パタン、と長門の本を閉じる音で今日の部活も終わる。
だが俺にはまだやることがあった。
朝比奈さんだ。
いつものようにお茶を貰うとき、一緒に小さな紙切れを手渡されたのだ。
いやなんとも丸っこい字で、実に朝比奈さんらしい文字が書いてある。しかしとても元書道部とは思えないな。
俺はそっと読んでみた。
『部活が追終わったあと、しばらく部位で待っていてください。 みくる』
うおーーーここれはお誘い!朝比奈さんのお誘い!
期待していいんですよね?
……なんてね。そんなウマイ話があるわけがないよな。

そして俺は今、3年後の未来に来ている。
今度は未来かよ。
なんだかんだいって、朝比奈さん絡みだといつも変なお使いイベントをさせられるな。
これが(大)の方の朝比奈さんなら少しは文句も言えるんだが、
(小)の方の朝比奈さんを前にするとそんな気がカケラがしないのはなぜなんだろうね?

「さて説明して下さい。今度は何なんですか?」
「えぇと……ちょっと見てもらいたい事があるんです……」
なんだがいつも以上に歯切れが悪いですね。未来まで来ないと見れないものなんですか?
「はい、ええと、その……」もうそろそろなんですが、と時間を気にしている。
またハカセくんが襲われるとかじゃないだろうな。
ていうかわざわざ未来に来る必要性があるのか?この時代の俺に頼めばいいと思うのだが。

しばらくして、ついに待ち人が来たようだ。
ん?見てもらいたい事って、あのカップルのことか?
遠くてよく分からないが、俺に関係する人なのかな。
だとすると下手に関わればやばいことになるんじゃなかろうか?
「ううん。これはキョン君にとって、とても大事なことなの」
朝比奈さんが凄く真面目な顔になっている。……可憐だ。
「もう!マジメに聞いて!」
すいません。でも怒った顔もステキですよ。
しかし朝比奈さんがここまでシリアスモードになるとは、いったい誰なんだろうね?あのカップルは。
……まだすこし遠いがなんとか認識できるギリギリの距離だな。
腕なんか組んじゃってもう仲がよろしいようで。いったいこの二人が何だって言うんだろうか。

男のほうは反対側なのでよく分からなかったが、女のほうはよく分かった。俺が見間違うハズもない。
ハルヒだ。すこし大人っぽくなってるっていうか、綺麗になってるっていうか……。
不覚にもすこし見惚れてしまったぞ。表情もやんわりしていて、幸せそうに微笑んでいる。
……そこで俺は気付いた!誰なんだ!ハルヒといるあの男は!!

おおおお落ち着くんだ俺!カッコいいキョンくんはうろたえない!

っ!瞬間、世界が歪む。あまりのことに立っていられなくなる。
くそ、あの野郎の顔が見えない。誰なんだ、くそ……。

……気がついたら、部室に戻ってきていた。
「キョン君?あのぉ、大丈夫ですかぁ……」
朝比奈さんが不安げな声で俺を呼ぶ。あれ?いつの間に部室に?
「キョン君が呆然としてるうちにね、帰ってきたの」
「見せたい事って言うのは、あのハルヒのことだったんですか?」
あの、どこの馬の骨ともしれん男の腕に自分の腕を絡めて幸せそうにしているハルヒ……。
今では考えられないくらいの眩しい笑顔だった。
奈落に落とされた気分だ。もうなんかどうでもよくなってきた。
朝比奈さんの声ももう半分も聞こえない。あぁそうか……ハルヒ、俺はお前のことがこんなにも好きだったんだな……。
パシン!と左頬に衝撃が走る。な、なんだ?叩かれたのか?
「キョン君しっかりして!」
朝比奈さんが涙声で訴えかけてくる。
あぁ、いつもなら癒されるそのお姿も、なんだが色あせて見えますよ……。

「うう……キョン君ったら!……っもう一丁!」
バシンっ!と今度は右頬に衝撃が走る!
「い、痛いです。朝比奈さん」
「目、覚めましたか?」ごめんなさい、と謝りながら朝比奈さんは凛とした声で言った。
こんな朝比奈さんは初めてだな。
すいません。朝比奈さん。深呼吸して落ち着く俺だ。
「大丈夫です、俺は決めました。ハルヒが選んだ男です。祝福してやりますよ」
正直に言うと自信がない。だがこれが規定事項っていうのなら、俺は……。

ばちこーん!と朝比奈さんのチョップが今度は鼻柱に炸裂する。
うぅマジで痛いんですが、今日の朝比奈さんはどうしてしまったんだ。ハルヒでも乗り移ったんですか?
「諦めるんですか!涼宮さんのこと!!」
「だって、規定事項なんでしょ?あの未来は……」
おれはしょぼくれた。
「どうして私がこの時代にいるか分かりますか?未来は変えることが出来るんです!さあ!早く涼宮さんのところに!」
朝比奈さんはなぜか絶好調だ。
「突撃するんです!キョン君、涼宮さんが好きなんでしょ?あんな男に負けてはいけないのです!」
朝比奈さんは続ける。
「突撃!ラブハートです!」
これでもかというほどの迫力で朝比奈さんは叫んだ。
「ラブ、ハート……?」
俺の心になにか燃え上がるモノがあった。震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!
このままでいいのか?駄目だ!俺はハルヒが好きなんだ!
そうだ、突撃だ!ハルヒ!待っていろ!
今行くぞおおおおお!!


キョン君がそれはもう凄い勢いで部室を飛び出していった。
私はちょろんと舌を出す。私はウソをついた。
ごめんねキョン君。あの男の人と涼宮さんが付き合うのは変えられない、規定事項なの。
……でもこのままだと、ひょっとしたら変わっていたかもしれないから。
だから頑張って涼宮さんをモノにしてね?
あの未来を変えないためにも。


おまけ
……なんだかキョン君って叩きがいがあるなぁ。クセになっちゃうかも♪
今度は古泉君を叩いてみようかなぁ……。

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