────懲罰なのかしらねこれは。

     地球は青いとか言ってるけど私の髪も存在も感情もブルーよ。

                 ここから何か干渉できないものかしらね─────





夏の唸りもすっかり身を潜め、春先に近い陽気と、そろそろ到来する季節を思わせる方角からの
風が吹きつける今日は10月1日、日曜日。SOS団は昨日可決された不思議探索に来ている。

昨日の帰宅時、ふと立ち寄った輸入雑貨屋で購入した「NASA開発の技術を応用した」という英語の
フレーズが踊るなんとも胡散臭いアジア製の不思議なアイテムが今日の主役だった。
魔が差したというか、俺がうっかりあいつにメールを出した事が今日という集まりを決定させたのだが。

飼い主から解き放たれた犬達の遊び場所としても機能している公園の広場には幸か不幸か
人の数も少なく、周囲の散歩コースの利用量が遥かに充足されているようだった。
我が団長は少し変わったアイテムに心を躍らせながら休憩場所を陣取るようにと団員に指示をだした。
というか俺に指示をだした。

鬱々と俺がピクニックシートを広げ荷物をまとめている間、その直径10センチ
長さ6~7センチ、筒状にを保ったプラスチック製で
変わったカッティングをされた道具に長門は心を奪われているようだった。
その証拠に、ハルヒが上にかざすと目だけは無く顔ごと動かして何かを確認し、
胸元まで降りるとじっくりと目を凝らしている。左に振れればその方向に首が動いていた。

「穏便に済めばいいのですが。」
お前はとりあえず俺を手伝え。少々強く感じる風が一体何人座れるのかと疑いたくなるような面積の
陣取り用シートによる領土主張の任務遂行を邪魔してくるんだ。
俺は愛しの朝比奈さんが走り回る犬に目を奪われキャッキャとはしゃいでいる様を眺めたいんだよ
バカ野郎。

そうか、折りたたまれたまま占領を宣言すればいいんだ。小さくともモナコ公国ならば・・・
「ちょっとバカキョン!全開に広げなさい!既得権をかざして後でその土地をネタに交渉するのよ!」
わけわかんねーよちくしょう。それでも手伝わない古泉を横目に個人的な鎖国をする予定があると告げると
「それは困りますね。手伝いしましょう。」
占領される前から動いといたほうがいいんだよ古泉。お前はそんなに謀略が好みなのかとじゃれていた。

我が国の領土がまるでサハラ砂漠でその占有権を謳っているような感を捨てきれずに完了されると
「さー投げるわよ!古泉くん、レクチャーしなさい!」
「仰せのままに。」と満面の笑み。お前何が起こっても俺に処理させる気だろう絶対そうだその笑顔は。
先程のアイテムがそれ自体を投擲して楽しむという事を理解した長門はひとまず自分に
その順番が回ってくるのを待つ為、シートにペタリと座り込んだ。

ハルヒの健康的だが華奢な腕から射出されるその物体は、綺麗な直線を描いて空へと飛び立っていた。
あっという間にコツをつかんだあいつははるか彼方の対面に古泉を位置させ投擲を始めた。
信じられない飛距離と高さを示し、地球の宇宙的技術も捨てたものじゃないねと皮肉りながら
シンプルな道具と何も生み出さないだろうと思っていたその遊びに心を奪われていた。

落下予定地に古泉が走りこむ。そして投げ返す・・・

となりの長門は自分の鞄から本でも取り出そうとしたであろう動作の途中、片手を鞄に入れたままの
姿勢で、まるで届かない獲物に魅入るような猫がごとく目を見開き、頭を動かしていた。

「キョン~~、古泉くんと変わりなさい~!」
不覚ながらも俺は勢い良く立ち上がった自分の配慮の無さに気が付き
俺よりも自分の順番を心待ちにしてるであろう長門に一礼してから古泉とチェンジ。

「いや~、想像以上でしたよ。童心に帰って遊ぶつもりでしたが軌道の修正のされ方等、非常に
奥が深い道具でしたよ。」
はいはいそうですか。俺はどちらかというと理屈じゃないほうの楽しみに心を奪われてるんだよ。
「それを童心に帰るというのでは?」
ふん、お前はわかっちゃいねぇな。と言うと、本当に困ったように苦笑していた。

