プ ロ ロ ー グ


俺たちの高校生活最後の冬。

俺とハルヒの意地の張り合いがもたらした、二度目の世界崩壊の危機。
そうだ。俺が弾を装填し、ハルヒが引き金を引いた、全宇宙を一方的に巻き込んだあの大事件。
あれから既に長い歳月が過ぎているというのに、今思い起こしても平常心ではいられなくなる。関係各位には、誠に申し訳ないことをしたという気持ちでいっぱいだ。

未来の機密組織がハルヒを抹消しようと潜入してきた、その中に自称涼宮ハルヒの子孫がいたが結局、改心したらしく計画は見事中止になった、まぁその後SOS団の準団員って形で学校に留まってたがな。
しかしこれはハルヒにとってただの演習ぐらいにしかすぎなかったと思う。その後

全宇宙規模で発生した閉鎖空間。その内部では、ハルヒを知る存在たちが一堂に会し、好意的に見ればそれは、ハルヒ杯争奪全宇宙オールスター対抗大運動会(強制参加型)とも言うべき様相を呈していた。

 閉鎖空間内では、現状維持派と急進革新派とのあいだで様々な思惑が入り乱れ、熾烈な戦いが繰り広げられた。
情報制御すらままならず物理的攻撃が不可能な敵対的広域帯宇宙存在たちは、以前の雪山のような方法でSOS団への精神的攻撃を試み、未来を予測可能である敵対未来人組織たちは、俺たちを内部分裂させるべくハルヒと俺に対してあらゆる工作活動をおこない、閉鎖空間内でその力を存分に振るえる敵対的超能力者たちは、赤い光となって俺たちに攻撃を仕掛けてきた。

 長門は制限を余儀なくされた能力をなんとか駆使して抗戦し、朝比奈さん(大)が未来人の知識をもって俺たちに助言を与え、朝比奈さん(小)はおろおろしつつも時間移動を応用した空間移動と長門によって解禁されたフォトンレーザーやら超振動性分子カッターやらの超科学的兵器で俺たちを何度も危機から救い、そして古泉はその能力を遺憾なく発揮して敵対勢力の物理的攻撃に対抗した。

 当然の反応として、この超常的展開に一人狂喜するハルヒは、以前俺が見たものよりも質、量ともはるかにパワーアップされた神人軍団を無意識的に生み出し、敵対勢力を次々となぎ倒しはじめた。
だが神人の活躍もむなしく、一人また一人と倒れてゆくSOS団員。
そうしてハルヒはついに、これが自分の望む世界の在り様ではないことを受け入れた。

閉鎖空間の終焉は、やはりというべきか、俺とハルヒのキスによるものだった。
以前のような、成り行きまかせのものでも一方的なものでもない。

俺たちはこの騒動のおかげで、お互いに対する気持ちを確かめ合うことが出来た。

俺の場合は、なによりも俺自身の想いをはっきりと認識し、覚悟することになったわけだが。一度目と同じ、あのグラウンドで、俺たちは永遠とも思えるほどの長い時間を共有していた。

唇を重ね合わせ、お互いをしっかりと抱き寄せて。

絶対にこの手を離したくないと思った。
ハルヒだってそう思っていたはずだ。

俺は、本当に心から時間が止まって欲しいと感じていた。

世界が変わったとさえ思える瞬間だった。

いつしか閉鎖空間は消滅し、俺はまた自室で目覚めた。

今回はベッドから転げ落ちることもなかった。
フロイト先生もきっと祝福してくれていたに違いない。
その後、立て続けに携帯が鳴った。

 最初の電話は長門からだった。
「六年前の涼宮ハルヒによる情報爆発、それを超える二度目の情報爆発が観測された。それと同時に、情報統合思念体は自律進化の糸口を得た。情報統合思念体主流派は、あなたと涼宮ハルヒに感謝している」
と、いつもの淡々とした口調でそれだけを述べ、ぷつりと電話は切れた。
なんてことだ。それはあのキスが原因なのか? 

まさかそんな大それたことが起こっていたとは。
ところで長門、お前自身は感謝してくれないのか?

長門の電話が切れるなり、続けざまに古泉から連絡があった。
「機関の方がかなり混乱していまして、手短にお話しします。僕の能力が消滅しました。ですが、これはむしろ喜ばしい状況と言えます。我々の能力の消滅と同時に、涼宮さんが二度と閉鎖空間を生み出さず、世界も改変しないという確証を得ました。なぜ解るのかと言うと、残念ながら説明出来ません。解ってしまうのだからしょうがない、としか。僕のアルバイトがなくなってしまうのは少々寂しいですが、これで世界が永遠に救われたと思えば、それもまたよしです」
その口調の端々に本心からの喜びがうかがえた。

どうやら、キスの瞬間に感じたことは事実だったようだ。

本当に世界は大きくその様相を変化させてしまったのだ。本来あるべき姿に。
それから数分後、最後は予想どおり朝比奈さんからの電話が鳴った。

「キョ、キョ、キョン君っ!」
明らかに混乱していた。当然ながら、俺には朝比奈さんが次に何を言うのか想像出来る。
「すすす涼宮さんからの、じじ時空振動が、けけ検出されなくなりましたっ!」
「朝比奈さん、解りましたからとにかく落ち着いてください」
電話口からゆっくりとした深呼吸が数回聞こえた。落ち着きを取り戻した朝比奈さんは、

「涼宮さんに関係する時空の不確定要素が消滅しました。つまり未来が確定されました」
そして、少なからず寂しそうな声で、
「私の役目もこれで終わっちゃいました。名残惜しいですが、もうすぐお別れのときがくると思います」
そうか。ついに朝比奈さんともお別れなのか。

あなたのお茶が飲めなくなるかと思うと、俺も本当に寂しいですよ。

このようにして、唐突に始まった涼宮ハルヒを取り巻くありとあらゆる不思議な現象は、唐突に終わりを告げたのだった。

そう思っていた。これが実は終わりなどではなく、本当の意味で全ての始まりになることなど、当時の俺には全く想像出来ないことだった。