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――エピローグ――

それから、バスは何事もなく進み、無事俺たちは婆さんや叔母さんが待つ田舎の家にたどり着いた。
叔母さん達は一日連絡無しで心配しているかと思ったが、昨日の夜に俺の声で電話があり、最終バスに乗り遅れたので、今晩適当なところで宿泊して明日の朝に到着すると連絡があったらしい。

おそらく長門が情報操作か何かでそうしてくれたんだろうがな。ハルヒと一緒にいる俺を見て叔母さんが何か言いたそうな表情をして微笑んでいた。絶対勘違いされているだろう。やぶ蛇のような気もするが、俺の両親には絶対言わないように念を押しておこう。

妹は、俺とハルヒの姿とシャミセンを見つけると、真っ先にハルヒにまとわりつきそして、俺よりもシャミセンに抱きついた。

「キョンくんシャミ連れてきてくれたんだぁ!シャミ!今日は一緒に泳ぎに行こうね!」
なんてはしゃいでいるが、猫は泳げないんだぞ、妹よ。

それから、腰を落ち着ける前に、俺はハルヒと二人で婆さんに会いに行った。
婆さんは俺に可愛い彼女が出来たことを我が身のように喜んでいた。以前の俺達なら否定していたんだろうが俺もハルヒも否定しなかった。

そして、あのシャミセンがかぶっていた帽子を婆さんに渡し「ここに来る途中で、道に迷って、そこで拾った」とだけ説明した。

それを受け取った婆さんは、裏側の刺繍を見るなり、ボロボロと涙をこぼして俺の手を取り、ありがとう、ありがとうと、何度も繰り返した。

そして、仏壇の前に行きその帽子を供え、俺たちは手を合わせた。
仏間に飾ってある、軍服姿の男の写真が俺たちを見下ろしていた。

曾爺さん。やっと帰って来れたんだな。

婆さんから聞いた話だが、婆さんの父さん、つまり俺の曾じいさんは戦争で行方不明になり、終戦後も結局帰ってこなかったそうだ。遺留品も全くなく、手がかりもつかめないまま、今を迎えていた。
俺は戦争のことなんか教科書の中でしか知らないし、戦争なんて無い方がいいとは思うが、曾爺さん戦争に行って愛する人々を守ってくれたおかげで、婆さんがこうして生きているし、俺もこうやって生きているってことは解る。それに、実際に今日救ってもらったばかりだしな。

愛するモノを守るために戦うとき、人は思いもよらぬ力を得ることが出来るか。
せいぜい朝倉の凶刃からハルヒを救っただけだしクサイ言葉だが、愛の力ってホントに凄いな。曾爺さん。


その後、俺とハルヒはSOS団の三人に連絡をとった。
今、三人は長門の部屋で睡眠中だったらしい。おそらく徹夜でいろいろ対策を練っていたみたいだ。美女二人と熟睡とは、あとで本物の古泉も一発殴っておこうか?

それはともかく、古泉によると今回の件は、例の情報生命体亜種がハルヒの力を利用してあの世界を作った為に去年の五月に出来た例の閉鎖空間と似たような空間となっていたようだ。《神人》がでなかっただけ良かったぜ。
そのために、3人でありとあらゆる方法を使い、何とか穴を開けることが出来たのだそうだが人間が入るには少々力が足りなかったようで、人間より小さく媒介となりやすいモノということでシャミセンが選ばれたらしい。
そして、その空間にシャミを転送させたところに情報生命体亜種がそれに気づき穴をふさいでしまったそうだ。
八方塞がりの中、例の軍服男が三人の前に現れ、その介助により三人はあの空間に突入し俺たちを見つけたということだ。

ここから推測にしかならないが、例の軍服男つまり俺の曾爺さんの魂が、たまたま、お盆で里帰り途中だったのか、それともそのへんをさまよっていたのかは解らないが、偶然あの世界に迷い込みシャミにとりついた。
そして俺を助けてくれたと。
魂の存在に関して禁則事項なんだろうが、やっぱり有るんだろうなと、つくづく思った。

そんな感じで、ハルヒと俺は三人に礼を言うと、古泉は

「いえいえ、礼を言うのはこちらですよ。ようやく一つ肩の荷が下りそうですから」

と意味深なことを言った。
そういや、3人の正体がハルヒにばれちまってるんだ、これでコソコソすることもないって事かと思ったんだが、そうじゃないですよと否定された。あいかわらずお前の言うことはサッパリ解らん。

そのあと、俺とハルヒ二人で墓参りに出かけた。
ハルヒは夜中に行きたがったが、それをやんわりと却下させてもらった。最初に人魂が出るって言った事を本気で信じてのか?こいつは!

先祖代々の墓の前で、曾爺さんとその他大勢のご先祖様に俺は心からありがとうと手を合わせ、ご先祖様みんなに俺の可愛い彼女を紹介した。
一緒にその墓に俺もはいることになったら、たぶんこいつも、もれなくついて行くと思います。少々騒がしくなるかもしれませんが、そのときは御容赦願いますぜ、ご先祖様。


その帰り道。舗装もされていない、田舎の道を二人で手をつないで歩きながら、ハルヒがまたあの歌を歌い始めた。


♪Country Roads, Take Me Home To the place I belong
West Virginia, mountain momma Take me home, Country Roads♪

-カントリーロード 私を連れて帰って 私の愛するあの故郷へ
 ウェストバージニア 母なる山々へ 帰りたい カントリーロード-


「この歌の元々の歌詞はね、戦争中に戦地で故郷を懐かしんで、愛する故郷に、愛する人の元に帰りたいって願う兵士達の思いを歌にした曲だったということらしいのよ。あんた知ってた?」

それは知らなかったな。曾爺さんもその曲を知っているわけ無いけど、お前が昨日歌っていたその歌声に誘われて現れたのかもしれないなと、ふと思う。

「きっと、曾お爺さんも愛する人のところに戻りたかったのよ」

「ああ、お前のおかげで戻って来られたんだと思うぜ」

遠くの山には、昨日見た夕日に負けないくらい夕焼けが広がっていた。田舎の夏の夕暮れはもうすでに秋の色合いを見せ始めていた。

そんな夕日をながめながら歩いていると、突然、ハルヒはつないでいた手を離し、少し離れたところで立ち止まり、こちらを振り向いた。
いつもの得意そうな何かいいことを思いついた笑顔だ。

「ねえ、キョン!昨日の流れ星の願い事を覚えてる?
あたしね!もう願い事叶っちゃったんだけど!あたしの勝ちね!バツゲームは何がいいかしら!」

「なんだよ。先に寝てしまっていたんじゃないのか?」

「寝たふりしてたのよ。あんたと違ってあたしは全然眠れなかったんだからね!」

ハルヒは例のアヒル口でツンツンと怒る。あの怪しいバスの中ですぐ眠ったのはそう言うことか。

「そんなことはどうでもいいの!それよりもバツゲームよ!そうね何がいいかしら……」

そう言いながら優しく微笑んだ。木陰で見たあの笑顔だ。

「ちょっと待った。残念だが、俺も願い事は叶ったぜ。たぶんお前と同時に叶ったかもしれない。
たぶん俺の願いはハルヒと同じ願い事だったからな」

俺とハルヒは見つめ合い、お互いに笑った。

そして俺からハルヒに近づき肩を抱いた。

そこから先言葉はいらなかった。


きっとハルヒも同じ事を考えているからな。


 夕焼けに延びる二人の影が、田舎の道の上に


    ――――そっと重なった


Fin



参考引用
"Take Me Home Country Roads"
作詞・作曲 B. Danoff, T. Nivert, J. Denver
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