※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

日常なんてもんは、普通の人間ならあって当たり前、
むしろ改めて日常とはなんぞやと自問する奴なんて、
その時点で日常から乖離しかけているのかもしれん。
だが俺はまさに今、その日常やらの定義を自問し続けている。
俺の隣にいる女――涼宮ハルヒによって。

そもそもハルヒにとって日常など、まったく必要なく。
むしろそれは唾棄すべき無用の長物。
ワゴンにでも乗せて3点100円でたたき売りしてもいいぐらいに価値のない代物だと考えている節がある。
それどころか、いけ好かない伊達男曰く、ハルヒの奴はは日常に飽き、日常を忌み嫌い、
そして日常を変えようと、世界を変えてしまったのだという。
ま、日常に埋没していた昔の俺なら、そんな与太話、一顧だにしなかっただろうが、今の俺なら少しは信じられる。
むしろ信じないとやっていけないほどに、いろんなことがありすぎた。
俺の高校一年生の学生生活で日常といえる日が何日あっただろうな?
正直両手の指で数えられると思うぞ。むしろ片手でもいけるかもしれん。

だが、かといって日常生活が続けば、非日常を欲するだろうし、
お前の高校一年の生活はつまらなかったのか?と問われれば、
面白かったといわざるをえない。ああ、楽しかったさ。
かと言って非日常が日常と化せば、人は日常を求めるもの。
それもまた正直な話なんだ。それは常に俺たちに非日常を供給し続けていたハルヒにとっても同じだったようで、
そんなハルヒの気まぐれが、また俺を非日常へといざなう事になる。
ま、いつものことと言えばいつものことなんだがな……

世の中が徐々に暖かくなり、桜の花の開花のカウントダウンも開始されようかと言う矢先。
高校一年も終わり、二年生へ進級するのを待つ、ほんのわずかな春休みに入る前の晩。
俺の日常を奪い続けていたハルヒがとんでもない事を言い出しやがった。
春の陽気でアタマのねじが二・三本外れたかと思ったが、そういえば、こいつはいつも外れっぱなしだと考え直し、
改めて一方的に携帯電話のスピーカーからたれ流れているハルヒの声に耳を傾ける。

「で?キョンは明日暇なの?暇なんでしょ??まさかあたしを差し置いて面白いことしようと思ってないでしょうね?」
何で俺が俺の行動の全てをお前に報告せんとならんのだ。
「当たり前でしょ?あたしはSOS団の団長なのよ?団員の行動を把握するのも団長たるあたしの仕事なの。
それよりも、質問に答えなさい。明日時間空いてるの?」
空いてると言えば空いている。むしろハルヒに振り回されなければ常に空いているといっても過言じゃないな。
「幸せなことじゃない。あたしがあんたの退屈を退治してやってんのよ。感謝なさい。」
幸せ……なのか?退屈にもそれ相応の楽しさがあるもんだと思うが。
「幸せよ。で、キョンは明日暇なのね?じゃあ、あたしとデートしなさい」
……は?お前今何つった??

「デートよ、デート!まさかあんた高校生にもなってデートの意味がわかんないわけないわよね?」
そんぐらい知っている。そうじゃなくて、何で俺がお前とデートせにゃならんのだ。
「決まってるじゃない。中学生の時さんざん退屈なデートをしてきたけど、
高校生になって1年もすれば面白いデートができるんじゃないかなって思ったのよ!」
おい、お前こそデートがどういう意味か知らないんじゃないだろうな。
つーかいつも言ってるが主語と目的語をはっきりさせろ。
思いつきで話されても俺はお前の頭の中までわからん。わかりたくも無いが。
「あたしが!あんたと!デートするのよ。なに?こんないい女とデートできるのに、嫌だというの?
普通なら頼まれてもやってあげないわよ、あんただからやってあげるんじゃない!」
今凄いこといわなかったか?俺の顔は鏡を見ないとわかんないが、凄く赤くなっている気がする。
「うるさいわねっ!するのっ?しないのっ?」

正直、ハルヒの奴は黙っていればいい女だ。中学時代はそれこそデートのお誘いが絶えなかったのも理解できる。
少なくとも中学時代にはハルヒの奴もそこそこおとなしく、デートする奴もありきたりなデートを企画・実行できたのだろう。
だが、今の本性を現したハルヒに対してどんなデートをすれというのか?
そりゃ健全な高校生男子が、外見美少女な同級生にデートの誘いを受ければ、据え膳食わぬは男の恥とばかりに、
二つ返事でOKだろう。だが相手はハルヒだぞ?本当にいいのか俺?
「北口駅前のいつもの喫茶店に9時!遅刻したら罰金、こなかったら死刑だからねっ!いい?わかった!?」
おい、俺はまだ返事をしていない――、一方的にまくし立てて、一方的に切れやがった。
一瞬いかないでおこうかとも思ったが……やっぱり俺も男なんだ。
いってやろうじゃないか?ああ、やってやるともコンチクショウ。
でも本当にどこへ行けばいいのか?

デートの知識も技術もない俺が、しょうがなくタウン誌のお世話になりにコンビニまでいこうと重い腰を上げたが、
その矢先に俺の携帯が再びけたたましく鳴りはじめる。
ハルヒか?一瞬そう思ったが、画面に表示されていたのは――少なくとも俺よりデート慣れしていそうなハンサム野郎だった。
「夜分申し訳ありません。なにぶん非常事態ですので」
お前の非常事態はハルヒのいいこと思いついたっ!なみに聞き飽きた。
「そんなに邪険になさらないでください。今回のは正真正銘の非常事態ですので」
なんだ?ついに異世界人とコンタクトでもしたか?
「ふふ、そうだといいのですけどね。むしろ逆です。私たちの力が無くなってしまいました」
……?それは大変なことなのか?別に良いことだとおもうが??
「それだけではありません、朝比奈さんは未来との連絡をたたれ。長門さんも同じ状況。
2人とも完全に孤立してしまいました。もちろんいろんな力も無くして」
……つまり、二人とも普通の人になったということか?普通の女子高生に?

「ご明察、今の彼女達は未来人でもなく、宇宙人でもなく、正真正銘のただの人です。たぶん」
歯切れが悪いな。
「しょうがありません、僕も力を無くしているので、なんとなく感じる違和感といいますか、
わかるって感じがなくなってしまったのですよ。むろん騙そうとすれば、今の僕は簡単に騙されてしまうでしょうが」
でも、彼女達はそんなことしないでしょう?と同意を求められてきたが、
俺の意識は別のところに飛んでいた。
どういうことだ?古泉も長門も朝比奈さんもただの人になっただと?
そりゃ以前ただの人になったみんなと奇妙なドタバタを繰り広げたことはあるが、
まさか再び、同じことが起こるとは。
「今回は意識は残っています。超能力者という自覚はね。朝比奈さんも長門さんも今回は自分たちのことを
未来人、宇宙人と自覚してのことです。ただ力やこの世に普通には存在しないもの、それだけがきれいに無くなっているのです」
それじゃ、長門や朝比奈さんは消えてしまうんじゃないのか?

「本来ならそうでしょうね。だが、この事件を起こした犯人。その人は私たちを異能者と見抜いていたでしょうか?」
……ハルヒか。
「おそらくこの事件を起こしたのは九分九厘、涼宮ハルヒその人でしょう。しかし涼宮さんは私たちのことをただの高校生、
SOS団団員としか認識していません。それゆえに彼女たちはこの世から消えるのを免れたのでしょうね」
事情はわかったが、何でハルヒはそんなことを?
「涼宮さんの心は複雑怪奇で僕もよくはわかりませんが、おそらくまたいつもの思いつきではありませんか?
たまには普通の生活がしてみたくなったのでしょう。思いつきで世界を変えられるのも、振り回されるわたしたちは
たまったものではありませんが」
まったく同感だが、あいつが普通の生活を望むだと?はっきりいって信じられないのだが。
「その兆候はありましたよ。閉鎖空間発生の減少はそのいい例でしょう。彼女は非日常で退屈を紛らわせなくても、
十分楽しい生活を手に入れつつあるのではないですか?いい傾向です」
そうだな。それで問題はないじゃないのか?