「いくわよキョンッ!うぉりゃぁあ」
おい、直線はマズイダロ。お前は本当に童心に帰ってしまっているのか。

まぁ直線なら避けられるだろう、と思ったのがどうやら大間違いだった。
「子供かおま、ゲフォ・・・」曲がるのかこれ。我が領土を見ると古泉が何か言っている。聞こえん。
「ふっふーん、甘いわね。子供の遊びじゃないのよ!心も体も技術もね!」
「あほか!戦争でもやるつもりかお前は!」大声で返す。
「何でも本気が一番よ!今ここでやっているこの事を後、思い出したときに良いものに
したいじゃない!」
わかってらっしゃるが、死にたくは無いぞ。痛い。マジで。でも笑顔がとまらん。俺はMだったのか。
「見てろ!高さと速さでお前を超えてやる。これがこの武器の使い方だ!」
「は~やくしろ~~~!」楽しくて楽しくてしょうがなかった。


数回、十数回、俺とハルヒは最高の技術を集約した最高に無為である道具を
シンプルな動作とそこにある単純なコミュニケーションが生む何かがあることに感動していた。


俺は投げた。ただ投げた。
こんな普通な日も絶対に忘れまいと記憶させたかった。時が経って、他愛の無いこの時間ですら
すばらしかったと思えるように。

「・・・キョ~~ン、有希と交代するね~~っ!」
そこまでのページで装丁し、表紙に描かれる絵はこいつのこの顔しかありえないだろうと思った。
自分の城に帰るそいつの姿に少し寂寥感を味わった。またすぐに次刊に取り掛かれるようにと心を持ち直した。

春の訪れた領土では、飼い主から逃げ出した番犬とは程遠い子犬を抱えながら、同じような
無邪気さでじゃれあっている朝比奈さんと、がさがさと荷物をあさり始めるハルヒ。
古泉はこちらに向かって手を振っている。長門あいつを狙え、と長門を探す。


いつの間にか正面遠方に位置する長門。そんなに楽しみなのか。
ワープしてたねあれはと思わせるスピードでそいつは立っていた。
距離がありすぎていまいち表情がよみとれない。




いつの間にか先程吹いていた風は我が領土を揺らがせる事もなく、謀反や戦闘などは起こりえない
穏やかな時代を思わせるそよ風となっていた。終わりは始まり。現状維持と何もしないという事が
同意ではないと思わせる時代が始まろうとしていた事には全く気が付いていなかった。
気が抜けてたんだ。お約束過ぎてもう痴呆症なのかしらと後々頭を抱えた。

こんなつまらん道具に興味を示し、最近本当に感情のコントロールができるようになったんだなと
思っていた。今日も何やら大事そうに水筒と弁当の包みを持ってきていたし。今日を楽しむ、非常に良いことだ。

「さ~、長門やってみろ!」

こちらでも視認できるように大きく肯いた。その目は絶対に今を楽しんでいるであろう事が予想できる。
こいつも俺と他の連中に習って同じようなフォームを取った。少し自分流に改造したといったところか。

いつぞやの野球の時に見せたスローとは違う。
あの時は手首だけだったのだが、道具を持ったその腕が徐々に背中に回りこみ、上半身を少し後方へ
捻らせる。足を少し開き、顔を空へ向けた。

学校でもスーパーユーティリティープレイヤーとして名高い(きちんとセーブしているらしい)
こいつがどんな人間的投擲をするか見てみたかった。




────────ごめんなさいNASAの人。完成したようです・・・・・・兵器が。

一連の動作がほとんど見えなかった。静の動作から静の動作へ、いつのまにか終わっていた。

舞い上がったあいつの煌びやかな髪だけが動を示した。本当に一瞬であった。


広場を囲う木々が長門を中心に外側にしなり

葉は発射地帯を中心にその齢に比例し、老いたものから上空に吹き飛んだ。

青々と茂った芝生がまるで波紋のように波を打ち、あいつの周囲の地面が少し盛り下がった。

白く延びる軌跡。衝撃によって周囲150メートル程に広がり爆ぜる風。

発生しなかったカマイタチ・・・こいつ操作したな・・・

長門に駆け寄りながら、先程まで永劫に続くかと思われる平穏を楽しんでいた領土を見やると
突風に驚いた全員がこちらをみている。俺は即座に古泉に目を向けた。頼む、あとでブルーベリーやる
から俺に気が付いてくれ。俺を見てくれ。とどうやら我に返って俺を見てくれた。
「突風が来て、先程のおもちゃが風に流された。」とかフォローしてくれるんだろう。

朝比奈さんは荷物の確保に必死になってた。すいません、あとで謝りますから。ほんとすいません。

止んだ風。逃げ惑う犬達。たどりついた発射台。


うわっ、めっちゃくちゃ満足してますこの子。目がキラキラ。

「長門?!」 

言葉が続かない。裏返った俺の声。

こいつ、興奮してるのか?この目は。
「・・・子供の遊びではなく、心と技術と体、高さと速さ、そして武器という情報を貴方達から得た。
こちらに到着した際、その形状と、それが成す軌道と力場を計算し、最も効率的で主旨に見合う動作をした。」

