに精神的ダメージを与えてひるませたスキに、撤退するという作戦なのだろう。
どんな屈強な軍人でも、真正面にこいつが飛んできたらビビって逃げ出すに違いない。
だが、ハルヒは通常の神経は持っていない。世界一の負けず嫌いだ! それくらいでひるんだりはしないぜ!
「もらったぁ!」
全盛期の王貞治のように、ホウキをバット代わりにきれいな一本足打法で、奴をクリーンヒットだ!
そのまま、窓の外へホームラン! 我がSOS団の完全勝利! きまったぜ!

◇◇◇◇

……とまあ、ちょっと盛り上げてみたが、どうもいまいち感がある。原因はやはりハルヒだ。
いさましいのは大変結構だが、ちょっとかわい気がなさすぎやしないか? もーちょっとなんというか、
女の子っぽい側面を持っていても良いと思うんだよ、俺は。
というわけで、実はハルヒはブラックデビル団にトラウマを持っているという設定を追加してみよう。

● SOS団団長涼宮ハルヒの場合 (トラウマ編)
登場は同じだ。
「やーほー! って、だれもいないじゃん――げっ!」
だてに精神的外傷と書いてトラウマと呼ぶだけのことはある。とっさに奴の気配を感じ取ったハルヒは
恐怖のあまり、部室入り口で硬直状態になってしまうのだ。
「…………」
いつもの傍若無人ぶりはどこへやら。すっかり青ざめてしまったハルヒだ。さて、こういう場合、
どういう行動を取るのだろうか?
しばらくそわそわと考え込んでいたハルヒだったが、やがて携帯電話を取り出し、呼び出しを開始する。
なるほど、援軍を要請するみたいだな。まあ、順当な行動だろ――ってちょっと待て。
「あ、キョン? 部室が大変なことになっているから、とっとと来なさい? え? 今手が離せない!?
団長命令よ! 30秒以内に来ないと、明日の弁当を食っちゃうからね! 何でも良いからとっとと来なさい!」
やっぱ、俺が呼ばれてんじゃねーか! ちなみに今日は黒妖怪に勇気を持って立ち向かいはしたが、
基本的に一般人スペックな俺は当然奴の姿を見るだけでもイヤだ。
しかし、この状況で部室が敵に占領されているなんて知りもしない俺はのこのこと現れる。
「なんだ、ハルヒ――」
「うりゃぁ!」
部室の中に少しでも入ったのが運の尽きだ。ハルヒに回し蹴りを喰らい、俺は部室の中に転がり込んでしまう。

「なにしやがる!」
そう俺は顔を紅潮させて抗議するだろうが、すでに部室の扉はしっかりと閉じられているはずだ。
あいつの目的は一つだろうからな。
イライラ限界な俺が閉じられた部室の入り口を開こうとするが、ぴくりともしないだろう。それもそのはず、
ハルヒが持ち前の馬鹿力でしっかりと扉を封鎖しているからだ。
「おいハルヒ、これはいったい何の冗談だ? とっととここを開けろ」
「キョン、あなたの死は決して無駄にしないわ……」
物騒なハルヒの声がドア越しに聞こえてきた辺りで、俺も背後の奴の存在に気が付くだろう。
「ちょっと待てハルヒ! いくら何でもこれはあんまりじゃないか!?」
「ええい! 部室の平和を取り戻すのも団員の役目よ! 奴を殲滅するまでここから一歩も出さないからね!」
「手ぶらで戦えってのか!?」
「ファイトよ!」
「もっとマシなことを――」
そこである音に俺が気が付くんだ。おそるおそる団長席の方を振り返ると、奴が飛行形態へ変形し、今にも
俺の方へ飛び立とうとしていて――

◇◇◇◇

――眠くなるどころか気分が悪くなってきたぞ。ここから先は、俺の苦闘シーンに突入するだろうから
カットだカット。何が悲しくて、妄想の中でもあいつとたたかわなけりゃならんのか。
さて、ハルヒ編を想像してもろくな結果になりそうじゃないので、次に行こうと思う。
SOS団最強の無口文芸少女・長門有希の登場だ。
……しかし、あいつの行動パターンは一つぐらいしか思いつかないが。

● 長門有希の場合 (最強伝説編)
いつものように無口で部室に登場。当然、長門の察知能力ならば、視認する必要もなく部屋に入る前に
奴の存在に気が付いていそうだ。しかし、
「…………」
無言のまま定位置に座り、そのままいつものように読書を開始する。当然、工作員のことなど完全無視。
これには奴の方が唖然とするんじゃないのか? 人間――外見だけだが――至近距離にいても
何のリアクションも起こさないなんて闇の邪教集団ダークの存在がこの地球上に出現して以来一度もないはずだ。
……さすがにそれは言い過ぎか。
長門にとって見れば、奴の存在なんぞ太陽系第三惑星に生息している一生物程度の扱いでしかないんだろうな。
歩く病原菌みたいな存在であっても、長門に何らかのウィルスが感染する可能性なんて皆無だろうし。
しかし、工作員もこの状況が我慢できるわけがない。奴にもプライドというものがあるだろうからな。
そこで、果敢にも長門に闘いを挑むわけだが、
「邪魔」
と、一瞬で謎の超能力により消滅させられて終了。あっけない幕切れだった。