「あなたは【既得権益】という言葉を知っていますか?」
いきなりだな。あれかテレビでやってる官僚がどーのとか政治家の腐敗がどーのとかいう。
「組織というものはたいていは利益集団なのですよ。同じ利害が一致する人間が集まり、その利益を維持拡大することによって
組織を大きくしていきます。逆に組織が小さくなるということは利益の喪失につながります。
悪徳政治家や官僚が抵抗するのも今では少しは理解できます」
それが今の状況と何の関係がある?どうもお前の悪いくせだ。
「つまり、今僕たちの機関は存亡の危機にあるんですよ。力は無くし、宇宙人も未来人もいなくなった今、
私たち機関の存在価値はほぼ無に等しいのです。即席で作られたとはいえ今までかなりの規模になっていたのですよ?
今上層部はある意味以前の世界消滅の危機に晒された時以上に恐慌状態ですよ」

ハルヒの観察という仕事はあるだろう?
「力もないのにですか?観察しようにもその手段がなければ、ただの女子高生の観察にしかなりません。
そんなものに莫大な予算が使えますか?」
……
「既得権益が無くなりそうな今、理性ある人などは夢から覚めるでしょう。だが、その甘い果実を手放したくない人は…?」
なにをするかわからない……
「そうですね。幸い涼宮さんの家には森女史と新川氏がついています。まず問題ないでしょう。
だが残りの二人。朝比奈さんと長門さんも守らなくてはなりません。
朝比奈さんは鶴屋家に保護していただきました、そしてあなたに相談なのですが…」

ピンポーン
そこでいきなりインターホンが鳴る。誰だ、こんな夜に、こんな忙しい時に。
「キョンくーん、おともだちー」
妹がシャミと一緒に階段を駆け上がってきた。いや、足音が多いぞ?
「や、夜分遅くに申し訳ありません」
お前なぁ!
「ご無礼は承知の上です。だが、正直あなたも保護対象であるのですよ?これが一番合理的だと判断したのです」
そしてそんなことのシャアシャアといいやがる古泉の後ろには……
「……」
長門……
「ごめんなさい」
いや、お前は悪くないぞ、長門。

「ずいぶん扱いが違いますね?」
当たり前だ。お前はとっとと帰れ。
「一つ屋根の下にうら若き男女が一夜を明かすのですか?涼宮さんに知れたら、
力が復活して直行で仕事になるかもしれませんね」
この野郎。たたき出すぞ?
「冗談ですよ。そういわれなくても出て行きます。もちろん帰りはしませんが。春とはいえまだまだ夜風は冷たいですよ?」
監視役ってわけか。
「兼保護者でもあります。機関内で内紛は今のところ起こっていませんからね。機関の人間がいれば、
そうそう手は出せないでしょう……それより、もう少しお話させて貰ってもよろしいですか?」
嫌だといっても勝手にするんだろ?性格的にはハルヒに似てるぞ、お前。

「そうですか?ふふ。まぁ、夜遅いですし手短にいきましょう。今のところ機関は小康状態を保っています。
ただいつ強硬派が暴走するか、そして対立組織が暴走するかはわかりません。
最悪手を結ぶことも考えられます。そして彼らがまずするであろうことは……
力の源――涼宮ハルヒを確保する事。これが第一目標でしょう。
そして余裕があれば、未来人・宇宙人も確保する。力が残ってたり隠れてたりしてるかもしれませんからね。
気をつけてください、キョン君。デートで心浮かれている場合ではありませんよ?」
……てめぇ、なぜそれをっ!!
「禁則事項です。そうそう、あした僕と朝比奈さんによく似たカップルが近くにいるかもしれませんが、
別人ですので気になさらずに」
おい、ふざけるな。
「長門さんをよろしく頼みますよ。それでは」

おい、ちょっと待て古泉…!……って、あのー、長門さん?
「まもって」
いや、守りますよ。
「いつでも」
ですが…
「どこでも」
もしかして長門さんは明日ついてこられるのでしょうか?
「……」
長門はいつもよりも10倍近く大きな振りでこくんとうなずく。
マジですか。
こりゃ明日血の雨をみるのか、俺の人生もここまでか。
時世の句と遺書を用意しなくては。
「大丈夫、ダブルデート」
え……長門のお相手は?
「あなた」
それはダブルデートとはいわな
「ダブルデート」
どうして俺の周りにはこう我の強い奴が集まっているんだぁああ!!

その夜風呂もトイレも一緒に入ろうとする長門を扉一枚で押しとめつつ、
いつも以上に疲弊しながら眠りについた。
その横には長門がいるんだがな。
くそ、眠れやしねぇ……しかも長門はジッーとこちらを見つめてる。
長門眠れないのか?
「怖いの」
……一瞬耳を疑った。あの長門が怖がっているだと?
「今の私には思念体とのつながりはない、力もない。襲われたら戦えないし、
傷ついても直せない。致命傷を受けたら簡単に活動は停止する」
そりゃ普通の人間になったというならばな。
「あなたとも会えなくなる。それが怖い」
……?そう言うと長門はぎゅっと腕にしがみついてきた。
暖かく柔らかい感触が俺の腕を伝わってくる。
「まもって」
よりいっそう力が込められる。
「おねがい」
……ここまでいわれて守れないなら男が廃る。
まぁ長門にはさんざん守ってもらったし、その恩返しをする時なんだな、今が。
わかったよ、長門。そう言って長門の短い髪の毛をクシャクシャっとなぜてやる。
長門はまるで猫が頭をなぜられているかのように、気持ちよく、ゆっくりと目を閉じていった。
それにつられて、俺も眠りに落ちてゆく――



布団の中に入ってもなかなか寝付けない。
一方的にデートの約束したけど、キョン本当に来るのかな?
来なかったらどうしよう……
こ、来なかったら死刑よ。あいつの家に押しかけて引っ張り出してでも連れ出すんだから!

あいつどこ連れてってくれるのかな?
あいつなにしてくれるのかな?
あいつどんな言葉をかけてくれるんだろ?
なに、期待してるんだろ、あたし。中学の時なんてデートの前でもすぐ眠れたのに。

最近キョンと一緒にいるだけで楽しい。
もう、宇宙人なんていなくてもいい。
未来人なんてキョンと遊ぶ理由でしかない。
超能力者なんてくだらない。
あたしにはSOS団があるんだもの。
あたしはキョンと遊べるんだもの……
……



春休み初日。
俺は妹の「キョン君が女の人と一緒のベットで寝てるー!!」という声で起こされた。
なにを言う、そんなありえない話……ではないな。
俺の隣には長門。
周りの騒音にもびくともせず、ぐっすりとおやすみ中だ。
そういえば昨晩――古泉の闖入により、成り行きで起こったこの状況。
あいつ、俺の家の近くでほくそえんでるんじゃないだろうな?
意味も無く周りを見渡したが、ふと長門の寝顔に視線が落ちる。
しかし……長門の寝顔などはじめて見るんじゃないか?
そうぼんやりと考えていたが、冷静に考えてみるとけっこうまずいんじゃ?
うら若き男女が一夜を過ごす――古泉の言葉がリフレインする。
俺の腕はがっちりと長門にロックされており、
第三者が客観的に見たらこれは……なんというか…ぬぅ…
「おはよう」
うぉ、いつのまに。
「……いま、起床したばかり」
さすが長門、寝起きでもなんともないぜ。
「あふ……」
前言撤回。
かわいらしいあくびを見て、何か、長門が普通の人間らしいように見えた。
いや、実際普通の人間になったんだよな……
「あんまり見ないで」
知らないうちに長門の顔を凝視しすぎたみたいだ。
ほんのり長門の顔が赤く染まっているように見えたのは、朝の光の錯覚だろうか。
そんな思いを頭を振りかぶることで払い落とした。
さ、早く起きるぞ。今日はまた忙しくなるだろうからな。

朝ごはん――いつもは俺と両親と愚妹と猫一匹による食卓だが、
今日は一人それに加わる。
母さんは「朝ごはんくらい人一人増えたってどうってことないわよ」と笑っていたが、
親父も妹も何か含みを持たせた視線で俺たちを見てくる。
気のせいかシャミの野郎までこっちを見てないか?こっち見んな。
違うぞ。神に誓ってやましい事など無い――ぞ?
そう必死に自己弁護を心の中で叫んだが、衆寡敵せず。圧力に追い出されるように朝飯をかきこみ、
俺たちは弾かれるように家を出た。
時は8時30分、目指すは神急北口駅前――

俺たち二人は自転車に乗り込み、超特急で駅に向かった。
何しろハルヒの奴は待たされることを何より嫌う奴だ。
ましてや、今回せっかくのデートにお荷物――ハルヒにとっては――を持って現れるのだから、
下手に怒りを溜めさすのはよくない。
そう思ったわけなのだが……向こうから歩いてくる人影には何か見覚えがあるぞ?
「遅い!罰金!!」
なぜだ。ここは北口駅でもなければ、時間も9時までかなりあるぞ?
「なによ?」
お前家俺んちの近くだったか?それとも通り道だったか……?
「あんまりにも遅いから、まだ寝てると思って、叩き起こしに来たのよ!」
ちょっと待て、お前何時に駅にいったんだ?
「何時だっていいでしょ?あたしが待ったのには変わりないんだから。
あたしは待たされるのが大嫌いなのっ!」
それは知ってるぞ。

「だったら!って有希?何でキョンと一緒に?」
自転車の後ろに乗ってる長門は俺の腰に捕まっている手にわずかに力を入れながらいつものように簡潔につぶやく。
「ダブルデート」
「だぶるでぇとぉ??ちょっとキョン、有希に彼氏なんていたの?初耳よ?」
あー、それはだな、話すとややこしいのだが。
「彼」
ちょっと長門さん?そんな誤解を招くことを。
あー、涼宮さん?これにはいろいろと訳がありまして。
「き、き、き、キョン?あんたいつの間に有希を騙したのよ」
騙して無いちゅうの
「じゃあもっと最悪よ!なんなのよ!期待したあたしがバカみたいじゃない!」
そうじゃない!ハルヒ。デートするのはお前とだ!
「え……」「……」
ああ、泥沼。何言っているんだ俺は。
「ま、まあ当たり前よね。あたしが昨日ちゃんと約束したんだから。
信義的にも法的にもあたしとデートして当然よね。」
一応だな。長門が家庭の事情で家に戻れなくてな。
そこら辺を歩いていたところでたまたま出会って。
それでだな、どうせ暇潰すのならついでについてくるか?と言ったわけなんだよ。
なに俺は言い訳しているんだ?

