朝、何気なく下駄箱を開けた俺は嫌な物を見つけた。
――封筒。
そういや、去年の今頃だったかな、朝倉に殺されかけたのは。
いやあ、今となってはいい思……。
……なわけねえだろ。
差出人は知らない名前。脇に律儀に書いてあるクラスを見ると一年生らしい。
内容は『放課後に、あなたの教室で』とのこと。
ひどく緊張していたのか、否か。文字は震えており、何度も消した後が見える。
俺は自分の教室に放課後、手紙で呼び出されることにはトラウマがあるんだよ。
行きたくなくなっちゃうじゃないか。
そもそも差出人に心当たりはないし、行こうか行くまいか悩むなあ。
時間指定がないあたり、行かないといつまでも待っててそうだから、
さっさと言って断っちまうのが吉だな。

放課後、部室についてからしばらく過ごしていたが、
さすがに待たせっぱなしというのはまずいので、用意していた言い訳を始める。
「あれ?携帯教室に忘れちまった」
ちなみに嘘ではない。本当に教室において来た。用意周到と言うかなんと言うか。
「あんたどっか抜けてるんじゃない?」
ほっとけ。
「ちょっと、取りにいってくる」
「もどって来なさいよ」
朝倉のお仲間の襲撃がなければもどってくるさ。

そして教室。
扉を開けるとそこには、やっぱり見知らぬ女の子がいた。
「誰だ?」
我ながらほかにも言い方あるだろうに。無愛想だな、俺。
「ええと、お初にお目にかかります」
えらく古式な挨拶だな
「……と言います」
「ああ、それは、どうも」
「先輩のことを一度、二度校舎内で見かけたんですけど……」
この後延々と俺に一目惚れした理由が続くが割愛。
「それで、その、つきあってください」
可愛そうだが答えは決まってんだよな。
……いや、別に俺はあいつのことが気になっているわけではないぞ。
「ごめん。無理だ」
「やっぱり、ですか」
やっぱりって何だ?

「いろんな人から聞いたんですけど、付き合っている人がいるって」
なんでそんな情報が流れてるんだ。
「わかりました。あきらめます」
その方が助かる。
「それでは」
そして去っていく彼女……。
と、俺の前に来た彼女は突然背伸びをして……。
キスしやがった。
「おいおい」
「夢ぐらい見させてください」
そう俺にしか聞こえないくらいの小声で言いながら、今度こそ去って行く彼女。
何だ『夢ぐらい見させてください』って。
そんな臭いセリフ今時誰が吐くか!
ふざけんな!
手紙で呼び出すくらいだから、引っ込み思案な子かと思ってたじゃないか!

精神的に疲れた俺は、机においておいた携帯を取って教室を出ようとした。
そのとき俺の目にはものすごくまずい光景が飛び込んで来たいた。

ハルヒがいた。
茫然自失のハルヒがいた。
「――ッ!?」
突然駆け出すハルヒ。
「おい、待て!ハルヒ!」
走った。このまずい状況の誤解を解くために。
このままだと世界が終わるんじゃねえの?
ところが、途中でハルヒを見失っちまった。
「足……速すぎ……だろ」
息も絶え絶えな俺である。情けねえ。
電話なんて誠意のない方法じゃ火に油。
それに直接ハルヒの家に言って説明しようにも俺はあいつの家を知らない。
明日まで持ち越したら持ち越したで酷そうだ。
お手上げだよ。畜生。
本当は頼りたくないんだけどな。

俺は部室にもどった。
「あれ?長門だけか?古泉と、朝比奈さんは?」
「二人は帰った」
古泉はバイトか。そんなことより。
「なあ、長門。今ハルヒがどこにいるか教えてくれないか」
「……」
「頼む。大事なことなんだ」
ためらう長門なんて初めて見た。
「あなたは知らない方がいい。それでも聞きたい?」
「ああ」
この事態の収拾をつけないとな。
「今、彼女は下駄箱にいる」
そんな所に?そういやそこは見なかったな。
「ありがと、長門」
鞄を引っ掴んで俺は駆け出した。

いた!
だけど、その横には……古泉?!
ハルヒの肩を抱いて、何やら慰めているようだ。
ハルヒの方も素直にうなずいている。
古泉はハルヒの肩を支えながら退場していく。
俺は目の前の状況を見ながら、昨日の古泉のセリフが脳内に響く。

『二人の仲を裂くようなことをしたり』
『二人の仲を裂くよ……をしたり』
『二……裂くよ……をしたり』
『二………よ……をし…』
『……………………』

目の前が真っ赤に染まった。
あの女の子もあいつの差し金だろう。
それと同時に目の前が真っ暗になった。
凄まじいほどの虚無感が襲ってくる。
俺の感情メータは大忙しだ。

気がつけば、目の前に二人はいなかった。
外を見るともう夜らしい。
誰か、起こしてくれてもいいだろうに。
重い体を引きづりながら、月もでない夜空の下、俺は歩いていく。



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