『lakeside love story』
 
《1日目》
 
腕がパンパンだ。
昨日の終業式の直後、買い出しに行ったのはいいが荷物を持ったのは俺と古泉だけだ。
「こんなにか弱い女の子に荷物を持たせようっていうの!?」
か弱いのは朝比奈さんだけだろう?
とんでもない能力を持つ2人は手伝えよ……。
とは言えないまま、俺と古泉は荷物持ちになった。
 
ただ、集合は駅前になったため荷物は近くの長門の家に置いていたわけだが……それが首を絞めた。
まず、駅前に行き荷物を車で送ってくれるという新川さんに預けて古泉と一緒に長門の家に向かった。
 
問題発生。
【エレベーター点検中】
の張り紙を見て、俺と古泉は溜め息をついた。
7階だぞ……。
しかし時間をかけると長門に悪いので階段を一気に駆け上がった。
息切れ、こける、痛い。
などの小ネタを挟みつつ708号室に着き、荷物を受け取った。
長門の私服は久々に見るな……。
「似合ってるぞ」
と言うと、
「………そう」
と返してきた。
ま、いつも通りだがな。
 
そして両手に4、5日分の食材を持って7階から降りていく。
古泉、死ぬな。置いていくぞ。
「僕の体力は平均くらいなんですがね……。あなたは元気ですね…。」
 
そんなことはない。
俺の手も、足も限界だ。ただ…
「ただ…?」
「3人の手料理を食うためだ。」
「ははは、なるほど。それじゃあ僕も頑張りましょう。」
こんな会話をしつつ駅前に着く。汗ダクだ。
「キョン、古泉くん!ご苦労!!……なんでそんなに汗ダクなの?」
「エレベーター点検中だったんだよ……」
「ほんと?……まぁ早く車の中で休みなさい。みくるちゃん、二人に冷たいお茶注いだげて!」
「あ、は、はいっ!」
さすがにハルヒでもこれを聞いたら労ってくれたか。
「有希、あんたの荷物貸しなさい。あたしが積んであげる!」
 
おお、ハルヒが優しい!
単に早く行きたいだけじゃないのか?
「………ありがとう」
長門も礼を言ってるし…詮索しないでおこう。
 
「それではみなさん、出発します。」
新川さんが喋りだした。
今日は森さんはいないみたいだな。
「今回は送迎だけですので。此処からは8時間程かかりますので、途中で気分が悪くなったりしたらすぐにお伝え下さい。」
 
「何から何までありがとうございます」
と言うと、新川さんは笑って
「ありがとうございます」
と言い、運転を始めた。
俺なにかしたっけ?
 
そこから着くまでは……ひたすら疲れた。
トランプで出来る限り、思いつく限りのゲームをし続けて8時間過ごした。
奇蹟的に誰も酔わなかったのは正直驚いた。
古泉が9割のゲームでドベだったのは驚かなかったがな。
規定事項ってやつだ。


 
着いてまず驚いたのが家の機能性だな。
10日分は食材の入りそうな冷蔵庫、火は危ないという所からオール電化のキッチン、そして照明。
この3つ以外は全て木で作られていた。
「凄いわね……」
「いい匂いです……」
「…………………」
みんな驚いている。
こらこら、長門。
興味があるのはわかったから一人でウロウロするな。
 
古泉が突然話しだした。慣れたがな。
「さぁ、みなさん。今からなにをしましょうか?」
ハルヒが我に帰ったような顔をして、言った。
 
「じゃ、2人は休んでて。あたし達が夕ご飯を作るから!今日は簡単な物にしましょう」
待ってました。
「かんたんな物って……何を作るんですかぁ?」
「それは秘密よ!男性陣は聞くとつまみ食いしに来るから!」
……俺を睨むな、ハルヒ。
確かに行こうと思ったが。
「さ、有希!みくるちゃん!行くわよっ!」
ハルヒが二人の手を引いて奥に向かって行った。
「全くもって楽しみですね。それでは僕らはヒマつぶしにゲームでもしましょうか。」
棚から将棋を持って来やがった。まぁヒマつぶしだしな。
 
その日の食事はおにぎりと野菜炒めのようなものだった。
かなりうまかったがおにぎりは特徴が出てたな。
ハルヒのは大きめ、朝比奈さんのは小さめ、長門のは中くらいの食べやすいサイズだ。
もちろん大食いバトルも開催された。
長門とハルヒがなくなるまで食べ続け、俺は一足先にギブ。
古泉と朝比奈さんは笑いながらチビチビと食べていた。
 
