♪Country Roads, Take Me Home To the place I belong
West Virginia, mountain momma Take me home, Country Roads♪

俺はとてもじゃないが綺麗とは言えない、どちらかと言えば、旧式なおんぼろバスに揺られながら、まるで子供のように窓ガラスに張り付いているハルヒの鼻歌を聴いている。
太陽が傾きはじめ、山々の影が落ちる田舎道を走るバス。今の雰囲気にはぴったりの曲だなとは思うが、何故ハルヒがここにいる?

今は高校2年の夏休み。今年も、何度も繰り返す8月なんていうスケジュールは御免被りたいので、7月中はSOS団メンバー全員で部室に集まり夏休みの宿題を片付けようと、俺はハルヒにそう提案した。

夏期講習でバタバタしている朝比奈さんを応援しながら、宿題全てを何とか片付け、8月に入ってから例のごとく機関プレゼンツの合宿が執り行われ、気が付けば来週はお盆と言う頃になったため、俺はいつもなら妹と二人で田舎に向かうところを、どういう訳かハルヒと二人で田舎に向かっている。

妹がいなくて、何故ハルヒがいるのか。

とりあえず一つめの謎である、妹がいない理由は簡単だ。妹は6年生になったので一人で田舎に行けるだろうと両親に判断してもらい、一足先に田舎に赴いているためだ。
そして二つめの謎、ハルヒが目の前にいる理由は、俺にとっても未だ謎のままだった。

この謎を解明するために、少々時間をさかのぼるとしよう。


ほんの数時間ほど前。

俺は、大きな荷物を抱えて最寄りの駅で電車を待ち合わせしているところに、これまた大きな荷物を持ったハルヒとバッタリ出くわした。

「あらキョン。こんなところで会うなんて偶然ね」
「なんだ? ハルヒもどこかに出かけるのか?」
「ちょっと、感傷に浸りながら一人旅としゃれ込もうかなと思い立っただけよ」

ハルヒがセンチメントでジャーニーさんだとはめずらしいこともあるもんだと思う。行き先を聞いたがうまくはぐらかされ、途中まで目的の到着駅は同じと言うことだけをハルヒは教えてくれた。

「一人旅を邪魔しそうだな。何なら俺は別の車両にいくぜ?」
「いいわよ。気にしなくて。旅は道連れっていうじゃない」
と言う感じで、俺たち二人は同じ車両内のと隣の席に座ることになった。
電車の中では他愛のない話をしたり、特急電車に乗り換えてからはお菓子を食べたり、駅弁を食べたりしながら過ごし、あっという間に目的の終着駅に着いたのだった。
その後、「じゃあ良い旅を」と言って別れたはずなのだが……

俺が乗り込んだ田舎行きのバスにあいつはすでに乗り込んでいた。俺を見るなりハルヒは

「あらキョン。こんなところで会うなんて偶然ね」
と、しゃあしゃあとぬかしやがった。
こんな偶然、何度もあるもんか。

はい回想終了。


記憶違いかと思ったが、やはり思い当たる節がない。ならば直接本人に聞くしかあるまい。俺は隣でご機嫌で鼻歌を歌うハルヒに問いかけてみる。

「なあハルヒ。お前の目的はいったい何だ?」
「だから一人旅よ」
「そう言う誤魔化しはいい。俺について行って、無理矢理、俺の田舎に泊まり込むつもりなんだろ? 婆さんや叔母さんはいい人だから俺が説明して説得すれば断りもしないかもしれない。色々と詮索されそうだけどな。それは我慢するとして、田舎のみんなに説明する為にも、お前の目的を教えろ」
「そうね、しいて言うならあんたのご先祖様の墓参りが目的ね。日頃のあんたの悪行をどうぞお許し下さいって団長自ら供養に赴いているってところよ」

そのセリフ去年も聞いた気もするが俺はお前ほどご先祖様に罰当たりなことをしていない。

「それも誤魔化しだな。俺にはわかるぞ。さあ、何を企んでいる?」
ハルヒが視線を逸らして窓の外を見る。
「何も企んでないわよ……ただ……」
「ただ、なんだ? くだらない理由ならここからすぐに追い返してやる」

誰かが停車ボタンを押した。ハルヒは外を見たまま無言を通している。
バスはしばらく走っていたが次第に減速し他の乗客を降ろすために停留の看板だけがある、質素なバス停に停車するようだった。

「あ、あんたの田舎がどんなところか見たかっただけよ……あた……SOS団をさしおいて毎年行くのに何か理由があるのかなって……」
ハルヒはそこまで呟くように言うと、突然こっちを向いてて逆ギレを始めた。

「悪かったわね! あんたに断りも無しについて来て! あたしもよく考えてなかったわよ!泊まるところがなくても、どこかで野宿すりゃいいわなんて考えてたわよ! あんたの気持ちなんて全然考えてなかったわよ! なんだかあたしバカみたいじゃないの! もうどうでもいいわ! 帰る!」
ハルヒの顔は、田舎で取れるもぎたてのトマトのように真っ赤だった。
あっけにとられる俺を押しのけるようにして荷物を荷棚からおろし、逃げるようにバスから降りていった。
そして、そのままバスはしずかに動き出した。

