なぜだ?
いや、理由は分かるが予想外だ。

なぜだ?
あれ?だって古泉も朝比奈さんも、さらに長門も大丈夫だって・・・
あれ?

今、俺の目線の先には、夕日に照らされ、だんだんと背中が小さくなっていくハルヒの姿が映っている。
先ほども述べたように予想外なことがおきた。
いや、ちょっと前の俺ならこれは予想できるレベルなんだ。
ただ、古泉や朝比奈さんや長門にも予想外なことが起きてしまったから俺は今困惑している。
多分、谷口や国木田に聞いても、その3人と同じ言葉をかえしてきたと思う。
なのに、なぜだ?

俺は今、北校の校門前で棒立ちになっている。
ハルヒは今、俺からかなり離れた坂の下で走っている。

えっと、俺が今考えなければいけないことは多分、明日からどうやってハルヒと接していくかということだ。
まあ、ハルヒにはさっき、今までと変わらずに・・・とか言われたんだが・・・
どちらにしろだ。俺がさっきやったことは、失敗に終わったわけで・・・

ああもういい、何があったかさっさと言っておこう。
俺は、俺は先ほど、

ハルヒに告白して振れらた。

次の日の上り坂はいつもよりかなりきつかった。
ちょっと誰かに前からつつかれたら、俺は下まで真っ逆さまで転がり落ちる自信がある。
とりあえず、俺が今考えなくちゃいけないのは、これからハルヒとどのように接していくかだ。
いや、今までと同じように、告白なんてなかったかのように接していくのがやはり一番いいような気はする。
しかしだ、悪いが俺にはそういうことができる自信がない。
現在の俺の心境は、けっこう辛いのだ。
心にポッカリ穴が開いたというのはこういう時に使うんだなというのがよく分かる。
もしかしたら、谷口あたりに聞けばいい答えがもらえるかもしれないな。
あいつなら、こういう経験何度もしてそうだし。

と思ったのだが、谷口よりも、ハルヒのほうが顔をあわすのは当たり前だ。
なんたって、俺の席の後ろの席なんだからな。
何か言うべきなのだろうか?それとも、何も言わずにするべきだろうか?
普段の俺はどうしてた?
そうだ、いつもハルヒに話しかけてたじゃないか。
だが残念、今日の俺にはそういうことできそうにない。
と思っていたのだが、
「おはよっ!キョン!」
ハルヒのほうが俺に、挨拶をしてきた。
どことなく、無理して作った笑顔という感じで・・・
こいつも、もしかしたら俺と同じ心境なのかもな・・・
今までよく一緒に行動していた相手に告白されて、そしてそれを振った相手とどう接していけばいいか・・・
「ああ、おはよう」
とりあえず、俺も返事を返しておく。
自分でも分かるぐらい、元気のない声でな。
「今日も部活に来なさいよ!」
「ああ」

そういや、昔谷口が言ってただろうか?
ハルヒは、告白されても、その場で振ることを知らないと。
っていうことは、俺が最初に告白してその場で振られた第1号というわけだ。
そうとうのショックだぞこれは。

そんなこんなで、俺とハルヒはまともに話さずに、どことなく気まずい一日を送った。
時は放課後。
俺は今、文芸部室のドアの前にいる。
ノックをする。朝比奈さんの「はぁい」という声が聞こえる。ドアを開ける。3人の顔を確認する。
ハルヒは掃除当番なため、まだ教室にいるはずだ。
ところで昼休みに、谷口に昨日のことを話したら、ざまあみろと言いたげな顔になっていた。
少しはいいアドバイスをくれると思った俺がアホだったか。
国木田はいろいろ、励ましてくれたようだが、
もう一度告白できるわけがねーだろうが!