「・・・お前、使ったろ。」もう怒る気が起きないのは慣れか、俺が楽しんでいるのか。
「大丈夫。殺傷は完全に防いだ。能力も放った際に発生する真空波等を抑える事に使っただけ。
事を荒立てるのは本意ではない。それに・・・」


「私の勝ち。」


あー、宇宙的道具ね。そうね。そこで気が付くべきでした。そりゃ長門の出番だろうし譲れないよな。
もういいや。飯食おう飯。

「ああ、お前の勝ちだ。」

満足げにこちらを見つめる長門に、こいつわざとだ、と確信した。
うんうん、やっぱりどんなに安全な場所でも水爆とかの実験はやるべきじゃないね、といいながら領土へ帰還。

戦々恐々としているかと思えば我が団長様は
「これは前代未聞の現象だわ!キョン!午後はこの広場を探索しましょう!
ちょっとカメラ買ってくるからあんたはシート直して待ってなさい~」とスイッチオン。

「いやぁ・・・迂闊でしたね。貴方がけしかけたのでは?」否定はできないがお前も気づいてただろと睨む。
「お弁当無事でしたよ!良かったぁ~」有り難う朝比奈さん。貴方が恐怖していなくて良かった。
貴方がずれてて、いや、純粋な人で良かった、本当に。

一仕事終えたかのようにゆっくりとした動作で水筒を取り出す長門を見て、まーいいかと思えてしまう。
賑やかに進む食事の用意に一つ疑問が浮かんだ。いや二つ。

まずは長門。お前の弁当箱どこだ。今日は各自持込だっただろう。それ全部本じゃないか。
「・・・水筒の中身はカレー・・・・・・・・・・宇宙食」頭が痛い。捻ってるのか捻ってないのかまったく分からん。
古泉にはうけてるようだぞ、よかったな。

二つ目、さっきの道具はどうなったんだ。
「・・・先程、大気圏に突入した。本来の構成にすべく素材を強化したので必ずここに戻ってくる。
落下まで見届けるのでこの後私は読書を進言しようと思う。」
「・・・」あれはNASAと銘をうったただの玩具じゃなかったのか?

「先程のあの道具は本当に地球のものだったのですかね。」
「・・・禁則事項。」
「あー長門さん私の台詞~・・・。」
「・・・すまんが俺の弁当を知らないか?」
「先程、涼宮さんが貴方に背を向けていた理由はそれですが。」お前さ、ブルーベリーの代わりに正露丸やるよ。
「あっ!私たくさん作ってきたんですよ、一緒に食べましょう。」ありがとう朝比奈さん、涙で前が見えません。
「・・・私のもたくさんある。」ありがとう長門。通りでこいつの荷物がほとんど動かなかったわけだ。

ハルヒが戻ってきて、俺の飯の所在を問い詰めようとすると作りすぎたからといって差し出してくる
おかずに舌鼓を打ちながら提供される食料の多さにめまいを覚えていると午後の探索の班分けクジが始まった。

長門は先程の提案をハルヒに告げた。体調不良等を盛り込み脚色して。こういうときのハルヒは優しい。
「・・・私も座った状態で確認できる範囲を探索する。」という言葉がトドメだっただろうか。

そして決まった班分けは、俺+ハルヒ、古泉+朝比奈さん、で決定した。
「小休止しましょうか朝比奈さん。」「じゃあ、さっき少し残ったサンドイッチでお休みしましょう。」
とかいう流れを阻止すべく俺はいつもより食った。
いわずもがなだがハルヒと、長門もひたすらに。よくよく考えたら俺食わなくてもこいつら
食べるじゃん。失敗した。


とばす、とばす。午後のハルヒのフルスピード。腹に入った物がはっきりと認識できる。
玩具で遊び、眼前でひろがった超常現象に目を光らせていた、純粋な気持ちで遊ぶお前が見れて良かったよ
とか考える余裕がでてくる頃にはもう夕方を過ぎていた。2時ごろの脂汗はすっかり落ち着いていた。