「ふーん……?まぁそういう事情なら仕方が無いけど、あんまりいい心がけじゃないわね。減点1!」
何の採点だ?
「あんたのデートとの満足度に決まっているじゃない。減点10で退場よ」
できるなら今のうちに退場させてもらいたいのだが。
「……やっぱり有希の方が」
何かハルヒの奴がつぶやいたみたいだが、俺はそれよりもハルヒのふと見せた翳りのある、らしく無い顔に戸惑う。
おいおい、お前がそんな顔するって何かおかしいぞ。
「ばか。もう、早く行くわよ!キョンその自転車貸しなさい」
おい、俺は走れというのか?
「貸してくれたらさっきの減点チャラにしてあげるわよ」
はいはい、それはありがたい事で。

ハルヒの奴に自転車を奪われ、全力疾走で追いかけている俺の携帯に着信が入る。
こんな時にかけてくる奴は、あいつだろうな。
なんだ古泉。
「朝一番で修羅場おつかれさまです。見ててハラハラしましたよ」
冷やかしなら切るぞ。こちらは相槌打つだけで一杯一杯なんだからな。
「はは、すみません。それでは聞いていただくだけでけっこうです。返事はいりません」
なんだ
「組織の一部の連絡がつきません。どうやら事態は悪い方向へ向かっているようですね」
俺にとっては今までも今も最悪だがな
「対立組織の活動もやや活発化しているようです。すでに小競り合いも発生しています。
昨日言いましたとおり、機関の締め付けが機能していない今、暴走は拡大していくでしょう。
とりあえずデートの行き先は東側をおすすめします」
それはどうもご丁寧に、ありがとよ。もともとそのつもりだ。
「そうですか?西側には港町に中華街。さらに足を伸ばせば海もあります、
ちょっと早いですが、夏には海水浴なんかも楽しいでしょうね。
ふふ、けっこういいデートスポットがあるのですけど?」
冗談言ってる余裕があるならわざと敵の本拠地に突っ込むぞ。
「申し訳ありません、でも冗談でも言わないとやってられない状況なのですよ?
実際私たちの力は消えていますが、涼宮さんの力が消えているかどうかはわからないのですからね。
下手に機関の反乱分子があなたたちに危害を加え、涼宮さんまでもが暴走したら……」
何が起こるかわかりません。と古泉はため息混じりにそう告げる。

そういえば思い出す、さっきのドタバタで忘れていたが、長門や朝比奈さんや古泉の奴の力は無くなった。
だが、その力の大本は果たして影響を受けるのか?一瞬神と天邪鬼な男の話が頭をかすめる。
神様神様、あなたが万能の力を持っているのなら、あなたの言うこと聞かない美女をおつくりください……
ハルヒは超常的な力を否定した世界を気まぐれでつくった。では世界をつくるという超常的な力はこの世界で認められるのか?
わからん。
「とにかく、様子見が一番です。あなたたちにはごく普通のデートを楽しんでもらわなくてはなりません。
そのためにはわたしたちは全力をもってあなたたちをお守りします」
よろしく頼むよ。
「言われなくても。でもお気をつけくださいね。ただの人になった僕たちは完璧ということはありえないのですから」
溜息混じりに通話が切れる。あいつも苦労しているな。ふと同情の心がわきかけたが、
その向こうで怒り心頭のハルヒの顔を見るとそんな気持ちは消し飛んだ。
「減点1!」

……本日は神急電鉄をご利用いただきまして、まことにありがとうございます。
特急埋田行きです。停車駅は十五でございます……
ちょうどいいタイミングで滑り込んだ東へ向かう特急に乗り込み、ちょっと一息つく。
あれからハルヒの奴は一言も発しないが。微妙に怒りは薄れているように見える。
なぁハルヒ今日はどこへ行きたいんだ?
「はぁ?普通エスコートするのが男の仕事でしょ。減点1ね」
おい、もしかして目的地着く前に退場なのか俺。
「まぁ、どうしても思いつかないって言うなら2,3箇所行きたいところがあるわ。
でも基本的はあんたが動くのよ」
へいへい。で、一応聞いておくがどこに行きたいんだ?
「まずは埋田の駅前にある観覧車でしょ。あと日ノ本橋でパソコンを見ないとね。
コンピ研からまた最新機種もらわないといけないから。あとはユナイデット・スタジオ・ジャパン!」
それは、また……なんとも『関西の歩き方』にあるものにそっくりなデートコースだな。
「『関西の歩き方』には日ノ本橋は載って無いわよ。あんたこそ対案も無いのに茶々入れない!」
つーか、一日で回れるのか?
「回るのよ!」
そうだった。ハルヒはそういう奴だったな。
ふと、さっきから窮屈そうにしている長門に行きたい所はあるか聞いてみる。
「日ノ本橋……」
どうやら多数決で日ノ本橋には行かないといけないみたいだな。
ま、俺も見たいものがけっこうあるしな。いいか。
そうこうしているうちに俺たちが乗っている電車は埋田のターミナルにすいこまれていった。

埋田――西日本最大の都市の実質的なターミナルとして、
NR、神急、東阪、市営地下鉄などが集中する交通の要衝。
その昔湿地帯だったところを埋め立てたからその名がついたと言われているが、
とりあえず今はそんなことどうでもいい。
今、俺は人生最大の作戦に動員された兵士のようだ。
上陸する前にナチの機銃掃射でオマハの海岸に屍を晒すのか?俺?
「何馬鹿な事言ってるのよ、キリキリ歩く!ただでさえ時間が押しているんだからね!」
神急埋田の駅から程近いファッションビルの7階。それが本日最初の目的地だ。
煙と何とかは高いところがお好きというが、ハルヒもその一人らしい。

「観覧車だけじゃないわよ、ここにはショッピングだって楽しめるんだから」
……といっても周りは何つーか、いわゆるギャル系の人ばっかなんだが?
こいつら本当に俺たちと同じ人間か??
「ふふーん、有希は制服の格好が多いからね。有希に新しい服を選んであげるの」
それはいいことだが……あんまり似合いそうなのが無い気がするが?
「そんなこと無いわよ、ほらこれなんてどう?」
「……」
長門の顔が微妙に困っているな。そりゃそうだ、そんなヒラヒラした服、長門の対極に位置するな。
「んーじゃあこれ?」
「………」
おー、困ってる、困ってる。そんなミニを長門に着せてどうするつもりだお前。つーか確実に見える。なにかが。
「外野は黙ってなさいよ!じゃあこれは??」
デニムかぁ……それも微妙じゃないか??
「あー、もうさっきから。キョン!あんたなら何がいいって言うのよ?」
んー、少なくともここには無いな。長門もお前も無理して背伸びする必要は無い。
もっとローティーン向けの服のほうがいいんじゃないか?

「……」
「あ、あたしが背伸びしているって言うの?」
あー、店員さんが苦笑している……
いいか?ハルヒ。お前は無理しなくても十分他人よりレベルは高いんだから、分相応の格好をしろ。
長門だってそうだ。ウニクロだって十分かわいく着こなせるぞ。うん。
「……そう」
「……」
長門はうつむいて小さく返事をし、
ハルヒはいつものアヒル口でこっちをにらんでいる。
あれ……俺また地雷踏んだか??
「まぁ……あんたがそういうんなら、それでいいわよ」
それだけ言うとハルヒはくるりと踵を返して歩き始める。
おい、どこにいくんだ?ハルヒ。
「エレベーターホール!!ショッピングしないんだったら、わざわざエスカレーターで行くなんてまどろっこしいわ」
そのままどんどん先に行ってしまうハルヒ。
おい、待てって。
「……ありがとう」
ふと長門が俺の袖を掴んでそっと感謝の意を表す。
いいんですよ、いつものことですし。
「違う、褒めてくれた」
??褒めましたか、俺?ハルヒの奴なんてへそ曲げたし……
「涼宮ハルヒも喜んでいる……と思う…多分」
長門にしては歯切れの悪い言葉。でも、いつもより人間らしいな。
「……そう」
またうつむいて小さく返す。何か恥ずかしがっている普通の女の子みたいだ。
どうもいつもと様子が違って調子が狂うな。