古泉と目が合う。テーブルにはチェス盤。
どうせヒマなので、俺は古泉の向かいの席に座り、朝比奈さんからもらったお茶を受け取り、飲んだ。
「おや?思ったより元気がないですね。今日は笑顔で入ってくると思ったのですが・・・」
目の前の古泉が言う。
そういや、こいつらには話してなかったな。昨日のことを。
いろいろ、アドバイスしてくれたんだ。
言っておいたほうがいいだろう。

「ハルヒには振られたよ」
そう言ったとたん、ポーンを持っている古泉の手の動きが止まった。
いや、古泉だけではない、長門も朝比奈さんもだ。
しかも、3人とも目線は俺の顔。
まあ、こいつらも多分、俺と同じことを思ってるんだろうな。
なぜだ?・・・と。

「本当に、振られたのですか?」
「ああ」
「何かの間違いでは?」
「間違ってたのはお前らのほうだ」
そう言うと、古泉は何も言い返すことがなかった。
しばしの沈黙。
長門からの目線が痛い。
朝比奈さんはどこか、オドオドとしている感じだ。
俺は、先ほど朝比奈さんから受け取ったお茶を口につける。
いつもよりおいしく感じないのは俺の気のせいか?

沈黙を破ったのは古泉だ。
「できるなら、昨日のことを詳しく聞かせていただけませんか?」
まあしかたがない。
一応、昨日の告白は3人に協力してもらってやった行動なんだ。
あまり乗り気ではないが、喋ってやろう。

昨日の放課後、古泉はバイトと偽って先に帰り、朝比奈さんも用事があると偽って先に帰り、長門も(以下略)
そんなわけで、部活終了時には俺とハルヒだけになった。
「なんか、あの3人って用事があるときかぶるわよねー」
とかハルヒが言っていたような気がする。
いや、はっきり言って、いまいち曖昧だ。
なんたって、その時の俺は、その後に取る行動のことで頭がいっぱいだったんだからな。
「じゃあ、あたし達も帰りましょうか」
「そうだな」
ちなみに、この時間、他の部活も終了時間であるにもかかわらず、校門にはほとんど人がいなかった。
それもそのはず、機関の協力があったからだ。
あまり、あいつに貸しを作りたくないんだが・・・。
まあいい、感謝しておこう。
時は夕方、日は傾きだし、坂の上から見下ろした町はオレンジ色に照らされていた。
こういう景色を見れる時だけ思う。
北校が、こんな坂の上でよかったなと。

その時のハルヒは、
「明後日の市内探索は遅れずに来なさいよ!」とか言ってたような気がする。
気がするというのは、先ほども言ったように次に取る行動のことを考えていたのと、ハルヒの後ろにいたということの二つの理由がある。
そして俺はさらに、ハルヒから少し距離をとり、
「ハルヒ!」
ハルヒの背中に向かって叫んだ。
ハルヒがこちらを振り向く。
夕日に照らされたそいつの顔は、この世にある言葉じゃ形容できないほど、キレイだったのを覚えている。

「お前と初めてであったとき、変な女だ、できるだけ近づかないほうがいい・・・俺はそう思っていた」
ハルヒは、何言いだすんだ急に?というような顔をしている。そりゃそうだろうな。
「でもな、今気づいたんだ、俺はそのときからハルヒを見ていた。モノクロ世界からカラーの世界になったような・・・」
ああもう、何が言いたいんだろうな俺は?
しかも、心を落ち着かせるためにいろいろ台詞考えてきたが、逆に恥ずかしい。
ああ、もういい。
俺は、考えていた台詞を捨てて、ハルヒに言った。
「単刀直入に言わせてもらう」
その時、俺には回りの音なんて聞こえてなかった。
いや、実際なにも音はしてなかったのかもしれないけどな。
で、だ。俺は一度深呼吸して言ったわけよ。

「俺はお前が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」・・・ってな。
このときの俺は、別に、OKされると思っていたわけじゃない。
だからといって、振られるとも思っていなかった。
いや、どちらかというと、OKしてもらえるという気持ちのほうが強かった。
そんな時に、
「ごめん」
ハルヒの声が聞こえてきた。

その時のハルヒの顔を俺は見ていない。
頭をさげて告白してしまったからな。
いや、それよりもだ。なんだったんだろうな?
心臓にグサッと何かが刺さったような感覚は。
おい、今なら朝倉出てきてもいいぞ!とか一瞬だけ思ったような気がする。