◇◇◇◇

まあ、なんだ。展開的にハルヒ以上に味気がない。長門らしいと言えばそれまでだが、もうちょっと何とかならんのか。
しかし、ハルヒのようにトラウマをとってつけるわけにもいかん。長門は基本的に無口無表情であり、
俺もそれ以外の彼女を一度もみたことがないため、想像のしようがないのだ。
仮に無理やり怖がらせてみても「きゃーこわいたすけて」なんていういつぞやの映画内以上の超棒読みセリフしか
脳内再生ができない。
……いやまてよ? 年末に別の世界にすっ飛ばされたときにあった、あの内気で気の弱そうな長門なら
もっと別な想像ができそうだが――

● 長門有希の場合 (○○○編)
あのおどおどとした感じの長門が部室に入ってくる。
少し鈍そうだからな。たぶん、気が付かずに定位置の椅子に座るだろう。
「…………!」
その時についに奴の存在に気が付いてしまうんだ。さらに驚きのあまり椅子に座り損ねて、
床に倒れ込んでしまう。
その隙だらけな彼女を奴が見逃すわけがないだろう。ここぞとばかりに強気に出て、内気少女長門有希へ
接近を開始する。
「あ……ああ……」
一方、おびえて声も出せない長門は床をはいずり回るように逃げるが、それをさもおもしろそうに
奴はじりじりと追いつめていくんだ。
「……助けて……」
やがて、部屋の隅においこまれてしまった長門。
もはや逃げ場を失い、声にもならない悲鳴を上げることしかできなくなった彼女に、
牙をむき出しにした変態黒男はついに――

◇◇◇◇

段々罪悪感が俺の頭の中に蔓延してきたのでここで強制終了だ。
つーか、俺は一体何を考えているのか? か弱い少女をいたぶるような想像をするなんて、
人間として最低じゃないか。俺はそこまで落ちぶれた憶えはないぞ。やめやめ。

さて、気持ちを切り替えたいのでとっとと次に行く――しかし、順番的に考えれば、
古泉の番になるわけだが、いくら眠れない時間の暇つぶしとはいえ、なぜにベッドに潜り込みながら、
インチキさわやかスマイル野郎のことなんか想像せねばならんのか。
…………
…………
ぶつくさいっていても始まらないので、とりあえず想像してみる。眠気も中々来てくれないしな。

● 古泉一樹の場合 (スマイル編)
さて、まず古泉が誰もいない部室に現れるのだが、
「やあみなさん、ごきげんいかがですか――おや、だれもいないようですね。少し早すぎましたか」
こんな感じだろうか? いまいち想像できん。よくよく考えれば、あいつが一番最初に部室に
現れていたことがあった憶えがないし、たとえあってもその場に俺はいないんだから、
どういう行動を取るのか知っているわけもない。そういや、以前気色の悪いスマイル面は演技のようなことを
いっていたっけな。意外と一人の時は本性丸出しなのかもしれん。見たことがないから想像もできないが。
そして、次に工作員の存在に気が付く訳だが、
「…………」
リアクションが想像できん。思いつくのはしばらく考え込むぐらいだな。それで行こう。
そして、思考が終了したのか、何やら悪巧みを思いついたらしい。ぽんと手を叩くと、何やら携帯をかけ始める。
相手はあの古泉が謀略により担ぎ上げた生徒会長だ。
しばらく話し込んでいたようだが、やがて悪巧みの算段が整ったらしい。満足げに携帯を一旦切ったかと思えば、
またすぐに別の番号へ発信を始める。相手はやはりハルヒだろう。

「あ、どうも涼宮さん、ちょっといいですか」
『古泉くん? めずらしいわね、あたしに携帯をかけてくるなんて』
「ちょっと、気になる情報を入手しましてね……」
『ひょっとして――またあの陰険生徒会長が何かちょっかい出してきたんじゃないの?』
恐るべき勘の鋭さに、古泉は軽く苦笑しながら、
「ええそうです。どうやら、こそくな嫌がらせ行為をしているという噂を聞きつけましてね。
どうやら部室に対して何やら仕掛けをしようとしているようです」
『ぬわんですって! ほんっとに懲りない奴ね!』
「そうですね。僕もすぐに部室の状態を確認しようと思ったんですが、あいにくどうしても手が離せない状態でして。それで涼宮さんに報告をと」
どうやら部室に来ていないということにしたいらしい。
『大丈夫よ! 今からあたしがすっ飛んでいってそんな悪巧みを粉砕してやるわ! どうせ入り口に黒板消しを挟んでいる程度でしょうけどね!』
そこまで言ってハルヒは一方的に電話を切った。短絡的な反応に古泉は満足したのか、いつものニヤケスマイルを工作員に向けて、
「では僕は退散します。がんばって涼宮さんの退屈を紛らわせてくださいね」
そういって部室を出て行った。その後、ドドドドドと廊下をダッシュしてくるハルヒの足音が近づいてきて――