「こらぁ!馬鹿キョン!早く来なさい!五秒ごとに減点よ!!」
いきなりハルヒの罵声で我に返る。いかん、ハルヒがキレル五秒前だ。急がねば。
「まったく……油断するとすぐ世界創っちゃって……」
ハルヒが何かぶつぶつ言っているが、ここは軽くスルーして、
日本人なら10人中9人はエレベーターの中でやる階数表示の凝視を行うことにする。
「キョンの馬鹿、キョンの馬鹿……」
何か呪詛の言葉が聞こえてくるのだが?
急げエレベーター、ハルヒが俺を呪い殺す前に。
そう祈り、なんとか呪いの言葉が俺を押しつぶす前にエレベーターが7階に到着する。
このエレベーターがあの会社のものじゃなくて本当によかった。
途中で閉じ込めたら救助される前に死んでたな、俺。
「さぁ!観覧車はどこ?キョン、早く搭乗券を買ってきてよ」
7階に着くとハルヒの奴が豹変してこんなこと言いやがる。
立ち直りの早さもハルヒらしい。
どうやら飲食エリアの奥にあるらしい観覧車に2人を連れて行く。
途中ハルヒの奴がわざとらしく、クレープ食べたい、かき氷食べたいとぬかしたのは華麗にスルーする。
と、ふと思ったが、搭乗券の金、俺が出すのか?
そういった俺にハルヒの奴はきょとんとした顔でいいやがった。
「あんたSOS団のルール忘れたの?一番最後に来た奴は全員におごりよ?」
マジか。

「大体デートで女に出させるってどこのダメ人間よ、常識よ、常識」
いつも常識ハズレの奴が常識を語るか。
「いいじゃない、三人券のボタン早く押す!ポチッとな」
あー……俺の命もそうだが、財布の方が先に逝くかもしれん、さらば友よ。
券をひったくると、さくさくと先に進むハルヒの後をのろのろとついていく俺達。
平日だけあって、並ばずに乗れる。
と言うより暇なのか、記念写真のサービスまでしてくれる係員。
両手に花だと思われているのか、嫌にニヤニヤしている。片方薔薇だが、それでよければお前にやるぞ?
「いってらっしゃいませー」
さわやかに送り出される俺たち。
だが、ゴンドラの中は思っていたより狭くて、三人だとかなり窮屈だ。
これは、ワザとか?2人用か?これ。
「ワクワクワク……」
ハルヒの奴はいきなり窓にへばりついたかと思うと、ずっと外を見ている。
自然俺たちは席に座るのだが……
ギュ
ああ…またまた長門さん、何なさってイルノデスカ?
「デート」
またうつむきながらぎゅっと手を握っている長門。
クソ、反則だ……っじゃなくて、こんなところハルヒに見られたら、
しかもハルヒはすぐそこに!
「大丈夫。多分」
いつもの長門なら安心なのだが、今の長門は大丈夫なのか?つーか多分って!
「見られてもキニシナイ」
何でカタカナ?

「こう高いところから見ていると、怪獣みたいになって全部破壊したいと思わない?」
ハルヒに見られたかとビクッとしたが、ハルヒの奴はずーっと外を見つめ続けている。
しかし、ハルヒの奴、そんなこと考えているからあんなもの呼び出すんだぞ。
ふとハルヒを見つめる。ハルヒは一心不乱に外を見続けている。
「お城が見えるわ!その脇はビジネスパークね、海は…見えないわね、わたし達の街は見えるかしら?」
無邪気に外を観察するハルヒ。
それを見ているとちょっと申し訳なくなって、俺は長門の手を軽く振り解く。
誰に申し訳なくなったのかは、まぁお天道様に対して、とでもしておいてくれ。
「……」
「スマンな、長門」
「みて!キョン。神急電車が出てきたわよ。すっごく小さい!」
うぉ、間一髪。危なかった。
「?どうしたのあんた?」
いやなんでもないぞ、ハルヒ。しかし、最近は変なデザインのビルが増えたなぁ!
「でしょ、でしょ?あのビルなんてどこかのロボット研究所みたいじゃない?」
とハルヒがテレビ局のビルを指差しながら言う。
あー、確かにあのとんがり頭にアンテナは怪しいな。
「あのビルの間を飛行機でくぐる向けてみたいし」
今度は反対側のビルを指差しながら言う。
「うー、もう一回りしようかしら?」
勘弁してください。時間が押してますよ?
「それもそうね。またいつでもこればいいんだし」
いつでも行ってらっしゃいませ。
「あんたも来るのよ!……今度は二人で……」
また最後の方、ごにょごにょというハルヒ。
今日はハルヒも長門もどうもセリフの歯切れが悪いな。
「もう、終わりね!写真何枚もらう?」
いや、人数分しかくれないんじゃないか?
「そうなの?ケチね」

そうこうしているうちに地上につき、あいかわらずニヤニヤしている係員が出迎える。
「出口は反対側になります、写真もそこで。お気をつけてお帰りください」
そう、聞くや否や二人は飛び出していった。
……あれ?長門も??
「みて、キョンあいかわらず馬鹿面ね」
写真をヒラヒラさせながらハルヒの奴がニヤニヤして俺を出迎える。
なんか、周りの空気が生暖かいのだが……
長門は長門で写真をぎゅっと抱きしめているし。
「さて!まずは第一目標は制覇したし、次いくわよ、次!」
日ノ本橋だったか?
「そう、ここから地下鉄で一直線よ」
あれ?乗換えがいるだろ。
「これだから、トーシロは」
つくづくあきれたって顔で見下される。なんだこの敗北感は。
って言うか日ノ本橋のプロって、ヲt…

「いい?日ノ本橋に行くからって日ノ本橋駅に行くのはシロートなの、
那波駅で降りる。その方がいろんなお店にも近いし、アクセスも集中しているしね
距離的にはえべっさん駅の方が近いけど、乗り換え面倒だし……」
「逆に日ノ本橋で降りてもつまらないビジネス街や古臭い商店街を通るだけだからつまんないのよ。
あ、でもちょっと行って右手側にあるメロンパン屋さんはいいわよ。カリカリメロンパンっていうのがあって、中がモフモフとしてて……」
またおごれって言うんじゃ無いだろうな?
「うるさいうるさいうるさい!」
なんだこのネタ。
「とにかく、早く行くわよ。日が暮れちゃう」
まだ昼前なんだが。と言いつつも生き生きとしているハルヒを見てると何かなごむ。
まずいな。調教か洗脳でもされているのかもしれん。
「カリカリモフモフ……」
長門、メロンパンは今度買ってあげるから、行こうぜ。
やれやれ、まだ先は長そうだな。
そう思いながら俺たちは地下鉄に乗り込んだ――

日ノ本橋――東のアキハ、西のモトバシと言われるくらいの日本有数の電気街そしてヲタ街である。
まぁ、なんで俺がそんなこと知っているのかは横に置いといてだ、
まっとうなデート?の場所にはほど遠いこのカオスな街に今、俺たちはやってきている。
ハルヒの奴はパソコンが見たいらしいが、それが自分の金で新しいのに変えたいというわけでなく、
コンピ研からの最新機種強奪の下準備と言うからあまり感心はしないな。
かと言って奴らには同情以上の感情は持ち合わせて無いし、ましてやハルヒの悪巧みを止めようなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
俺が奴らに言えることはご愁傷様に、とだけだ。
「ねぇ、キョン、やっぱり今のパソコンは遅すぎると思わない?あたしいつもネットにつながる時イライラしているのよ」
それはパソコンのせいじゃ無く回線のほうに問題あるんじゃないのか?
「そうなの?でも、もっと新しいパソコンにすれば少しは変わるはずよ。あ、おじさん!いまここにあるパソコンで一番新しくて性能いい奴はどれ?」
ハルヒの奴はたまたま通りかかった店員を捕まえて根掘り葉掘り聞いている。
店員もよせばいいのに、自作パソコンの手引きまで始めやがって。まったく誰がその自作をやるのだと思っているんだろうな?
俺とコンピ研の連中だぞ?
「わたしも自作してみたい」
長門の奴が珍しくやる気だ。って長門さん?店頭のパソコン使って高速でプログラム組まないでください。
いったい何のプログラム作っているんだ?
「ミサイル弾道計算プログラム」
いや、それ北の将軍様に売りつけるのか?
「迎撃用」
それは……日本の防衛も安心だ。

しかし、長門も大半の力を失ったとはいえ、やはり、人並み以上の能力があるのだと実感させてくれる。
俺の目がタッチタイピングのスピードに追いつかないぞ。
「これでも大分遅くなっている、同時進行の作業もできない」
まぁ以前のコンピ研との決戦の時と比べたらな……
と、そこへハルヒの奴が目を輝かせながらやってきた。
「おっまたせ!大体の情報は仕入れてきたわよ!最強のパソコンを作るためのね!」
おい、待て自作確定なのか?
「またコンピ研のみんなと『相談』して決めればいいじゃない。何しろあそこはわたし達の植民地なんだから!」
やれやれコンピ研の中の人も大変だな。同情はしてやろう。
「有希も何か見たいものがあったんじゃないの?」
「いい、満足」
長門は作りかけのプログラムを保存もせずに終了する。
もったいないな、多分防衛庁に売ればそこそこの金になると思うぞ?
おそらく、長門はこの電波と情報と機械があふれる環境に満足したのかもしれん。
まぁ、生まれの本能というやつかもな。