そういや、その時にカラスがとんでいるのを見たような気がする。
まあ、これがアニメなら、
「アホーアホー」とか言って鳴いてたかもしれないな。

そこまで説明して、俺はもう一度、朝比奈さんのお茶を飲んだ。
やっぱり、さっきよりぬるくなってるな。
にしても、ハルヒはまだやって来ない。
まあ、普通に掃除をやってたら、これぐらいの時間、別に遅くはないのだが、
それが、ハルヒだと別だ。
この時間になっても来ないのは遅い。
あいつも、俺と顔を合わすのが気まずいような気がしてるのかもな。

それから、俺がポーンを動かすと、
「それだけですか?」
古泉が訊ねてきた。
それまでもなにも、振られるまでの仮定を聞きたかったんだろうが。
俺の話は以上だ。
「その後の話を聞きたいのですが・・・そうですね、たとえばなぜ涼宮さんはあなたを振ったとか言ってませんでしたか?」
ん?そうだな・・・
そういや言ってたな・・・
とりあえず、もう一度俺は、昨日のことをを回想しながら、話し出した。

俺はハルヒに振られ、呆然と立ち尽くしていた。
一応、俺は聞いた。
「何で?」
そこから、2拍ほどの空きがあって、
「あたし、キョンよりも好きな人がいるの」
ハルヒはそう言った。

「あんたが、いきなりこんなこと言い出してビックリしたけど、その・・・今の、なかったことにしよ!明日からも普段どおりに」
そんな無茶なことができるかよ・・・
長門に頼めば、記憶が消せるかもしれないが。
「あっ!そうだ、あたしも用事があるんだった。じゃあ、先に帰るね!」
そう言って、ハルヒは走り出した。
俺は、呆然と立ち尽くしていた。
そこからは、冒頭通りだ。

にしても、あいつの好きな人ってどんな人だろうな?
そういや、前に言ってたか?
付き合うなら宇宙人、もしくはそれに準ずる何か・・・ってね。
まだ、あいつはそんな人間だったか。
あいつをはじめてみたときからと、今のあいつはかなり変わってると思ったんだがな。

「おかしい」
これを言ったのは、先ほどから電池を充電中のロボットのように止まっている長門だ。
何がおかしいって?
「涼宮ハルヒの恋愛感情と呼ばれるものはいつもあなたにむいている・・・」
それは、お前にアドバイスしてもらってるときにも聞いた。
だけど、違うんだよ。
あいつはやっぱり、宇宙人とかそんなのがいいんだ。
俺はあいつとはつりあわないほど、普通すぎだ。

「もしかしたら、涼宮さんの言ってることは嘘だったのかもしれませんよ」
古泉が言う。
「何のために、嘘をつくんだ?」
「たとえば・・・」
そして、一瞬古泉は視線を長門のほうにむけ、もう一度俺の顔を見て、
「あなたは、僕と付き合ったほうがあっていると考えたとかね」
何だそれは気色悪い。
それはお前の願望だろうがバカやろう。
「冗談です」
そうだとは思ったさ。
でもまあ、少しは気分がマシになったかな?
「悪いがみんな、ハルヒの前では今までどおり普通にいてくれ。俺から何も聞いてないフリを貫き通してくれ」
「それが一番いいでしょう。涼宮さん自身も、今までどおりがいいと考えてそうですし」

それから数分後、いつものようにドアが勢いよく開き、
「やっほー!」
とか言いながら、ハルヒが登場した。
それからはいつもどおりだ。
俺と古泉はいつもどおりチェスをやって、俺の圧勝。
朝比奈さんは、パソコンに慣れてきたらしく、お茶に関するサイトを見ていた。
ハルヒはいつものようにネットサーフィン。
ただ、長門は時折、こちらを見ていたように思われる。

長門が本を閉じる音が聞こえた
「よーし、じゃあ今日はこれにて解散!明日は市内探索だからね!みんな遅れないように。特にキョン!遅刻したら罰金よ」
遅刻しなくても罰金だけどな。
と思いながら、俺は帰路についた。

ところで、普段なってほしいと思っていて、たまたまなってほしくないと思ったときにかぎってなってしまうことがある。
どういうことだ、なんて別にいい。
いや、ただたんにあれだ。
市内探索の午前の相手がハルヒになってしまっただけだ。
ハルヒと二人だけのペアは久々かもしれないな。