食事を終え、全員ゆっくりとしているとインターホンがなった。
「誰かしら?」
知るか、そんなにワクワクした顔をするなよ。
そんなに早くに不思議は見つかりはしないから。
 
ハルヒは俺を睨んだがすぐに古泉と一緒に玄関に行った。
何故か、ハルヒ達と戻って来たのはメイド姿の森さんだった。
「夜の間だけここに留守番をしますので、散歩にでも行かれて下さい。」
だそうだ。
「そうね……うん、そうしましょ!ありがと、森さん!」
森さんはニッコリと微笑むと椅子に腰掛け、文庫サイズの小説を読み始めた。
う~む、大人だ。
「ほら、キョン!こっちに来て引きなさい!」
俺が見とれているとハルヒに呼ばれた。
なにを引くんだ?
 
「団長の話はちゃんと聞くこと!!2人の組2つと1人に別れるの。1人の人は森さんと留守番よ。わかった!?」
オーケー、把握した。
俺は印無し……1人か。
ハルヒと長門、古泉と朝比奈さんのペアか。
疲れてたからよしとするか。
「この組み合わせは同じ人とならないように毎日するわよ!」
……ん?1人とは当たらない計算になるぞ?
ハルヒはしまったと言う顔をしていたが、すぐに元の顔に戻して言った。
「最後の日は朝から行くわよ!これで大丈夫!」
ま、そういうことになるな。
 
「そ、それよりキョン!森さんと二人だからって変なことするんじゃないわよ!」
しね~よ。
安心して行って来い、なにか見つけたらあとで話を聞かせてくれ。
 
俺は森さんと二人になった……が、特にやることもなく一人で将棋の山崩しをしていた。
「キョンさん。」
森さんに呼ばれ、俺は動揺し山をブチまけた。
畜生、しかもあなたまでその呼び方ですか。
「あ、申し訳ありません、邪魔してしまいましたね…」
森さんは申し訳なさそう苦笑していた。
「いえ、構いませんよ。ところでなにか……?」
頭を深々と下げられた。
 
「古泉と一緒に居てくださって本当に感謝してます。最近は『機関』の仕事も減りつつあります。しかしそれより古泉が本当に楽しそうにしているのを見れることが嬉しいのです」
そんな……俺は何もしてないし、あいつもそんなに変わってないでしょう?
「いえ、あなたと居る時の古泉は本当に心の底から楽しんでいます。閉鎖空間でも今の生活を崩さないように張り切っています。だから……」
森さんは言葉を切ったが、すぐに継いだ。
「良き友達でいてあげて下さい。」
俺はすぐに返事をした。
 
「当たり前ですよ。もう俺にはあいつのいないSOS団は考えれないですから。」
クサいな、またクサいセリフを吐いてしまった。
「プッ……くふふふ…あはははは!」
森さんは笑いだした。
メチャクチャかわいい笑顔だ。
「あははは!すみません、あまりにもキョンさんがキザだったから……」
俺は溜め息を一つ吐いて、肩をすくめた。
 
みんなが戻る前に俺は風呂に入った。
檜の浴槽に天然温泉からひいた湯……一日の疲れが吹っ飛んだぜ。
風呂から上がるとちょうどみんな帰って来ていた。
「ちょっとキョン!あたしを差し置いて一番風呂なんて良いご身分ね!!」
いつから風呂の順番が決まってたんだよ。
 
「うるさい!それより浴槽は広かった?」
3、4人くらいは大丈夫な広さだ。
「よし!有希、みくるちゃん!一緒に入るわよっ!!あ、森さんもどう?」
「いえ、私はもう戻りますから。ごゆっくり…」
「わかったわ、じゃあまた明日ね!森さん!ほらっ行くわよ、2人とも!!」
「ひぇぇえ!パ、パジャマは持って行きましょうよ~」
「……………………」
……嵐が去ったか。
 
それから俺は古泉と一緒に森さんを送り出し、全員分の布団をしいて転がった。
 
時折聞こえて来る朝比奈さんの悲鳴を聞いては苦笑し、古泉にハルヒへの気持ちを聞かれては無視しているうちに睡魔に襲われた。
「明日はなにがあるかな」
 
と呟き、俺は深い眠りに入っていった。
 
《1日目終了》
 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年07月26日 01:29