「さてと、次はこっちよ」
完全にハルヒ主導の行動だが、かといって俺はこれと言った対案があるわけではなく、
ハルヒの言うがままにのそのそと付いていく事になる。
だが、コンビニの脇をすり抜け、なにやら薄暗く狭い階段を上る時に、
何か、やばいんじゃないかと本能が告げている。俺はここに来てはいけないんじゃないかという……
「さぁ、次は同人誌よ!」
――本屋?と一瞬思ったが、なにやら一冊が薄い。
しかも描いてある絵が……
「SOS団も会誌を発行したけど、その時漫研の人にこのことを教えてもらってね。
前の会誌をちょこっと工夫すれば、立派な同人誌になるんだって!
そしてコミックバザールとかいうイベントで売れば、あたしたちは大金持ちよ!」
外道め。しかも何かいろんな過程がすっ飛んだ、最強のハルヒ理論だろ、それ。
「もちろん素人がいきなり大ヒットとは思って無いわよ。だから研究しにきたんじゃない」
うおお、何か周りの目が冷たい。女連れで、しかもこんなこと大声で言ってれば当たり前か。
そんな気まずさをハルヒはものともせず、近くにあった同人誌とやらを手に取る。
ってそれはあからさまに男性向けって書いてあるんだが?しかも成人向けとも書いてある。
「うわぁ……」
それ見ろ。ハルヒの奴はあっという間に真っ赤になる。早くしまえって。
……おい、次々と読み漁るな。しかも何でこちらをチラチラと見る?
「……スケベ」
なぜだ。しかも長門も一緒になって読んでるし。まったく顔色が変わらないのはさすがだ。
「……」
一瞬長門と目があった……ちょっと赤くなったか?
「……スケベ」
うぉ?いきなり背後から声が聞こえてきた。ハルヒ、いつの間に後ろに回りこんだんだ?

「やっぱり男はケダモノね、欲望丸出しよ」
また周りの目線が痛いぞ……頼むから空気嫁。
「うーん、やっぱり一般向けのパロディやギャグがいいのかしら?」
「それとも音楽CD……ゲーム?けっこういろいろあるのね」
ハルヒはうんうん唸りながら、店内をうろうろしている。
そのたびに周りの人波がざっと分かれるのは何でだろうね?
モーゼの子孫か?ハルヒは。
「ちょっとキョン、あんたもつくるんだから一緒に考えなさい」
なぜかハルヒの頭の中では同人誌作成が決定しているらしい。
「流行りモノを追いかければいいのかしら?今一番多いのは…『若本セルヒの憂鬱』?何かこればっかね
そんなに面白いのかしら?」
流行りモノはタイミング逃すと悲惨だぞ。
「うーんそれもそうね。じゃあ定番アニメの『ドラミさん』本とか?」
ギャグ本のところにちょっとあるが……欲しいか?それ。
「あんまり……」
難しく考えなくても自分の好きなものを好きのままに書けばいい気がするけどな。
「じゃあ、あんたに任せる」
何でだ
「……キョン×古泉」
長門?今までどこにいってた?
「それともキョン×長門18禁?」
な、長門さん?
「キョンのスケベ」
ハルヒ??なぜそんなに不機嫌なんだ。まったく身に覚えの無い批難に困惑していると
ハルヒの奴は今までの興味が全部無くなったみたいにプィっと出口に向かって歩き出すと、こう賜った。
「お腹すいたわ。ご飯食べるところ見つけなさいよ。今日あんた、まったくエスコートしていないわよ。減点3!」
お前、そんな、みんなが忘れているであろう設定を出されても。
「10点たまったら退場よ!」

やれやれ、いつもの事ながらハルヒの罵声を受け止めて、なおかつ命令を実行しようとする俺がいる。
我ながら人間の出来た男だな。まぁ、腹も減っているならそこら辺のところで。
そういえばドナルドバーガーの看板が近くにあったな。
「あんたは本当に馬鹿ね」
なんだ、こちらは学生の身だぞ?
「だからと言ってファーストフードは無いでしょ?」
じゃぁとなりのコンビニ……
「ばか」
即答ですか。
「いいからちょっと歩けばマシなレストランとかあるでしょ。探しなさい」
ファミレスとかでもいいか?
「却下」
やれやれ、そういいながらも真面目に探す俺は(ry
というより正直俺も腹がかなり減ってきたからな。自分のためにも真面目に探そう。

そう思いながらふらふら当ても無く歩いていると、おいしそうなサンプルが並んでいる、
洋食レストランみたいなところを見つけた。うーん……ちょっと高いが、背に腹は変えられんか。
雰囲気もおしゃれそうだし、ここにするか?
「ふーん……悪く無いわね。ここにしましょう」
ハルヒの鶴の一声により、そのレストランに入ったんだが……
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
……ってなんだぁ?
「うわぁ……」
ハルヒの奴も目をまんまるに見開いている。
なぜかって?ウェイトレスの格好が、いつも朝比奈さんが着こなしている服装。
簡単にいえばメイドの格好をしていたからだ。
「これがメイド喫茶って奴ね。はじめてみた……」
といいつつ、キラキラとした目で周りを、特にメイドさんたち見るハルヒ。
このキラキラはいつも嫌な予感がするが。
「ねぇキョン、みくるちゃんをここで働かせばいいお金になるんじゃない?」
朝比奈さんが働くことに異存はないが、なぜお前の懐に入ることになっているんだ?
「あたしの懐じゃないわよ、SOS団の活動資金よ」
一緒じゃないのか?

「あのー、旦那様、お嬢様、御席へどうぞ……」
いかん。馬鹿話している間、入り口をふさいでいた。
申し訳なさそうに、メイドさんがこちらを見ている。
……朝比奈さんにちょっと似ているかも?
「ばかキョン!早く座りなさい!」
またハルヒの罵声が飛んでくる。はいはい……
「ハイは1回!まったく基本的な心構えが出来て無いわね」
ハルヒはぶつぶつといいながらもメニューをじっくり検討中だ。
「あたしはコロコロステーキセットでいいわ、有希は?」
「大人のお子様ランチドリアセットにアイスティ、食前で。」
両方とも1000円超えているんだが…
「なによ?」
オレノオゴリ?
「モチロン!」
くそう、仕方がなしに500円以下のメニューを探して注文する。
「ポテトセット?あんたアイルランド人?」
うるさいな。誰のせいだ。
「お金を持ってこないあんたのせいよ」
何か空腹感が微妙に薄れた気がする。なぜなんだろうな?

こんな馬鹿話をしつつ楽しいお昼ご飯だ。
憐れみをこめてハルヒの奴が肉片を俺によこしたり、
慈悲の心で長門がドリアをよそってくれたのも楽しい光景の一つだね。
なのにそんな楽しい食事中に無粋な携帯電話が鳴りやがる。
相手は大体想像つくがな。食事が一段落ついたあたりでかけてくるのも奴らしい。
ちょっと電話が。と席を外し、店の外で携帯を取り出す。
なんのようだ?古泉。
「涼宮さんらしいデート、非常に楽しそうですね」
かわろうか?
「とんでもない。楽しいのはあなたとだからだと思いますがね」
……そんな冷やかしをするためにかけてきているのか?
「それこそとんでもない、僕は人の恋路に水をさすほど無粋な男ではありません」
何が恋路だ?と言う突っ込みはこの際いい。用件を言え。端的にな。
「ふふ、わかりました。端的にいいます。たった今機関は機能を停止しました」
……?どういうことだ?
「まわりくどくなりますがよろしいですか?」
くそ、こういうところが古泉の上手いところだ……続けてくれ。

「以前言った最悪の事態が近づきつつあると言うことです。
いま、機関を牛耳っているのは武断派です。出身母体が軍や警察関係者の人たちですね」
お前達は主流派ではなかったのか?
「平時の時はですね、有事の際はやはり力を持っているほうが強くなってしまうのですよ。
もちろん名目上は今でも我々が属する派が主流派です」
ならなぜ暴走を止められない?
「ふふ、暴走などしていませんよ?僕は『機関は機能を停止した』と言ったはずです」
なに?
「つまり武断派の描く絵はこうです。機関を名目上解散状態にし、対抗組織――彼らの母体はいわゆる暴力団や政治団体、カルト宗教ですが――の
暴走を放置し、対抗組織が涼宮ハルヒとその一味を手に入れた瞬間、対抗組織を壊滅させる。いわば鵜飼い漁法ですね。
今まで行ってきた、対抗組織を牽制していた重みを外す。しかも加工した都合のいい情報を相手に流す。
涼宮ハルヒを守る力は無くなったぞ、機関はハルヒに見切りをつけたぞ。とね」
なんだと……
「自分達の手は汚さない。しかし大胆な手段です。今、この状況だから行うんでしょうね。
ある意味、機関は涼宮ハルヒの力も消えたのだと思っている節もあります。
今までの緊張の反動でしょうか。僕にしてみればずいぶん危険な賭けだと思うのですが」
俺の脳裏に以前の朝比奈さん誘拐の光景が浮かぶ。
あんなことをハルヒに……?