◇◇◇◇

終わり。腹黒い古泉が考えそうな展開だ。このあと取ったハルヒの行動は、上の方のヒーロー編かトラウマ編を参照してくれ。

さて、古泉効果があったのかは知らないが、ぼちぼち眠くなってきたぞ。しかし、まだやめるわけにはいかんのだ。
俺のすぃ~とえんじぇ~る・朝比奈さん編が残っているんだからな~。

● 朝比奈みくるの場合 (逃走編)
まずは部室に来ないと話にならないから、朝比奈さんが誰もいない部室に登場~。
「こんにちは~、あれ? まだ早かったかな?」
そう誰もいない部室に入りつつ、辺りを見回すんだが、当然団長席上の奴に気が付く。
「ひっ……!」
そんな感じで引きつった表情になる朝比奈さん。そして――
「うひゃひおえ~!」
声にならない悲鳴を上げて部室から逃げ出したのだった。チャンチャン。

◇◇◇◇

終わりかよ! 終わっちまったよ! 
てか、カマドウマの時の反応を考えれば、発見→逃走とつながるのは当然だろ。少し手を加える必要があるな。ここは俺と一緒に部室にやってきたことにしてみよう。
――く~、かなり眠くなってきたががんばれ俺!

● 朝比奈みくるの場合 (迷走編)
朝比奈さんと談笑しつつ、部室に入る俺たち。当然奴に気が付くわけだが、ドアを開けたと同時に気が付いたらさっきの二の舞だ。
部室に入りドアを閉めてから、奴の存在に気が付かなければならない。
「ひっ……!」
条件がそろってからようやく朝比奈さんが奴に気が付く。当然、予想もしていなかった俺も驚くが、ここは勇気を振り絞り、朝比奈さんをかばうように奴の前に立ちふさがろうとして――
「ひえ~! こわいこわいこわいこわいこわい~!」
突然朝比奈さんに抱きつかれてしまう。ふくよかな感触で俺の頭が飽和状態になる一方、へんに強く押さえつけられてしまったために身動きが取れない。
「ちょ、ちょっと朝比奈さん離れて……げ!」
幸せ拘束状態の俺にしめたと思ったのか、黒い悪魔は俺の顔面めがけて飛び立った――

◇◇◇◇

なんでこーなるんだ! やっぱりカマドウマの時の一件か!? あれが原因なのか!? 確かに一歩間違えば、命に関わりかねない状況だったけどな!

く……これはヤバイほどに眠たくなってきたぜ。しかし、ここで負けるわけにはいかない。
恐らく次が最後となるだろう。ならば捏造でも何でも放り込んで最大級のハッピーエンドを迎えて夢の中へ行くべきだ。続きが見れるかもしれないからな!

● 朝比奈みくるの場合 (やけくそ編)
とにかく、朝比奈さんと一緒に部室にはいるまでは同じだ。違うのは奴の存在に気付いてからになる。
「ひっ……!」
朝比奈さんの引きつった悲鳴。そして、俺にそのまま抱きつこうとするが、
「待ってください。朝比奈さん」
気持ち悪いくらいに誇張された口調の俺。そして、続ける。
「どうやら不届きものが、俺たちの愛の巣に侵入しているようです。しかし、ご安心ください。俺が守ります」
「キョンくん……ありがとう」
感激の声を上げる朝比奈さん。こんな良い感じになりたいぜ。
さて、ここからは俺のパートだ。だが、長く時間をかけるわけにはいかない(眠いからな)。そのまま訳のわからんカンフーポーズを決める俺。
「一瞬できめるぜ……」
だが、奴はそれをハッタリと見たのか、間髪入れずに飛行形態へ変形、一気に襲いかかってきた!
「甘い――破っ!」
俺の拳から発した衝撃波で奴は原始分解を起こしたように消滅した(さわると汚いし)。勝利をつかんだ俺はマイエンジェルの方に振り返り、
「喜んでください、朝比奈さん。悪の侵略は費えました」
「よかった……キョンくん、すてき……」
朝比奈さんは満面の笑顔を浮かべて、俺の元に寄る。 そして――上目遣いのまま、目を閉じる。(キスOKという合図さ)
「朝比奈さん……」
「キョンくん……」
俺と朝比奈さんの顔がじりじりと近づいていく。
もはやストーリーもリアリティも存在しないご都合主義展開の固まりだが、知ったことか。ここまで来たらもう後には引けん。行け! 行くんだ俺! GO!

◇◇◇◇

……ぐう。

翌日の授業中、恐るべき睡魔との激しい肉弾戦を展開する中、昨日の俺のバカな行為を散々呪ったことは言うまでもない。

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