インスタントカメラ片手に、木に登ったり、肩車したりであちこちを撮影して回り
「明日は部室で検証ね!授業終わったらすぐに行くわよ!」今日一度も燃費切れを起こしていないハルヒの宣言。
「おう、ハルヒちょっと歩こう。」できれば時速2kmぐらいで。
「もう疲れてるの?やぁねぇ~。」
「食いすぎた・・・すまん、あそこのベンチでいい。休ませてくれ。」
つうかお前、弁当にメインディッシュしか入れないとかおかしいよ。お前らしいけど。
「な、なによ。でも全部食べてたじゃない。」
うるさい。俺は出されたものは全部食う主義なんだ。申し訳ないだろう。作ってくれた・・・あ、お百姓さん
お百姓さん今日は休みだったな。あーはいはい、上手かったですよ。おいしゅうございました。
「ふふーん。感謝なさいよ。」お前俺の弁当食っただろうが。

やれやれ、と前を見た。

そのに広がる空。小高い場所になっている為か遠方まで見渡せる。静止画の様に張り付いた光景。
日常の中に感じる、非日常の典型。当たり前のその光景に目を奪われた。

「ねぇ、キョン。こういうのって綺麗って言葉であってるのかな。それとも荘厳?」
「・・・どうだろうな。無ければ作ればいいんじゃないか?言葉でもなんでも。
言葉なんてもんは知らない他人に伝えるってのが基本だ。」

「何よそれ・・・そうね。」
「そうだよ。」
顔が緩む。だめだ。思考が持っていかれる。夕日に吸い込まれる。

「ねぇ・・・なんでだろう。写真取る気がまったく起きないのよ。すごいのに。」
「珍しいものじゃないからなぁ、でも2度と見れないのかもな。同じものは。」

「不思議よねぇ・・・なんか悔しいわ。」
「覚えちまえ。俺も覚えるから。お前の頭なら余裕だろう。」
「・・・バカ。」

服の擦れる音がした。汗で冷えていた体に暖かさが戻った。
たぶん、こいつも沈んでいくそれに同じものを感じたんだろう。情けない話だが俺もだ。
つうか恥ずかしい。夕日でよかった。

「むかつくわ。なんで満足感があるのか。」
「・・・ああ、バカにしてるな。」
お互い笑顔でそんな事を確認していた。

──────その時だった。
黒と橙色が支配していた空間に不自然な光りが見えた。忘れていた。今日最大の懸案事項を。

幸いハルヒは気が付かなかったようだ。
右に座るハルヒとは反対側、左のポケットの携帯が震える。・・・確定だ。
タイミング悪い。いや良いのか?

「またきましょう!」
ベンチから飛び立ちこちらにもう一度上がった太陽を見ながらタイミングは悪かったんだなぁと憤りを感じた。

「そうだな、暗くなる前に撤収しよう。そういえば、今日から3日間、母親がいないんだよ。」
「ふーん?」あーちくしょう、ニヤニヤすんな。なんだその顔。
「俺も学食の世話になるかもしれん。よろしくな。」
こいつが学食で何をしてるのか少々気になっていたしな。

「えっ、あ、そうなの?」何を慌てているんだこいつは。
「まいいわ、私ちょっと先に帰るからみんなに宜しく伝えてね。」
大丈夫、まだ明るいな。つうかこいつは無敵だし、色々な連中に守られてるから平気だろう
と慌てて思い直す。
「・・・気をつけろよ。」子供か俺は。満面の笑みで走り去るハルヒを見届けると携帯に手を伸ばす。
あれ?鶴屋さんと朝比奈さんから着信があったんだ。あとは全部古泉か。


忌々しいが古泉優先だ。くそったれ。



「や、涼宮さんの精神が安定と高揚を繰り返していましたが何か「用件を言え。」」
ニヤケ面のカウンセリングを受けるのも嫌だったが内心、NASAウェポンがどうなっていたのか
あれが何の原因になったのか。心配でしょうがなかった。

「・・・それが、私も良く分からない光景が繰り広げられていまして・・・正直どうすればよいか。」
「朝比奈さんは大丈夫なのか?」体に冷たいものが戻ってくる。
「先程、鶴屋さんから連絡が会ったようで、あ、涼宮さんも合流されたようですよ。」
なるほどね。後で侘びの連絡・・・いれなくてもいいか。詮索だけで終わりそうだ。
「とにかく先程の広場に来てください。お願いします。」

今日は走りっぱなしだ。
たどり着いた場所で見た光景は、かすかに射す月の光りと、広場を照らす弱々しいライトで
作られた舞台に移る長門の姿だった。

「おい、こりゃいったいなんなんだ、長門!」
「・・・迂闊だった。貴方も少し離れてて。あの木の後ろへ。」

くそ、何が始まるんだ!

「わかりません。公園の封鎖は既に済んでいますのであとは事を荒立てぬように・・・」
情報操作か。
何が来る。あの光りはなんだ。光りの主はなんなんだ。

「下がりましょう。」
「ああ!」俺の肩に手を乗せる古泉の手が震えている。
「長門!」叫んでその顔を見つめると・・・思いのほか冷静な表情を見せていた。


────おい、なんでそんな顔してるんだよ!