さて、俺はどうすればいいのだろう?
まあ、別に考えていない。
ハルヒについていくだけだ。
「………」
「………」
「………」
「………」
ハルヒと二人っきりの状況でこんなに無言がつづくのは久々・・・いや、初めてかもしれないな。

ちなみに、俺たちが今歩いているのは、いろいろな衣料品店がある街だ。
先ほどから、いろんなショーウインドーが俺たちの左右に存在する。
にしても、最近マネキンの顔がなくなってきている。
理由は簡単、金がかかるからだ。
まあ、俺にとっちゃあどうでもいいんだがな。
と思っていると、ハルヒが何か呟き、幽霊のように歩いて、そのままショーウインドーにぶつかった。
おいおい、大丈夫か?ハルヒ。
「ごめん、ちょっとボーっとしてた。さあ、不思議を探しに行くわよ!もしかしたら近くにあたしを操った超能力者がいるかもしれないわ!」
そう言って、ハルヒは俺を置いて歩き出した。
俺は、ハルヒがぶつかったショーウインドーを見た。
そこには、俺が映っていた。

皮肉なことだ。長門の言ってたことは間違っていなかったらしい。
ハルヒは先ほどこう呟いた。
「ジョン?」

午後のメンバーは幸いなことに、ハルヒと一緒になることはなかった。
ハルヒは朝比奈さんを連れてどこかへ行く。
つまり俺は、古泉と長門と一緒だ。
俺と古泉はとくに行きたいところはないので、長門を先頭にして、どこかへ向かっている。
まあ、図書館だろうな。

「ところで、午前中は何をしていたのですか?」
横にいる古泉がそんなことを言い出した。
「ああ、いや、多分だけどな・・・ハルヒが好きな人が分かった」
古泉は笑顔の中にどこか驚いた顔をしている。
長門は先ほどと変わらない歩調で歩いている。聞こえているとは思うんだがな。
「興味がありますね、それは。是非教えてくださいませんか?」
「それは機関の一員だから言ってるのか?それとも、一人の人間として言ってるのか?」
「もちろん、後者ですよ。僕が機関に所属して無くても同じことを言っていたでしょう。まあ、機関には報告するかもしれませんが・・・」
こいつは聞きたいのか聞きたくないのかどっちなんだ・・・
無駄な言葉が多いとは思っていたが、お前が損するようなことを言ったぞ。
まあいい、
「ハルヒが好きなのは、ジョン・スミスだ」
古泉は少し、普段と比べてだが、ポカーンとした顔になった。
まあ、誰か知らないからあたりまえだ。
長門はジョンが俺だということを知ってるのか、少し歩調が短くなった。
「あなたは、それが誰か知ってるのですか?」
「ああ」
古泉はそれ以上、何か言うことはなかった。
まあ、いざとなったら機関がてっていして調べることぐらい簡単だと考えたのか、それともこれ以上聞いても無駄だと思ったのか。どちらでもないのか。
俺にしてみりゃどれでもいい。

とか考えていると、急に止まった長門とぶつかった。
おいおいどうした長門?
と聞こうと思っていたら、長門は古泉のほうこうを向き、
「あなたの服を借りたい」
と、古泉に向かって言った。
長門が、古泉に何か言うなんて珍しい。
ってか、なぜに古泉の服?
なぜだろう?
よく女の子の一人暮らしであるのが、部屋に男物の服をぶらさげて、同棲している男がいると誰かに思わせるというのがありきたりだが。
それなら、なぜ古泉?俺でもいいだろ。
いや、確かに古泉のほうがオシャレをしているような印象は受けるが・・・
って、長門にかぎってそんなことはないか。

で、長門がそんなことを言ってしまったせいで、俺たちは今、古泉の家にいる。
家には誰もいない。
こいつも一人暮らしなのか、それともただたんに親は外出中なのか。
それも、俺にとっちゃあどれでもいい。

そして、長門は古泉がだしてきた服の中からカジュアルなもの選びだし、それから俺のほうを見る。
「あなたには明日、これを着てもらう」
おいおい、古泉の服なんて着たくねーよ。
「大丈夫、情報操作は得意。あなたの身長は高くする」
そっちかよ!
ってか、何で俺にそんなことを・・・
と言おうとしてやめた。