「もちろん僕たちとしても無策ではありません、少なくとも勝手にやられる義理はありませんからね、
ただ、現状ではあなたに気をつけてくださいとしか言えないのですよ。
機関は今、目的も存在意義も失い完全に迷走状態にあります。
冷静に考えれば、今回の作戦も涼宮ハルヒを餌にした治安作戦ですしね。
――世界を守る――日本社会を守る。似ていると言えば、言えなくも無いですが」
他人事か!つい声を荒らげてしまう。
「あなたの憤りもよくわかります。何回も言うように、僕たちも手をこまねいているわけではありません。
ただ、相手を刺激しては元も子もありません、武断派にしろ、対抗組織にしろ。わかってください――」
古泉の懇願を聞きながら俺はどうしようも無い理不尽さと怒りに震えていた。
なぜこんなことになる?なぜこんなことに??
「涼宮さんにはくれぐれもご内密に。お気持ちはわかりますが。いまが正念場なんです――」
古泉の奴は何か話し続けているようだったが、
俺は古泉に感情の渦巻きの中に生まれた一つの疑問をぶつけてみる。
「なぁ、古泉」
「……なんです?」
「もし、何かあったとき、お前は俺たちを助けてくれるか?」
「……わかっています」

「……」

「…………」

「……そうか」
「ええ」
「切るぞ」
「お気をつけて」
渦巻いていた感情がスッと落ち着く。逆に消えてしまったように。
俺は静かにレストランへ戻る。

そこにいたのは長門一人。
「涼宮ハルヒはトイレに行っている」
そうか……
「……いま、わたしはあなたを守ることは難しい」
……
「わたしはあなたを守りたい。でも今のわたしには力が無い」
……長門
「なに?」
なぜお前は今まで俺を守ってくれたんだ?



「わたしはあなたが好き」



……なに?

「わたしがただの人形だった時はエラーとして処理をしていた。
でも今人間になって、わかった。
わたしはあなたが好き。愛している。わたしはあなたのものになりたい。
だからあなたを守りたい、失いたくない」
……長門

「あなたの気持ちは理解しているつもり。あなたを独占しようとは思っていない。
ただ、あなたの心のわずかな場所でわたしを愛してくれるならそれでいい」
ちょっと待ってくれ!長門。
「なに?」
もしかしてとは思うが、それは告白なのか?
「そう」
何で今……急に……
「わたしが明日生きているか、判らないから」
……
「力を失っているから詳しいことは判らない。でも予想は出来る。そして何よりもあなたの顔を見れば……
今わたし達には危険が迫っている可能性が高い」
……その、とおりだ。
「なら私の気持ちを知って欲しい。このまま気持ちをあなたに言わずに死ぬのは嫌」
スマン、長門、今の俺にはその気持ちを受け入れる余裕は……
「今は知ってくれるだけでいい。二人とも無事に生きて、そして将来考える余裕が出来たら……その時まで待ち続ける」
でも、長門……
「大丈夫、待つのには慣れている」

……なが
「ちょっと、キョン!何勝手に抜け出しているのよ!」
とぉ……
「デート中に女の子を待たせるのはマナー違反よ!減点!」
長門にちょっとつめの垢を分けてもらえ。
「はぁ?」
いや、なんでもない。
「まぁ、いいわ。お腹もいっぱいになったことだし、いよいよ今日のメインイベントに行くわよ。ほら、さっさと動く!」
まったく、何で俺はこいつを守らないといけないんだろうな?

――わたしはあなたが好き

……っ、んな馬鹿な。俺はあいつのことを――ハルヒのことをどう思っているんだ??
答えが出ぬまま――俺は外に出た。

「古泉殿、Hは那波より地下鉄線にて野多方面に移動、おそらく珠川―環状野多乗換えでNR夢が咲く線に入るものと」
「あいかわらず、裏道好きですね、彼女は。ご苦労です新川。引き続き追跡をお願いします」
「御意」
「森、そちらの状況は?」
「監視対象がうじゃうじゃいますね。極めて危険であると思われます」
「了解、あなたも気をつけてください」
「はっ」

「どうにょろ?」
「舞台に役者はそろいつつあります。最後まで残るは道化か、女王か……」
「騎士は生き残って欲しいねっ、そうでなきゃ幕を開く意味が無い」
「さて、黒子はそろそろ準備をいたしましょう」
「さぁ!輝かしい舞台の幕が開くさっ!」

ユナイデット・スタジオ・ジャパン――通称USJ
西日本では最大の遊園地だが、いまいち東のねずみ野郎の所に比べでパッとしない。
でもほかに遊園地と言うと「ひらぱ~」となるところが
この地方の困ったところだ。
まぁ素直にここにでもいっとけと言うことか。

本来遊園地へ行くんだから明るくウキウキというところだが、
USJに向かう俺たちの間には奇妙な沈黙が続いた。
何しろ一番うるさいハルヒの奴が何か考え込むように沈黙を保っているのだから、
俺たち二人でこの空気を変えられるわけが無い。
かと言って饒舌な長門と言うのも想像できないが――
いや、想像できないわけではないな。

――わたしはあなたが好き――

そう俺に告白した長門は、確かに饒舌だった。今までで一番。
俺は長門に好かれている。じゃあ俺は長門が好きか……?
わからない。誰が好きだとか、一緒になりたいとか……
そんなこと今の俺には答えが出せるわけが無い。

――愛しているからこそ、あなたを守りたい――

長門はそのくらい俺のことを愛しているのに、俺は……?
ふと電車の車内で長門の横顔をちらりと見やる。
長門はいつもとかわりが無いように感じたが。

「ねぇ、キョン。楽しい?」
いきなりハルヒの奴が俺に聞いてくる。
なんだ、いきなり。楽しんでるぞ、俺は。
「ううん、そうじゃないの。あたしがいて楽しい?」
そう俺に問いかけるハルヒは翳りのある、思いつめた表情を俺に見せる。
なんだ、こりゃ。まったくの別人だ。
そりゃさんざん振り回されているが、今日のデートはお前がいてこそだぞ。
「……っ!ばか……いつもそうやって気を持たせるんだから……」
ハルヒのエスコートがなきゃ何も出来なかったな、うん。
「……そ、そうよ。あんたたちはあたしがいなけりゃ何もできないんだから……!」
そう強気の顔になったかと思うと、その次は真逆の表情になる、
見てて楽しいな。本当に感情の上下が激しい奴だ。
「何もできないんだから。キョンも、有希も……何も……」
また再び訪れる沈黙。どうも今回のデートは不思議だな。
まぁハルヒの奴がデートすると言い出す時点でおかしいが。
饒舌な長門に、寡黙なハルヒか……一体なんなんだろうね?
そう思っていると車内放送が目的地への到着を告げる。
まぁ、とりあえず今は全てを未来の俺に投げうって、今を楽しもう。
悩んでもしょうがないしな。うん。

駅を降りるとそこはハリウッド……のパチもんが広がっている。
ヤンキー大好物のコーラやアイスクリームやハンバーガーの看板があちらこちらに林立しているが、
その間に申し訳なさそうにあるたこ焼きミュージアムの看板がここが難波であることを思い出させてくれる。
つーかよく見るとお笑い会社の直営店だの、食い倒れだの場違いなテナントがぶち壊しだ。
まぁそんなこと気にする俺が少数派なんだろうが。
ハルヒの奴はというとあれから一言も話さず、
電車を降りてからも、沈黙したまま、ずんずんと先に行ってしまっている。
おいハルヒ、小学生じゃないんだから迷子になるなよ?まったく困った奴だ。

「困った奴なのはあなたのほうですよ?」
うぉ、なんだ急に古泉……と鶴屋さん?
「やぁ!キョン君。ハルにゃんとデートだと言うからおねぃさんワクワクしてきたのに、なんだい?この有り様はっ!」
「以前でしたら完全に閉鎖空間が出てますね。それも超特大の」
なんだ、いきなり外野が、ごちゃごちゃと
「あなたならもう少しは上手くやってくれると思いましたが……正直ここまで不器用とは」
「外から見ているともどかしくてしょうがないにょろ!言わざるの鶴にゃんでも口が出ちゃうさっ!」
うむ、だってしょうがないじゃないか……
俺は言い訳がましくちらりと長門の方を見てしまった。
長門はと言うと申し訳なさそうに、しかも捨てられた子犬のような目で俺を見ながら
ちょこんと俺のシャツを掴んでいる。