その刹那、耳を劈くような音がした。光りに目がくらむ。

先程の射出と同等か、空から降ってきたそれは重力がある分、

地上から打ち上げたときよりも遠慮の無い威力をもって来襲した。

まるで爆風。めくれ、爛れる地面。悲鳴を上げる木々。立っていられない。

そして・・・熱。青々としていた芝が焼ける。


「長門っ、大丈夫か!」叫ぶしかなかった。


土埃が収まり長門を確認すると俺は走った。
周囲10メートル程を陥没させ、その中心で長門は平然と立っていた。・・・平気なのかよ。

「おい、大丈夫・・・なんだな?」

わずかに肯くその顔から、わずかに見える笑顔か?わけがわからん。

「説明していただけますかね?長門さん。もうこの空間を戻しても良いでしょう。」
まったく気が付かなかった。異空間化しているこの場所に。


「恐らく、先程の物体が長門さんの能力が及ぶ範囲に到達した際に施したのでしょう。
私も衝突して、収まるまで気が付きませんでした。」引きつったニヤケ面。
なんだってんだ。戦争でも始まるのか?でも長門は平然としている。

「・・・先程打ち上げた物体の軌道上に予想外の存在がいた。
その矮小な情報因子に近い形で存在を許可されていたが、本来の構成により近い
形へと修復を遂げていたことは想定外だった。ただし、こちらへの干渉を完全に絶たれており
その制限フィールドより外部へいかなる接触もできないはずだった。
私の構成因子が先程射出した物体にごく僅か付着したためにその制限フィールドを物体だけが
瞬間的に打ち破り帰還してきた。」

長門、何故俺から目を逸らす。怒らないからお兄さんに言ってみなさい。

「長門さんがそんなミスを犯すとは到底思えませんが・・・」責めるな古泉、と肩に手をやる。
「なぁ長門、お前何をしようとしたんだ。怒ってない。言ってみろ。」



「・・・キャッチボール。」

異空間がグローブかよ。


古泉は呆然としていた。俺は・・・笑ってしまった。次第に古泉も。

「どうだった、何かコミュニケーションを取れたか?」
「想像がつきませんねぇ。確かに情報統合思念体からすれば上等なコミュニケーション
かもしれませんが。」困った顔の古泉。口元は笑っているが。
「先程、涼宮ハルヒと貴方が行っていた行動に情報統合思念体が興味を持った。
言葉で直接的な伝達をしないコミュニケーションのデータサンプリング。」
ほんとかよ。な~んか言い訳がましい。後で喜緑さんに聞いてみるか。
「・・・だめ」
やっぱりか、ってかばれてるんじゃないか?
首を横に振る長門。やっとこちらと目を合わせる。

「先程、昨年の繰り返された夏に収集されたデータ量よりも遥かに膨大な採取できた。
これは非常に有益であると判断された。処分の対象になる事は無い。」
俺には攻撃してきたようにしか見えなかった。多分、この件に気が付いたほとんどの
連中がそう思っているだろうよ。

「次はもうちょっと穏便に事を済ませるんだぞ。」
「了解した。」 即答し強く肯く長門。そしてまだ疑問が、というか確認したくもない
その存在とやら。

「コミュニケーションをとろうとした存在について詳細を伺えませんか。」
期待を裏切れよ。うやむやにしとけばいい。そんなもん。
こちらをしきりに気にする長門が問いに答えようと口を開いた。嫌な気がしてきた。

「・・・朝倉涼子。」

お前が嬉しそうな顔をする存在なんてそれぐらいしかねーよな。分かってたよ。

──私は驚いていた。長門さんの独断先行が正当化されたことと、
 送られてきたメッセージに。もう、せっかく私のイメージカラーどおりに
 行動してるのに・・・攻撃、もっと派手にしたかったなぁ。

 つまんないよ・・・
 本当につまんない・・・

 なんでこんなメッセージ送ってくるのよ。私の行動理念に反するわ。

 なんなのよ・・・彼も長門さんも・・・帰りたいよう・・・──────────



「なぁ、長門、どんな気持ちを込めたんだ?」
「女の秘密。・・・もうすぐ戦争が始まる。」


長門の部屋に置かれた不思議な玩具。どろどろに解けた表面が、生々しい。
なぁ長門、本当に教えてもらえないのかな。首を横に振る。


「ヒントは・・・ドロドロ。貴方は覚悟したほうがいい。」

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