「ジョンになれとでも言うのか?」
「そう」

・・・・・

「俺が、ジョンになってどうするんだ?」
「それからはあなた次第」
古泉の顔は、最初ハテナという感じだったのだが、だんだん状況が理解できてきたという感じの表情になる。
ったく、今の話だけで状況が分かるってのに、なぜチェスの先読みができないんだろうね?
「どうする?」
長門が聞いてくる。
そんな、急に言われてもな・・・
よさそうな台詞なら、古泉に頼んだら嫌と言うほど教えてくれるだろうが・・・
でもまあ、
「やってみる」
っていうのもいいかもしれないな。

次の日の午後8時。
俺は長門の家に来た。
そこには、古泉もいる。
まずは、古泉の服に着替えだ。
すこし袖が長いのがどこかシャクに触る。

「準備はいい?」
ちょっと待ってくれ。服装はともかく、心の準備はまだだ。
それから、一度俺は深呼吸し、古泉が書いた台本を心の中で読み。
こんなうまくいくはずがないだろ!と思いながら、
「いいぞ」
長門にそう言った。

とたん、長門はいつもの高速呪文を唱え、俺は一瞬頭がクラッとした。
まあ、あの時間遡行と比べればマシだけどな。
「完了した」
どうやらもう終わったようだ。
確かに、袖の長さはぴったしになっている。
「ありがとう」
おっと!声も変わってるじゃないか!
一応、鏡で顔も確認。
ああ、こりゃ別人・・・だけれどまあ、少しは俺に似てるな。
少しかっこよくなってるような気もする。
「それが、涼宮ハルヒが現在イメージしているジョン・スミス」
そうか。ハルヒはこんなふうにイメージしてるのか。

ところで、実は言うと先ほど、ハルヒの家のポストに、
『今日の午後9時半頃、東中校門まで来てくれ』
という紙を機関の人間が置いておいたようだ。
ちなみにこれを書いたのは俺ではなく、20代前半の機関に所属している人間だ。
どこの誰かは知らんが、一応感謝しておこう。
ところで、あんな手紙でハルヒがちゃんと来てくれるのかどうかが不安だ。
だいたい、ジョン・スミスがハルヒの家を知ってるわけがないだろ!
俺さえ、どこにあるか知らねーよ。

というわけで、俺は東中に行くことにした。
時間は9時ごろ。
まあ、9時半まで後30分もあるんだから、まだ来てないだろう・・・
と思っていたのだが、ハルヒはもう来ていた。
いつぞやの七夕のときと同じように、Tシャツに短パンなラフな格好。
これは間違いなく、意識しているような気がする。
どうせなら、俺も古泉の制服を借りて着たらよかったかもしれん。

ハルヒと目が合った。
「ジョン?」
ハルヒが訊ねてくる。
「ああ、久しぶりだな」
どこからか吹いたか知らんが、風が俺とハルヒの間を駆け抜ける。

「どうして?」
何がだ?
「どうしてまた、あたしに会おうとしたの?」
確か、この質問をされたときになんと答えればいいか先ほどの古泉の紙に書いてあったはずだ。
なんだった?
そうだ、確か、
「お前の話を、後輩から聞いたんだよ。黄色いカチューシャをつけた女が高校で暴れてるってな」
「そんなことはどうでもいいのよ!」
どっちだよ・・・
「何で今頃になってあたしの前に現れたか聞きたいの。1年前でも2年前でもなくて」
やばい、この回答は持ち合わせていないぞ・・・
「だから、その、お前の話を聞いたのがつい最近で・・・」
「あたしはあんたに会いたかった!」
ハルヒは叫ぶように言う。
それから、いつぞやのようにハルヒは校門によじ登って、中に入っていった。
「あんたも早く来なさいよ」
ったく、ハルヒらしいぜ。

そして、グラウンドの真ん中で俺とハルヒは突っ立った。
「あんたに話したいことがたくさんあるのよ」
空を見上げながらハルヒが言う。
やっぱ、この季節はほとんど星が見えねーな。