古泉の奴は盛大な溜息をつきながら、しかしはっきりとした口調で俺に告げる。
「確かに予想外の出来事続きでしたが、そうは言ってられないのです。
事態は風雲急を告げるって奴で。今僕達があなたに言うことはひとつだけです。
『どんな時でも涼宮さんを離さないようにしてください』ただそれだけです」
おい、なんだそれは?いくらなんでも――
「早く涼宮さんのところへ。こんなところで油を売っている暇は無いはずです」
お前が呼び止めていてそんな――
「早く!」
いつもらしからぬ古泉の剣幕に弾かれるように俺はハルヒのところへ向かう。
くそっ、なんだここは?パラレルワールドか?
みんなが、みんな「らしくない」。

だが――
「どんな時でも涼宮さんを離さないようにしてください」
か――

だがそうすると長門はどうなる?
涼宮をとるか、長門をとるか、そんなの俺が選べられるはずがない。
俺は、俺は一体どうすればいいんだ?
くそっ、俺もおかしくなっているのか?答は出ない。
ただ、今は早くハルヒのところに行ったほうがいいのだという、思いはある。
とにかく今は現状維持だ。今日出来ないことは明日に回そう。
今までもそれで何とかなってきたじゃないか……

「さてと、今まさに騎士が女王の元に駆けつけ、その困難を救わん。
ありがちな脚本ですが、定番ではあります」
「だけど大丈夫さね?今までも大分シナリオが狂っているにょろ?」
「そのために釘はさしておきましたが……さて」
「そのためにも黒子は気をつけないとねっ、総員警戒配置ッ!」

ハルヒの奴は入り口前の地球儀の形をした噴水の前にいた。
どこか心ここにあらずというような、いつもらしからぬ雰囲気で、
ぼーっと地球儀を見上げている。
俺たちが近づいても視線一つ動かさない。
一分ほどそのままの形で沈黙が支配する。
だが、その沈黙をハルヒの独り言が破る。
「あたしはこの地球を支配する、そう思ったこともあったわ」
それはそれは壮大な夢だな。
「SOS団の活動が上手くいって、毎日が楽しくて、このまま行けば本当に地球があたしの物に、
ううん、なんだって出来る、神様にだってなれる。そうも思ったわ」
「でも、それはあたしの勘違い。やっぱりあたしはただの普通の人間なの」
…………

「あたし本当に馬鹿よね、一人の人間の心も自由に出来ないのに」
おい、ハルヒ、おまえ。
「……帰る。無理に連れまわして悪かったわ」
そう言うとハルヒは急に駆け出した。
「ついてこないで!あんたは有希と楽しく遊んでこればいいじゃない!」
馬鹿野郎、泣いてる女の子をほっとくわけにはいかないだろう!
「聞こえない!あっちいけ!」

待てってハルヒ!そう言ってハルヒの手を掴もうとしたその時。
俺たちの目の前に見覚えのあるワゴン車が急ブレーキをかける。
そして次の瞬間――俺の脳裏にデジャヴュが、これはあの時と一緒だ、朝比奈さんの時と――
「何よ、あんた達!あたしは今凄く機嫌が悪いの!離しなさい!」
だが、ハルヒが暴れるため、誘拐犯もなかなか前のようにはいかない、
なら付け入る隙もある!
そう、ハルヒの腕を掴みワゴンから引っ張り出す!
「キョン!」
「なめるな、小僧ぉおおおおお!」
逆上した男がわめきながら何かを取り出している、
だが知ったことか!今はハルヒを助けることが最優先――

パァン

爆竹の破裂音のような乾いた音が鼓膜を叩く。
なんだ??
俺の懐に二人の女の子が飛び込んでくる。
一人はワゴンから引っ張り出したハルヒ。
もう一人は――長門?

「あのままいくとあなたが撃たれていた。あなたを守るためにはこれが一番早い」
そういう長門の胸のあたりに赤いしみがジワジワと広がっていく。
「やはりあたしはただの人形、人を好きになってはいけない存在。
わたしの存在は障害になる」
違うぞ!長門、おまえは人形なんかじゃない!人形がこんな赤い血を流すもんか!
「わたしのことは心の片隅に‥だけ…残してくれれば…それで……満足」
とぎれとぎれ伝えようとする長門の口には赤い泡がコポコポと浮かぶ、
いいから、長門、いつものおまえらしく静かにして救急車を待て!
「キョン、でも聞いて…わたしは…それでも…キョン…が……大…す











「キョン!有希!」
ハルヒの叫び声で我に返る。
ハルヒが再び誘拐犯の手に落ちようとしている。
長門を失い。ハルヒまで失う?
そんなことが許されていいのか?
否――
「そんなこと誰が許すかぁあああ!」
自分でも不思議なくらい、前に飛び出る。
撃たれて死ぬかもしれない。
でもそんなことはどうでもよかった。
――そうか、こういう気持ちだったのか。
ふっと頭の中で長門が微笑んだ気がした――


キュパン!キュパン!キュパン!

「いやあああああああああああああああああああ」

俺の目の前が赤くはじけた気がして、
そのまま何かに吸い込まれていった――


暗い――
一体ここはどこだ?
いや、暗いどころか……何も聞こえない。
なんだここは……
そういえば――
俺はなぜここにいる?
俺はハルヒにデートに誘われ、
あちらこちらに連れまわされて、
いきなりハルヒが誘拐されそうになり、
そして――撃たれた。
と言うことはこれは死後の世界か?
俺は、死んだと言うのか……?
長門を救うことも出来ず、ハルヒも救えず。
ただの犬死かよ……
くそ、忌々しい。しょせん俺はただの人間か。
ヒーローの真似事をしようとした俺が馬鹿だったのか。
くそっ!俺は大馬鹿者だっ!!

キョン……

??何だ?
一人勝手に憤慨している俺の耳にかすかな声が聞こえてきた。
それどころかほのかな光が見える。
これはついに神の御使いのお迎えでも来たのか?

キョン

! 
今度ははっきり聞こえてきたぞ。
この声は……ハルヒか??

「キョン!しっかりして!!」
そんなに大きな声を出さなくてもしっかりと聞こえているぞ。
なんだ、ハルヒ、目尻に涙なんて溜めて、似合わないぞ。
「あ……こ、この馬鹿キョン!気付いているんだったらさっさと起きなさいよ!」

ハルヒの奴は照れ隠しなのか、抱えていた体を急に離しやがった。
そのせいで背中をしたたか打ちつけたが、そのショックおかげで周りの状況がはっきり見えてきたんだが。

――閉鎖空間??
「前見た夢と同じ……変な奴らに連れてかれそうになって、助けようとした有希やキョンが撃たれて……
気付いたらここにあんたと一緒に転がっていたの。一体これはどういうことなの??」
わからん。古泉の奴は自分達の力は無くなったと言っていたが……ハルヒだけは力が生きていたってことなんだろうか…?
「それとも、あたしも気を失って夢を見ているだけなのかな……」
さすがのハルヒもすっかり気をそがれてしょんぼりとしている。
その間に俺は今の状況を整理してみたが。
①どうやら俺は生きている
②なぜかハルヒの閉鎖空間に再び2人で閉じ込められている
③今のところ救援の気配も、脱出のヒントも見つかっていない
ってところか。
とりあえず当面のピンチはしのいだわけなんだが、これからどうなるんだ?

「ねぇ、キョン、これって夢だよね?」
しばらく続いた沈黙が、ハルヒによって破られる。
わからん――とりあえず一言だけ答えてやった。
ハルヒは何か悶々と自問自答していたみたいだが、
しばらくすると何かを決意したように顔を上げて、
俺の目をまっすぐ、しっかりと見つめてきた。
「どうせ夢の中の出来事なんだから、はっきりと言ってあげる。
一度しか言わないから、しっかりと耳に記憶しなさい。
いい?キョン!あたしはあんたのことが好き」

――な、なんだって? 一瞬ハルヒが何を言っているのかわからなかった。

あたしは、涼宮ハルヒは あんた、俺のことが、

好き。

「あんたがみくるちゃんや有希に色目使っているのも知ってる、そしてみんなもまんざらでもないのも知っている。
有希なんかあんたに惚れている事だって知っている。みくるちゃんはかわいいし。有希は凄い子だって事も知っている。
このままだとキョンがあたしの所から離れてしまうって事だって知ってる!」
ハルヒはそこでいったん言葉を切る。そして改めて俺の目を見据えて、言葉を溜めている。
そしてその直後、一気にそれを解放した。

「でも、やなの!キョンがあたしのところから去るなんて。
キョンは、キョンは私のものなんだから!
あんたは一生あたしのそばにいないとダメなんだから!」

おい、ハルヒ、それはプロポーズか何か――
言いきる前に俺の上唇の辺りにガツンとした衝撃と激痛が走る。
ハルヒの奴……唇を奪うんだったらもう少しうまくやってもらいたいんだが……
「ん……キョン…前歯が痛いじゃない」
ならば今度はもう少し優しくやればいいだろ?
「馬鹿キョン……」
2回目のキスは優しく包み込むようなキス。
「うん……本当にバカ。
あたしのことなんて放っておけばいいのに、勝手にかまって。
断ればいいのに、デートに付き合って。
見捨てればいいのに、命を捨ててまで助けようとして……
だからあきらめきれないじゃない!」
3回目は激しいキス。俺の全てを飲み込むような、ハルヒらしい強引なキス。
っておい、ハルヒ。舌を入れるな。さすがにそれはエロパロに行け。
「なに言ってんの?キョン」
まるでハルヒはタガが外れたように俺にキスの雨を降らせてくる。
今まで溜めていた鬱憤を晴らすかのように。
挑戦的で扇情的なキスの雨。
このままだと俺もプリンの枠を超えそうだっ……