そして……バスは遠くに走り去っていく。

…………

しかし、なんだ。
何で俺までバスを降りちまってるんだろうね? 無意識に行動するとろくな事はないんだが。

「何であんたも降りてきてんのよ!」
ハルヒは引き留めた俺の手を振り払い、そう言った。

「わからん。気が付いたら降りていた」
「…………」
「責めて悪かったな。そんなつもりはなかったんだが……」
「…………」

ハルヒは俺に背中を向けたまま、まるで長門のように無言を突き通した。
まったく、やっかいなヤツだな……仕方がない。

「まあ、俺についてきた理由はもうどうでもいいさ。お前はここで帰るんだったな。じゃあなハルヒ。また休み明けに学校で会おう」

俺はそう言いながらハルヒに背中を向けて歩き出す。歩き出して、道路を横断しぐるっと回ってハルヒの目の前で立ち止まる。

「ようハルヒ。こんなところで会うなんて偶然だな。偶然ついでにどうだ、俺んちのご先祖様の墓参りでもしていかないか? 最近、ご先祖様のお墓の周りに人魂が浮くという話をこの前聞いたんだが、SOS団団長としてこの件は見過ごせないよな?」

ああ、臭ってきそうな青臭い大根演技だが仕方がない。

「……バカ」
ハルヒは、そう一言つぶやいたあと、いつもの100万ドルの笑みを浮かべて言った。

「当然よ!人魂が浮かんでいちゃ、明るくてご先祖様も安心して眠れないわね。あたしが退治してあげるわ!」

いや、退治なんてしなくていいんだが……ま、いいか。
俺のご先祖様、今までしずかだったお墓の廻りにプラズマが大量発生しても勘弁してくれ。これは不可抗力だ。

やれやれとかぶりを振ったあと、俺は辺りを見回す。
しかし困った。ここのバスは1日に往復3本しか通らないし、しかも今のが最終便だ。いっそのこと、事情を説明しにくいが叔母さんに電話を掛けて迎えに来て貰うしかなさそうだな。そう思って、携帯を見てみると田舎の山奥だからか、残念ながら圏外であった。

少し歩けば、少し開けた場所になっていたはずなので、携帯がつながるところもあるだろうと、俺たちは道沿いに歩き始めた。


♪カントリー・ロード この道 ずっとゆけば
 あの街に 続いてる 気がする カントリー・ロード♪


ハルヒがご機嫌で歌いながら田舎へとつづく道を歩いている。

今日のハルヒはやたらと不安定な感じだ。挙動不審だったり、ご機嫌だったり、突然怒ったり、またご機嫌になったり、いったい何なんだ。
俺は、何故か持たされているハルヒの荷物と俺の荷物を抱えながらハルヒの背中を見ながら坂道を上りながらそう思う。
最近重い荷物を持つことが多くなったために、かなり筋力がついたのは有り難いことなんだろうか? 運動部所属でもないのにな。

俺は重い荷物をひとまず置き、携帯をポケットから取りだした。

「携帯は……まだ圏外か。ハルヒの方はどうだ?」
「あたしの携帯もダメね」

ハルヒは携帯を振ったり高く掲げたりとしていたが、すぐに無駄だとあきらめたようだ。
だが、携帯を例のアヒル口をしながら見つめたあと、何かを考えついたように例の満面の笑みを浮かべ俺に近づいてくる。
キュピーンという効果音が鳴りニュータイプばりに、激しい嫌な予感が頭をよぎる。

「ねえキョン!いいこと思いついたんだけど」
「たぶん反対するが、なんだ言ってみろ」
「団長の意見を聞かずに反対するなんて、あんたもいい身分になったものね。
でもまあいいわ。ものは相談なんだけど、叔母さんに電話するのは止めにしない? せっかくこんな楽しそうな状況になってるのよ。これはちょっとした冒険よ!
田舎の道無き道を歩いて旅をしたり、ヒッチハイクとかしてみたかったのよ!ヒッチハイクがダメでも星空を眺めながらの野宿って素敵じゃない?」

ああ、ほんと、お前のそういうプラス思考がうらやましい。
だが、残念ながら俺はそんな冒険はいらない。
正確な距離はわからないが叔母さんの家までおそらく三十キロメートル以上の距離はあるはずだ。
普通に歩いて六時間ほど。確実に死ねる。

「それに、本当ならそろそろ叔母さんの家に着いている頃だ。せめて、連絡しないと心配するとだろうからな」
「じゃあ連絡して、事情があって今日は行けなくなった。明日行くっていうことにすればいいわ」
「いやそう言う問題じゃないだろ。俺は旅でつかれた体を休めたいんだ。今すぐにでもな」

ハルヒは口をとがらせて「ふん、なによ。だらしがないわね」と言いながら再び前を向いて歩き始めた。

あれ? やけに素直だな。俺はてっきり、だだっ子のようにテコでも動かなくなるか、俺を引っ張って山道にでも突入すると思ったんだが。あっさりと、あきらめてくれたのだろうか?

ハルヒは再び歌を歌いながら軽い歩調で俺の前を歩き始めた。



参考引用
"Take Me Home Country Roads"
作詞・作曲 B. Danoff, T. Nivert, J. Denver

参考引用
「カントリーロード」
訳詞 鈴木 麻実子

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