「何だよ?」
「あたしね、北校に入って部活作ったの・・・それから・・・」
それから、ハルヒは延々と話し出した。
ほとんどが俺の知ってる話だ。
俺は、それをずっと黙って聞いていた。
悪いが、俺自身が懐かしさに浸ってしまう。
この話を初めて聞いたような素振りを俺はできそうにない。
「それでね、キョンっていうヤツがいて、そいつの雰囲気がどこかジョンと似ていて・・・」

それから何分ぐらいたったかな?
10分はたっていると思う。
やっと、ハルヒは喋り終えた。
そして俺はというと、
「そうか」
これしかいえなかった。
情けない・・・

「あんたは?何か話したいことがあって呼んだんじゃないの?」
まあな、何も話すことがなくて呼び出したなんて不自然すぎる。
えっと・・・確か・・・
そうだそうだ、古泉に言われたことは。
「お前と前に会ったとき、北校にお前みたいなやついるって言ったこと覚えてるか?」
「ええ、覚えてるわ」
「実はな、俺そいつと付き合ってたんだが、こないだ振られちゃったんだよ」
一瞬、空気が凍りついたような気がしたが、気にせず話を続ける。

「ちょうどジョン・スミスっていう役名が出てる映画の後振られたんで、あの七夕のことを思い出してな」
話を続ける。
「それでだな、ある程度のことは後輩から聞いてたから、それでお前に会おうと」
しばし沈黙。
「あたしに何を言いたいの?」
いつもより小さい声でハルヒが訊ねる。
「いや、だからそいつと似ているお前なら、何かよりを戻すいい案が思いつくんじゃないかと思ってな」
「分かるわけないじゃない!」
だよな・・・普通に考えてそうだよな。
くそ、何を言ってるんだ俺は、ってか古泉は、バカか。
「バカ!」
ハルヒに直接言われた。
「バカバカバカ」
そう連呼するな。

と思っていたら、ハルヒが俺の胸にもたれかかった。
「バカ」
いつまで言ってるんだよ・・・
と思ったその時、何か冷たい感触が俺の腕に感じた。
泣いてるのか?こいつ。
ここからはハルヒの頭しか見えないから、どっちなのかは分からん。
ただ、シャンプーのにおいがするのだけは分かった。
おいおい、後で外出するって分かってたのに、風呂入ってから来たのかよ。
とか思っていると、ハルヒがなにか呟いた。

「あたしじゃダメなの?」
俺にはそう聞こえた。
そして、ハルヒはゆっくりと顔をあげ、
「あたしじゃダメなの?」
もう一度言った。
ハルヒの顔が近い。
泣いているのかどうか、
はっきり言って暗いからよく分からん。
にしてもなんだろう?このデジャヴは。
そうだ。あの閉鎖空間のときだ。
あの時も、こんな暗闇で運動場に二人きりだったか。

「あたしはずっとあんたを探してた。あの七夕の後、北校に潜入してまであんたを探した、それぐらいあたしはジョンのことが好きなの!」
ジョンは・・・告白されたんだな・・・
ったく、幸せ者だ。うらやましいぜ。
俺は、ハルヒの頬に手をやった。
やっぱり泣いているようだ。
「ずっと、ジョンのことが忘れられずにいた」
ゆっくりとハルヒの顔が近づいてくる。
俺も一瞬目を閉じ、
それから、ハルヒの行動を拒否した。
ハルヒの肩を押す。
「俺とお前は付き合ってはいけないんだ」
「何で?もしかして年齢のこと気にしてるの?そんなの離れていたとしても5歳ぐらいでしょ」
「違うんだよ」
ここから言う言葉は古泉に渡された台本に載ってない言葉だ。
今分かったが、あいつはあてにならん。
俺が今そう決めた。
だが、俺が次にやる行動が正しいのかどうかも分からん。

「俺はこの世に存在しないんだよ!」
ハルヒは近くにいるというのに、俺は50メートル先でも聞こえそうな声で叫んだ。
「どういう意味?」
ハルヒの疑問形。
「さっき俺が言ったことは全部嘘だ」
「何で嘘なんか言うのよ?」
「いいから、俺の話を聞いてくれ」
さて、どうする俺。
どうしようか・・・ジョン=キョンと言うのか。
いや、ダメだ。それじゃあダメなんだ。