「……」
って長門?
「有希っ!?ち、違うの、これは…!」
あわてて飛び跳ねるように離れる俺とハルヒ。
だが長門はそれに嫉妬するでも、怒るでもでもなく、
今までで一番優しく柔らかな、人間らしい微笑を浮かべながら俺たちを見ている。
「大丈夫、こうなることは必然。むしろ私はそれを妨害してはいけなかった」
長門は微笑の中にも一筋の哀しさをにじませながら、それでも淡々と俺達に語りかける。
「私のエラーは完全には消えていなかった。むしろ思念体とのリンクを切られたせいで、
そのエラーは増大していたのかもしれない。でもそれはエラー。本来あってはいけないもの。
だから私は強制終了をさせなければいけなかった」
だからあんな真似を?
「どちらにしろ、あの場面ではああなっていた。あなたが気にする必要は無い」

いきなりの長門の登場に加え、突然言われただけでは少々理解不能な言葉の羅列に最初はハルヒも戸惑っていたようだが、
徐々に落ち着いてくると、いつもらしい強引さで口を挟んできた。
「うーん……なんかよくわからないけど……ねぇ、有希。有希もキョンのことが好きなんでしょ?」
「それはエラー。わたしは好きになってはいけない」
「いいわよ!たまにはキョンを貸してあげても」
……ハルヒ、お前は人の話を聞くべきだ。いつも言っていることだが。
「なによ?あんたも公認で浮気できるんだからいいじゃない」
いや、そういうことではなくてな……
「SOS団の団員はあたしのもの、そしてあたしの許可があれば、あたしのものはみんなにも使わせてあげるわよ。
あたしはどこかの誰かみたいな一点集中の独裁体制はとらないの」
長門は心底困った顔で俺を見てくる。でも、それはどうやって断ればいいのかってことでは無く、
単純に『いいの?』という許可を求めるような顔だ。
俺はそんな人間らしい顔をするようになった長門を見て、「いいぞ、長門」とだけ言ってやった。
そんな人間らしさがずっと続くことを願って。
「……そう」
いつもの言葉。でもその言葉をつむぐ長門の顔は今までで一番綺麗な顔だった。
「決まりね!有希。じゃあ、一緒にキョンをいたずらしちゃいましょう。もちろん性的な意味で」
んな!ハルヒ。お前ちょっと待て。いくらなんでもそれは。
「大好きよキョン」
「ん……」
俺は突然両脇からキスをされ――
再び意識は何かに吸い込まれていった……

「んガッ!」
後頭部をしたたか打ち付けて、俺は何かから落ちたことに気付いた。
俺が今いるのは?今までの閉鎖空間の中では無く……
「やあ、よかった。気がつかれましたね」
古泉――?
まさかお前もハルヒの奴に貸してもらったわけじゃないだろうな?
俺はエロパロならいいが、アナルスレには行きたくないぞ。
「?まだ意識が混濁していますか?それは困りましたね」
い、いや、大丈夫だ。ここは…病院の中か?
「ええ、以前あなたが入院したこともある。僕のコネありの病院です。
涼宮さんも長門さんもここに入院していますのでご心配なく。
まぁ二人とも入院の必要は無いでしょうが念のためです。」
そ、そうか、それはよかった…って長門も無事…?
「ええ、怪我一つ無く。そもそもあなた達が消えた瞬間、僕達の力が戻ったので。
おそらく彼女もご自分の力を使われたのでは?」
力が……もどった?
「ええ、あなた達を助けに閉鎖空間に入ろうかとも思いましたが、その…お取り込み中のようでしたしね」
……うあ。
「とりあえずおめでとうございます。ですか?」
助けてフロイト先生!

「はは、まぁ冗談はこれくらいにして。
あなた達がいない間に完全に元通りとまではいきませんが、
ほぼ、機関も、そして未来人も宇宙人の勢力も回復したようですね。
実際僕達にとっては一安心って所です」
結局原因は何だったんだ?
「さぁ?前にも言いましたが涼宮さんの気まぐれ…ではないでしょうか?
むしろそれ以外の理由があれば、その方が問題ですが」
そ、そうなのか。
「むしろあえて理由を挙げるとしたら原因はあなたです」
俺が?
「夢の中とはいえ乙女の大切なファーストキスを奪い、いろいろ気を持たせながら、
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
SOS団はおろか、外部の女性まで気を持たせている行動は涼宮さんの不安と怒りを増大させるには十分でしょう。
ただ惚れた弱みでしょうね、あなたに直接何かをしようというわけではなかったのでしょう。
周りの魅力的な女性達の力を押さえ込みたい。特別な力を無くしてしまえばいい。
そう彼女が無意識に思ったのではないですか?正直我々は巻き添えを食らったとしか言いようがありません」
ハルヒは長門や朝比奈さんの正体なんて知らないはずだろう。
「涼宮さんもバカではありません。むしろ聡明な方ですよ。
そのものズバリは知らなくても薄々感づいていたのでしょう。
野球の時しかり、映画の時しかり。彼女が無邪気に奇跡を信じていたと思ってましたか?」
……思っていた。
「まぁ、僕の言っていることも推測の域を出ませんがね。ただそう納得した方がいいでしょう」

あともう一つ。俺はあの時、誘拐犯に撃たれたのか?
「撃たれてませんよ。はじけとんだのは誘拐犯の頭です。
非常事態だったので、かなりリスキーなことをしてしまいましたが……
はじけた誘拐犯のせいでお二人とも視界が真っ赤に染まってしまったのですよ
そこで誤解が生じてしまったのであれば、申し訳ありません。
涼宮さんにはあなたからそれとなくフォローをしておいて下さいね」
狙撃か?
「本当は長門さんが撃たれる前に終わらせればよかったのでしょうが。重ね重ね申し訳ありません」
……まあいい。今こう無事に済んでいるんだしな。
「そう言って頂けると助かります」
で、お前の話はこれだけか?
「ええ…今のところは。あなたもお疲れでしょう。
今夜はゆっくりとお休みください。まぁ落ち着いたら話すこともあるでしょう」
そうか……
「それでは、おやすみなさい」
古泉の奴は優雅に一礼した後、病室から出て行こうとする。
しかし扉を開けた後、ちょっと動きが止まった。
かと思うと、満面の笑みで振り返って俺にこう言いやがった。
「お見舞いのお客様ですよ。しかもお二人も」
と。
面会時間は過ぎているんじゃないのか?

「人一人助けられないで何言っているのよ!このバカ!」
「……そう」
「しかも団長であるこのわたしにいらぬ心配までかけさせて」
「……そう」
「しかもせっかくのデートは台無し!!」
「……そう?」
「…………キョン!明日も退院したらデートに付き合いなさい!これは団長命令よ」
やれやれ。俺の日常はいつになったら帰ってくるんだろうな?
「……二人とももっと素直になった方が良い……」
「キョン!!ちょっと聞いてるの?」

HAPPY END ?




「古泉君、おつかれっさ!みんなの様子はどうだい?」
「ハッピーエンドでめでたし、めでたしですかね。とりあえず無事に終わってよかったです」
「まぁ、終わりよければすべてよしっ!とりあえずミスや後手後手に回ったことは不問にするっさ!」
「……はい」
「それでハルにゃんは普通の不思議な女子高生に戻ったのかなっ?」
「とりあえずは以前の状況に戻っています。少なくとも【神】になろうとはそう簡単には思わないでしょう。
第一そんな思い上がりには厳しい天誅が下ると今回の件で身に染みてわかったはずです」
「ハルにゃんが力を自覚しかけた時はどうなるかと思ったさ。
そもそも神は制御できるから神様なのさっ、制御できなくなれば、ただの邪神。必要ないね!
しっかりみんなをよろしく頼むよっ!これからもみんなと楽しくやっていきたいんだからさ?」
「了解しました」
「それとキョン君も、もう少し素直になってもらわないとねっ!古泉君もしっかり調教しないとだめっさ!」
「心得ております」
「ただし、ラブラヴになりすぎて力を無くさないように注意だよっ!力の無いものもまた必要ないんだからねっ!」
「……はい」
「みくるを反面教師にするにょろ……」
「……」
「何だい、何だいっ?そんな顔をしてっ!古泉君には期待しているっさ!がんばるにょろ~♪」
「……かしこまりました」



「ふう……機関+αのジサクジエンデシタ(・∀・)なんて。彼にどう説明すればいいんですかね……」

END
|