「実はな、あの七夕の日の後、交通事故で俺、死んだんだよ」
ハルヒの表情が変わっていく。
「まあ、今の俺は幽霊ってわけだ。いや、でも幽霊っていうのは形がないんでな。この体の人物に乗り移ったんだよ。俺に似てるけど、背が高くてちょっとかっこいいしな」
一呼吸。
「だから、俺はお前と付き合うことができない」
そういいながら、俺は一歩後ろに下がった。
「だから、俺の外見と、俺に対する気もちは忘れてくれ」
もう一歩後ろに下がる俺。ハルヒはずっと俺の顔を凝視している。
「そろそろお別れの時間だ」
それっぽく言ってみた。
今から俺が行くところは天国でも地獄でもなく、長門の家だけどな。

俺はハルヒから離れ、校門に向かって走りだした。
と、俺が20メートル走ったところで、
「最後に一つだけ聞かせて!」
ハルヒは叫ぶように言った。
「あんた名前なんて言うの?」
俺はハルヒのほうに振り向いた。
別に、人差し指を唇に当てて、「禁則事項です」なんて言うつもりはこれっぽっちもない。

「ジョン・スミスだ!」
まあ、意味は似たようなもんかもしれねーけどな。
だけど、心に響くものは大きく違うぜ。
「この名前だけは忘れないでくれよ!また、別の人間に乗り移ってお前の前に現れるかもしれねーからさ!」
「忘れないから!死んでも忘れないから!」
「今度お前にジョン・スミスとしてお前にあったときは、宇宙人や未来人や超能力者を紹介してやるよ!」
「楽しみにしてるわ!」
「姿形が違っても、お前のことを見てるからな!」

それから俺は走り出した。
これで、よかったんだろうか?
空を見上げ、一つだけ光っている星にむかって、
「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく!」
そう言った。

次の日の朝、扉を開けるとハルヒはいつものように空を見上げていた。
どこか悲しげなのは気のせいではないだろう。
「よっ!」
軽い挨拶をしておく。
鞄を置き、ハルヒのほうを見る。ハルヒもこちらをむく。
「あたしね、恋愛感情っていうのは精神病の一種だと思ってるの」
急にハルヒがそんなことを言い出した。前にもそんなこと言ってたな。
まあ、そう思いたきゃ思えばいいじゃないか。
宇宙人や未来人がいると思われるよりよっぽどかマシだろうしな。
「でもね、その病を治すには一つ方法があると思ってる」
おっ!そんなところまで考えていたのか。
聞いといてやろう。
どうせ、恋愛感情なんて忘れるとかだろ。
「それはね、恋愛感情をむけている相手と結ばれることよ」
・・・・・・
予想外に反してマジメな意見が返ってきたから、俺はしょうしょう驚きを隠せないでいる。
さて、ここで俺はどうするべきだろうか?
と、考えてると、ハルヒが言葉を続けた。

「だから、あんたの病を治せるのはあたししかいないわけ」
おいおい、その話はなかったことにするんじゃなかったのか?
俺もそのつもりで接していこうと思ったのだが・・・
ってか、それはどういう意味だ?
やっぱり、告白にたいしてOKと言ってると思っていいのか?
「バカ。そんな簡単に了承するわけがないでしょ。そうね、もっとあたしにふさわしい男になるといいわ。そうね、宇宙人や未来人を見つけてきたらいいわよ」
もう見つけてるんだがな。
ん?それより今の言葉の意味ってあきらめるなってことか?
「まさかあたしをあきらめたつもりじゃないでしょうね?別にあたしはそれでもいいけどね。勘違いしないでよ、別にあんたが好きなわけじゃないんだから」

それからハルヒは空を見上げた。
「ねえキョン」
「何だ?」
「あんたが幽霊に乗り移られたらすぐに言いなさいよ」
俺はハルヒと同じ方向を見る。
青いな。どこまでも続く青さがそこに広がっている。
「その時は宇宙人や未来人や超能力者を紹介してやる」

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